ポリオウイルスの国際的拡大に関する国際保健規則(IHR)緊急委員会第16回会議でのWHO声明

2018年2月14日 WHO (原文[英語]へのリンク

 国際保健規則[IHR(2005)]に基づき、ポリオの国際的感染拡大に関する第16回緊急委員会が、事務局長の要請により、委員会委員、アドバイザー、要請された加盟国の代表者らが招集されて、2018年2月7日にテレビ会議によって開かれました。

 緊急委員会では、野生型ポリオウイルス1型(WPV1)とワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の資料について検討されました。事務局は、感染の発生しているIHR加盟国での一時勧告の実施状況について報告書を提示しました。また、アフガニスタン、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、パキスタン、シリアのIHR各加盟国からは、前回2017年11月14日に開かれた委員会以降のWHO一時勧告の実施状況についての更新情報が提示されました。

野生型ポリオ

 全体の状況として、委員会は、2017年の患者数がこれまでの最低にまで減少し、野生型ポリオウイルス1型(WPV1)の根絶に向けた進展が続いていることを前向きに捉えました。また、2017年11月の第15回会議以降、野生型ポリオウイルスの国際的な拡がりはありませんでした。

 委員会は、アフガニスタンとパキスタンの両方で高いレベルでの公約履行が見られること、特に、遊牧民ら、国境にまたがる地元の住民、季節性の出稼ぎ労働者やその家族、(公式と非公式の)難民帰還民、疎開児童(国境を越えて親戚と一緒にいる子供たち)など、国際的に国境を越えて移動するリスクの高い人たちを対象として、高度な協力と調整を図っていることを称賛しました。これらの集団での感染の阻止は、引き続き、調査とワクチン接種において国境を越えた活動を重要視することが必要とされることから、過小評価できない大きな課題となっています。

 委員会は、パキスタンで、2017年に患者数がこれまでに僅か8人にまで減ったこと、2018年に入り現在も患者が発生していないこと、(ワクチン接種の)利用環境が大幅に改善され、未接種の子どもを減らすための意思疎通や補完的な予防接種活動(SIA)の質が着実に向上していることの達成していることなどを評価しました。しかし、Karachi(カラチ)、Peshawar(ペシャワル)、the Quetta Block(クエッタ地区)では、環境調査で検体の陽性率が最も高く、国内には、たくさんの感染リスクの高い地域があり、野生型ポリオウイルス1型(WPV1)の感染伝播が認められる状態が続いています。Karachi、Kila Abdullah、Pishin、Punjabのそれぞれの街では、オーファン・ウイルス(遺伝子解析で他のウイルスとの密接な関連がみられないウイルス)が検出され、見逃されている感染経路と調査体制の間に解離があることが示されました。委員会は、クェッタにおいて最前線のポリオ活動者2人が殺されたことを知り、深い哀悼の意を示しました。そして、根絶への活動を続けるパキスタンの計画に並外れた責任への姿勢があることを理解しました。

 委員会は、アフガニスタンでの進展が停滞し、特に南部地域では2017年に14人、2018にも既に患者が3人発生しており、(ワクチン接種の)利用環境がなく、接種を逃したたくさんの子どもたちが抱える根絶へのリスクが続いていることに懸念を示しました。ワクチン接種の)利用環境のない状況は時間の経過とともに変わる可能性がありますが、慢性的にポリオ(根絶)プログラムで達しできていない子どもたちが約23,000人に上ります。一部の国での暴力や治安の低下は、現在、国際的なすべてのプログラムの運営に影響を及ぼしており、その増加は深刻な懸念を示していました。

