抗微生物薬耐性について(ファクトシート)

2017年11月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • 抗微生物薬耐性(Antimicrobial resistance ; AMR)は、増加の一途をたどる細菌、寄生虫、ウイルス、真菌による感染症に対する有効な予防と治療に対する脅威となっています。
  • AMRは、すべての行政部門と社会全体にわたって行動を必要とする世界の公衆衛生に対する深刻な脅威であり、脅威は増え続けています。
  • 効果のある抗生物質がなければ、手術、癌腫の化学療法が成功する上で、感染に弱くなってしまいます
  • 薬剤耐性の感染症患者にかかる医療費は、病悩期間が長くなり、検査が多くなり、より高価な薬剤が使用させることから、薬剤耐性のない感染症患者の医療費よりもかなり高くなります。
  • 世界では、毎年48万人の新たな多剤耐性結核(multidrug- resistant tuberculosis; MDR-TB)患者が発生しています。薬剤耐性は、HIVやマラリアなどとの戦いも複雑にさせ始めています。

抗微生物薬耐性とは何か?

抗微生物薬の耐性(AMR)は、微生物(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫など)が、抗微生物薬(例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗マラリア薬、駆虫薬など)に曝されたときに(抗微生物薬に対抗して)変化することで起こります。抗微生物薬への耐性へと進化させる微生物は、ときに"superbugs"(すべての抗生物質に耐性があるバクテリアの菌株)となることもあります。

結果として、薬剤は効かなくなり、感染症は、他の人に(感染を)拡げるリスクを増大させながら、身体に存在し続けます。

抗微生物薬耐性が世界的関心事となる理由

新しい耐性のメカニズムが現れて世界中に広がることで、一般の感染症を治療する私たちの対応能力が脅かされており、その結果、病状を長引かせ、障害を起こし、死に至らしめています。

感染症の予防と治療に有効となる抗微生物薬なしには、臓器移植、癌腫の化学療法、糖尿病の管理、大手術(例えば、帝王切開や人工股関節置換術)などの医療処置が極めて大きなリスクとなります。

抗微生物薬への耐性の出現は、病院での入院期間を長びかせ、より集約的な治療が必要とされることで、医療費を増加させます。

抗微生物薬への耐性の出現は、ミレニアム開発目標の達成へのリスクとなり、継続可能な発展目標の達成を危険に曝します。

抗微生物薬耐性の出現と広がりを加速させている要因は何か?

抗微生物薬への耐性は時間の流れの中では自然な現象です。しかし、抗微生物薬の誤用や乱用はこの過程を加速させます。たくさんの場所で、抗微生物薬は、人や動物に誤用され、乱用されており、しばしば専門家による監視なしに使われています。風邪やインフルエンザのようなウイルス感染症の患者に抗微生物薬が投与されるときや、家畜の成長を促進させるために投与されるときなどが、誤使用の例に挙げられます。

抗微生物薬への耐性微生物は、人、動物、食べ物、(水、土壌、大気などの)環境中から見つけられます。これらは、動物製品の食べ物を含めた人と動物の間でも、人から人へも拡がることができます。疎かな感染管理、不十分な衛生環境、不適正な手洗いなども、抗微生物薬への耐性の拡大を助長させます。

現在の状況

細菌の耐性

抗生物質への耐性は、現在、すべての国でみられます。

薬剤耐性菌に感染した患者は、(予想よりも)悪い臨床経過や死亡することへのリスクが高くなり、薬剤耐性のない同じ種類の細菌に感染した患者よりも医療関係の資源を多く消費します。

一般的な腸内細菌で致命的な感染を引き起こすこともある肺炎桿菌(クレブシエラ)による肺炎での耐性は、(最終治療であるカルバペネム系抗生物質にも)世界のすべての地域に拡がっています。クレブシエラは、肺炎、菌血症、新生児感染症、集中治療室患者の感染など、院内感染の大きな原因となっています。いくつもの国で、カルバペネム系抗生物質が、クレブシエラ感染症への治療のうち、薬剤耐性のために半数以上で効かなくなっています。

尿路感染症の治療に最も広く使用されている抗生物質(フルオロキノロン)に対する大腸菌(E. coli)耐性が、大きく広がっています。いまでは、この治療が半数以上の患者に効かなくっている国が、世界のたくさんの地域で出てきています。

