2017年のニュース

ブルーリ潰瘍(マイコバクテリウム・ウルセランス感染症)について(ファクトシート)

2017年2月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

ブルーリ潰瘍は、Mycobacterium ulceransによって起こされる慢性消耗性疾患です。
この疾患は、皮膚や時には骨に影響を及ぼし、恒久的に外観を損なう障害を起こしうることがあります。
ブルーリ潰瘍は、少なくともアフリカ、南アメリカ、西太平洋地域の熱帯、亜熱帯、温帯気候の33か国で報告されています。
2015年には、33か国のうち13か国から、新たに2,037人の患者が報告されました。
患者のほとんどは15歳未満の子どもです。
この疾患に対する予防法はありません。

概要

 ブルーリ潰瘍は、環境細菌のひとつMycobacterium ulcerans によって引き起こされる慢性消耗性疾患です。この病原体は、結核やハンセン病を引き起こす細菌属に分類されます。しかし、Mycobacterium ulceransは、環境中の細菌で、人への感染様式は未だに分かっていません。罹患率を最小限に抑え、治療費を減らし、長期的な障害を防止するには、早期の診断と治療が確かな方法です。

問題の展望

 科学文献から集められた情報によれば、ブルーリ潰瘍は、アフリカ、南北アメリカ、アジア、西太平洋の33か国で報告されています。ほとんどの患者は、オーストラリア、中国、日本以外では、熱帯・亜熱帯地域で発生しています。33か国のうち15か国では、WHOに定期的にデータが報告されています。

 ほとんどの患者は、ベナン、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナなどのアフリカの西部と中部から報告されています。最近は、オーストラリアで患者の報告数が増えてきました。

 2015年には、データが定期的にWHOに報告されている15か国のうち13か国から、約2,037人の新たな患者が報告されました。僅かな例外国を除けば、患者数は2010年以降には減少する傾向にあります。減少の明らかな原因は分かっていません。

臨床的特徴と疫学的特徴

 疾患の臨床的特徴と疫学的特徴は、国や環境によって、また、国や環境の中でもかなりさまざまです。

 アフリカでは、感染者の約15歳未満の子どもが48%なのに対して、オーストラリアでは15歳以下が10%、日本では15歳未満の子どもが19%です。男性感染者と女性感染者の割合には、有意な差は存在しません。

 病変は、四肢に頻繁に発生します。上肢が約35%、下肢が55%、身体の他の部位が10%です。

 重症度については、この疾患は、次の3つのカテゴリーに分類されます。カテゴリーⅠは、単一の小さな病変(32%)、カテゴリーⅡは非潰瘍部と潰瘍部による小斑点および浮腫を伴う病態(35%)、カテゴリーⅢは骨炎、骨髄炎、関節炎などへの播種とその混合形態(33%)です。オーストラリアと日本では、ほとんどの病変(>90%)がカテゴリーIと診断されています。(原文では同じ文章が2度繰り返されています)

 何れの国でも、全ての患者の少なくとも70%は潰瘍の段階で診断されます。

原因微生物の特徴

 Mycobacterium ulceransが増殖するためには、29~33℃の温度(結核菌は37℃で増殖)と低濃度の酸素(2.5%)が必要です。この微生物は、免疫応答を阻止し、組織損傷を引き起こすマイコラクトンという特有の毒素を産生します。

感染伝播の様式

 現在でも、Mycobacterium ulceransの正確な感染伝播の様式は分かっていません。

自覚症状と他覚所見

 ブルーリ潰瘍は多くの場合、痛みのない腫脹(結節)で始まります。最初、広い無痛性領域の硬結(プラーク)や、脚、腕、顔のびまん性の無痛性腫脹(浮腫)として現れることもあります。マイコラクトン毒素が局所免疫を抑制する特徴は、この疾患が痛みや発熱を起こすことなしに進行していくことにあります。治療しない場合、時に抗生物質による治療中でも、結節やプラークや浮腫は、古典的な下掘れの境界を伴い4週間以内に潰瘍を作ります。時に、骨が感染で大きく変形する原因ともなります。

診断

臨床診断
 ほとんどの場合、疾患の常在地域で診療の経験のある医療の専門家による臨床診断であれば信用できます。

 患者の年齢、患者の住む地理的環境、病変の部位、経験する痛みの程度、その他の(健康)状態などが、診断から除外されていきます。この他の鑑別診断には、熱帯性潰瘍、動脈および静脈の循環不全による慢性下腿潰瘍(多くの場合、より高齢の者に起こる)、糖尿病性潰瘍、皮膚リーシュマニア症、広範な潰瘍性フランベジア、軟性下疳菌による潰瘍があります。

 初期の結節性病変は、時に、おでき、脂肪腫、ガングリオン、リンパ節結核、オンコセルカ症結節、真菌感染症のような他の皮下感染症と混同されます。

 オーストラリアでは、最初、丘疹状病変が虫刺されと混同されることがあります。

 (逆に、)蜂巣炎は、Mycobacterium ulceransによる感染で生じた浮腫のように見えることがあります。しかし、蜂巣炎の場合、病変は痛みを伴い、患者は体調を崩し、発熱を呈します。

