C型肝炎について(ファクトシート)

2017年10月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝疾患です。このウイルスは急性と慢性、両方の肝炎を引き起こし、数週間持続する程度の軽い病態から生涯にわたる重い病態まで、重症度には幅がみられます。
  • C型肝炎ウイルスは血液を介して感染するウイルスです。最も一般的な感染様式は、少量の血液と接触することによるものです。これは、(薬物)注射の使用、安全性に欠ける注射手技や医療処置、スクリーニング検査していない血液や血液製剤の輸血などで起こります。
  • 全世界で、推定7,100万人が慢性C型肝炎に感染しています。
  • 慢性的に感染している相当数の患者が、将来に、肝硬変または肝がんを発症します。
  • 毎年約39.9万人がC型肝炎関連の肝疾患で死亡しています。
  • 抗ウイルス薬はC型肝炎患者の95%以上を完治させることができます。そして、肝がんや肝硬変による死亡リスクを下げることができます。しかし、診断や治療への利用環境はまだ低い状態です。
  • 現在、C型肝炎に対するワクチンはありません。しかし、この分野での研究が続けられています。

C型肝炎ウイルス

 C型肝炎ウイルス(HCV)は急性感染も慢性感染も引き起こします。急性HCV感染症は、通常は症状がなく(もし、発現したとしても)命にかかわる病態を引き起こすことは極めて稀です。約15~45%の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除されます。

 残る60~80%の感染者は、慢性HCV感染症へと進展します。慢性HCV感染患者の中では、20年以内に肝硬変に至るリスクが15~30%になります。

地理的分布

 C型肝炎は全世界でみられます。最も感染率の高い地域は、WHOが東地中海とヨーロッパに事務局を置く地域で、ここでは、それぞれに罹患率が2.3%と1.5%もあります。WHOが事務局を置く他の地域では、罹患率は0.5%から1%までとさまざまです。国によっては、C型肝炎への感染は、特定の集団(例えば、薬物注射の使用者)に集中していることがあります。一般住民で多くみられることもあります。HCVウイルスには複数のウイルス株(すなわち遺伝子型)があり、その分布は地域によって異なります。

感染経路

 C型肝炎ウイルスは血液を介して感染するウイルスです。最も一般にみられる感染経路は以下とおりです。

  • 注射器具の使い回しによる注射麻薬の使用
  • 医療器材(特に注射器や針)の再使用や不十分な滅菌処理。特に、医療施設でのシリンジや針の滅菌処理。
  • スクリーニング検査されていない血液および血液製剤の輸血

 HCVは性的接触や母子感染でも伝播する可能性があります。しかし、これらの感染経路はそれほど一般的ではありません。

 C型肝炎は、母乳、食物、水によって拡がることはなく、感染者との抱擁、キス、食べ物や飲み物を共にするなどの日常的な接触でも拡がりません。

 モデル計算から得られた推定値では、世界で、2015年に新たに175万人がHCVに感染(全世界で100,000人あたり23.7人の新たなHCV感染)したことが示唆されています。

症状

 C型肝炎の潜伏期間は2週間から6か月間です。最初の感染の後、感染者のおよそ80%では症状が全く現れません。感染者の急性症状では、発熱、易疲労感、食欲低下、吐き気、嘔吐、腹痛、暗色尿、灰白色便、関節痛、黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)がみられることがあります。

スクリーニング検査と診断

 通常、急性HCV感染症は無症候性のために、急性期に診断される人は稀です。慢性HCV感染症に進展した感染者でも、感染から数十年を無症候のまま過ごすため、感染が二次的に重度の肝障害による症状に進展するまで、診断されないことがしばしばです。

 HCV感染は次の2つのステップで診断されます。

  1. 1.血清診断で抗HCV抗体に対するスクリーニング検査を行うことで、ウイルスに感染している人を見つけ出します。
  2. 2.検査で抗HCV抗体に陽性の場合には、慢性HCV感染症であることを確認するためにHCV RNAに対する核酸増幅試験が必要とされます。これは、HCVに感染した人の約30%が、治療をしなくても強い免疫応答によって、自然治癒しているからです。彼らは、もはや感染していませんが、抗HCV抗体検査では依然として陽性の結果が出てしまいます。

 C型慢性肝炎と診断された後、感染者は肝障害(肝臓の線維化、肝硬変)の程度について評価を受けることが必要になります。評価は肝生検または種々の非侵襲的な検査で実施できます。

 加えて、感染者はC型肝炎ウイルス株の遺伝子型を確定する検査を受ける必要があります。HCVには6種類の遺伝子型があり、それぞれに治療への反応性が異なります。さらに、2種類以上の遺伝子型のウイルスに重複感染している可能性もあります。肝障害の程度およびウイルスの遺伝子型は、この疾患の治療方針や管理方法の方針決定のために用いられます。