淋病の最終選択薬-第三世代セファロスポリン-での治療の失敗が、少なくとも10か国(オーストラリア、オーストリア、カナダ、フランス、日本、ノルウェー、スロベニア、南アフリカ共和国、スウェーデン、イギリス)で確認されています。

WHOは、最近、耐性出現に取り組むために淋病に対する治療のガイドラインを更新しました。この新たなWHOガイドラインでは、広範囲での高いレベルでの耐性のために、淋菌へのキノロン系抗生物質の治療は推薦していません。また、クラミジア感染症と梅毒に対する治療ガイドラインも更新しました。

黄色ブドウ球菌による感染症(医療施設や地域社会で頻繁に重症感染症を引き起こしています)への治療の第一選択薬に対する耐性出現が広範囲に拡がっています。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染した人々は、耐性のないブドウ球に感染症した人々よりも64%も死亡するリスクが高くなると見られています。

コリスチンは、腸内細菌属でカルバペネムに対して耐性を示す細菌に起因する致死的な感染症に対する最終治療手段です。コリスチンに対する耐性が、最近、いくつもの国や地域で見つかりました。このような細菌による感染症は治療をできなくしてしまいます。

結核の耐性

2014年に、世界で48万人の多剤耐性結核(MDR-TB)の新規患者が出たと推定されています。多剤耐性結核は、最も強力な抗結核薬に耐性を示す結核です。このうち、約1/4にあたる123,000人だけが発見され、報告されてきました。多剤耐性結核は、耐性をもたない結核よりも長期間に有効性の低い治療を余儀なくされます。世界的に、2014年に多剤耐性結核患者が治療に成功したのは、半分だけです。

2014年の新規の結核患者において、多剤耐性を示したのは3.3%でした。この割合は、治療経験のある患者で高く、20%ありました。

広範囲薬剤耐性結核(XDR-TB)は、中核となる抗結核薬のうち少なくとも4剤に耐性を示す結核と定義され、105か国で確認されています。多剤耐性結核(MDR-TB)のうちの9.7%が広範囲薬剤耐性結核(XDR-TB)と考えられています。

マラリアの耐性

2016年7月までに、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)から大メコン川流域の5か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)で、第一選択薬(ACTsとしても知られる)アルテミシニンを軸とした多剤療法への耐性が確認されています。ほとんどの場所では、アルテミシニンに耐性の感染者でも、有効な補助薬を含むACTsで治療されれば、完全に回復します。しかし、カンボジアとタイの国境に沿った地域の熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)は、現在使用できるほとんどの抗マラリア薬に耐性を示しており、治療には課題が多く、細やかな管理体制を必要とします。多剤耐性マラリアは、直ぐにもこの地域の他の場所でも現れるリスクが現実となっています。耐性原虫が世界の他地域に拡大することは、公衆衛生上の大きな問題となり、マラリアの感染対策で得た最近の大切な恩恵を危険に曝す可能性があります。

「大メコン川流域におけるマラリア対策に向けたWHO戦略(2015-2030)」は、(耐性が出現した)5か国に加えて、中国からも支持されました。

HIVの耐性

2010年には、開発途上国で抗レトロウイルス療法(ART)を開始する人の推定7%が薬剤耐性のHIVを保持していました。先進国では、同様に耐性を10~20%も保持していました。 最近、いくつかの国では、(耐性出現率は)HIV治療を開始する患者の15%かそれを超えており、再治療を開始する患者では40%に上ると報告されています。これには、早急な注意が必要です。

第二選択薬および第三選択薬のレジメンは、第一選択薬よりも、それぞれに3倍および18倍高価となります。そのため、耐性レベルの上昇は経済に重大な影響を持ちます。

2015年9月以降、WHOは、HIV感染者全員に抗レトロウイルス治療(ART)を行うことを勧告しています。抗レトロウイルス治療をより多く感染者に使用することで、世界のすべての地域でARTへの耐性をさらに増加させると予想されています。第一選択薬でのARTレジメンの長期間の有効性を最大限に引き出し、人々が確実に最も効果的なレジメンを選択するためには、耐性(ウイルス)への監視を継続し、さらなる(耐性)出現および拡大を最小限に抑えることが不可欠となります。 WHOは、各国、支援団体、利害関係者との協議の下で、現在、新たな「世界の薬剤耐性HIVへの行動計画(2017-2021)」を策定しています。

