鳥およびその他・人獣共通のインフルエンザについて (ファクトシート)

2018年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 人は、鳥インフルエンザ・ウイルスA(H5N1)、A(H7N9)、A(H9N2)、ブタ・インフルエンザ・ウイルスA(H1N1)、A(H1N2) 、A(H3N2)など、鳥、ブタ、その他・人獣共通のインフルエンザに感染することがあります。
  • 人への感染は、主に感染した動物や(ウイルスに)汚染された環境と直接に接触することで成立します。しかし、これらのウイルスは人と人との間での持続的な感染能力は獲得していません。
  • 鳥、ブタ、その他・人獣共通のインフルエンザ・ウイルスへの感染は、軽度の上気道感染(発熱や咳)や初期の喀痰産生から、急速に進行する重度の肺炎、ショック症状を伴う敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、さらには死に至るところまで、さまざまな病態を引き起こします。亜型(サブタイプ)によっては、程度のさまざまな結膜炎、胃腸症状、脳炎、脳症なども報告されています。
  • インフルエンザA(H5N1)およびA(H7N9)ウイルスに感染した患者の大部分は、感染している生きた家禽や死んだ家禽と直接または間接に接触したことと関係しています。人の(感染)リスクを軽減するためには、動物の感染源で、この疾患を制御することが重要となります。
  • インフルエンザ・ウイルスには、水辺の鳥類に広大なサイレント・リザーバー(症状を発症しない宿主)があり、(これを)根絶することはできません。人獣共通のインフルエンザの人への感染は、発生が続きます。公衆衛生上のリスクを最小限に抑えるには、動物と人、両方を対象とした質の高い調査活動、すべての人の感染への徹底した調査、リスクに基づいたパンデミックへの計画が不可欠となります。

概要

 人は、鳥やブタのインフルエンザ・ウイルスなど、人獣で共通のインフルエンザ・ウイルスに感染することがあります。

病原体

 インフルエンザ・ウイルスにはA、B、C、Dの4つの型があります。

  • インフルエンザA型ウイルスは、人にも異なる多くの動物にも感染します。人に感染し、人から人への感染を持続させる能力を持つ新しいインフルエンザA型ウイルスや(これまでとは)非常に異なるインフルエンザA型ウイルスの出現は、インフルエンザ・パンデミックを引き起こす可能性に繋がります。
  • インフルエンザB型ウイルスは、人と人の間(だけ)で伝播し、季節性の流行を引き起こします。最近のデータによれば、アザラシ・アシカなどもに感染できることが示されました。
  • インフルエンザC型ウイルスは、人とブタ、両方に感染できます。しかし、感染は一般的に軽度で、稀にしか報告されていません。
  • インフルエンザD型ウイルスは、主に牛で感染が発生し、人への感染や病気を引き起こすことは知られていません。

 インフルエンザA型ウイルスは、インフルエンザ・パンデミックを引き起こす潜在性をもつために、公衆衛生上、最も重要です。インフルエンザA型ウイルスは、ウイルス表面のタンパク質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)のさまざまな組み合わせにより、サブタイプに分類されます。これまでに、ヘマグルチニン(HA)で18型、ノイラミニダーゼ(NA)で11型のサブタイプが存在しています。発生源の宿主によって、インフルエンザA型ウイルスは、鳥インフルエンザ、ブタ・インフルエンザ、その他の種類の動物インフルエンザからのウイルスに分類することができます。例として、「鳥インフルエンザ」には、鳥インフルエンザ・ウイルスA(H5N1)やA(H9N2)があり、「豚インフルエンザ」には、ブタ・インフルエンザ・ウイルスA(H1N1)やA(H3N2)などがあります。これらの動物由来のインフルエンザA型ウイルスはすべて、人のインフルエンザ・ウイルスとは異なり、簡単には人の間では伝播しません。

 ほとんどのサブタイプのインフルエンザA型ウイルスでは、水辺の鳥類が大きな天然のリザーバー(宿主源)となっています。ほとんどの場合、鳥類の中では無症状か、軽い症状を引き起こすだけですが、多彩な症状は、ウイルスの特性に依存します。家禽類に重度の病態を引き起こし、高い致死率をもたらすウイルスは、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)と呼ばれています。(一方)家禽に軽度の病態を引き起こすウイルスは、低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)と呼ばれています。

