HIV/AIDSについて(ファクトシート) (更新)

2016年11月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • HIVは、依然として世界的における公衆衛生上の大きな問題であり、これまでに3,500万人を超える生命を奪ってきました。2015年には、世界中で110[94~130]万人がHIV関連の疾患(原因)で死亡しています。
  • 2015年には世界全体で210[180~240]万人が新たにHIVに感染し、2015年末にはHIV感染者は約3,670[3,400~3,980]万人になりました。
  • 最も感染の多い地域はサハラ以南のアフリカで、2015年にはHIV感染者が2,560[2,310~2,850]万人になりました。また、世界全体で新たにHIVに感染した人の3分の2がサハラ以南のアフリカ人でした。
  • HIVへの感染は、頻繁に迅速診断検査によって診断されます。これは、HIVに対する抗体の存在の有無を検出します。もっとも使用されている検査では結果がその日のうちに得られます。早期治療と健康管理において、その日のうちに診断が得られることは重要です。
  • HIV感染症に対し完全に治療する方法はありません。しかし、有効な抗レトロウイルス薬(ARV)によってウイルスを制御し、感染伝播を防ぐことはできます。その結果、HIV感染車も、実質的に感染の危険をもつ者も健康的で生産力のある生活を楽しむことができます。
  • 現在、自分の感染状態を知っている感染者は60%に過ぎないと推定されています。1,400万人を超える残りの40%には、HIV検査を受ける必要があります。2016年半ばには、世界で1,820万人のHIV感染者が抗レトロウイルス療法(ART)を受けました。
  • 2000年から2015年の間に、新規のHIV感染者は35%減少し、AIDS関連の死亡者は28%減少し、約800万人も生命が救われました。この目標の達成は、市民社会と幅広い支援組織によって支えられた国の規模でのHIV計画に対する大きな努力の結果です。
  • すべてのHIV感染症患者に抗レトロウイルス療法の適応を拡大し、予防のための選択肢を広げることで、2030年までに2,100万人のエイズ関連死亡と2,800万人の新たな感染の阻止に繋げることができます。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、人の免疫を標的とし、感染症やある種の癌に対する人々の免疫応答機能を低下させます。ウイルスは免疫細胞の機能を破壊し傷害を与えることで、感染者を徐々に免疫不全にさせていきます。免疫機能は主にCD4細胞数で示されます。免疫不全になると、正常な免疫系をもった人ならば防御できる様々な感染症やその他の疾患に罹りやすくなります。
HIVが最も進行した状態がAIDS(後天性免疫不全症候群、エイズ)です。個人差がありますが、感染して2年から15年でAIDSを発症します。AIDSは、ある種の癌、感染症またはその他の重篤な臨床症状が発症することによって定義づけられています。

症状と臨床所見

HIVの症状は感染の段階によって異なります。HIV感染者は最初の数か月が感染力の最も強い時期となりますが、多くの人は、この段階で感染に気づくことはなく、もっと後になって気づきます。感染した最初の数週間は、感染者に発熱、頭痛、発疹、咽頭痛などのインフルエンザ様症状が現れます。しかし、無症状のこともあります。
感染が進行して免疫機能が弱まってくると、次第にリンパ節の腫張、体重減少、発熱、下痢、咳などの症状や臨床所見がみられるようになります。治療をしなければ、感染者には、結核、クリプトコッカス髄膜炎といった重篤な疾患や、リンパ腫、カポジ肉腫といった癌種が現れます。

感染経路

HIVは、感染した人の血液、母乳、精液、膣分泌液など様々な体液によって伝播します。キス、抱擁、握手といった日常生活での接触や、個人で使用する物品、食品、水を分け合うことでは感染しません。

