黄熱について(ファクトシート)(更新)

2016年5月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 黄熱はウイルスを保った蚊により伝播される急性ウイルス性の出血性疾患です。"イエロー(黄色)"の名称は患者の一部で黄疸を来すことに由来しています。
  • 黄熱の症状は、発熱、頭痛、黄疸、筋肉痛、吐き気、嘔吐および疲労感があります。
  • 少数の患者は、症状が重篤となり、これらの約半数が7-10日以内に死亡します。
  • 黄熱は、アフリカと中南米の熱帯地域で流行しています。
  • 2006年に黄熱イニシアチブを開始手して以来、アフリカ西部で大掛かりな撲滅計画が展開され、集団キャンペーンで1億500万人以上がワクチンを接種しています。2015年には、西アフリカで如何なる黄熱の集団発生も報告されませんでした。
  • 多くの蚊が生息している人口の密集地域で、ワクチン未接種による免疫の低い人あるいは全く免疫を持たない人が感染すると、黄熱の大流行が発生します。これらの環境では、感染した蚊が人から人にウイルスを伝播させます。
  • 黄熱は、安全かつ手ごろな価格の非常に効果の高いワクチンによって予防できます。そして1回の黄熱ワクチン接種で黄熱に対し十分な免疫が獲得され、終生免疫を維持することができます。追加接種(ブースター)を行う必要はありません。ワクチンにより接種した人の99%が30日以内に効果のある免疫力を得ます。
  • 病院で適切な支持療法が行われれば、生存率が上がります。黄熱の対して特異な抗ウイルス薬は現在ありません。

所見と症状

一旦、感染が成立すると、黄熱ウイルスは3-6日間体内で潜伏します。これらが起きている時には、多くの人に症状はありませんが、最も一般的な症状は、発熱、背部での顕著な筋肉痛、頭痛、悪寒、食欲減退、嘔気、嘔吐です。ほとんどの患者は、3-4日後には症状が消退します。

しかし、少数の患者は、初期の症状から24時間以内に、さらに毒性の高い第2期に移行します。(このとき)再び高熱となり、通常は肝臓や腎臓などのいくつかの臓器が感染を受けます。この段階では、黄疸(「黄熱」の由来である皮膚や目の黄染)、黒っぽい尿と嘔吐を伴う腹痛などが現れます。中毒期に入った患者の半数は7-10日以内に死亡します。

黄熱は、特に初期の段階では診断が困難です。また重篤な症状になると、重症マラリア、レプトスピラ症、ウイルス性肝炎(特に劇症型)、他の出血熱、他のフラビウイルス(例えば、デング出血熱)、そして中毒等の疾患と混同されることがあります。

血液検査(RT-PCR)は、しばしば、疾患の初期段階でウイルスを検出することができます。疾患後期の段階では、(ELISAおよびPRINT法による)抗体を識別するための検査が必要です。

リスクのある人々

アフリカ(34か国)とラテンアメリカ(13か国)の47か国には、黄熱が風土病となっている国、風土病となっている地域のある国があります。アフリカの情報からの分析モデルでは、2013年における黄熱の脅威は重症患者が8万4000人-17万人、死亡者が2万9000人-6万人に上ると推定されています。

時に、黄熱が常在する国を訪れた旅行者が、黄熱の常在しない国に病気を持ち込むことがあります。このような病気の感染輸入を防ぐために、多くの国では、ビザ(査証)を発行する前に、特に、黄熱の流行地域から来る、又は流行地を訪れた旅行者に対してビザ(査証)を発行する前に、黄熱に対するワクチン接種の証明を求めています。

過去(17-19世紀)には、黄熱は北アメリカやヨーロッパにも持ち込まれ、地域によっては人口の10人に1人が死亡するような経済並びに都市の開発に打撃を与える大流行を引き起こしました。

感染経路

黄熱ウイルスはフラビウイルス属のアルボウイルスであり、Aedes(シマカ)属とHaemogogus属の蚊がウイルスを媒介します。種類が異なれば、違った場所に生息します。ある種類の蚊は家屋周辺(domestic)で繁殖し、ある種類は密林の中で、また、ある種類はその両方で繁殖します。感染経路としては、次の3つのタイプの伝播サイクルがあります。

  • 森林(または密林湿地帯)型黄熱:熱帯雨林で、黄熱の宿主であるサルが森林に生息する蚊に刺され、その蚊が別のサルにウイルスを移していきます。ときに、森林で働く労働者や旅行者が、ウイルスを保った蚊に刺され、黄熱に感染します。
  • 中間型黄熱:このタイプの感染経路では、(自然環境と居住地周辺の両方に生息地をもつ蚊により)住居周辺地域の蚊が、サルと人の両方に感染させます。人とウイルスを保った蚊との接触機会が増えるために、感染経路が多くなり、たくさんの離れた村落で同時に流行が発生することがあります。これは、アフリカでの最も一般的な流行のタイプです。
  • 都市型黄熱:蚊が密集する一方で、人がワクチンの接種をしていないために免疫力をほとんどもたないような人口の密集地域に、感染した人がウイルスを持ち込むことで大流行を起こします。このような環境では、ウイルスを保った蚊が人から人へウイルスを伝播します。

治療

早期に適切な支持療法を行えば、生存率は向上します。現在、黄熱に特異的な抗ウイルス薬はなく、脱水、肝不全や腎不全、発熱に対して特定の治療を行うことで結果が改善されています。細菌感染があれば抗生物質による治療が行われます。