人における自他覚症状

 鳥類、ブタ、その他の人獣共通インフルエンザの人への感染は、軽度の上気道感染(発熱や咳)や初期の喀痰の産生から、急速に進行する重度の肺炎、ショック症状を伴う敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、さらには死に至るところまで、さまざまな病態を引き起こします。インフルエンザA(H5N1)では、嘔気、嘔吐、下痢などの消化器症状が、高い頻度で報告されています。インフルエンザA(H7)では、結膜炎も報告されています。潜伏期間、症状の重症度、臨床上の転帰など、疾患の特徴は、感染を引き起こすウイルスによって異なりますが、主に呼吸器症状が現れます。

 鳥インフルエンザ・ウイルスA(H5)やA(H7N9)型に感染した多くの患者では、この疾患病態が侵襲性の臨床経過を辿ります。一般的な初期症状は、高熱(38℃以上)と、呼吸不全や呼吸困難など、下気道症状が関係して引き起こされる咳です。その他の喉の痛みや鼻症状などの上気道症状は、あまり一般的ではありません。一部の患者の臨床経過においては、下痢、嘔吐、腹痛、鼻や歯茎からの出血、脳炎、胸痛といったその他の症状も報告されています。感染の合併症には、重度の肺炎、低酸素性の呼吸不全、多臓器機能不全、敗血症性ショック、および二次性の細菌感染や真菌感染などがあります。サブタイプA(H5)ウイルスやA(H7N9)ウイルスに感染した患者の死亡率は、季節性インフルエンザに感染した患者よりもはるかに高くなっています。

 鳥インフルエンザA(H7N7)およびA(H9N2)ウイルスによる人への感染については、一般に、病態は症状がないか軽度です。これまでのところ、死に至ったA(H7N7)の人での感染は、オランダで1件が報告されたのみです。ブタ・インフルエンザ・ウイルスの人への感染については、ほとんどの患者が軽度であり、入院した患者は少なく、感染を原因とする死亡例はほとんど報告されていません。

人での感染の疫学

 感染経路に関しては、鳥やその他・動物との人獣共通感染症としてのインフルエンザ・ウイルスの人での感染は稀ではありますが、散発的に報告されてはいます。人での感染は、主に感染した動物や(ウイルスに)汚染された環境と直接に接触することによって成立します。しかし、人と人との間で、これらのウイルスが効率よく伝播することはありません。

 1997年に、中国・香港特別行政区(Hong Kong SAR)で、家禽の間で高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)AH5N1ウイルスが発生したときに、人への感染が報告されました。2003年以降、この鳥インフルエンザ・ウイルスは、アジアからヨーロッパおよびアフリカに広がり、一部の国では家禽の間で常在しています。この感染は、数百万羽の家禽、そして数百人の患者とたくさんの死亡者をもたらしました。この家禽での流行は、感染発生国において、生活、経済、国際貿易などに深刻な影響を与えました。その他の鳥インフルエンザA(H5)ウイルスも、家禽と人、両方への感染の発生を引き起こしてきました。

 2013年には、中国で初めて、AH7N9型ウイルスの人への感染が報告されました。それ以来、このウイルスは、全土の家禽の間に広がり、1,500人を超える患者と多くの死亡者の報告をもたらしました。

 その他の鳥インフルエンザ・ウイルスでは、A(H7N7)およびA(H9N2)ウイルスが、散発的に人への感染を引き起こしました。いくつかの国では、ブタ・インフルエンザ・ウイルス、特に、サブタイプA(H1)およびA(H3)の散発的な人への感染も報告されています。

人への感染のリスク要因の観点から:

