ペストについて (ファクトシート)

2016年9月 WHO (原文[英語]へのリンク

要点

●ペストは、未治療の場合に致死率が30%-60%にもなり、人々の生活の中で重篤な感染症になる可能性を潜めています。
●ペストは、14世紀には「黒死病」と呼ばれて、推計5,000万人もの命を奪う原因となりました。
●ペストはペスト菌(Yersinia Pestis)による感染症であり、ペスト菌は通常小動物やそのノミから発見される人畜共通の感染細菌です。
●人がペストに感染すると、通常3-7日の潜伏期間を経て「インフルエンザ様」症状が出現します。
●ペストには、感染経路の違いから、腺ペスト、ペスト敗血症、肺ペストの3つの形式があります。腺ペストでは、最も一般的な特徴として有痛性リンパ節腫脹や「横痃(おうげん:鼠径部リンパ節の腫脹)」が現れます。
●ペストの流行はアフリカ、アジア、南アメリカで発生してきましたが、1990年以降、人での症例はほとんどアフリカで発生しています。
●2013年には、世界中で783人の患者が報告され、126人が死亡しました。
●現在、最も流行している国は、マダガスカル、コンゴ民主共和国、ペルーの3か国です。

概要

ペストはペスト菌(Yersinia Pestis)による感染症であり、ペスト菌は通常小動物やそのノミから発見される人畜共通の感染細菌です。感染しているノミによる咬刺によって(ペスト菌が)動物から人へ、また、直接接触で(動物から人へ)伝播し、稀には感染性物質を摂取することによって伝播します。

ペストは、未治療の場合に致死率が30%~60%にもなり、人々の生活の中で重篤な感染症となる可能性を潜めています。2013年には、世界中で783人の患者が報告され、126人が死亡しました。ペストは、歴史上でも致死率が高く、広範囲に大流行を起こす原因として現れています。ペストは、14世紀には「黒死病」と呼ばれて、推計5,000万人もの命が奪われています。そのうち半数はアジア、アフリカの、残りの半数はヨーロッパの死亡者です。当時の世界人口の1/4が命を落としました。

症状と所見

人がペストに感染すると、通常3-7日の潜伏期間を経て「インフルエンザ様」症状が出現します。典型的な症状は、突然に発症する発熱、悪寒、頭痛、体幹痛、虚弱、嘔吐、吐き気です。

ペストには、感染経路の違いから、腺ペストペスト敗血症肺ペストの3つの形式があります。
腺ペスト(「黒死病」として中世ヨーロッパで知られています)は、ペストの最も一般的な形態で、感染しているノミに咬刺されることによって起こります。ペスト桿菌Y. pestisは、咬傷口から侵入し、リンパ管を通って移動し、最も近いリンパ節で増殖します。そのリンパ節は炎症を起こし、腫れて、疼痛を発します。これは、「横痃」と呼ばれています。炎症が進行すると、炎症を起こしたリンパ節が化膿し、穿破することがあります。
ペスト敗血症は、「横痃」を形成することなく、感染が血流を介して直接(全身に)広がったときに発生します。ペスト敗血症は、ノミの咬刺とともに、皮膚の傷が感染性物質に直接接触すると起こる可能性があります。腺ペスト型が進行するとペスト菌が直接血中に拡散することもあります。
肺ペスト(または肺を基にしたペスト)は、滅多に起こりませんがペストの最悪の型です。通常、肺炎型は進行した腺ペストが肺に広がることで起こります。しかし、二次性の肺ペスト患者は、エアロゾル(微粒子)化された感染性の飛沫を形成し、飛沫を介して他の人にペストを伝播する可能性があります。未治療の肺ペストは、致死率が非常に高いです。

ペスト発生地

ペストはアフリカ、旧ソ連、アメリカ大陸、アジアの多くの国々で流行しています。ペストの分布は、感染を起こす齧歯類の分布地域と一致しており、オーストラリアを除く、熱帯、亜熱帯、暖温帯気候の幅広い分布域内にあるすべての国でみられます。

ペストの流行はアフリカ、アジア、南アメリカで発生してきましたが、1990年以降、人での症例は、ほとんどアフリカで発生しています。現在、最も流行している国は、マダガスカル、コンゴ民主共和国、ペルーの3か国です。

ペストの診断

ペストの診断と確定には検査室での検査が必要です。患者がペストであることを確定する最も確実な方法は、横痃内の液体、または、血液や痰の検体からペスト菌を同定することです。患者のペスト菌抗原を短時間で確認するために、ディップ・スティク・テストを現場使用する方法が妥当であることが確認されています。(それでも)検体を収集し、ペスト検査のために(検体を)検査室に送ることは行われる必要があります。

治療

ペストは、治療しなければ急速に致命的な状態となるので、早期診断と治療が救命と合併症の抑制のために不可欠です。患者の診断が間に合えば、抗生剤と支持療法がペストに対して有効です。これらの方法は抗生剤の投与と支持療法(全身管理)を行うものです。

予防

ペストは、人畜共通感染症なのでその環境で(動物にペストが)流行しているとき、人々に(それを)知らせ、ノミの咬刺に注意をし、ペスト流行地域で死んだ動物に触らないように助言することが、予防対策に含まれてきます。人は、化膿している横痃のような感染組織に直接触わること、肺ペスト患者に暴露することも避けるべきです。

予防接種

ペストのワクチンは、かつて広く使用されていました。しかし、ペストに対してあまり有効であることは示されていません。ワクチンは、現在は流行に対して推奨されていませんが、それでも高リスク群(例えば、常に汚染の危険にさらされている検査室職員)には使用されています。

ペスト流行の制御

感染源の発見および感染源の封じ込め:患者が(ペスト菌の)暴露を受けた地域や、通常、小動物の死亡数が大量に群がっている地域などの最も可能性の高い感染源を特定する。暴露源を封じ込めるために適切な衛生管理対策を提起し、行動に移す。
医療従事者への通知:ペスト症例の定義や注意すべき臨床的特徴を、ペスト流行の活動が高い地域に通知する。
正しい治療の確実な実行:患者が適切な抗生剤による治療を受け、地域への抗生剤の供給が十分であることを確認する。
●肺ペスト患者の隔離
●検査室で確定するための検体標本の入手

調査と感染制御

調査と感染制御には、地域においてペストサイクルに関与する動物とノミの種類を調査することと、拡散を防ぐために環境管理プログラムの作成が必要です。動物での流行発生に迅速に対応するとともに、感染源となる動物に積極的に長期的に監視することが、これまでも人でのペスト流行の数を減してきています。

出典

WHO.Fact sheet N°267, Media Centre.Reviewed September2016
Plague
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs267/en/