リーシュマニア症について (ファクトシート)

2015年5月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • リーシュマニア症には主に3種類の病型があります。内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られ、最も重篤な病型)、皮膚リーシュマニア症(最も頻度が高い病型)、皮膚粘膜リーシュマニア症があります。
  • リーシュマニア症は、寄生虫Leishmania原虫によるもので、感染したサシチョウバエに刺されることで感染します。
  • この疾患は、世界でも最も貧しい人々に感染し、栄養失調、地域住民の移転、貧しい住宅、免疫機能の低下、物資の欠如が関係します。
  • リーシュマニア症は、森林伐採、ダムの建設、灌漑計画、都市化などの環境変化とも関係します。
  • 1年間に推定で130万人の新たな患者が発生し、2万人から3万人が死亡しています。
  • Leishmania原虫に感染したほんの一部のみが、最終的に疾患を発症します。

リーシュマニア症は、20種を超えるLeishmania原虫によって引き起こされ、感染した雌の吸血性サシチョウバエに刺されることで感染します。リーシュマニア症には主に3種類の病型があります。

  • 内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られています):
    治療しなければ死に至ります。不規則な発熱、体重減少、肝脾腫、貧血が特徴的です。インド亜大陸と東アフリカに常在し、高頻度で発生しています。世界では、推計で年間20万人から40万人の新たな患者が発生しています。新たな患者の90%以上は、バングラデシュ、ブラジル、エチオピア、インド、南スーダン、スーダンの6か国で発生しています。
  • 皮膚リーシュマニア症
    最も頻度が高い病型です。感染した部位に潰瘍が生じ、生涯に渡って瘢痕や重篤な障害が残ります。患者の約95%は、アメリカ大陸、地中海沿岸地域、中東、中央アジアで発生しています。新たな患者の3分の2以上は、アフガニスタン、アルジェリア、ブラジル、コロンビア、イラン、シリアの6か国で発生しています。世界では、推計で年間70万人から130万人の新たな患者が発生しています。
  • 皮膚粘膜リーシュマニア症
    鼻、口、咽喉の粘膜の一部または全部が破壊されます。患者の約90%は、ボリビア、ブラジル、ペルーの多民族の州で発生しています。

感染経路

リーシュマニア症は、感染した吸血性の雌サシチョウバエに刺されることで感染します。リーシュマニア症の疫学は、原虫の特徴、感染伝播が起きている地域の生態学的特徴、住民集団の現在及び過去における原虫との接触や人々の行動によって異なります。人間を含む70種類あまりの動物種がLeishmania原虫の自然保有宿主であることがわかっています。

地中海沿岸地域
地中海沿岸地域では、内臓リーシュマニア症が主な病型です。農村部や山岳地帯の村のほか、都市周辺部でも発生しており、Leishmania原虫は犬や他動物にも寄生しています。

東南アジア
東南アジアでは、内臓リーシュマニア症が主な病型です。一般的に、感染伝播は海抜600m未満の農村部で、1年を通して多雨であり、平均湿度が70%以上、気温が15℃から38℃の地域であることに加えて、植物、地下水や沖積土が豊富な地域で発生しています。土壁や土間のある家が多く建てられ、牛やその他の家畜が生活民の近くで飼われている農村で最も多くみられます。

東アフリカ
東アフリカでは、北部のアカシアやバラニテスが生えているサバンナや南部のサバンナ、シロアリの塚の周辺でサシチョウバエが生息する森林地帯において、内蔵リーシュマニア症がしばしば集団発生します。皮膚リーシュマニア症は、東アフリカのエチオピア高原やその他の場所で発生しています。発生地は、ハイラックス(イワダヌキ)の自然生息地である岩の丘や川岸に建てられた村で、人とハエの接触が増加する場所です。

アフロ・ユーラシア大陸
アフロ・ユーラシア大陸では、皮膚リーシュマニア症が主な病型です。農業計画や灌漑計画によって、皮膚リーシュマニア症に対して免疫のない人々がその計画に仕事を求めて移り住むために、疾患の有病率が増加します。特に戦争中の大集団な人口の移動がある時には、人口が密集した街でも大規模な集団発生が起こります。皮膚リーシュマニア症を起こす寄生虫は、主に人やげっ歯類に寄生しています。

アメリカ大陸
アメリカ大陸におけるカラ・アザールは、地中海沿岸地域と発生状況がよく似ています。家の中で犬や他の動物を飼う習慣によって、人への感染を助長していると考えられています。アメリカ大陸における皮膚リーシュマニア症の疫学は複雑で、感染伝播のサイクル、保有宿主、媒介するサシチョウバエ、臨床症状、治療への反応性にさまざまな変動があり、同じ地域に複数のリーシュマニア種が流行しています。

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症(PKDL)

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症は、内臓リーシュマニア症の後遺症で、通常、顔、上腕、胴体や他の部位に、斑状、丘状、結節性の発疹が出現します。PKDLは、主に東アフリカやインド亜大陸で発生しています。東アフリカではカラ・アザールの患者のうち最高50%が、インド亜大陸では患者のうち5%から10%が、この後遺症に進展します。通常、カラ・アザールが治ったように見えた後、6か月から1年以上を経過してから現れます。より早期に起こることもあります。PKDLを患う人は、カラ・アザールの潜在的な感染源と考えられています。

リーシュマニアとHIVの重複感染

リーシュマニアとHIVに重複感染している人は、臨床症状が悪化することが多く、再発率も死亡率も高くなります。抗レトロウイルス薬による治療は、リーシュマニアの進行を抑え、再発を遅らせ、重複感染した人の生存率を高めます。リーシュマニアとHIVの重複感染率は、ブラジル、エチオピア、インドのビハール州で高くなっています。

