リンパ系フィラリア症について (ファクトシート)

2016年9月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

●リンパ系フィラリア症は、疼痛、重症身体障害、社会的偏見の原因となるリンパ系組織系の変化や身体の一部の異常な腫脹を引き起こします。
●世界54か国の約9億4,700万人が、リンパ系フィラリア症の脅威にさらされており、この寄生虫の広がりを阻止するための予防的化学療法を必要としています
●2000年において、1億2,000万人以上が感染し、約4,000万人がこの疾患による外観の変形、機能障害を被っています。
●リンパ系フィラリア症は、感染が存在する地域の住民に2種類の薬剤を単回投与する予防的化学療法を通して、感染の広がりを止め、撲滅することができます。2000年以降、感染の拡大を阻止するための62億万人分の治療薬が配られました。
●WHOの戦略の実施が功を奏し、3億5,100万人には、もはや予防的化学療法を行う必要がなくなりました。
●推奨される基本的な治療メニューにより、リンパ系フィラリア症患者に対し、苦痛を和らげ、障害の進展を防ぐことができます。

リンパ系フィラリア症の特徴

リンパ系フィラリア症は、象皮病としても知られる、顧みられない熱帯病のひとつです。フィラリアと呼ばれる寄生虫を蚊が媒介して人に伝播することで感染が成立します。感染は、通常、小児期に成立し、リンパ系組織に症状が現れないまま障害を起こします。

この疾患にともなう疼痛を伴う大きな外観の変形、リンパ浮腫、象皮病、陰嚢水腫が、生涯で後になって現れ、永続的な身体の障害へと進展させます。また、患者は、身体の障害だけでなく、社会的差別や貧困によって、精神的、社会的、さらには経済的な損失にも苦しみます。

現在、54か国の9億4,700万人が、感染の拡大を止めるには予防的化学療法を必要とする地域に住んでいます。このうち、約80%の人々は、アンゴラ、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主共和国、インド、インドネシア、モザンビーク、ミャンマー、ナイジェリア、タンザニアの10か国に住んでいます。

世界全体では、推計で約2,500万人の男性が生殖器の疾患に悩み、1,500万人を超える人がリンパ浮腫で苦しんでいます。リンパ系フィラリア症の撲滅は、不要な苦痛を防ぎ、貧困を減らすことができます。

原因と感染経路

リンパ系フィラリア症は、糸状虫上科(family Filariodidea)の線虫(回虫)に分類される寄生虫の感染によって起こります。この細長い線虫には3種類があります。
Wuchereria bancrofti(バンクロフト糸状虫): 患者の90%に関与しています。
Brugia malayi(マレー糸状虫): 残りの患者のほとんどに関与しています。
・B. timori(チモール糸状虫): 原因となり得ます。

成虫はリンパ系組織にとどまり、免疫機能障害を起こします。成虫は人の体内で6~8年生存し、その生涯に何百万ものミクロフィラリア(小幼虫)を産み、そのミクロフィラリアが血液中を循環します。

蚊は感染した宿主(人)を刺して血液を吸う際にミクロフィラリアを取り込みます。ミクロフィラリアは蚊の中で感染力をもつ幼虫になります。感染性をもつ蚊が人を刺す時に、感染力をもつ幼虫を皮膚に置いて行くと、(幼虫が)そこから体内へ侵入します。幼虫はリンパ系に移動し、成虫となり、感染伝播のサイクルを成立させます。

リンパ系フィラリア症はさまざまな種類の蚊によって媒介されます。例えば、都市部や郊外に広く分布するCulex(イエカ属)、農村地帯に分布するAnopheles(ハマダラカ属)、主に太平洋の島嶼の常在地域に分布するAedes(ヤブカ属:シマカもこの一部です)です。

症状

リンパ系フィラリア症には、無症候期、急性期、慢性期があります。感染しても多くは無症候性で、外見からは感染していることがわかりません。しかし、感染の無症候期には、既にリンパ系組織と腎臓に障害を起こし、免疫機能を変化させています。

慢性のリンパ腫脹や象皮病に伴い、しばしば、皮膚、リンパ節、リンパ管での局所炎症による急性発作が起こります。この発作は、寄生虫に対する身体の免疫反応でも起こることがありますが、そのほとんどはリンパ系障害によって正常な防御機構の一部が失われ、その皮膚に細菌が感染したことの結果です。

リンパ系フィラリア症が慢性期に達すると、四肢のリンパ浮腫(組織腫脹)または象皮病(皮膚や組織の肥厚)や陰嚢水腫(液体の貯留)を起こします。乳房や生殖器への影響もよく起こします。そのような身体の変形は社会的な差別を起こし、収入の減少や医療費の増大によって経済的困窮をもたらします。孤立や貧困による社会的経済的な重圧は甚大です。

