ハンセン病について (ファクトシート)

2015年5月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • ハンセン病は、Mycobacterium leprae(らい菌)という増殖速度が遅い細菌によって起こる慢性疾患です。
  • らい菌は増殖速度が遅く、疾患の潜伏期間は約5年です。症状が現われるまでに20年かかることもあります。
  • この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道の粘膜、さらに眼も侵します。
  • ハンセン病は治療が可能です。
  • らい菌の感染力は高くありませんが、治療されていない患者と濃厚かつ頻回に接触すると、鼻や口からの飛沫で感染します。
  • 早期診断と多剤併用療法(MDT)は、公衆衛生上の懸案であるハンセン病を排除することにおいて、依然として、重要な要素です。
  • ハンセン病は、治療しなければ、皮膚、神経、手足、眼に、進行性で一生残る障害を起こします。
  • 2013年末時点で、患者はWHOが分ける5つの地域の103か国から18万0,618人が登録されており、同年1年間には新たな患者が21万5,656人報告されました。

ハンセン病は、抗酸性桿菌Mycobacterium leprae(らい菌)によって起こる慢性感染症です。この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、眼を侵します。

ハンセン病は、治療が可能で、早期に治療すれば障害を防ぐことができます。

多剤併用療法(MDT)が、1995年以降、世界中のすべての患者がWHOから無料で受けられるようになりました。MDTは、すべての病型のハンセン病に単純ですが高い有効性をもつ治療を提供します。

世界的には、ハンセン病の排除(世界でハンセン病の有病率が1万人当たり1人未満)を2000年に達成しました。過去20年以上に渡って、1,600万人に近いハンセン病の患者が多剤併用療法によって治されてきました。

現在のハンセン病

ハンセン病の感染制御は、ほとんどの常在国では、国や地方行政の取り組みによって劇的に改善しました。従来の一般的な医療保健サービスの中に初期のハンセン病の保健サービスを組み入れたことで、疾患の診断と治療が容易になりました。

地域社会の中からすべての患者を発見し、MDTを使った処方薬の治療を完了することが、「ハンセン病の重圧のさらなる軽減のための強化に向けた世界戦略」(計画期間は2011年から2015年まで)の基本教義になります。

この戦略では、専門知識を維持し、ハンセン病に精通したスタッフを増やし、ハンセン病へのサービスを行う中で感染した人との関わりを改善し、外観の変形(グレード2の障害)を減らすことの必要性に加えて、ハンセン病に対する偏見を減らすことの必要性が強調されています。

2011年~2015年の各国のハンセン病計画は、現在、サービスが届かない集団とアクセス環境が悪い地域で、利用環境の範囲の拡大を図ることに焦点が当てられています。感染制御の戦略は限られており、各国の計画は、患者発見、接触者追跡、監視、照会、記録管理に対して積極的な改善を行っています。

103か国からの公式の報告によると、全世界において、2013年末のハンセン病の有病者数は、18万0,618人でした。2013年に発見された新たな患者数は21万5,656人で、2012年は23万2,857人、2011年は22万6,626人でした。

新たな患者の数は地域社会における感染伝播の継続の程度を表しています。2013年には13か国が患者数ゼロと報告しました。世界統計によれば、ハンセン病の新たな患者のうち20万6,107人(96%)は13か国から報告されており、その他の国から報告された新たな患者は僅かに4%でした。2013年には、これらの14か国だけが1,000人を越える患者を報告しています。

多くの国に、ハンセン病が高密度に常在している地域があります。アンゴラ、バングラデシュ、ブラジル、中国、コンゴ民主共和国、エチオピア、インド、インドネシア、マダガスカル、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、ナイジェリア、フィリピン、南スーダン、スリランカ、スーダン、タンザニアには、そのような地域があります。

略史-ハンセン病と治療

ハンセン病は、中国、エジプト、インドの古代文明で認知されました。ハンセン病が最初に記述されたのは紀元前600年です。歴史を通して、患者は、しばしば地域社会や家族からのけ者にされてきました。