主なリスクファクター

社会経済的な条件
貧困は、リーシュマニア症の感染リスクを高めます。貧しくて家庭内が不衛生な住居環境(例えば、不十分な廃棄物の管理、開放状態の下水道など)では、サシチョウバエの繁殖と生息場所が増え、人に近寄ることが多くなります。サシチョウバエは、良い吸血源である密集した住宅に引きつけられます。屋外や地面の上で寝るような生活行動は感染リスクを高めます。殺虫剤で処理された蚊帳の使用は感染リスクを低下させます。

栄養失調
タンパク質、鉄、ビタミンA、亜鉛が不足する食事は、感染がカラ・アザールに進展するリスクを高めます。

人口の移動
多くを占める2種類の病型のリーシュマニア症は、しばしば感染サイクルが存在する地域に免疫を持たない人々が移り住むことと関係します。広範囲な森林伐採とともに職業的な暴露も重要な要因です。例えば、森林に暮らしていた人々が、サシチョウバエの生息地の近くに移動してくることもあります。これには、患者数を急激に増加させる可能性があります。

環境の変化
リーシュマニア症の発生率に影響を与える環境の変化には、都市化、感染サイクルの定着、農場の流入、森林地帯への住居開拓があります。

気候の変化
リーシュマニア症は気候に敏感で、降雨量、気温、湿度の変化に強く影響されます。地球温暖化や土地の荒廃は、リーシュマニア症の疫学分布に下記のいくつかの形で影響を与えます。

  • 気温、降雨量、湿度の変化は、媒介生物と保有宿主の分布を変化させ、その生存と棲息範囲の大きさに影響を及ぼすため、大きな影響を与えます。
  • 小さな気温変動は、サシチョウバエの中でLeishmania原虫の前鞭毛期の発育周期に大きな影響を及ぼし、寄生虫が以前はこの病気が常在しなかった地域での感染伝播を可能にさせます。
  • 気候の変化が引き起こす干ばつや飢饉や洪水は、リーシュマニア症が感染伝播している地域へ大規模な人の移動を起こし、栄養失調が免疫機能を低下させます。

診断と治療

内臓リーシュマニア症では、診断は臨床所見と寄生虫学的検査または血清学的検査(迅速診断検査やその他の検査)を組み合わせることによって行われます。皮膚リーシュマニア症と皮膚粘膜リーシュマニア症では、血清学的検査は価値が限られます。皮膚リーシュマニア症は、臨床症状と寄生虫学的検査から診断が確定されます。

リーシュマニア症の治療は、病型、寄生虫の種類、地理的位置を含むいくつもの要因に依存します。リーシュマニア症は治療ができ、治る病気です。内臓リーシュマニア症と診断されたすべての患者は、速やかに治療を貫徹することが必要です。地理的位置によるさまざまな病型毎の、治療に関する情報の詳細は、WHOテクニカル・レポート・シリーズ949「リーシュマニア症の制御」でみることができます。

予防と感染制御

リーシュマニア症の感染伝播は、人、寄生虫、媒介するサシチョウバエ、いくつかの原因となる動物宿主が関与し合う複雑な生態系の中で起こっています。そのため、リーシュマニア症の予防と感染制御は、介入戦略を組み合わせる必要があります。鍵となる戦略は以下の通りです。

  • 早期発見と効果的な患者管理は、疾患の有病率を下げ、障害や死亡を防ぎます。現在、特に内臓リーシュマニア症に対して、効果の高い安全な抗リーシュマニア薬があり、これらの薬剤の入手環境も改善されています。
  • ベクターコントロールは、サシチョウバエを、特に家の中で制圧することで、疾患の感染伝播を減らし、阻止することに有用です。制圧の方法には、殺虫剤の噴霧、殺虫剤で処理された蚊帳の使用、環境管理、個々人による予防対策があります。
  • 効果的な疾患のサーベイランスが重要です。患者の早期発見と早期治療は、疾患の感染伝播を減らし、疾病の拡大や圧力を監視する助けとなります。
  • 保有宿主制御は複雑で、地域の状況に合わせなければなりません。
  • 社会的な活動人員の動員と関係強化-地域活動の動員と教育は、地域に合わせたコミュニケーション戦略における行動変化への介入に効果があります。様々な関係者やその他のベクターが媒介する疾患の制御計画関係者との関係や連携の構築が重要です。

WHOの取り組み

WHOはリーシュマニア症を制御するために、以下ことに取り組んでいます。

  • 国によるリーシュマニア症の制御計画を支援する。
  • リーシュマニア症の世界的な脅威に対する注意喚起と政策の提言を行う。疾患の予防や患者管理のために医療サービスの公平な利用を推進する。
  • リーシュマニア症の予防と制御に関する根拠に基づく政策指針、戦略、基準を作成し、その実施を監視する。
  • 持続可能で効果的なサーベイランスシステムと流行時への備えおよび感染対策を行うため、加盟国に対し技術支援を提供する。
  • 関係者やその他の団体との連携及び協力体制を強化する。
  • 世界のリーシュマニア症の発生状況、傾向、この疾患への取り組みの進展を監視し、財政を支える。
  • 安全で効果的で入手可能な薬剤、診断道具、ワクチンなどの分野でリーシュマニア症の感染制御に効果的に成果を上げられる研究を推進する。研究結果の普及を促進する。

出典

WHO.LeishmaniasisFact sheet N°375Updated February2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs375/en/index.html