2015年のニュース

性行為感染症について (ファクトシート)

2015年12月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

界では、毎日100万人以上が性行為感染症に感染しています。
毎年、推定で3億5700万人が4種類の性行為感染症(クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、トリコモナス症)のうちの1つに罹っています。
推定で5億万人以上が、単純ヘルペスウイルス(HSV)に性器感染しています。
2億9,000万人以上の女性が、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しています。
性行為感染症の大半は、無症状か性行為感染症と自覚することもない程の軽い症状です。
単純ヘルペスウイルス(HSV)2型や梅毒といった性行為感染症は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染リスクを高める可能性があります。
何人かの患者では、性行為感染症が感染自体の直接的な影響を超えて、生殖機能に深刻な影響(例えば、不妊症や母子感染)を与えることがあります。
性行為感染症の薬剤耐性は、特に淋菌が問題で、世界において性行為感染症の影響を軽減することへの大きな脅威となっています。

性行為感染症は、どのような疾患で、どのように感染するのか?

 30種類以上の細菌、ウイルス、寄生虫が、性行為を介して伝播することが知られています。性行為感染症(STI)の最大の発生率に関連しているのは、これらの病原体のうち8種です。これら8種の感染症のうち、梅毒、淋病、クラミジアおよびトリコモナス症の4種は、現在では治療が可能です。他の4種はB型肝炎、単純ヘルペスウイルス(HSVまたはヘルペス)、HIVおよびヒトパピローマウイルス(HPV)のウイルス感染症で、治療法はありません。(けれども)治療法のないウイルス感染も、治療する事で症状や疾患そのものを軽減や改善することができます。

 性行為感染症は、主に膣性交、肛門性交およびオーラルセックスなどの性的接触によって広がります。いくつかの性行為感染症は、血液や血液製剤のように性行為以外の経路で広がることもあります。クラミジア、淋病、主にB型の肝炎、HIV、梅毒といった多くのSTIは、妊娠時や出産時に母親から子どもへと伝播することもあります。

 人は、明らかな疾患症状がなくても、STIに感染していることがあります。性行為感染症の一般的な症状には、膣からの分泌、男性排尿時疼痛、性器潰瘍、腹痛があります。

問題の広がり

 性行為感染症は、世界における性行為と生殖機能に大きな影響を与えます。

 毎日100万人以上の人が性行為感染症に感染しており、クラミジア感染症(1.31億人)、淋菌感染症(7800万人)、梅毒(560万人)、トリコモナス症(1.43億人)の4種類の性行為感染症のうちの1つに3.57億人が感染していると推定されています。5億人以上が、性器ヘルペスウイルス(ヘルペス)を保有しながら生活しています。同時に、2億9,000万以上の女性が、最もよくみられる性行為感染症の1つであるヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しています。

 性行為感染症は、感染自体の直接的な影響を超えた深刻な影響を与えることがあります。

ヘルペスや梅毒などの性行為感染症は、HIVの感染リスクを3倍以上に高めることがあります。
性行為感染症の母子感染は、死産や新生児死亡を起こし、低出生体重児や未熟児での出産、敗血症、肺炎、新生児結膜炎および先天性奇形を起こすことがあります。妊娠中の梅毒感染は、毎年約30万5,000人もの胎児死亡や新生児死亡を発生させ、未熟児、低出生体重児、先天性疾患によって死亡するリスクの高い21万5,000人もの小児を生み出しています。
HPVへの感染は、毎年52万8000人もの子宮頸がんの患者を発生させており、1年間に26万6000人を子宮頸がんで死亡させています。
淋菌感染症やクラミジア感染症などの性行為感染症は、骨盤内炎症性疾患や不妊を起こす大きな原因となっています。

性行為感染症の予防

カウンセリングと行動へのアプローチ
 カウンセリングと行動介入は、(HIV感染症を含む)性行為感染症および意図しない妊娠に対する一次予防をもたらします。これには、下記の内容が含まれます。

・包括的な性教育、性行為感染症およびHIV感染症の検査の実施前及び実施後のカウンセリング

・安全な性行為(セーファーセックス)とリスクを軽減するためのカウンセリング、コンドームの使用の推進
・性風俗に係る者(セックスワーカー)、男性間で性行為を行う者(men who have sex with men;MSM)、注射薬物使用者といった、特に重要で感染を受けやすい標的集団への介入
・青少年のニーズに合わせた教育とカウンセリング