検査を受ける場合

 早期診断は、感染によって生じる健康問題を防ぎ、ウイルス伝播も防ぐことができます。WHOは、感染リスクの高い人を対象にしたスクリーニング検査を推奨しています。

 HCV感染のリスクの高い集団は以下のとおりです。

  • 薬物注射の使用者
  • 鼻腔内投与薬を使用したことのある人
  • 感染した血液製剤を投与された人、十分な感染症管理を行っていない医療施設で侵襲的な医療処置を受けた人
  • HCVに感染している母親から生まれた子ども
  • HCVに感染したセックス・パートナーがいる人
  • HIV感染者
  • 服役中の人、又は服役したことのある人
  • 入れ墨やピアスをしたことのある人

 世界では、HIVに感染している推定3,670万人のうち、約230万人が過去または現在にHCVに感染していた血清学的証拠を得ています。逆に、すべてのHIV感染者では、抗HCV抗体の保有率が6.2%ありました。肝障害は、HIV感染者の間では罹患や死亡の大きな原因となっています。

治療

 一部の人は免疫応答によって感染が排除されることもあるため、C型肝炎は必ずしも治療が必要とは限りません。そして、慢性感染を起こしても肝障害に進展しないこともあります。治療を必要とする場合、C型肝炎の治療目標は根治となります。治癒率は、ウイルス株や、実施した治療方法などいくつかの要因の影響を受けます。

 C型肝炎の治療基準は急速に変化しています。Sofosbuvirdaclatasvirおよびsofosbuvir/ ledipasvirの配合剤は、WHOガイドラインで勧められるレジメンの一部で、95%以上の治癒率の達成を期待できます。これらの薬剤は、かつての薬剤よりもはるかに有効性が高く、より安全で忍容性があります。DAA (直接作用型抗ウイルス薬)による治療は、ほとんどのHCV感染者を完治でき、その治療期間もより短くなっています(通常は12週間)。現在、WHOは、遺伝子型に対応するDAAレジメンと検査での経過観察の簡素化を含めた治療指針を更新しています。一方、ペグ・インターフェロンとリバビリンの役割は特殊な治療計画に限られています。DAAの製造コストは低いものの、これらの医薬品での治療は、高所得国や中所得国では依然としてかなり高価な状態です。いくつかの国(主に低所得国)では、これらのジェネリック医薬品が導入されてきたために、価格が劇的に下がってきました。

 HCV治療の利用環境は向上してきていますが、まだまだ限られています。2015年には、世界でHCVに感染している7,100万人のうち、診断を知っていたのは20%(1,400万人)でした。2015年に、治療を開始したのは診断された人のうちの7.4%(110万人)でした。2016年には、新たに176万人がC型肝炎治療剤の治療を受け、世界での治療率は13%に上昇しました。2030年までに、世界が治療目標80%を達成するには、さらに多くの取り組みの実行が必要とされます。

予防

一次予防
 C型肝炎に対するワクチンはありません。したがって、HCV感染の予防は、医療環境でのウイルスとの接触機会を減らすことや、リスクが一般より高い人々、例えば、注射薬物の使用や性的接触を介する人々がウイルスとの接触機会を減らすことにかかっています。

 限定的なものですが、WHOが推奨している一次予防法のリストの例を以下に掲げます。

  • 手指の衛生管理:外科手術を行う際の手指の管理、手洗い、手袋の使用
  • 医療処置における注射器具の安全で適正な使用
  • 安全な取扱いと鋭利物および廃棄物の処分
  • 滅菌注射器具(の情報)など有害要因を全体的に下げるために行う薬物注射の使用者への情報支援
  • 献血における(HIVおよび梅毒も含めた)B型およびC型肝炎(ウイルス)の検査
  • 医療従事者の訓練
  • コンドームの適正な一貫した利用の促進

二次、三次予防
 C型肝炎ウイルスに感染した人々に対して、WHOは以下のことを推奨しています。

  • 医療処置や治療の選択肢に関する教育や医療相談
  • 他の肝炎ウイルスとの重複感染を防ぎ、肝臓を護るために行うA型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスのワクチン接種
  • 適切と考えられる場合に行う、抗ウイルス治療を含む早期の適正な医学的管理
  • 慢性肝疾患を早期診断するための定期的受診

C型肝炎ウイルス感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療

 WHOは、2016年4月に「C型肝炎感染者に対するスクリーニング検査、医療ケアおよび治療に関するガイドライン」を更新しました。このガイドラインは、HCVなど血液を介するウイルスへの感染予防について、これまでのWHOガイダンスを補完するものです。

 このガイドラインは、低所得国あるいは中所得国でHCV感染者のスクリーニング検査、医療支援、治療に関するプログラムを作成している政策担当者、政府関係者、並びにその他の関係者に向けられています。このガイドラインは、上述の領域の人々に鍵となる推奨事項を提供し、実施に向けた議論を行っているため、HCV感染者への治療サービスを拡大することに役立ちます。

 C型肝炎ウイルス感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療のためのガイドライン

Guidelines for the screening, care and treatment of persons with chronic hepatitis C