 委員会は、ボルノ州の子どもたちに(ワクチンを)接種するためにナイジェリアで続けられている新たな取り組みを称賛しました。しかし、ワクチン接種を利用できない地域で暮らす住民の数は減っていながらも、全くワクチン接種を利用できない住民が、ボルノ州には残っており、実際に(そこには)5歳未満の子どもたちが約16万もいます。国際的に共同歩調をとったワクチン接種キャンペーンなど、一部では国境を越えた取り組みが行われていますが、これらの取り組みは、現在も見逃されているポリオウイルスが確実にチャド湖周辺の隣国に感染輸出されないようにするには不十分と思われています。委員会は、このようなワクチン接種を利用できない地域には、ポリオウイルスの感染伝播が残っているという現実的なリスクが存在すると結論づけました。また、ポリオとの戦いの中で政治の公的責任への認識が低下し、疲労度が増す兆候が見られるようでした。(ナイジェリア)連邦政府は、2018年初めに、2017年のポリオへの拠出金拠を発表しただけで、大統領直下の担当チームは会議を定期的に開くこともなく、ナイジェリア知事フォーラムは、もはやポリオ(根絶)プログラムへの積極的な関与を示しませんでした。また、委員会は、定期予防接種の接種率が低いこと、特にナイジェリア北部のリスクが高い地域で低くなっていることを議題としました。しかし、政府は定期予防接種を国の公衆衛生上の緊急事態と宣言し、Gavi(ワクチンと予防接種のための世界同盟)に積極的に(接種活動を)移行させようとしています。最後に野生型ポリオウイルス1型(WPV1)が検出されてから16か月以上が経過していますが、世界のポリオの専門家による最近の感染発生への対策の評価では、見逃された感染伝播が続いていることを否定できないという結論に達しました。

 チャド湖盆地周辺の国々は、各地でポコハラム勢力からの影響を受けており、国内避難民(IDP)や難民が集まり、(医療)サービスが不足することにともない、懸念が続いています。ナイジェリアから、チャド湖盆地の周辺地域、さらには遠く離れたアフリカ・サハラ以南の地域にかけて、(感染が)国際的に広がるリスクが高い状態に留まっています。(このため)委員会は、カメルーン、チャド、中央アフリカ共和国(CAR)、ニジェール、ナイジェリアなどのチャド湖盆地の周辺諸国が、引き続き、予防接種と調査活動への地域間の協力体制に関わることを促しました。しかし、これらの国々における住民の(ワクチン)接種率には広範囲で持続する解離状態があり、地域内で続く人口の移動や治安の不安定さは大きな課題となっています。

ワクチン由来ポリオウイルス

 コンゴ民主共和国では、Tanganyika(タンガニーカ)州でさらに感染の伝播があり、2型単価の経口ポリオワクチン(mOPV2)のさらなる巡回が必要となりました。多くの地域で調査体制が貧弱であり、住民の免疫機能との間に広い解離があることから、リスクは増してきています。委員会は、国際的なリスクの拡がりを最小限に抑える意識の欠如など、対策が十分に緊急性をもった位置づけに置かれていないことや、対策のいくつもの側面で緊急性が欠落していることなどに、特に懸念を示しました。来るべき選挙が住民を不安にさせる可能性をもち、感染の発生をくい止めるべきこの国の対応能力に対して新たなリスクとなっていることが議題に上げられました。

 委員会は、シリアでワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)の発生規模に懸念を抱いているものの、取り組みが行われていることに力を得ました。シリアは、紛争が続くために全ての住民に(ワクチンを)届けることに大きな困難があることが指摘されています。レバノンとの間では国境を越えた連携を行われていますが、他の近隣諸国との間でも同様の取り組みが必要とされ、行われているかは、定かではありません。このことは、ポリオウイルス2型への集団免疫が世界で急速に低下し、シリアの国境を越えてリスクの拡大が大きく増幅してきており、早急に、感染を遮断するための緊急的な行動を取る必要があるために、特に重要(な問題)です。

 委員会は、ソマリアMogadishu(モガディシュ)の下水道から、最近、3つの地域に拡がったワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されたことに懸念を示しました。予防接種を利用できる環境にない多くの地域で、感染伝播が遮断されていることの判定を慎重に行うために、12月、1月、2月にポリオウイルス2型単価のワクチン(mOPV2)と不活化ワクチンへの対策が必要となります。

 前回の委員会以降、パキスタンでは新たなワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)は検出されていません。前回、ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されてから16か月以上が経過しているので、パキスタンワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)感染国の基準から外れることとなります。しかし、ナイジェリアでは、感染発生への評価に基づいて、感染伝播の継続を除外することはできませんでした。

国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)に対する結論

 委員会は、ポリオの国際的な感染拡大が、現在も国際的な懸念に関する公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)にあることに全会一致で合意し、一時勧告をさらに3か月間長することを勧めました。委員会は、この結論に達する中で以下の点について検討しました。