WHOの取り組み

WHO総会決議50.29は、加盟国に対し、公衆衛生上の問題としてリンパ系フィラリア症を撲滅することを促しています。これに応えて、WHOは、「リンパ系フィラリア症の撲滅を目指す世界計画(Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis; GPELF)」を2000年に開始しました。2012年には、WHOの顧みられない熱帯病に対するロードマップで再設定され、2020年までに撲滅を目指すという目標が示されました。

WHOの戦略は、以下の2つの重要な内容に基づいています。
・感染が発生している地域に住むリスクのあるすべての人を対象に、毎年、大規模に治療を実施
することによって感染伝播を遮断すること
・疾患管理の向上と身体障害の予防活動を通してリンパ系フィラリア症による苦痛を軽減すること

大規模な治療(予防的化学療法)

リンパ系フィラリア症の撲滅は、感染の拡大を抑え込めれば実現できます。大規模な治療は、毎年、リスクのあるすべての人に、アルベンダゾール(400mg)とイベルメクチン(150~200mcg/kg)または、アルベンダゾールとジエチルカルバマジン (6mg/kg)という2種類の薬剤を単回投与します。

これらの予防的化学療法薬は、寄生虫の成虫に対しては限られた効果を及ぼすのみですが、血中のミクロフィラリアの密度を下げ、蚊によって寄生虫が拡がることを防ぎます。この推奨される大規模な治療戦略は予防的化学療法と呼ばれ、毎年4年から6年間継続して実施すれば、感染伝播のサイクルを遮断することができます。

GPELFの開始時には、リンパ系フィラリア症は81か国で風土病と考えられていました。その後の疫学データから、9か国では予防的化学療法が必要ないことが示されました。2000年から2015年までに、少なくとも64か国で一度は少なくとも8億2,000万人以上に62億回分の治療薬が配布され、多くの場所で感染伝播をかなり減少させたはずです。最近の研究データでは、感染リスクのある対象人口におけるリンパ系フィラリア症の感染伝播は、GPELFを開始してから43%減少したことが示されています。2000年から2007年の計画による経済効果は、全体で少なくとも240億米ドルと見込まれています。MDA(大規模な薬剤の投与)治療による14年間での恩恵が、現在では、治療で恩恵を受けた人の生涯を通した前向き調査で推定1,005億米ドルの損失を回避したとされています。

現在は、73か国で風土病と考えられていますが、このうち6か国(カンボジア、クック諸島、モルディブ、ナウル、スリランカ、バヌアツ)では公衆衛生上の問題としてリンパ系フィラリア症の撲滅を達成したと認められました。また、13か国の国が推奨される治療戦略を実施し、成功し、集団での治療を中止しており、撲滅が達成されたことを示すためのサーベイランスが行われています。

しかし、予防的化学療法は2015年末までにすべての流行地域には届いておらず、まだ54か国では必要とされています。2020年までに撲滅目標を達成し治療を終了するために、29ほどの国では治療戦略の強化が必要とされます。

疾患管理

疾患管理と身体障害の予防は公衆衛生の改善にとって非常に重要で、保健システムの中に十分に組み込まれる必要があります。手術によって、水腫の大部分の患者は症状を軽減させることができます。リンパ浮腫と急性炎症性発作の臨床上の重症度は、衛生管理、皮膚の手入れ、運動、障害肢の挙上などの簡単な対策によって改善させることができます。リンパ浮腫を伴う人は、疾患管理と病期の進行抑制のために、生涯にわたり治療を継続できる環境にいる必要があります。

GPELFは、リンパ系フィラリア症が現存するすべての地域において、リンパ系フィラリア症の慢性期症状が関係するすべての人々に最低限の医療支援を提供できる環境を整備し、それによって苦痛を軽減し、生活の質の向上させることを目指しています。

以下に掲げる最低限の医療支援を患者に提供できれば、2020年での成功は達成されるでしょう。
・腺リンパ管炎(ADL)の症状発現に対する治療
・リンパ浮腫の進行を抑制し、ADLの炎症発現数を減らすためにリンパ浮腫と水腫の管理に対
して分かりやすく適切な処置を行うためのガイダンス
・水腫の手術
・予防的化学療法もしくは患者治療により残存する成虫やミクロフィラリアを死滅させるための
抗フィラリア薬を用いた治療

媒介する蚊の制御

媒介する蚊の駆除は、WHOが支援するもうひとつの戦略です。この戦略は、リンパ系フィラリア症やそれ以外にも蚊が媒介する感染症が伝播することを減少させるために用いられます。殺虫剤処理された蚊帳や屋内残留タイプの殺虫スプレーなどの対策は、人々を感染から保護する手助けをします。媒介する蚊の駆除は、予防的化学療法を行えない中でリンパ系フィラリア症を撲滅することに寄与する環境作りへの選択肢となります。

出典

WHO.Fact sheet, Media Centre.Updated October2016
Lymphatic filariasis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs102/en/index.html