コレラについて (ファクトシート)

2017年12月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • コレラは、急性の下痢を起こす疾患で、治療しなければ数時間で死に至ることもあります。
  • 研究者らは、世界では、毎年、130万人から400万人のコレラ患者が発生し、21,000人から143,000人が死亡していると推定しています。
  • ほとんどの感染者は、症状が軽いか無症状で、経口補水液を使ってうまく治療することができます。
  • 重症患者には、点滴治療と抗生物質で速やかに治療することが必要です。
  • コレラやその他にも飲み水が媒介する感染症を制御するためには、安全な水と衛生環境を確保することが重要です。
  • コレラ発生のリスクが高いことが知られる地域で、コレラの集団発生を制御し、予防するためには、安全な経口コレラ・ワクチンが、(飲み)水の安全と衛生環境の改善と合わせて使用されるべきです。
  • 2017年に、コレラによる致死率を90%低下させる目標を掲げて、コレラの統制に関する世界戦略が開始されました。

概要

コレラは、コレラ菌(V. cholerae)で汚染された飲食物を摂取することによって起こる急性下痢性感染症です。コレラは、世界の公衆衛生上の脅威に留まっており、社会の発展の不平等と欠陥を示す指標となっています。毎年、約130万人から400万人の患者が発生し、21,000人から143,000人がコレラによって死亡していると、研究者たちは見積もっています。

症状

コレラは、重篤な急性下痢性感染症を起こす極めて病原性の高い疾患です。コレラ菌で汚染された飲食物を摂取すると、12時間から5日で感染者に症状が現れます。コレラは小児にも成人にも感染し、治療しなければ数時間で死に至ることもあります。

コレラ菌(V. cholerae)に感染しても、ほとんどの人は症状を発現しません。それでも、感染してから1-10日間は便中にコレラ菌を含んでおり、(それが)環境中に排泄されるため、他の人に感染させる可能性があります。

発症しても、多くの人は軽症または中等度の症状です。しかし、少数の人は重症の脱水を伴う水様性の急性下痢症を起こします。この場合、治療しなければ死に至ります。

歴史

コレラは、19世紀にインドのガンジス川河口域を発生起源として世界中に広がりました。その後に6回の世界的な流行を起こし、大陸全土で数百万人を死に至らしめました。現在の世界的な流行(7回目)は、1961年に南アジアで始まり、1971年にアフリカ大陸に広がり、1991年にアメリカ大陸に広がりました。現在も、コレラは多くの国に常在しています。

コレラ菌(V. cholerae)の血清型

コレラ菌にはたくさんの血清型がありますが、流行を起こすコレラ菌は、O1血清型と O139血清型の2種類だけです。最近、流行を起こしているのは、すべてO1血清型コレラ菌です。過去に、1992年にバングラデシュで流行を起こしたことのあるO139血清型コレラ菌は、最近では散発的に患者が発見されるだけに留まっています。アジア以外で確認されたことはありません。この2種類の血清型が起こす症状に違いはありません。

コレラ菌の疫学、危険因子、疾病の脅威

コレラは風土病として存在し、流行も起こします。コレラが常在する地域とは、過去3年に(患者が)確認された地域で、コレラ確定患者に地域感染(他の地域から感染輸入されていないこと)の証拠があることとなっています。コレラの流行と常在は、(コレラが)常在する地域と日常的に発生していない地域の何れでも、発生の可能性があります。

コレラが常在する国では、季節性または散発的に感染は発生しますが、流行は予想されるよりも患者数が多い状態になります。コレラが定期的に発生しない国では、通常は、コレラの発生しない地域で、現地での感染伝播の科学的証拠とともに、少なくとも確定患者1人が発生することと定義されます。

コレラの感染伝播は、水の安全性と下水道設備への利用環境が不十分なこととに深く関係します。必要最低限の清潔な飲料水や衛生環境が整備されていない都市周辺のスラム街と国内避難民や難民キャンプなどが、典型的な感染リスク地域になります。

水道や衛生設備が破壊され、収容能力を超えて混み合うキャンプに人々が移動するなどの人道的危機の状態が続いて、そこにコレラ菌が存在していたり、持ち込まれたりすると、感染流行が起こるリスクが高くなります。感染していない死体が流行の感染源となることは、報告されていません。

WHOに報告されるコレラの患者数は、この数年にわたり高い状態が続いています。2016年には、38か国から合計132,121人の患者が報告されました。そのうち2,420人が死亡しています。これらの患者数と、推定される疾病の脅威との間には乖離があります。それは多くの患者が調査体制の限界と貿易や旅行に対する制裁を恐れるために記録が取られていないという実態によるものです。

予防と感染制御

複数の学問領域にわたるアプローチが、コレラの流行発生を抑制し、死亡者を減少させる鍵となります。調査活動、飲料水、下水道、衛生設備、社会活動員の活動、治療、経口コレラ・ワクチンなどが組み合わせて行われます。

サーベイランス(調査活動)