  • 住民の移動により(感染)拡大のリスクは潜在していること。リスクは、家族的、社会的、文化的な理由、政情不安により移動してきた移住民、帰還する避難民、遊牧民などの状況下に潜在しています。これらのリスクに取り組むために国際的な協力が必要です。特に、アフガニスタンとパキスタン、ナイジェリアとチャド湖周辺諸国、シリア周辺の国々の間での協力が必要となります。
  • 2017年に記録された野生型ポリオウイルス1型(WPV1)患者の発生数は、これまでで最も少なく、今まで以上にポリオ根絶に近づいた歴史上かつてない特別な状況にあること。
  • 世界で、最も深刻な疾患でありながら、ワクチンでの予防が可能な疾患を地球上から根絶する、そのことに失敗したときに生じるリスクは、結果としての莫大な費用につながること。世界規模での野生型ポリオウイルス1型(WPV1)の感染伝播は劇的に減少し、国際的に拡大する可能性が低下しているものの、(一旦)国際的な拡大が起これば、その結果と影響は重大ものとなり、根絶の達成は大きく後退します。
  • ポリオ患者数が減り続け、根絶が現実に迫ってきたことで、世界で自己満足が起こる危険性があること。
  • ナイジェリアでの野生型ポリオウイルス1型(WPV1)(およびワクチン由来ポリオウイルス)の感染発生は、(医療支援への)利用環境がなく、調査活動にも妥協を強いられる地域では、数年間も野生型ポリオウイルスの感染伝播が確認されない状況でも、明らかにリスクの高い地域が存在すること。チャド湖周辺地域は感染伝播のリスクが高いと思われます。
  • 紛争や複雑な緊張状態によって予防接種体制が弱体化し崩壊した国が増えていることで、国際的に感染がさらに拡大する深刻な社会的影響があること。これらの政情不安定な地域に住む人々は、ポリオに集団感染しやすくなっています。政情不安定な地域での感染の発生は感染の制御が極めて難しく、最終局面で、世界からポリオを根絶することの完結を脅かします。
  • 数多くのポリオの国際的な拡大が国境を越えて発生しているため、地域全体での感染対策や国境での協力体制の強化が重要となること。一方で、ポリオの感染伝播が活発な地域から遠隔地にも、感染が国際的に拡大するリスクがあることへの認識が必要なこと。
  • さらに、ワクチン由来のポリオウイルスに関して以下の点について議論しています。
    • ワクチン由来のポリオウイルス(cVDPVs)は国際的に拡大するリスクをもたらすこと。適切な措置と緊急の対策を講じなければ、特に、既に述べてきたような感染しやすい人々には脅威となること
    • 紛争を逃れるために住民が移動を続けている状況において、イラクとの国境に近いシリアの狭い地域で短時間に、たくさんの患者が発生したことは、国際的な拡大へのリスクを相当に高めていること
    • コンゴ民主共和国とシリアで続いているワクチン由来のポリオウイルス2型(cVDPV2)の感染伝播は、ポリオの終焉に向けた重要な時期に住民の集団免疫に大きなギャップを示していること
    • 2016年4月に2型の経口ポリオワクチンを世界同時に撤退させたことで、多くの国ではワクチン由来のポリオウイルス2型(cVDPV2)に対する住民の免疫能力が弱まっており、ワクチン由来のポリオウイルス2型(cVDPV2)への予防には引き続き緊急性があること
    • 政情の不安定やその他の緊急事態から影響を受けている地域では、課題として定期予防接種を向上させる取り組みを継続させるべきこと
    • 世界中での不活化ポリオワクチンの不足は、新たなリスクをもたらしており、(リスクが)数値上、(ポリオウイルス)2型への免疫力のない子どもを対象とした前向き調査の結果、在庫不足の影響を受けている国で膨らんできていること

リスクの分類

 委員会は、リスク分類に基づいて、野生型ポリオウイルス1型とワクチン由来ポリオウイルスの国際的拡大へのリスクを軽減することを目的とした以下の助言を事務局長に提出しました。