 さらに、カウンセリングは、人が性行為感染症の症状を自覚する能力を向上させ、医療機関を受診したり、性行為の相手の受診を促したりする可能性を高めます。残念なことに、人々の認識不足、医療従事者のトレーニング不足、性行為感染症を取り巻く長期間に亘り広範囲に及ぶ汚名・偏見が、これらの人々への介入をより大きく効果的にする利用への障害となっています。

バリア法
 コンドームは、正しく日常的に使用していれば、HIVを含む性行為感染症に最も有効な方法の1つです。女性用コンドームにも効果があり安全ですが、国の感染予防計画としては男性用コンドームほど広くは使用されていません。

性行為感染症の診断

 高所得国では、性行為感染症を正確に診断するための検査が広く行われています。このような検査は、無症候性感染の診断に極めて有用です。しかし、低所得国や中所得国では、診断のための検査はほとんど利用できません。検査が利用できたとしても、検査費用はしばしば高額で、地理的にも利用しにくい環境にあり、患者は検査結果を受け取るために長時間待たなければなりません(または、帰らなければなりません)。その結果、経過観察ができなかったり、治療が不十分になったりすることがあります。

 現在、性行為感染症の検査で、安価で迅速に血液検査が行えるのは梅毒とHIVだけです。梅毒の検査は、既に、物資が限られた状況の中でも使用されています。検査は正確で、15分から20分で判明し、最低限のトレーニングで使用できる簡単なものです。梅毒の迅速検査によって、梅毒の検査を受ける妊婦の数は増加しました。しかし、低所得や中所得のほとんどの国では、すべての妊婦が梅毒の検査を受けられるように、一層の取組みが必要とされます。

 他の性行為感染症の迅速検査が開発中で、これらは、特に物資が限られた状況において性行為感染症の診断及び治療を改善する可能性をもっています。

性行為感染症の治療

 いくつかの性行為感染症には、現在、有効な治療法があります。

3種類の細菌による性行為感染症(クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒)と、1種類の寄生虫による性行為感染症(トリコモナス症)は、一般的には、既存の有効性のある抗菌薬を単回投与することで治ります。
ヘルペスとHIVに対して疾患を根治させることはできませんが、抗ウイルス薬は疾患の進行を制御できる最も有効な治療法です。
B型肝炎に対しては、免疫を調節する作用のある薬(インターフェロン)と抗ウイルス薬でウイルスの増殖や活動を抑制し、肝障害の進行を遅らせることができます。

 性行為感染症、特に淋菌に対する抗生物質への薬剤耐性は、近年、急速に増加し、治療法の選択肢を減少させています。既に、(淋菌は)ペニシリン、スルホンアミド、テトラサイクリン、キノロン、マクロライドには耐性を示していましたが、最後の治療選択肢(セファロスポリンの経口薬及び注射薬)にも感受性が低下した多剤耐性淋菌が現れました。頻度は低いものの、他の性行為感染症に対する薬剤耐性も存在し、予防と早期治療が重要となっています。

性行為感染症患者の管理
 低所得と中所得の国々では、検査施設で確認検査を行うことなく、一貫した容易に認識できる所見と症状から診断することに依存しています。これは、症候管理と呼ばれています。しばしば臨床上のアルゴリズムに依存するこの方法は、いくつもの観察された症状(例えば、膣からの分泌、男性排尿時疼痛、性器潰瘍、腹痛)に基づいて医療従事者が特定の感染症を診断することを可能にしています。

 症候管理は、単純で、迅速で、診断当日に治療を確保し、高価な検査や利用できない診断検査を回避することができます。しかし、この方法は無症候性の感染者を見逃してしまいます。世界では、性行為感染症に罹患している大部分の感染者が無症状です。

ワクチンと他の生物医学的介入

 性行為感染症のうち、2つの疾患(B型肝炎とHPV)には、安全で極めて有効なワクチンがあります。これらのワクチンは、性行為感染症の予防において、大きな前進でした。B型肝炎ワクチンは、世界の93%の国で小児の予防接種計画に組み込まれ、既に、慢性肝疾患とがんによる死亡を130万人も防いだと推計されています。