インフルエンザの耐性

抗ウイルス薬は、インフルエンザの流行やパンデミック発生時の治療に重要です。実際に、これまでに、抗ウイルス薬の1つの系統であるM2阻害剤(アマンタジンとリマンタジン)系に、人に伝播するすべてのインフルエンザA型ウイルスが耐性を示しました。しかし、ノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルに対する耐性の出現頻度(1~2%)は低いままです。抗ウイルス剤への感受性は、WHO世界インフルエンザ・サーベイランス及び対応システム(GISRS)によって常に監視されています。

行動の協調の必要性

抗微生物薬への耐性は、社会のすべてに影響を及ぼし、相互に関連するたくさんの要因によって引き起こされるため、複雑な問題です。独立した単一の介入では、影響力に限りがあります。抗微生物薬への耐性の出現と拡大を最小限に抑えるためには、協調による行動が必要です。

すべての国で抗微生物薬への耐性への国家行動計画が必要です。

新しい抗菌薬、ワクチン、診断ツールの研究開発には、いままで以上の技術革新と投資が必要となります。

WHOの取り組み

WHOは、抗微生物薬への耐性出現を予防し管理できるように、各国が国の行動計画を策定し、それぞれの国の医療体制と監視体制を強化するための整備への支援を行っています。科学的根拠を、この世界的な脅威への新たな対策の作成に力を入れるために、支援組織と共同歩調をとっています。

WHOは、人と動物の両方で抗微生物薬を適正に使用する「One Health」(人、家畜、野生動物の健康は一体とする考え方)アプローチでの考え方に基づき、抗微生物薬への耐性出現と拡大を回避するための最善の行動の実践を推進することに、国連食糧農業機関(FAO)、世界獣疫事務局(OIE)と緊密に連携しながら、取り組んでいます。

2016年9月にニューヨークで開催された国連総会・首脳会議で採択された政治宣言は、多数の領域、特に、人々の健康と動物の健康、および農業の領域にまたがり、抗微生物薬への耐性の根本原因に取り組むために、広く共同歩調を取ることに責任ある公約をしましました。WHOは、加盟国が世界の行動計画に基づいて、抗微生物薬の耐性への各国の行動計画を策定することを支援しています。

WHOは、抗微生物薬の耐性に取り組むために、数々の分野に率先して取り組んでいます。

世界の抗生物質への啓発週間(World Antibiotic Awareness Week
2015年に「抗生物質:慎重な取り扱い(Handle with care)」というテーマで開催されて以降、毎年11月にはキャンペーン週間が開催され、世界中で長年にわたるキャンペーンが活動量を増やしています。

世界の抗微生物薬の耐性へのサーベイランス・システム(The Global Antimicrobial Resistance Surveillance System:GLASS)
WHOの支援システムが、意思決定を周知させ、現場、国、地域での行動を主導するために、世界レベルで抗微生物薬への耐性に関連するデータの収集、分析、共有することに関して、手順の標準化を支援しています。

世界の抗生物質の研究・開発への同盟(Global Antibiotic Research and Development Partnership:GARDP)
WHOと顧みられない疾患への医薬品を主導する団体(Drugs for Neglected Diseases initiative:DNDi)との共同活動であるGARDPは、官民の連携を通して研究開発を奨励しています。この同盟協定は、2023年までに既存の抗生物質の(使用)改善と新たな抗生物質の導入を加速させ、最大4つの新しい治療法を開発し、提供することを目指しています。

抗微生物薬の耐性に関する国際機関の調整グループ(Interagency Coordination Group on Antimicrobial Resistance:IACG)
国連事務総長は、国際機関どうしの調整力を向上させ、健康の保障に対するこの種の脅威に世界が効果的に行動することを確かなものとするためにIACGを設立しました。IACGは、国連事務総長およびWHO事務局長が共同で議長を務め、あらゆる領域にまたがり、関係する国連の機関、その他の国際機関、個々の専門家からの高いレベルの代表者で構成されています。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated October2017
Antimicrobial resistance
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs194/en/