  • 野生型ポリオウイルス1型、または、ワクチン由来ポリオウイルス1型か3型の感染が発生し、国際的に(感染が)拡大する潜在的リスクのある国
  • ワクチン由来ポリオウイルス2型の感染が発生しており、国際的にリスクが拡大する可能性のある国
  • もはや野生型ポリオウイルス1型の感染もワクチン由来ポリオウイルスの感染も発生していないが、野生型ポリオウイルス又はワクチン由来ポリオウイルスへの感染に脆弱な国

 野生型ポリオウイルス1型の感染もワクチン由来ポリオウイルスの感染も発生していない国の評価基準

  • ポリオウイルス感染者:直近の症例が発症した日から12か月、加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日、もしくは、直近の患者から12か月以内に発症し報告された急性弛緩性麻痺の全患者がポリオに対し検査され、野生株1型とワクチン由来のポリオウイルスが除外され、かつ、直近の患者から12か月以内に集められた環境サンプルも陰性となり、何れもがさらに長く続いているとき。
  • 野生型ポリオウイルス1型もしくはワクチン由来ポリオウイルス(ポリオウイルス患者を除く)の環境下・その他からの分離:直近の環境下、もしくはその他(健康な子どもの検体)での陽性検体の採取にから12か月と、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日。
  • これらの判断基準は、調査活動との解離と関連して、より厳格さな評価(例えば、ボルノ州)が必要とされる(感染の)常在国では変わることもあります。

 これらの判定基準で、もはや感染がないとの基準を満たす国は、さらに12か月間は、(感染に対し)脆弱であるとみなされます。この期間を経た後に、最終報告書に基づき、委員会が懸念はないと判断すれば、以後、その国は一時勧告に従う必要がなくなります。

一時勧告について

野生型ポリオウイルス1型、または、ワクチン由来ポリオウイルス1型か3型の感染が発生し、国際的に(感染が)拡大する潜在的リスクのある国:アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア

 これらの国には、以下の行動の実行が求められます。

  • もし、宣言がなされていないならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝播の阻止が国家の公衆衛生上の緊急事態であることを宣言し、ポリオ根絶に必要とされる全ての対策が実施されるべきです。その旨の宣言が既に行われている国では、この緊急事態の状態が維持されるべきです。
  • 全ての年齢を対象に、住民および4週間以上の長期滞在者は全員、国際渡航の12か月前から4週間前までに2価の経口生ポリオワクチン(bOPV)又は不活化ポリオワクチン(IPV)の接種1回を受けていることを確認すべきです
  • 4週間以内に急な旅行を行う人々で、12か月前から4週間前までに経口生ポリオワクチンもしくは不活化ポリオワクチンを接種していない人には、出発までに1度はポリオワクチンを接種していることを確認すべきです。これでも、有効性があります。特に、これは頻繁に旅行する人に当てはまります。
  • そのような渡航者には、ポリオワクチンの接種記録として、IHR(2005)別添6で明記された国際予防接種証明書または予防接種の証明書が発行されていることを確認すべきです。
  • 適切なポリオ予防接種の書類を欠いたままでは、いかなる居住者にも出発の時点で海外渡航を制限すべきです。これらの勧告は、渡航の手段(例えば、陸、空、海)に関係なく、すべての出発地から海外渡航する者に適用されるべきです。
  • これらの国は、国境を越える旅行者や国境周辺に住むハイリスクの人々へのワクチンの接種率を大幅に高めるために、国、地域、地方レベルで連携して大きく(環境を)向上させることによって、国境を越えた取り組みをさらに強化する必要があります。国境での連携の向上には、国境通過の際にワクチン接種の状況を確認するための管理を強化するとともに、国境を越えた後にワクチン未接種が確認された旅行者の割合を追跡することなどが含まれている必要があります。
  • 定期の予防接種の接種率は、特に世界が根絶に近づくにつれて、ポリオ根絶への戦略の重要な要素となることから、接種率のデータを共有するなどして、定期の予防接種の接種率を高める取り組みを、さらに強化する必要があります。
  • これらの対策は以下の基準が達成されるまで継続されるべきです。(i)新たな感染がなく、少なくとも6か月を経過すること、(ii)すべての感染地域やハイリスク地域で質の高い根絶活動が完全に実施されたことの証拠書類が作成されていること、そのような書類がない場合には、その国がもはや感染がないことを評価する上記の基準を満たすまで、これらの対策が継続されること。
  • 海外旅行に関する一時勧告の実施状況の報告書を事務局長に提供する必要があります。

