髄膜炎菌性髄膜炎(ファクトシート)

2018年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 髄膜炎菌性髄膜炎は細菌性の髄膜炎で、脳や脊髄周囲を被っている薄い被膜(髄膜)に生じる重篤な感染症です。
  • 髄膜炎菌性髄膜炎は、致死率(未治療の場合、最高50%)が高く、重度の後遺症も高い頻度(10%以上)で残ります。いのちを救い、合併症を低下させるには、抗生物質による早期の治療が、最も重要な手段となります。
  • 髄膜炎菌性髄膜炎は世界中でみられますが、最も脅威が強いのは、サハラ以南のアフリカ、西のセネガルから東のエチオピアに渡って広がる髄膜炎ベルトです。この地域では、現在でも毎年、約3万人が報告されています。
  • 血清型ごとに特異性をもつワクチンが、予防(定期予防接種)や流行の発生時の対策(緊急対策でのワクチン接種)として使用されています。
  • 2010年以降、髄膜炎ベルトでの大規模な予防接種キャンペーンで髄膜炎菌A群包合体ワクチンが使われ始めてから、髄膜炎菌A群の割合は劇的に減少しています。

概要

 細菌、真菌、ウイルスなど、さまざまな病原体が髄膜炎を引き起こす原因となります。髄膜炎菌性髄膜炎は、細菌性の髄膜炎で、髄膜に感染する重篤な感染症です。重い脳の障害を引き起こし、治療しなければ、患者の50%が死に至ります。
 髄膜炎菌(Neisseria meningitides)を原因とする髄膜炎菌性髄膜炎は、大規模な流行を起こす可能性があることから、特に重要です。髄膜炎菌は血清型によって12種類に分類されています。その中でも6種類(A、B、C、W、X、Y)が流行を起こします。
 髄膜炎菌性髄膜炎は、散発的な患者の発生から、小規模な集団感染、世界的な大流行まで、さまざまな形態がみられ、季節もさまざまです。この疾患は、どの年齢層でも発生しますが、主に、乳幼児、就学前の児童、若年者で発生します。
 地理的分布および流行の潜在性は、血清型によって異なります。世界のいくつもの地域で調査が不十分なために、世界での髄膜炎菌性疾患の脅威についての推定で信頼できるものではありません。髄膜炎菌性疾患の最大の脅威はサハラ以南のアフリカにあり、(ここは)西のセネガルから東のエチオピアにまで広がる髄膜炎ベルト(26か国)として知られています。12月から6月までの乾季には、風塵、夜間の寒冷、上気道感染などが合さり、鼻咽頭粘膜に損傷を与えることで、髄膜炎菌性疾患のリスクを高めます。同時に、髄膜炎菌への感染は、狭い住居空間での生活によっても促進される可能性があります。このような要因の組み合わせは、髄膜炎ベルトで乾季に発生する大きな流行を(よく)説明しています。

感染経路

 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は人だけに感染します。他の動物は宿主になりません。細菌は、呼吸器からの飛沫や咽頭分泌液を介して、人から人へと伝播します。喫煙、キス、くしゃみ、咳などの濃厚な長時間の接触、保菌者に近い区画での居住などが、疾患の拡大を促進させます。髄膜炎菌の伝播は、大規模な集まりでも促進されます。最近の事例としては、大巡礼(Haj)やジャンボリーがありました。

細菌は咽喉に運ばれると、ときに生体の防御を打ち負かし、細菌が血流を介して脳に広がることを可能にします。いつ如何なるときでも、住民の1%~10%は、喉頭に髄膜炎菌を保有していると考えられています。但し、流行の発生時には、保菌者の割合が10%から25%に高まることがあります。

症状

平均的な潜伏期間は4日です。2日から10日の幅があります。最もよく見られる症状は、項部硬直、高熱、光過敏症、錯乱、頭痛、嘔吐です。また、幼児では、一般的に大泉門の膨隆やぬいぐるみ(ragdoll)様の顔貌が見られます。あまり頻繁ではありませんが、さらに重篤(しばしば致命的)になると髄膜炎菌性疾患は、出血性の発疹や急速な循環不全を特徴とする髄膜炎菌性敗血症となります。この疾患は早期に診断され、治療が適切に開始された場合でも、8~15%ほどが症状発症後24~48時間以内に死に至ります。未治療の場合、髄膜炎菌性髄膜炎は致死率が患者の50%となり、生存者でも10%~20%において、脳障害、難聴、身体障害などが引き起こされます。

診断

 髄膜炎菌性髄膜炎の初期診断は、臨床診察を行い、続いて、化膿性髄液を示す腰椎穿刺をします。時に、髄液の顕微鏡検査で細菌が見られることもあります。髄液や血液検体からの細菌培養、凝集試験、PCR法検査によって確かめます。血清型の確認、抗生物質への感受性検査は、感染制御対策を決定づける上で重要です。

