土壌伝播蠕虫感染症について (ファクトシート)

2017年1月 WHO (原文[英語]へのリンク)

要点

  • 土壌伝播蠕虫感染症は、さまざまな種類の寄生虫によって引き起こされます。
  • 土壌伝播蠕虫感染症は、人の糞便に含まれる虫卵によって伝播します。その糞便は衛生環境が整わない地域で土壌を汚染します。
  • 世界で、およそ15億人が土壌伝播蠕虫に感染しています。
  • 感染した子どもは、身体的障害、栄養障害、そして認知障害を負います。
  • 感染制御は、以下のことが基本となります。
    1. ⅰ.感染寄生虫を排除するための定期的な駆虫
    2. ⅱ.再感染を防ぐための健康教育
    3. ⅲ.虫卵をもつ土壌の汚染を減らすための衛生環境の改善
  • 感染を制御するために、安全で効果的な薬剤を使用できます。

概観

土壌伝播蠕虫感染症は、世界で最もありふれた感染症のひとつです。それらは最も貧しく最も恵まれない地域に発生しています。土壌伝播蠕虫感染病は、人の糞便中に含まれる虫卵によって運ばれます。その糞便は、衛生環境が整わない地域で次々に土壌を汚染します。主に人に感染する種類は、回虫 (Ascaris lumbricoides)、鞭虫(Trichuris trichiura)、鉤虫 (Necator americanus及びAncylostoma duodenale)です。

世界における分布と罹患率

世界中で15億人以上の人々、あるいは世界人口の24%が土壌伝播蠕虫に感染しています。感染症は熱帯と亜熱帯地域に広く分布し、その大多数がサハラ以南のアフリカ、アメリカ、中国、東アジアで発生しています。

2億7,000万人を超える就学前の子どもと6億人を超える就学中の子どもが、これらの寄生虫が多く伝播する地域に住んでおり、治療と予防的介入を必要としています。

感染経路

土壌伝播蠕虫感染症は、感染者の糞便を通して、虫卵によって伝播します。成虫は腸内に寄生し、毎日何千個もの虫卵を産みます。十分な衛生環境の整わない地域では、これらの虫卵は土壌を汚染します。これが、いくつもの感染経路を作ります。

  • 野菜が十分に料理、洗浄、皮むきをされていない場合に、野菜に付着した虫卵が取り込まれます。
  • 虫卵は、汚染された水源からも取り込まれます。
  • 子どもが汚染された土で遊んだ後、手を洗わず口に入れた場合に虫卵が取り込まれます。

また、鉤虫の虫卵は土の中で孵化して、能動的に皮膚に侵入できる形態の幼虫に成長します。人は、裸足で汚染された土の上を歩くことによって鉤虫に感染します。

糞便から出された虫卵は、感染性を持つまでに土の中でおよそ3週間の成熟期間が必要となるので、人から人への直接感染あるいは新鮮な糞便からの感染はありません。これらの蠕虫類は、人の体内では増殖しないため、(一度、体外に排出され)環境内で感染できる段階に(成長した)幼虫に接触したときにのみ、再びの感染が成立します。

有病率と症状

有病率は、寄生する蟯虫の数と関係します。通常、感染数が僅かな人は無症状です。重度の感染では、消化器症状(下痢、腹痛)、全身倦怠感や脱力、認知障害や身体の発達障害などの様々な症状を起こします。鉤虫は貧血をもたらすことのある慢性の腸管出血を起こします。

栄養学的な影響

土壌伝播蠕虫は、様々な方向から感染者の栄養状態を害します。

  • 寄生虫は、血液などの宿主の組織を栄養源とするので、鉄とタンパク質の不足を導きます。
  • 寄生虫は、栄養の吸収不良を増大させます。また、回虫は腸内でビタミンAを奪い取る可能性があります。
  • いくつかの土壌伝播蠕虫は食欲不振を起こし、それにより栄養摂取の不足や体力の低下を起こします。特に、T.trichiura(鞭虫)は下痢や赤痢を起こします。

土壌伝播蠕虫によって引き起こされる栄養障害は、成長と発達に深刻な影響を与えると認識されています。

感染制御のためのWHOの戦略

2001年に、世界保健総会の評議員は、真剣に寄生虫症に取り組み、特に、住血吸虫症と土壌伝播蠕虫症への取り組みに着手することを流行国に促す決議(WHA 54.19)を行い、全会一致で承認しました。

土壌伝播蠕虫感染症を制御するための戦略は、流行地域に住みリスクのある人々を定期的に治療し有病率を制御することです。

リスクのある人々とは以下の人々です。

  • 就学前の子ども
  • 就学中の子ども
  • 出産可能年齢の女性 (妊娠第2期、3期の妊婦および授乳中の女性を含む)
  • 茶摘みや鉱山労働者のように、特にリスクの高い職業の成人

WHOは、流行地域に住みリスクのあるすべての人々には、事前に個別に診断することなく定期的に薬物療法(駆虫)を行うことを勧めています。治療は、土壌伝播蠕虫感染症の罹患率が20%を超える地域で年1回、罹患率が50%を超える地域で年2回行われるべきです。この介入は、感染虫体数を減らすことで有病率を減らします。

加えて、

  • 健康と衛生の教育は感染伝播を減らし、健康によい行動を促すことで再びの感染を減らします。
  • これは財源の乏しい状況で常にできることではありませんが、適切な衛生設備の供給も重要です。

有病率の制御は、リスクのある集団を定期的に治療するで、感染の衝撃度を減らし、有病率の観点から感染する人を予防することを目的としています。

定期的な駆虫は、簡単に就学前の子どもに対する子ども健康の日や栄養補充プログラムとの合流、あるいは学校保健プログラムなどと合わせて行うことで簡単に実施できます。2015年に、流行国では、リスクのあるすべての子どもの63%に相当する3億6,100万人を超える就学中の子どもたちが駆虫薬での治療を受けました。

学校は、手洗いの推進や衛生環境の改善といった健康や保健衛生の教育の構成要素を簡単に準備できるため、駆虫活動にとって、特に優れた介入の場となります。

WHOが推薦する薬剤

WHOから推薦される薬 -アルベンダゾール(400 mg)とメベンダゾール(500 mg)- は、効果が高く、安価で、非医療関係者(例えば教師)でも簡単に投与できます。これらの薬剤は(これまでに)大規模な安全性試験を経て、何百万もの人々に使用されてきており、副反応がほとんどなく、あっても軽い副作用でした。

アルベンダゾールとメベンダゾールはともに、就学期の子どもの治療のために、WHOを通じてそれぞれの国の保健当局へ寄付されています。

世界における目標

世界における目標は、2020年までに子どもたちにおける土壌伝播蠕虫による有症を排除することです。これは、流行地域の子どもたちの少なくとも(推定8億7,300万人の)75%が定期的に治療を受ければ達成できます。

出典

WHO.Fact sheet.Updated January2017
Soli-transmitted helminth infections
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs366/en/