性行為感染症の治療と拡大する薬剤への耐性

世界保健機関(WHO)は、8月30日に、クラミジア、淋病、梅毒に対する新たな治療ガイドラインを公表しました。各ガイドラインは、原文の右上から入手することができます。

薬剤への耐性が拡大する脅威に対処するために、WHOは3つの身近な性行為感染症に対する治療の新しいガイドラインを公表しました。

クラミジア、淋病、梅毒は、すべて細菌によって引き起こされ、通常は抗生物質で治療することができます。しかし、多くの場合、これらの性行為感染症は、診断されていなかったり、いくつもの抗生物質が誤用や乱用されていたりした結果、治療が失敗し、治療は以前よりも難しくなってきています。毎年推定で、1億3,100万人がクラミジアに、7,800万人が淋病に、560万人が梅毒に感染しています。

近年、これらの性行為感染症への抗生物質の効果に対する耐性が、急速に増加してきており、治療の選択肢が減ってきています。3つの性行為感染症のうち、淋病は抗生物質に対して最も強い耐性を発展させました。使用できるどんな抗生物質にも効果を示さない多剤耐性淋菌株が、既に検出されています。また、あまり頻繁ではありませんが、クラミジアや梅毒における薬剤耐性も現れており、予防と速やかな治療を重要なものにさせています。

診断を受けず、治療しないままに放置しておくと、これらの性行為感染症は、骨盤内炎症性疾患、子宮外妊娠、流産など、女性への重大な合併症や長期に亘る健康上の問題を引き起こすことがあります。淋病やクラミジアは、男女ともに不妊の原因となることもあります。また、クラミジア、淋病、梅毒への感染は、HIVへの感染リスクを2倍から3倍に高めます。妊婦で性行為感染症を治療しないままにすると、死産や新生児死亡の可能性を高めます。

WHOの生殖器の医療および研究の部門長Ian Askewは、次のように述べています。

「クラミジア、淋病、梅毒は、世界における重大な公衆衛生上の問題であり、数百万もの人の生活に質的な影響を与え、深刻な病態や、時には死を招きます。WHOの新しいガイドラインは、その拡散を減らし、性生活および生殖器の健康の向上を図るために、これらの性行為感染症に対して適正な抗生物質、適正な用量、適正な回数を用いることの必要性に重点を置いています。そのためには、国の医療サービス体制の中で、国内におけるこれらの感染症の薬剤耐性パターンを監視する必要があります。」

新しい推奨ガイドラインは、これら3つの性行為感染症に対して最も効果のある治療法を、入手できた最新の情報に基づいて作成しています。

淋病

淋病は、性器、直腸、喉に感染を引き起こす身近な性行為感染症です。薬剤への耐性が現れ、淋病の治療に対する新しいクラスの抗生物質の使用が全ての系統に拡大しています。拡散する耐性株のために、古く安価な抗生物質はこの感染症の治療には効果を失っています。

WHOは、薬剤耐性の脅威が高まっていることに対処し、各国での淋病の治療ガイドラインを更新することを促しています。各国の医療保健当局は、自国の国民に拡がる淋菌株での耐性出現率を抗生物質毎に追跡する必要があります。新しいガイドラインでは、地域毎の耐性パターンに基づいて、最も効果が高いと思われる何れかの抗生物質を処方することのアドバイスを医師に対して行うことを各国の医療保健当局に求めています。WHOの新しいガイドラインでは、淋菌の治療にキノロン系抗生物質を勧めていません。それは耐性が高いレベルで拡がっているからです

梅毒

梅毒は、接触によって感染が拡がり、妊娠中の性器、肛門、直腸、唇、口などに痛みをもたらしたり、母親から子どもに感染したりします。妊娠女性が治療せずに、感染が胎児に及ぶと、多くの場合、胎児は死に至ります。2012年には、梅毒の母子感染は、推定で143,000人の早期胎児死亡や死産を引き起こし、62,000人の新生児死亡、44,​​000人の早産児や低出生体重児をもたらしました。

梅毒治療に対し、新しいガイドラインでは、ベンザチンペニシリンの単回投与が強く推奨されています。これは、感染者の臀部や太ももの筋肉に医師または看護師が抗生物質を注射するものです。これは抗生物質の経口投与よりも有効かつ安価で、梅毒には最も効果的な治療法です。

ベンザチンペニシリンは、2016年5月の第69回世界保健総会で、数年にわたって供給不足に陥っている重要な薬剤として認定されました。WHOの3つの管轄地域より、梅毒の高い脅威のある国で出産前ケアの代表者やケアの提供者から、在庫切れの報告があることがWHOにも届いています。WHOは、加盟各国とともに、在庫が不足している国を確認し、各国での抗生物質の必要性と供給力とのギャップを埋めるために、世界で利用可能なベンザチンペニシリンの状況を監視する支援を行っています。

クラミジア

クラミジアは、もっとも身近な細菌による性行為感染症で、患者は、しばしば淋病と同時に感染しています。クラミジアの症状は、排膿や排尿時の灼熱感を伴うことがありますが、感染者のほとんどには症状がありません。クラミジアは症状がなくても、生殖系に障害を与えることがあります。

新しいガイドラインでは、また、2016年5月の第69回世界保健総会で、各国政府から承認された「性行為感染症(2016年-2021年)に対する世界保健部門戦略」で推奨されているように、WHOによって更新されたガイドラインの使用開始が呼びかけられています。新しいガイドラインは、2015年5月の世界保健総会で各国政府によって採択された「抗菌剤耐性に対する世界行動計画」の内容にも沿っています。

厳密かつ一貫してコンドームを使用することは、性行為感染症に対する保護の最も有効な方法の一つとなります。

出典

WHO.News release, Media Centre. 30 August 2016
Growing antibiotic resistance forces updates to recommended treatment for sexually transmitted infections
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/antibiotics-sexual-infections/en/