危険因子

HIVに感染するリスクを高めてしまう行動様式や状況は、下記のとおりです。

  • コンドームを使用せずに肛門性交や膣性交を行う場合
  • 梅毒、ヘルペス、クラミジア、淋菌や細菌性膣炎など、他の性行為感染症に感染している場合
  • 針、シリンジ、その他、注射時の付属器具や薬液など、汚染されたものを使い回す場合
  • 安全が不確かな注射器、輸血、滅菌処理されていない医療用具での切開や(ピアスの)貫通など
    の医療行為を受けた場合
  • 医療従事者を含め偶発的な針刺し事故を経験した場合

診断

迅速診断検査や酵素免疫測定法(enzyme immunoassays EIAs)のような血清学的検査はHIV-1/2とHIV p24抗原の両方または片方に対する抗体の有無を検出します。検証検査アルゴリズムに則った検査方針の下で、このような検査が用いられた場合には、HIV感染を高い精度で検出することができます。血清学的検査は、HIVそのものを直接検出するのではなく、外来病原体を撃退するために感染者が応答する免疫システムの一部として感染者の体内で産生された抗体を検出する検査であることに注意が必要です。
ほとんどの感染者は、28日程でHIV-1/2に対する抗体が産生されます。そのため、感染の早い時期には抗体を検出できないことがあります。いわゆる「ウィンドウ・ピリオド」と呼ばれるものです。感染初期は、最も感染力のある時期でもあります。しかしながら、HIVの感染伝播は全ての感染時期で起こり得ます。
HIV検査で陽性の診断を受けた人は検査や結果報告の潜在的なあらゆるエラーを除外するために、身体管理や治療の両方または片方を始める前にもう一度、検査を行うことが奨められます。

検査とカウンセリング

HIV検査は自発的に行われるべきものであり、検査を拒否する権利が認められなければなりません。医療従事者、保健当局、パートナー、家族が検査を義務づけたり、強制したりすることは、健全な公衆衛生の運用を妨げ、人権を侵害するものであり、許されることではありません。
一部の国では追加の選択肢として自己診断検査の導入または検討を行っています。HIVの自己診断検査は、自分のHIV感染の有無を知りたい人が検体を採取し、自分で検査を行い、それによって個人で検査の結果を判定する方法です。HIV自己診断検査は、確定診断ではなく、単に、HIVのスクリーニング検査の代わりです。確定診断には、国が定めた検査アルゴリズムにしたがって、医療者の下で検査を受ける必要があります。
全てのHIV検査サービスでは、WHOが推奨する5つのC(five C's)を含むべきことを奨められています。5つのCとは、インフォームド・コンセント(informed Consent)、機密性の保持(Confidentiality)、カウンセリング(Counselling)、正確な検査結果(Correct test results)、ケア、治療、その他のサービスとの連携(linkage to Care , treatment and other services)です。

予防

人は、危険な要因に曝される機会を限定することによってHIV感染のリスクを下げることができます。HIV予防のための要点は次のとおりです。これらはしばしば組み合わせて行われます。

1.男性と女性のコンドーム使用

膣性交や肛門性交を行う際には、男性用、女性用コンドームを常に正しく使用することでHIVを含む性行為感染症(sexually transmitted infections: STIs)の拡大から身を守ることができます。男性用ラテックスコンドームの使用は、HIVや他の性行為感染症の伝播に対して85%以上の予防効果があるという根拠が示されています。

2.HIVと性感染症の検査とカウンセリング

ありとあらゆるリスク要因に曝される人々には、HIVとその他の性感染症の検査を受けることが強く奨められます。こうすることで、人は自分の感染の状態を知り、後手に回ることなく予防や治療に必要な環境を利用することにつなげられます。WHOはパートナーやカップルにも検査を受けることを奨めています。さらに、WHOは、パートナーに知らせる方法の支援を推奨しています。それによって、HIV感染者は、自分自身もしくは医療提供者の助けを借りてパートナーに知らせるための手助けを受けることができます。