ハンセン病は、過去には様々な方法で治療されましたが、最初に進展があったのは、1940年代にハンセン病の進行を阻むダプソンの開発でした。しかし、治療期間は長期に渡り、時には生涯続くこともあり、患者が治療を続けることは困難でした。1960年代に、らい菌は、当時、世界で唯一の抗らい病薬と知られていたダプソンに耐性を持ち始めました。1960年代の初めに、リファンピシン、クロファジミン、その他で推奨される2剤を併用する多剤併用療法(MDT)が発見されました。

1981年に、WHOの研究グループはMDTを推奨しました。MDTは、ダプソン、リファンピシン、クロファジミンの3種類の薬剤から成り、この薬剤の併用が病原体を殺し、患者を治療します。

1995年以降、WHOは世界中のすべての患者に対して無料で多剤併用療法を提供しています。当初は、日本財団から基金が提供され、2000年以降は、ノバルティスとノバルティス持続可能開発財団から基金が提供されています。

公衆衛生学上の問題としてのハンセン病の排除

1991年、WHOの最高意思決定機関である世界保健総会は、2000年までにハンセン病を排除するという決議を採択しました。ハンセン病の排除は、人口1万人当たりの有病率が1人未満と定義されます。目標は予定通りに達成され、MDTの使用によって、疾病の重圧が劇的に減少しました。

  • 過去20年間にわたり、1,400万人以上、2000年以降で約400万人のハンセン病患者が治療されました。
  • 疾患の有病率は、人口1万人当たり21.1から、2000年には人口1万人当たり1未満へ、90%減少しました。
  • 全世界でのハンセン病の重圧は劇的に減少しました。1985年に520万人であった患者の発生が、1995年には80万5,000人、1999年の年末には75万3,000人、2013年末には18万0,618人まで減少しました。
  • ハンセン病は、1985年に公衆衛生上の懸案と考えられていた122か国のうち119か国から排除されています。
  • これまでに、MDTでのハンセン病治療に対する耐性は報告されていません。
  • 現在の取り組みは、残りの常在国では国のレベル、その他の国では地方行政のレベルでのハンセン病の排除に焦点が絞られています。

求められる行動と社会資源

治療をすべての患者に行き届かせるためは、ハンセン病の治療が一般の医療保健サービスの中に完全に組み込まれる必要があります。さらに、ハンセン病が依然として公衆衛生上の懸案となっている国では、政治的な関与も維持される必要があります。ハンセン病の排除に携わる関係機関も、人的資源や財政資源が利用できる環境を確保し続ける必要があります。

長年にわたるハンセン病への偏見は、依然として、自分からの受診や早期治療からの障害となっています。ハンセン病のイメージが、世界レベルでも、国家レベルでも、地方自治体レベルでも変えらければなりません。患者が、どの医療施設でも躊躇なく診断と治療を受けられるように、新しい環境が創られなければなりません。

WHOの取り組み

ハンセン病排除のためのWHOの戦略は、下記の内容から構成されています。

  • 柔軟で患者に優しい薬剤提供システムによって、すべての患者が利用できる、継続的な多剤併用療法サービスの確保
  • ハンセン病の医療保健サービスを一般の医療保健サービスに組み入れ、一般の医療従事者がハンセン病を治療する能力を確立することによって、多剤併用療法サービスが維持される可能性の確保
  • 地域での注意喚起を促しハンセン病のイメージを変えることによって、自分からの受診や早期治療に向けさせること
  • 多剤併用療法サービスの実施状況、患者ケアの質、および国の疾患サーベイランスシステムを通して排除に向けた進捗状況の監視

国や国際的な関係機関から継続して行われた支援に沿って各国が計画を維持し献身に取り組んだことで、世界でのハンセン病の重圧は減少してきました。医療保健サービスや地域が一層関わりを深め、ハンセン病感染者の権利を拡大することで、我々はハンセン病のない世界に近づくことができます。

出典

WHO LeprosyFact sheet N°101Updated May2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs101/en/index.html