 HIV感染症は危険因子ではありませんが、両疾患が常在する国ではHIV感染症が患者の管理を複雑にします。免疫力の低下は、ブルーリ潰瘍の臨床的進行を早め、結果として、治療成績が悪くなります。

 国際的な渡航によって、疾患の常在していない地域で患者が現れることがあります。そのため、医療従事者は、ブルーリ潰瘍の病名とその臨床症状についてよく理解していることが重要です。

検査室的診断
 ブルーリ潰瘍の確定診断には、4つの標準的な検査方法が使われます。IS2404ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法検査、直接顕微鏡検査、組織病理と培養です。PCR法検査は最も普及している検査法です。最近、WHOは、検査室の研究者や医療従事者への指針を示すために、これら4つの方法の操作マニュアルを公開しました。

治療

 治療は、抗生物質および(罹患率の管理と障害予防およびリハビリテーションの下での)補完治療との組合せで構成されます。医療従事者のための治療指針を、WHO出版物"Treatment of mycobacterium ulcerans disease (Buruli ulcer)."「マイコバクテリウム・ウルセランス症(ブルーリ潰瘍)の治療」で見ることができます。

抗生物質
 ブルーリ潰瘍の治療には、病気の進行段階に関係なく、(種類の)異なる抗生物質を組み合わせた8週間の治療投与が行われます。次の組み合わせのうちの1つを、患者に合わせて使用します。

•リファンピシン(10mg/kg、1回/日)とストレプトマイシン(15mg/kg、1回/日)の併用
 または
•リファンピシン(10mg/kg、1回/日)とクラリスロマイシン(7.5mg/kg、2回/日)の併用

 2016年に無作為化比較試験の被験者募集が決定され、2017年には結果が出る予定です。

 ストレプトマイシンは妊娠時には禁忌のため、妊娠中の患者にはリファンピシンとクラリスロマイシンの併用療法がより安全な選択肢と考えられています。

 オーストラリアでは、ランダム試験による有効性は証明されていないものの、リファンシピン(10mg/、1回/日)とモキシフロキサシン(400mg、1回/日)の併用療法が日常的に行われます。

罹患率の管理および機能障害の予防、並びにリハビリテーション
 創傷の治癒の速度を早めるために、創傷管理や手術(主に壊死組織切除と皮膚移植)などの治療介入が行われます。また、重症の患者では、身体の障害を予防するために理学療法も求められます。障害が残る患者には長期間のリハビリテーションが必要となります。これらの同様の治療介入は、ハンセン病やリンパ系フィラリア症など、その他の熱帯病にも適応できます。すべての患者に利益をもたらすためには、医療体制の中で長期間にわたり医療を支援できる手段を集約することが重要です。

予防

 現在のところ、適応できる予防方法はありません。感染伝播の様式は解明されておらず、ワクチンもありません。

感染管理

 ブルーリ潰瘍の感染管理の目的は、身体機能障害や社会的・経済的な負担からの苦しみを最小限に押さえることです。早期発見と抗生物質による治療は、WHOのブルーリ潰瘍における基本的な感染制御戦略となります。

研究の優先順位

 この疾患の患者管理を向上させることを目的とした2つの研究が行われています。

1.経口の抗生物質治療の開発
 経口ベースのブルーリ潰瘍治療法を開発する目的で、WHOにより調整が図られた無作為化臨床試験が、2013年にベナンとガーナで始まりました。この研究は、2016年に試験を完了し、1年間は経過観察を行い、2017年12月終了する予定です。

2.治療の観点における蛍光薄層クロマトグラフィー確認検査の利用
 マイコラクトン毒素を検出するために、蛍光薄層クロマトグラフィー法を使った患者の検体の初期診断を行った予備分析の結果では、地域レベルの医療施設で迅速に診断できる大きな可能性が示されました。スイスのジュネーブにある画期的な新しい診断方法のための基金財団(the Foundation for Innovative New Diagnostics:FIND)とハーバード大学の支援によって、この方法の実証評価が2016年にベナン、コンゴ民主共和国、ガーナで開始されました。2017年に、この研究は完了する予定です。

WHOと世界における取り組み

 WHOは、技術指針を提供し、行政計画の方向性を示し、感染制御と研究への取り組みの調整を図っています。WHOは、ブルーリ潰瘍に関係するすべての主要関係の者を結集して、定期報告を土台とする情報共有を行い、疾病の管理と研究への取り組みを調整し、進捗状況を注視しています。

 また、これらの取り組みは、ブルーリ潰瘍の可視化を高め、これに挑む人的・物的資源の動員を助けてきました。WHOのリーダーシップの下、非政府組織、感染が発生する国の研究機関や政府の支援を受けて、安定かつ力強い歩みが創られています。

出典

WHO. Media centre. Fact Sheet. Updated February 2017
Buruli ulcer(Mycobacterium ulcerans infection)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs199/en/