3.結核に関係する検査とカウンセリング

結核(TB)は、HIV感染者で最もよく見られる疾患です。HIV感染者の死亡原因でもあります。HIV感染者において(結核が)発見されていない又は治療されていない場合には致命的で、HIV関連死の3人に1人は(結核が)死亡の主原因となっています。結核の早期発見と、結核治療と抗レトロウイルス薬治療を速やかに結び付けることで、これらの死亡を阻止することができます。結核のスクリーニングはHIV定期診断の中に組み入れられるべきです。HIVと結核の両方が診断されたすべての感染者には速やかに結核治療と抗レトロウイルス療法を行う必要があります。結核が活動性でない場合でも、HIV感染者には結核の予防投与が必要とされます。

4.任意で行われる男性の包皮環状切除

男性の包皮環状切除は、熟練した医療の専門家によって安全に行われた場合、男性におけるHIVの異性間感染のリスクを約60%低下させます。これは、HIVの罹患率が高く、男性の包皮環状切除の実施率がアフリカの東部と南部の14か国で支援されている重要な介入手段です。

5.抗レトロウイルス薬を用いた予防

5.1 予防としての抗レトロウイルス療法(ART)

2011年のある試験によれば、HIV陽性患者が有効性のある抗レトロウイルス(ARV)薬の服用方法を遵守すれば、感染していない性交渉のパートナーに感染させるリスクを96%下げられることが確認されました。今回、WHOは、抗レトロウイルス療法を全てのHIV感染者で開始することがHIVの伝播の減少に大きく貢献するであろうことから、これを推奨しています。

5.2 HIV陰性のパートナーに対する暴露前予防(pre-exposure prophylaxis: PrEP)

HIVの経口暴露前予防(PrEP)は、HIVの感染を防ぐためにHIV非感染者がARV薬を日常的に使用することです。10件以上のランダム化比較研究で、パートナーの片方が感染者、もう片方が非感染者(Serodiscordant)の異性カップル、男性同性カップル、性転換した女性、ハイリスクの異性カップル、薬物注射の使用者などの集団において、経口暴露前予防(PrEP)にはHIVの感染伝播を減らす効果があることが実証されました。
WHOは、予防方法の組み合わせの一環として、HIV感染のリスクが高い人の予防法の選択肢として経口暴露前予防(PrEP)を推奨しています。

5.3 HIVに対する暴露後予防 (pre-exposure prophylaxis:PEP)

暴露後予防(post-exposure prophylaxis :PEP)は、感染を予防するためにHIVに暴露してから72時間以内にARV薬を使用することです。PEPには、カウンセリング、一次救急処置、HIV検査のほか、28日間の経過観察とARV薬の服用が含まれます。WHOは、暴露後予防(PEP)の使用を職業上の暴露にも非職業上の暴露にも、そして成人の暴露にも子どもの暴露にも推薦しています。

6.注射薬物使用者での感染の軽減

注射薬物の使用者は、毎回の注射の際に、針とシリンジ等が滅菌された状態の注射器具を使用することで、HIVの感染から予防することができます。HIVの予防と治療への介入の包括的な対応には、以下のことが含まれます。

  • 針と注射器への対処計画
  • オピオイド依存患者へのオピオイド置換療法や、その他の根拠に基づいた薬物依存症の治療
  • HIVの検査とカウンセリング
  • リスク軽減のための情報と教育
  • HIVの治療とケア
  • コンドームの使用環境の改善
  • 性行為感染症、結核、ウイルス性肝炎の感染管理

7.母子感染の排除(Elimination of mother-to-child transmission of HIV:EMTCT)