 世界では、2015年に治療を開始したのは診断された人の7%(110万人)でした。2015年に、治療を開始した人のうち、約半数がDAAによる治療を受けました。世界で数年にわたり治療法がこれらに置きかえられ、患者の累積数は、2015年に540万人に達しました。2015年よりも前に治療された大部分の患者が、インターフェロンに基づく治療を軸に、現在よりも古い治療を受けていました。

重要な推奨事項に関するサマリー

HCV感染のスクリーニング検査についての推奨事項

  1. 1.HCV感染者であると確認するためのスクリーニング検査
     HCV罹患率の高い集団に属する人や、過去にHCVに感染するリスクに曝された人、又はリスクを伴う行動をとった人には、HCVの血清学的検査を行うことが推奨されます
  2. 2.慢性HCV感染との確定診断をいつ行うべきか
     HCVの血清学的検査で陽性の結果が示されたならば、慢性HCV感染症と診断するために、さらにHCVリボ核酸(RNA)を検知する核酸増幅試験(NAT)の実施が示唆されます。HCV RNAを検出するためのNATは、HCV感染に対する治療開始の評価としても行われます。

HCV感染者に医療支援を行う際の推奨事項

  1. 1.アルコール摂取量のスクリーニング、および中等量と大量のアルコール摂取を減らすためのカウンセリング
     アルコール摂取量の評価は、すべてのHCV感染者に推奨されます。そして、中等量から大量のアルコールを摂取する感染者には、アルコール摂取量を減らすための行動への介入が推奨されます。
  2. 2.肝臓の線維化および肝硬変の程度の評価
     医療資源に限りのある環境では、肝臓の線維化を評価する場合、エラストグラフィーやFibroTestなどの追加の設備が必要となる非侵襲的検査な検査よりも、アミノトランスフェラーゼ/血小板数比(APRI)あるいはFIB4テスト(年齢、AST、ALT、血小板から指標を計算し評価する方法)が活用されるべきです。

HCV感染治療の推奨事項

  1. 1.HCVの治療への評価
     慢性HCV感染者は成人も小児も全員に、抗ウイルス薬治療に対する評価が行われるべきです。
  2. 2.直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)による治療
     WHO は、すべてのC型肝炎患者がDAAを土台とするレジメンで治療を受けることを推奨しています。但し、いくつかの特定の患者グループでは、現在でもインターフェロンを土台とする治療レジメンが使用されます(遺伝子型5型または6型の感染者と肝硬変を伴うHCV遺伝子型3型の患者では代替療法として使用されます)。
  3. 3.テラプレビル(telaprevir)とボセプレビル(boceprevir)は使用されるべき薬剤ではありません
     2014年のガイドラインでは、ペグ・インターフェロン及びリバビリンとの併用で投与されてきた第1世代DAAsの薬剤(テラプレビル、ボセプレビル)が推奨されていました。現在では、新しくDAAsを土台とするレジメンと比較すると、これらは有害事象が多く、治療効果も低い結果が示されています。したがって、現在は、WHOはこれら2種類の薬剤を推奨していません。
  4. 4.WHOは遺伝子型と肝硬変の状態に基づいて好ましいDAAレジメンおよび代替DAAレジメンを推奨しています
     ガイドライン作成グループは、入手できる全てのデータ(200以上の研究)から異なる6種類の遺伝子型に最も有効かつ安全性の高いレジメンを判定するための検討を行いました。

WHOの取り組み

 2016年5月に、世界保健総会では、初めて「ウイルス性肝炎部門の世界保健戦略、2016-2021」を採択しました。この戦略は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(医療費の支払いに困窮する貧困層にも保健医療サービスを届けること)の役割の重要性を強調し、この戦略の目標が、いくつもの継続可能な発展目標のひとつとして掲げられています。この戦略には、公衆衛生上の問題として、ウイルス性肝炎を撲滅することを視野に入れており、2030年までに新たなウイルス性の肝炎感染者を90%減らし、ウイルス性肝炎による死亡者を65%減らすことが含まれています。これらの目標を達成するために、各国およびWHO事務局が取るべき活動が戦略の中で概説されています。

 2030年に向けた持続可能な発展目標の下で、世界の肝炎に対する目標達成に向けた各国を支援するために、WHOは次のような分野を支援しています。

  • 意識の向上、関係の連携の促進、人的資源の動員
  • 科学的根拠に基づく政策と活動のためのデータの定形化
  • 感染伝播の予防
  • スクリーニング、管理、治療の実行規模の拡大

 WHOは、2017年の世界な肝炎報告書を公表し、撲滅への道筋を概説しました。この報告書は、ウイルス性肝炎B型およびC型における新たな感染率、これら2種類の肝炎ウイルスによる慢性感染症の罹患率および死亡率、主要な取り組みの普及率など、2015年末までの世界の統計資料を示しています。次のサイトからオンラインで入手できます。

Global hepatitis report,2017(世界の肝炎報告書2017)

 WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デー(World Hepatitis Day)と定めています。

出典

WHO Fact sheet, Media centre.Update October2017
Hepatitis C
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs164/en/