  • 鳥インフルエンザ・ウイルスの場合、人への感染の一番のリスク要因は、感染したまま生きている家禽や死んだ家禽、もしくは、生きた家禽を扱う市場などの(ウイルスで)汚染された環境と、直接または間接に接触することにあるようです。特に、家禽の解体、羽毛の採取、感染した家禽の死骸の処理、家庭環境における食事の準備段階での家禽の処理などが、リスク要因となるようです。A(H5)、A(H7N9)、その他の鳥インフルエンザ・ウイルスが、適正に処理され調理された家禽や卵を介して人に伝播した可能性を示唆する科学的証拠はありません。いくつかのインフルエンザA(H5N1)への人の感染例は、生の家禽や(ウイルスを含む)血の付いた料理を食べたことと関係していました。家禽における鳥インフルエンザ・ウイルスの伝播を制御することは、人への感染リスクを軽減させる上では不可欠です。一部の家禽群ではA(H5)やA(H7N9)ウイルスが持続・保持されていることを考えるならば、各国からの長期的な行政指導、および動物と公衆衛生、両方の担当当局との間での力強い主導が必要となります。
  • ブタ・インフルエンザ・ウイルスの場合、ほとんどの患者において報告されるリスク要因に、感染したブタとの濃厚な接触や豚が出品されている場所の訪問などがあります。いくつか限定的な人から人への感染が発生しています。

 鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの人への感染について、現在のデータでは、潜伏期間は平均2~5日間で、最大17日間となっています。A(H7N9)型ウイルスによる人への感染についての潜伏期間は平均5日間で、1~10日の幅があります。両ウイルスについて、平均的な潜伏期間は季節性インフルエンザ(2日間)よりも長くなっています。ブタ・インフルエンザ・ウイルスの人への感染については、潜伏期間が2~7日間と報告されています。

診断

 人獣共通インフルエンザが人に感染したことを診断するには、施設検査が必要です。WHOは、世界インフルエンザ・サーベイランス及び対応システム(GISRS)を通じて、定期的に、分子技術を用いた人畜共通インフルエンザの検出法(即ち、RT-PCR法検査、その他の方法など)のための技術指針を公開し更新しています。

 迅速インフルエンザ診断検査器(RIDT)は、PCR法検査に比べて感度が低く、信頼性は、これらが使用される条件に大きく影響されます。商業的に入手できる迅速診断検査器は、一般的に、サブタイプの情報までは示すことができません。RIDTは臨床現場で頻繁に使用されていますが、人獣共通のウイルスの検出に使用するには限界があります。

 インフルエンザの検査には適切に患者から検体を採取し、関連する指針やプロトコールに従って、診断を進めなければなりません。

治療

 いくつもの抗ウイルス薬、特に、ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)では、ウイルスの複製期間を短縮し、回復への見通しを向上させることの科学的証拠が得られています。しかし、引き続き、臨床研究が必要です。オセルタミビルへの耐性の出現が報告されてきています。

  • 疑い患者や確定患者には、ノイラミニダーゼ阻害薬は、治療上の有効性を最大限に発揮させるために、できるだけ早く(理想的には発症後48時間以内に)処方されることが必要です。しかし、現在、サブタイプA(H5)ウイルスやA(H7N9)ウイルスへの感染が関係する死亡率が著しく高いこととこれらの病態においてウイルスの複製が遷延している科学的証拠があることを考えると、臨床経過の中で後期であっても、この薬剤の投与は考慮されるべきです。
  • 最低5日間、治療することが推奨されていますが、満足できる臨床症状の改善が得られるまでは、延長することもできます。
  • コルチコステロイドは、他の理由(例えば、喘息、その他、特別な病態)が示されていない限り、日常的に使用すべきではありません。なぜなら、ウイルス排除の遅延や、細菌や真菌などの重複感染をもたらす免疫抑制に関係してくるからです。
  • 現在のサブタイプA(H5)ウイルスやA(H7N9)ウイルスのほとんどは、アダマンタン抗ウイルス薬(アマンタジンやリマンタジンなど)に耐性があります。そのため、単独療法は推奨されません。
  • 細菌性の病原体との同時感染があると、患者が重篤な病態に陥ることがあります。