コレラの調査体制は、地方レベルへの情報の還元と世界レベルでの情報の共有を含めて、集約されたサーベイランス(調査活動)の一部であるべきです。

コレラ患者は、重症の急性水様性下痢症を示す患者に対し臨床的に疑うことで発見されます。この疑似症は、感染した患者から採取された糞便からコレラ菌(V. cholerae)を検出することによって確定診断されます。検出は迅速診断テスト(RDT)を使用すれば、検出は簡単にできます。陽性検体が1つでも出ればコレラ警報を出すことになります。検体は、培養での確認のために検査施設に送られます。コレラの発生を発見(診断)し管理(データの収集・編集・分析)する地方レベルでの検査処理能力が、効果の高い調査活動および感染対策の計画の軸となります。

コレラが発生している国は、疾病サーベイランスを強化し、速やかにそれを発見し流行に対処するため、国のレベルで備える必要があります。国際保健規則の下では、現在、コレラの全症例の報告は必須ではありません。しかし、コレラを含む公衆衛生上の事例は、常に、正式に報告することが必要かどうかを判断する基準に照らして評価していく必要があります。

水と衛生環境への介入

コレラの感染制御への長期的な解決策は、経済発展と安全な飲料水および十分な衛生設備を日常的に利用できる環境に依存します。

環境整備への条件を焦点にした取り組みには、コレラへのリスクが最も高い住民に、安全な飲み水、基本的な衛生と清潔維持への実践を確かなものにするために、長期的で持続可能なWASH(健康/水と衛生の環境を整備する)活動を取り入れた実践などが含まれます。このような介入は、コレラに加えて、貧困、栄養失調、教育などに関連する目標を達成することに貢献するだけでなく、水によって媒介される疾患を幅広く予防します。

(しかし)これらの介入のほとんどは、長期間の投資と維持管理の継続を必要とします。現実には、これらが最も必要とされる後発の開発途上国で資金を調達し維持管理することは難しいところです。

治療

コレラは容易に治療できる疾患です。ほとんどの患者は、速やかに経口補水液(ORS)を投与することで順調に治療ができます。WHO/UNICEF ORS標準包装は、1Lの清潔な飲み水に溶かして作ります。大人には、中等度の脱水を治療するために、初日にORS 6Lを必要とすることがあります。

重篤な脱水症状を伴う患者には、ショック状態に陥るリスクがあるため、直ちに点滴による輸液が必要となります。このような患者には、下痢の継続期間を短縮し、必要とされる補液量を減らし、糞便からコレラ菌が排泄される菌量と期間を減らすために、適正な抗菌薬の投与も投与されます。

大規模集団への抗菌薬投与は推奨されません。コレラの感染拡大を防ぐ効果がないだけでなく、抗菌薬への耐性獲得につながるからです。

コレラの流行中は、直ぐに治療を受けることが重要です。地域社会の中では、経口による補液を行い、さらに大きな治療センターで点滴による輸液の補充と24時間の治療を行うべきです。適切に治療することで、致死率を1%未満にとどめることが必要です。

5歳未満の子どもには、亜鉛が重要な補助療法になります。下痢症の期間を短縮し、急性水様性下痢症における将来の他の原因が生じることを防ぐことができます。

また、母乳での育児を促進することも必要です。

衛生環境の推進と社会における地域活動

健康教育キャンペーンでは、地域の文化や信仰に合わせながら、石鹸による手洗い、安全な調理、食品の保管、子どもの糞便の清潔な処理など、適切な衛生習慣の普及を促進する必要があります。コレラで死亡した人の埋葬儀式では、参列者の間での感染を防ぐように対策が取られなければなりません。

また、感染の流行中には注意を喚起するキャンペーンが組まれる必要があり、さまざまな情報がその地域に提供されるべきです。その情報とは、コレラに潜在するリスクと症状、コレラを避けるための予防法、患者報告の時と場所、症状が現れたときに直ちに治療できる場所などです。適正な治療サイトの位置も共有しておく必要があります。

地域社会の関わりは、行動の長期的な変容とコレラの管理にとって重要(な要素)です。

経口コレラ・ワクチン

現在、WHOの事前審査に合格した3種類の経口コレラ・ワクチン(DukoralR、ShancholR、EuvicholR)があります。3種類のワクチンはともに、十分に予防するには2回の接種が必要です。

DukoralRは、成人には150mlの水が必要で、緩衝溶液とともに投与されます。DukoralRは、2歳以上のすべての人を対象に投与できます。最短の投与期間は7日で、6週間を超えてはなりません。2歳から5歳の小児には3回目の投与が必要となります。DukoralRは、主に旅行者向けに使用されています。DukoralRを2回投与すれば、2年間はコレラに対する予防効果が得られます。

ShancholRとEuvicholRは、製造会社が異なるだけで実質的に同じワクチンです。これらは投与時に緩衝溶液を必要としません。これらは、1歳以上のすべての人を対象に投与されています。これらのワクチンの投与間隔は最低2週間を空けなければなりません。ShancholRかEuvicholRを投与することで、3年間はコレラに対する予防効果が得られます。また、1回目のワクチン投与でも、短期間は保護作用を得られます。