 HPVワクチンは65か国で定期予防接種プログラムの一部に組み込まれており、導入している国のほとんどが高所得国と中所得国です。今後10年間で、子宮頸がんの患者のほとんどが発生している低所得国と中所得国においてHPVワクチンの接種率を70%に到達させることができれば、400万人以上の女性の死亡を防ぐことができます。

 ヘルペスとHIVに対するワクチンを開発するための研究が進められていますが、臨床上は早期に開発できる候補ワクチンはありません。クラミジア、淋菌、トリコモナスに対するワクチンの研究は初期の段階にあります。

 いくつかの性行為感染症の予防のため行うそのほかの生物医学的介入には、成人男性の包皮の環状切除や殺菌剤があります。

男性の包皮の環状切除は、男性における異性との性交渉でのHIVに感染するリスクを約60%低下させ、ヘルペスやHPVなど、その他の性行為感染症に対してもある程度の予防効果があります。
テノフォビル・ゲルは、膣の殺菌剤として使用され、HIVの感染予防への能力に対してはさまざまな結果の報告がありますが、HSV-2対してはある程度の有効性が示されています。

性行為感染症の拡大を封じ込めるには不十分な現在の取り組み

複雑さを示す行動変容
 リスクの高い性行動を減らすことができる簡単な介入方法を確かなものにするためにかなりの努力が行われていますが、行動変容は依然として複雑さを持った課題です。研究では、定義された集団に慎重に焦点をあて、確認された標的集団と多岐に亘って協議し、標的集団を計画、実施、評価に組み込むことの必要性が実証されてきました。

依然として脆弱な性行為感染症のスクリーニングと治療に関する保健サービス
 性行為感染症の迅速検査と治療を求めている人々は、多くの問題に直面しています。その問題には、人的・物的資源の制限、偏見、質の悪いサービス、性的パートナーの経過観察がほとんどできない又は全くできない、ということがあります。
・多くの国では、性行為感染症に関するサービスは切り離されており、プライマリー・ヘルス・ケアや家族計画、その他の通常の保健サービスの中では提供されていません。
・多くの施設では、しばしば無症候性の感染者に対する迅速検査を行うことができず、訓練された人材を欠き、検査施設の対応能力に欠け、適切な薬剤の十分な供給を行うことができません。 
・性風俗に携わる者、MSM、注射薬物使用者、受刑者、移民、若年者など、性行為感染症の罹患率が高く疎外された集団は、大抵の場合、適切な保健サービスを利用できる環境にはいません。

WHOの取り組み

 WHOは、性行為感染症の治療と予防に対する国際標準を作成し、調査活動と監視活動(薬剤耐性淋菌の監視を含む)を強化し、性行為感染症に関する世界的な研究課題の設定を行います。

 WHOの活動は、現在、性感染症の予防と制御のための世界戦略にしたがっています。この戦略は、HIVやその他の性行為感染症の予防のための情報やサービスなど本質的な介入への全体を包括する統合パッケージの必要性に焦点を当てた、女性、子供や青少年の健康のための国連の国際戦略2015が2006年の世界保健総会で採択され、2006年から2015年にかけて実施されているものです。WHOは、2016年から2021年に向けて、HIV/AIDS、ウイルス性肝炎、および性感染症に対して3つの新たな保健分野の世界戦略を作成しています。

 WHOは、以下の項目について取り組んでいます

以下の項目を含む効果的な性行為感染症に関するサービスの拡大
・性行為感染症の患者管理とカウンセリング
・特に妊婦に対する梅毒の検査と治療
・B型肝炎ワクチンとHPVワクチン

性行為感染症の予防効果を強化する戦略の推進
・既存の保健システムにおける性行為感染症に関するサービスを統合すること
・性の健康(セクシャル・ヘルス)の推進
・性行為感染症の疾病負荷の計測
・性行為感染症に使用される抗菌薬の耐性のモニタリングと対応

性行為感染症の予防のための新たな技術開発の支援
・性行為感染症のポイント・オブ・ケア検査(患者の身近な場所で実施可能な検査)
・淋菌に対する代替治療薬
・性行為感染症に対するワクチンや他の生物医学的介入

出典

WHO. Fact sheet N°110 Updated December 2015.
Sexually transmitted infections(STIs)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs110/en/index.html