HIV陽性の母親から子どもへの感染は、妊娠中、出産時、授乳時に起こり、垂直感染または母子感染(MTCT)と言われます。この段階で介入が行われない場合、HIVの母子感染率は15%~45%になります。母親、小児ともに、感染が起こり得る全ての時期にARV薬を投与すれば、母子感染はほぼ防ぐことができます。
WHOは、母子感染の予防(MTCT)のための選択肢を推し奨めています。その選択肢には、妊娠中や出産時の母親と産後の母子にARV薬を投与すること、または、CD4値にかかわらずHIV陽性の妊婦に対して生涯にわたり治療することが含まれます。
2015年に、世界でHIVに感染している推計140[130-160]万人の妊婦のうち77%[69-86%]が、母子感染を予防するために有効性のある抗レトロウイルス薬の投与を受けました。多くの国でMTCTがかなり低くなってきており、一部の国(アルメニア、ベラルーシ、キューバ、タイ)ではHIVのMTCTを根絶するための正式な検証が行われています。 HIV感染に大きな脅威のあるいくつもの国でこの目標が達成されています。

治療

HIVは、3種類以上のARV薬を併用する抗レトロウイルス療法(ART)で抑えることができます。ARTでは、HIV感染症を治癒させることはできませんが、体内でのウイルスの複製を抑制し、免疫機能を高め、感染症と戦う能力を再生することができます。
2016年に、WHOは「HIV感染の治療と予防のための抗レトロウイルス薬の使用に関する統合ガイドライン」第2版を公開しました。ガイドラインでは、CD4細胞数にかかわらず、HIVに感染した妊娠女性および授乳中の女性を含め、全ての子ども、青少年、成人に生涯にわたり抗レトロウイルス療法(ART)が提供されることを勧告しています。
また、WHOは、HIVに感染するリスクが高い限られた人には経口暴露前予防(PrEP)を提供するように初期の頃の勧告も拡大しました。薬剤が限られた環境でのインテグラーゼ阻害剤、忍容性を改善し、コストを削減するために推奨される有力な第一選択薬であるエファビレンツの用量を減らすことを含め、第1選択の代替治療レジメンが推奨されています。2016年中頃までに、世界でHIV感染者1,820万人が抗レトロウイルス薬での治療を受け始めました。これは、世界全体の感染者で46%(43~50%)をカバーしたことになります。
WHOの新しい推奨に基づくと、HIV感染者を治療し「実質的に」危険な状態にある人々にさらなる予防のための選択肢として抗レトロウイルス薬を提供するために、抗レトロウイルス治療の対象となる人々の数は2800万人から感染者全員となる3670万人に増えます。治療環境の拡大は、2030年までにエイズの流行を終息させることを目指す2020年に向けた新しい目標の中心にあります。

WHOの取り組み

第69回世界保健会議では、新たに「HIVに対する世界の健康部門戦略2016-2021」が承認されました。この戦略には、各国とWHOがこれからの6年間で優先的に取り組むための5つの戦略的方向性が示されています。
その戦略の方向性は次のとおりです。

  1. 1.焦点を絞った取り組みへの情報(その国の流行と対策の状況を理解すること)
  2. 2.(感染の)影響に対する介入(必要な支援の範囲への到達)
  3. 3.資本の分配(支援を必要とする人々への到達)
  4. 4.継続性のある資金調達(支援にかかる費用への対策)
  5. 5.(感染撲滅の)加速のための新たな創造(未来に向けた行動)

HIVの治療と予防のために抗レトロウイルス薬を戦略的に使用すること

  • 小児のHIV撲滅と小児科治療への環境整備を拡大すること
  • 鍵となる集団におけるHIVに対して保健部門対策を向上させること
  • HIVの予防、診断、治療、介護におけるさらなる技術革新
  • 効果的な規模拡大のための情報戦略
  • HIVと関連する健康対策の成果との間のより強力なつながり

WHOは、国連合同エイズ計画(the Joint United Nations Programme on AIDS: UNAIDS)の共同スポンサーです。UNAIDsとともに、WHOはHIVの治療や診療、HIVと結核の重複感染の優先分野を主導し、ユニセフ(国連児童基金)と共同でHIVの母子感染を撲滅するための活動を共同で行っています。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated November2016
HIV/AIDS
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs360/en/