現在、ShancholRとEuvicholRは、世界の経口コレラ・ワクチン備蓄薬で、大規模なワクチン接種キャンペーンで使用することができます。備蓄は、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)からの支援で行われています。

入手できた科学的根拠に基づいて、WHOのコレラに対するワクチンの位置づけ論文(2017年8月)では、次のことが述べられています。

  • 経口コレラ・ワクチンは、コレラが常在する地域、人道危機、コレラ(感染)のリスクの高い地域、およびコレラの流行する地域で使用されるべきものです。常に、他のコレラ予防や管理への戦略と併せて行わなければなりません。
  • ワクチン接種は、コレラの流行を制御または防止するために、優先度の高い他に提供される医療上の介入を混乱させてはいけません。

集団ワクチン接種キャンペーンにより、1,500万回を超える経口コレラ・ワクチンが既に使用されました。人道的な危機状態にある感染に極めて弱い地域、ホットスポットとして知られコレラが常在する地域の住民のうち、流行が実際に発生した地域で、キャンペーンが行われています。

WHOの取り組み

2014年に、WHOに事務局を置くコレラを管理する国際対策委員会(GTFCC)が活動を再開させました。この委員会は、学術協会、非政府組織(NGO)、国連機関など、世界のコレラの感染管理に対し活動する50以上の支援組織のネットワークです。

この委員会(GTFCC)を通して、支援者からの援助により、WHOは次のような活動を行っています。

  • 世界規模でコレラの感染予防と制御のための対処能力を発展させることに貢献するために、世界戦略の企画とその実行を促進させます。
  • コレラの予防と感染制御に対する国家の対処能力を強化するために、コレラに関連する活動の技術交流、連携、および協力のための開かれた討論の場を提供します。
  • 効果的なコレラ感染制御に対する戦略と進捗状況のモニタリングを実施するために、各国を支援します。
  • 技術的なガイドラインと運用マニュアルの普及に努めます。
  • 感染が発生した国におけるコレラの感染予防と制御に対して、画期的な取り組みを評価することに重点を置いた研究計画の推進を支援します。
  • 世界の重要な公衆衛生問題として、また、国家、地域、世界規模でのコレラの感染予防と制御を支援するための積極支援や人的・物的資源の動員活動を行うものとして、コレラの感染予防と制御についての情報の普及を通してコレラの認知度を高めます。

コレラ終息に向けた2030年までのロードマップ(工程表)

2017年10月に、GTFCCの関係者は、コレラ制御のための戦略、コレラ終息に向けた2030年までのロードマップ(工程表)を開始しました。戦略は国家の主導により、2030年までにコレラによる死亡者を90%低下させ、20か国でコレラを撲滅することを目指しています。

世界のロードマップは、3つの戦略の基軸に焦点を当てています。

  1. 1.流行を封じ込めるための早期発見と迅速な対応:この戦略は、どこで流行が発生しても、地域社会の関わり、調査活動と検査処理能力の強化、医療保健体制と必要物品の備え、迅速な対策チームの設置など、早期の発見と多岐にわたる迅速な対策を打つことにより、流行を封じ込めることに焦点が当てられています。
  2. 2.コレラの再興を防ぐための複数の方向からの対策アプローチ:対策は、国や支援組織が、コレラがかなり深刻に発生しているものの、比較的、規模の小さい地域にあるコレラの「ホット・スポット」に焦点を当てることを求めています。これらの分野では、WASH(健康/水と衛生の環境を整備する)活動の向上や経口コレラ・ワクチン(OCV)の使用など、これらの対策を講じることによって、コレラの感染を阻止することができます。
  3. 3.国レベル、地域レベルでの行政支援、支援団体、地域活動の人材、支援組織などと連携を取った効率的な体制の構築:国際対策委員会(GTFCC)は、各国がコレラを制御するための取り組みを強化し、国を超え、分野を超えたコレラの制御への計画を築き、人的、技術的、財政的な資源を支援しています。

コレラに対するさまざまな項目の装備

コレラの流行を調査し確認し、コレラ患者を治療することに対し、確実に必要となる物資を効率よく効果的に配備するために、WHOは装備一式を揃えました。

これを実施する参加組織とともに協議をした結果、WHOは、現地での必要性により合わせた装備に改定し、コレラ装備品2016年版としました。合計で、6つの装備品があります。

  • 調査のための1項目の装備
  • 確定診断を行う検査のための1項目の装備
  • 地域社会、地方および中央レベル3項目の装備
  • 太陽電池式ランプ、囲いの材料、水袋、蛇口などの資材物流のための1項目の装備

それぞれを取り扱う装備は患者100人への対処に十分なものです。この改定されたコレラ用の装備は潜在するコレラの流行に備えるため、また、最初の1か月を支えるために考えられたものです。

出典

WHO CholeraFact sheetN°107Updated December2017
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs107/en/index.html