トラコーマについて (ファクトシート)

2017年7月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • トラコーマは、細菌(Chlamydia trachomatis)が目に起こす感染症です。
  • トラコーマは、41か国に常在することが知られ、約190万人の失明や視力障害に関係しています。2016年には、1億9,020万人がトラコーマの常在する地域で暮らし、トラコーマによる失明への危険に曝されていました。
  • トラコーマによる失明は元には戻りません。
  • 感染は、人との接触(手や衣服、寝具)から広がるほか、感染した人の眼や鼻から出る分泌物と接触したハエからも広がります。長年に亘り感染が繰り返されると、睫毛は表面を擦るように引き込まれ、痛みや不快感を覚え、角膜に永久的な障害をもたらします。
  • 1998年の世界保健総会において採択されたWHA Resolution51.11決議において、公衆衛生上の問題としてトラコーマを世界から撲滅することが定められました。
  • 撲滅への戦略は、進行性の病態に対する手術(SSurgery for advanced disease)、クラミジア・トラコーマの感染を除去する抗生物質(AAntibiotics to clear C.trachomatis infection)、顔の清潔さ(FFacial cleanliness)、と感染経路を減らすための環境改善(E:Environmental improvement to reduce transmission)の頭文字をとって「SAFE」として収められています。
  • 2016年には、26万を超える人が進行する病態のために外科手術を受け、8,500万人がトラコーマに対する抗生物質での治療を受けました。世界での抗生物質の適応率は44.8%で、2015年に達成された適応率29.6%から大幅に増えました。

トラコーマ

 トラコーマは、世界中で感染症による失明の主要な原因となっています。トラコーマは、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)という偏性細胞内寄生微生物によって引き起こされます。この疾患は、感染した人、特に保菌者となる若年者の眼や鼻から出る分泌物との接触で感染します。また、感染した人の眼や鼻から出る分泌物に触れたハエからも広がります。

臨床的特徴と罹患率

 トラコーマが常在する地域では、感染力のある(炎症を起こした)トラコーマは就学前の子どもによくみられ、有病率が60%から90%に達する地域もあります。年齢が上がるにつれて、感染頻度は低くなり、感染期間も短くなります。通常、感染は感染力のある人の近くで生活することによって成立し、家族内の環境ではよく感染が伝播します。生体の免疫反応は、単回の感染エピソードを終らせる(治癒させる)ことができます。しかし、感染が常在する国では、頻繁に組織(眼)に再感染が起こります。

 感染を繰り返しながら数年経過すると、眼瞼の内側に重度の瘢痕が形成され(トラコーマによる結膜の瘢痕化)、内側に曲がり、眼瞼の境界の瘢痕組織によって睫毛で眼球が擦られます(トラコーマ睫毛乱生症;逆さまつげ)。これによって、絶えず痛みが生じ、光に耐え難くなります。この他にも角膜の瘢痕化も起こします。無治療のまま放置すれば、この状態は眼に不可逆的な変化をもたらし、視覚障害や失明に至らしめます。この状態に至るまでの年齢は、その地域での流行の程度など、いくつもの要因に依存します。通常は30歳から40歳までに失明に至りますが、流行度が極めて高い地域では、子どもでも起こることがあります。

 視覚障害や失明は、感染者本人にもその家族にも、生活状況の悪化を引き起こします。既に、貧困層の中でも最貧困層では、それが常態化しています。女性は、男性よりも4倍の頻度で失明しています。おそらくは、感染した子供と濃厚に接触することが多く、感染症の罹患頻度が多くなるからです。

 この疾患の伝播に影響する環境上のリスクファクターは以下の通りです。

  • 不十分な衛生状態
  • 密集して生活する家族
  • 水の不足
  • トイレや衛生施設の不備

感染の分布

 トラコーマは、アフリカ、中南米、アジア、オーストラリア、中東の41か国の最貧困層や農村部に高い頻度で常在しています。

 トラコーマは、約190万人の視覚障害や失明の原因となっています。これは、世界の失明者の1.4%に当たります。

 全体として、アフリカが最も感染者の多い大陸ですが、最も強力に感染制御に向けた取り組み行われている大陸でもあります。2016年、トラコーマが公衆衛生上の問題と認識されているWHOのアフリカ地域事務局管内26か国で、睫毛乱生症を有する約24万7,000人が手術を受けました。これは、世界の手術適応者の95%がアフリカで行われたことを示しています。また、アフリカでは8,300万人が抗菌薬による治療を受けました。これは、世界の投与適応者の97%になります。

 2017年7月1日までに、10か国で撲滅の目標を達成したことが報告されました。これは、トラコーマを撲滅するためのキャンペーンの大きな試金石となることを示しています。撲滅を達成した国は、カンボジア、中国、ガンビア、ガーナ、イラン、ラオス、メキシコ、モロッコ、ミャンマー、オマーンです。メキシコ、モロッコ、オマーンの3か国は、公衆衛生上の問題としてトラコーマが撲滅されたことがWHOによって認証されました。

経済的な影響

 感染した個人および地域におけるトラコーマの疾病による負担は膨大です。失明や視力障害によって失われる生産性の経済的な損失は、1年間で29億米ドルから53億米ドルと見積もられ、睫毛乱生症を含めると80億米ドルに膨らむとみられています。

予防と制御

 (感染の)常在国での撲滅計画は、WHOが推奨するSAFEの戦略に基づいて実施されています。この戦略には、以下の内容が含まれています。

S失明に進展する段階の病態(トラコーマ睫毛乱生症)に対する手術
A感染除去のための抗生物質、特に、国際トラコーマ・イニシアティブを通じて、撲滅計画のために製造会社から寄贈された抗生物質アジスロマイシンの集団投与
F顔の清潔保持
E飲料水と下水の利便性の改善などの環境の改善

 (感染の)常在国のほとんどは、2020年までに各々の国で撲滅の目標を達成するために、全ての国がこの計画の実施を加速させることに合意しています。

 2016年に加盟国からWHOに報告されたデータによれば、2016年にトラコーマ睫毛乱生症を有する26万を超える人が矯正手術を受け、感染が常在する国の8, 500万人がトラコーマを撲滅するために抗生物質による治療を受けました。

 公衆衛生上の問題としてトラコーマを撲滅させることとして、世界保健総会(World Health Assembly)決議(WHA 51.11)で設定された目標をこれからも満たしていくことが必要となります。特に、飲料水、下水道、社会経済の発展などの関連する部門と十分に連動させることが重要です。

WHOの取り組み

 WHOは1993年にSAFE戦略を採択しました。この戦略は、公衆衛生学上の問題として、トラコーマを撲滅することを目的とした国際的な取り組みへのリーダーシップを取るとともに調整を諮り、この目標に向けた進捗状況を報告するためのものです。

 1996年には、WHOが2020年までにトラコーマを世界から撲滅するための同盟(GET2020)を立ち上げました。GET2020は、各加盟国のSAFE戦略の実施を支援し、疫学調査、発生状況の管理、現地調査活動、計画実行の評価、人的・物的資源の導入などを通して、国の対応能力の強化を支援するための共同援助組織です。

出典

WHO.Fact Sheet, Media centre.Updated July2017
Trachoma
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs382/en/index.html