予防

 抗ウイルス薬治療以外にも、公衆衛生上の管理には、個々人の予防対策があり、次のようなことが含まれます。

  • 定期的な手洗いと手指の適切な乾燥
  • 正しい呼吸器(汚染から)の衛生上の所作 - 咳やくしゃみのときに口と鼻を覆うことや、ティッシュの使用と正しい処分
  • 気分不良、発熱、その他インフルエンザの症状を伴う人の自主的な早期隔離
  • 症状のある人との緊密な接触の回避
  • 他人の目、鼻、口との接触の回避

 予め飛沫を生み出している者を取り扱う医療従事者は、飛沫への予防対策を行う必要があります。感染の発生中には、基本的な接触や飛沫への予防対策や適正な個人用保護具(PPEが準備され、使用されるべきです。

 できることならば、鳥インフルエンザの発生が確認された国や暮らす住民やその国に行く旅行者は、養鶏場(に近づくこと)、生きた家禽を扱う市場での動物との接触、家禽が解体処理される可能性のある区域への立ち入り、家禽やその他・動物の糞便(との接触)など(ウイルスで)汚染されていると思われる物体表面とのすべての接触機会を避けるべきです。石けんと水で手を洗うなど、食品の安全や食品衛生への適正な習慣が必要です。感染が発生した地域から帰国した旅行者は、人獣共通のインフルエンザ・ウイルスへの感染を疑う呼吸器症状が現れた場合、地元の保健・医療サービス機関に報告することが必要です。

 抗ウイルス薬による曝露前および曝露後の予防は可能ですが、いくつかの要因に左右されます。そこには、個々人の要因、ウイルスとの接触の状況、および接触に関係するリスクなどがあります。

パンデミックの可能性

 インフルエンザ・パンデミックは、新しいウイルスであるが故に、流行は世界のほとんどの地域に影響を与えます。パンデミックは予見できず、一旦、再興すれば、世界中の人々の健康、経済、社会に影響をもたらす事態になり得ます。インフルエンザ・パンデミックは、新しいウイルスが、持続的に人から人へと感染を引き起こす能力をもって出現し、人々がウイルスに対して全く又はほとんど免疫を持っていないときに発生します。世界中での旅行の増加に伴い、パンデミックは、公衆衛生上の対策を準備する時間をほとんど持てないままに、急激に世界中に拡がる可能性をもっています。

 A(H5)ウイルスやA(H7)ウイルスなどのように、家禽において一部の鳥インフルエンザ・ウイルスの伝播が続いていることは、これらのウイルスが人に重篤な病態を引き起こし、人々の間で感染力を強める変異を起こす可能性を保っているだけに、公衆衛生上の懸案事項となります。これまでのところ、これらのウイルスの人から人への感染は、患者と濃厚な、もしくは長期の接触があったときに発生しているとは考えられているものの、人から人への持続的な感染は確認されていません。

 現在、伝播している鳥、ブタ、その他・動物からの人獣共通のインフルエンザ・ウイルスが、将来、パンデミックを起こすかどうかは分かりません。しかし、人に感染を引き起こす人獣共通のインフルエンザ・ウイルスの多様性には驚くべきものであり、動物と人、両方の集団での調査活動や、すべての人獣共通の感染症の調査の徹底とパンデミックへの準備計画を強化することが必要になります。

WHOの取り組み

 WHOは、世界の健康問題に関して指導力を発揮する能力(を維持する)中で、世界インフルエンザ・サーベイランス及び対応システム(GISRS)を通じて、鳥やその他・動物と人獣共通のインフルエンザ・ウイルスへの緊密な監視を続けています。WHOは、国際獣疫事務局(OIE)、国際連合食糧農業機関(FAO)と連携して、人と動物の接点での調査活動を実施し、関係するリスクを評価し、公衆衛生上、人畜共通のインフルエンザの感染発生やその他の脅威への対応を図っています。

 WHOは、リスク・アセスメントに基づいて、インフルエンザ - 季節性、人畜共通およびパンデミックとなるインフルエンザへの調査活動、準備および対策への戦略を作成し、修正を加え、指針を公開しています。そして、各国と世界での対策と準備を強化するために、リスク評価の結果や加盟国への介入の勧告事項の情報伝達を速やか行っています。

出典

WHO Fact sheet, Media centre.Reviewed January2018
Influenza(Avian and other zoonotic)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/avian_influenza/en