予防

1.予防接種

予防接種は黄熱を予防する唯一の最も重要な方法です。予防接種の普及率が低いハイリスクの地域では、集団予防接種を実施することを速やかに理解し、集団発生を制御することが、流行を回避するために重要です。黄熱が集団発生した地域での感染伝播を防ぐために、リスクのある住民(80%以上)がワクチンを接種していることが重要です。

定期予防接種、リスクのある国における接種率を向上させるために計画された集団予防接種キャンペーン、黄熱の流行地域に向かう旅行者への予防接種など、感染の集団発生から護るために、さまざまなワクチン接種への戦略が採られています。

黄熱ワクチンは安全で手頃な価格であり、1回の黄熱ワクチン接種で黄熱に対して終生免疫を得ることができます。黄熱ワクチンの追加接種(ブースター)を行う必要はありません。

黄熱ワクチンによる重篤な副反応の報告は稀です。ワクチンが肝臓、腎臓、中枢神経に障害を引き起こし、入院に繋がるようなワクチン接種後の有害事象(AEFI)の発生率は、100万人あたり0.4から0.8です。

60歳以上の人や症候性のHIV/AIDSなどが引き起こす重篤な免疫不全を有する人、胸腺に障害のある人では、(副作用の)リスクが高くなります。60歳以上の人には、リスク-ベネフィットが慎重に評価された上でワクチンが接種される必要があります。

ワクチンを推奨されない人は以下の通りです。

  • 9か月未満の幼児(例外として、ワクチンの副作用より疾患リスクの高い地域での流行時には6-9か月の幼児も接種するべきである)
  • 妊婦-感染のリスクが高い黄熱の発生時期を除く
  • 卵タンパクに重度のアレルギーをもつ人
  • 症候性のHIV/AIDSまたはその他の原因で重症の免疫不全状態にある人、または胸腺に障害のある人

国際保健規則(IHR)に則れば、それぞれの国は黄熱の予防接種証明書を提示することを旅行者に求める権利を持っています。もし予防接種をしない医学的根拠がある場合、国際保健規則では、適切な機関によりそのことが証明されなければなりません。IHRは、感染症その他の健康上の脅威が拡散することを阻止するための法的拘束力のある枠組みです。旅行者に対しワクチンの接種証明書を要求することは、加盟各国の裁量であり、現在、全ての国で要求されるものではありません。

2.蚊のコントロール

都市部での黄熱伝播のリスクは、貯水容器や滞留水の収集場所などに殺虫剤を使用し、蚊の生息場所を除去することで減らすことができます。都市部での流行時期に、蚊の成虫を殺すために殺虫スプレー剤を使用することは、蚊の生息数を減らすことに役立ちます。このように、潜在する黄熱伝播の感染元を減らすことができます。

歴史的に、蚊のコントロール・キャンペーンは、都市型黄熱を媒介するネッタイシマカを中南米本土のほとんどの国から排除することに成功しました。しかし、この蚊は都市部で再び確認され、都市型黄熱の新たなリスクとなっています。森林地域に生息している蚊を対象とした蚊のコントロール計画は、密林湿地帯(または森林)の黄熱伝播を防ぐことには現実的ではありません。

3.流行への備えと対策

黄熱の速やかな発見と緊急の予防接種キャンペーンによる迅速な対策は、感染の発生をコントロールするためにきわめて重要です。しかし、実際より報告される数が少ないことが懸念されています。- 本当の症例数は現在報告されている数の10倍から250倍であると推定されています。

WHOは、全てのリスク国が基本的な黄熱血液検査のできる国立検査センターを少なくとも1か所は持つことを推奨しています。検査で確定診断された患者が、予防接種を受けていない住民の中で発生すれば流行が発生していると考えられます。また、どのような発生状況でも、特に、多くの人が予防接種を受けているような地域でも、確定診断患者が発生すれば十分に調査を行う必要があります。調査チームは、緊急対応と長期の予防接種計画の両方でもって、流行発生を評価し対処しなければなりません。

WHOの取り組み

WHOは、International Coordinating Group for Yellow Fever Vaccine Provision(ICG)(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)の事務局です。ICGは、ハイリスク国での流行発生に迅速に対処するために、緊急用に黄熱ワクチンを備蓄しています。

2006年に、黄熱イニシアチブは、世界のワクチン供給量を確保し、ワクチン接種を通じて人々の免疫力を高めるために始められました。黄熱イニシアチブは、WHOによる主導の下、ユニセフと各国政府の支援によって、特に、黄熱が際立っている流行の著しいアフリカの国々に焦点を当てています。黄熱イニシアチブが開始されて以来、アフリカ西部ではこの病気への制御をもたらすことに大きな進展がありました。1億500万以上の人が、ワクチン接種を受けており、2015年には、アフリカ西部での黄熱の流行が報告されませんでした。

黄熱イニシアチブでは、小児の定期予防接種(9か月で開始する)に黄熱ワクチンを組入れること、ハイリスク地域の9か月以上の児童とすべての年齢の住民に集団予防の接種キャンペーンを行うこと、また、サーベイランスと流行発生時の対処能力を維持することを推奨しています。

2007年-2016年の間に14か国で黄熱予防接種キャンペーンが実施されました。黄熱イニシアチブは財政的にGAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、EC人道援助局(ECHO)、Central Emergency Response Fund(CERF)(中央緊急対応基金)、保健省、国家レベルの支援組織によって支援されています。

参考

WHO.Media center.Fact sheet
Yellow fever- Updated May 2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs100/en/