調査・監視活動

 髄膜炎菌性髄膜炎の感染制御には、患者の発見から(周囲の)調査および検査確認までの調査・監視活動が不可欠です。主な目的は、次のとおりです。

  • 感染の発生を発見し、確認します
  • 髄膜炎菌血清型の分布や変異の状況など、発生の傾向を監視します
  • この疾患の脅威の程度を推定します
  • 抗生物質への耐性プロファイルを調べます
  • 特異な髄膜炎菌株(クローン)の伝播、分布および変異の状況を監視します
  • 髄膜炎の感染制御への戦略、特にワクチンの予防接種計画への影響を予測します

治療

 髄膜炎菌性疾患は死に至る高い可能性があり、常に、医療上の緊急事態として扱われるべきです。隔離の必要はありませんが、医療機関への入院は必須です。できるだけ早期に適切な抗生剤治療を、腰椎穿刺ができるならば穿刺の後に、理想的には(施行後)直ちに開始しなければなりません。腰椎穿刺よりも先に治療が開始されると、髄液中の細菌を培養できず、診断を確定することが難しくなります。しかし、診断の確認で治療を遅らせるべきではありません。
 治療には、ペニシリン、アンピシリン、セフトリアキソンなどの様々な抗生剤が使用されます。公衆衛生基盤や社会資本の限られるアフリカ地域での流行時には、セフトリアキソンが選択薬となります。

予防

  1. 1.ワクチン
     髄膜炎菌性疾患に対して認可されたワクチンは、40年以上にわたって使用されてきました。時間の経過とともに、細菌株(血清型)への接種率とワクチン利用の可能性が大幅に改善されてきました。しかしながら、今日まで、髄膜炎菌性疾患に対して普遍性のあるワクチンはありません。ワクチンは、血清型に特異性があり、免疫防御の期間もさまざまです。

3つのタイプのワクチンが利用可能です。

  • 多糖体(ポリサッカライド)ワクチンは、主にアフリカでの流行対策に使われています。
    • 髄膜炎菌多糖体ワクチンには、2価(A、C)、3価(A、C、W)、4価(A、C、Y、W135)があります。
    • 2歳未満の子どもには効果がありません。
    • 3年間は免疫保護します。しかし、集団免疫は誘導しません。
  • 包合体ワクチンは、予防(定期の予防接種計画や予防キャンペーン)にも、流行対策にも使われています。
    • 包合体ワクチンは、5年以上にわたる長期間の免疫保護を示し、保菌者になることを防ぎ、集団免疫を形成します。
    • 1歳からすぐに使用できます。
    • 利用可能なワクチンは、次のとおりです。
      1. C型の単価ワクチン
      2. A型の単価ワクチン
      3. 4価(A、C、Y、W)ワクチン
  • 髄膜炎B型に対してはタンパク質を基質としたワクチンが使われます。定期の予防接種計画(2017年時点では1か国)に導入され、流行への対策に使用されています。
  1. 2.化学的予防法
     濃厚接触者に対する抗生物質の予防投与は、感染へのリスクを低下させます。
    • アフリカの髄膜炎ベルト以外の地域では、家庭内での濃厚接触者に対する化学的予防法が推奨されています。
    • 髄膜炎ベルト地域では、流行が発生していない状況で、濃厚接触者に対する化学的予防法が推奨されています。

 抗生物質にはシプロフロキサシンが選択され、代替薬にはセフトリアキソンが使われます。

世界における公衆衛生上の対応

最近のアフリカにおける髄膜炎菌A型包合体ワクチン導入での成功
 WHOは、常在する感染への備え、予防、および流行の制御から成る戦略を推進しています。感染への備えは、患者の発見から調査および検査確認までの監視に重点を置いています。予防は、適正な血清型に焦点を定めた包合体ワクチンを使用し、リスクの大きい年齢層を対象として、ワクチンを接種することから成ります。流行の制御は、迅速かつ適切な患者管理と、予防接種で保護されていない人々への対策として、大規模なワクチン接種から成ります。

 アフリカの髄膜炎ベルトにおける髄膜炎の流行は、莫大な公衆衛生上の脅威になります。2010年12月に、新たな髄膜炎菌A型・包合体ワクチンが、アフリカで1~29歳の人々を対象とする大規模なキャンペーンを通じて、導入されました。2017年11月現在、アフリカのベルト地帯の21か国、2億8,000万人を超える人々にワクチンが接種されています。

 このワクチンは安全性が高く安価です(1回用量あたり約0.60ドル。一方、他の髄膜炎菌ワクチンの価格は1回あたり2.50ドルから117.00ドル)。また、熱への安定性により、(室温)温度管理での輸送(CTC)条件下で、使用することができます。運送(コスト)と疾病や流行の減少への影響は大きくなります。髄膜炎の発生率が58%低下し、流行のリスクが60%減少したことが記録されました。現在は、幼児への定期の予防接種に導入されています。高い接種率を維持することにより、アフリカのこの地域から、髄膜炎菌A型の流行を撲滅できることが期待されています。しかしながら、W型、X型およびC型といった他の血清型の髄膜炎菌は、依然として流行を引き起こしており、髄膜炎ベルトでは、毎年、患者3万人が報告されています。WHOは、公衆衛生上の問題として髄膜炎菌性疾患を撲滅することを公約に掲げています。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Reviewed January2018
Meningococcal meningitis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs141/en/