ワクチン由来ポリオウイルス2型の感染が発生しており、国際的にリスクが拡大する可能性のある国:コンゴ民主共和国、ナイジェリア、シリア

 これらの国には、以下の行動の実行が求められます。

  • もし宣言していなければ、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝播の阻止が国家の公衆衛生上の緊急事態であることを宣言し、ポリオ根絶に必要とされる全ての対策が実施されるべきです。その旨の宣言が既に行われている国では、この緊急事態の状態が維持されるべきです。
  • ポリオウイルス2型への感染に対応するためには、(他の対策から)切り離した体制が必要であることに留意して、2型単価の経口生ポリオワクチンに対する諮問グループの勧告に基づき、世界規模で備蓄中の2型単価の経口生ポリオワクチンからワクチンを要請することを検討する必要があります。
  • 居住者と長期滞在者は(もし国内での使用が可能ならば)海外渡航の12か月前から4週間前までに不活化ポリオワクチン(IPV)の接種1回を受けることを推奨すべきです。4週間以内に急に旅行に出る人々でも、出発までに1回は(ポリオワクチンを)接種することを推奨すべきです。
  • そのようなワクチン接種を受けた渡航者がポリオワクチンを接種している状況の記録を示す適切な文書を所有していることを確認すべきです。
  • 諮問グループからの助言に基づき、ポリオウイルスの早期発見のための調査活動を強化し、難民、旅行者、国境を越える人々にワクチンを接種するために、国境を越えた地域協力の体制を強化することが必要です。
  • 定期の予防接種の高い接種率は、特に世界が根絶に近づくにつれて、ポリオ根絶への戦略の重要な要素となることから、接種率のデータを共有するなどして、定期の予防接種の接種率を高める取り組みを、さらに強化する必要があります。
  • これらの対策は以下のような基準が達成されるまで継続されるべきです。
    1. (i)国内のどのような検査検体からもワクチン由来ポリオウイルス2型の感染伝播が検出されることなく少なくとも6か月間が経過すること
    2. (ii)すべての発生地域とハイリスク地域で質の高い根絶活動が完全に実施されたことの証拠書類が作成されていること。そのような書類がない場合には、その国が「もはや感染がない国」を評価する基準を満たすまで、これらの対策は継続されること。
  • 感染伝播の証拠なく12か月間を終えたときには、一時勧告を実施するために取られた対策に関する報告書を事務局長に提供する必要があります。

もはや野生型ポリオウイルス1型の感染もワクチン由来ポリオウイルスの感染も発生していないが、野生型ポリオウイルスやワクチン由来ポリオウイルスへの感染に脆弱な国

  • カメルーン(最後の感染発生は2014年7月9日)
  • 中央アフリカ共和国(最後の感染発生は2011年12月8日)
  • チャド(最後の感染発生は2012年6月14日)
  • ニジェール(最後の感染発生は2012年11月15日)

これらの国には、以下の行動の実行が求められます。

  • 人々の免疫応答能を増強するために、定期予防接種を早急に強化すること。
  • 検出されていない野生型ポリオウイルス1型やワクチン由来ポリオウイルスが伝播するリスク、特にリスクの高い移動民と感染に脆弱な人々のリスクを下げるために、環境調査などの補足的な方法の導入を検討し、調査活動の質の強化を図ること。
  • 移動民、国境を越える人々、国内避難民、難民やその他にも感染に罹りやすい人々へのワクチン接種を確実に実施する取り組みを強化すること。
  • 野生型ポリオウイルス1型とワクチン由来ポリオウイルスの速やかな発見とハイリスクの集団へのワクチン接種を確実に実施するために、地域協力と国境を越えた連携を強化すること。
  • 質の高い調査活動とワクチン接種活動で当てはめた記録を作成し、これらの対策を維持すること。
  • 野生型ポリオウイルス1型の再侵入や、新たに出現し伝播するワクチン由来ポリオウイルスの証拠なく12か月が経過したときには、一時勧告を実施するために講じた対策について事務局長に報告書を提出すること。

※チャド湖周辺の国々は、ナイジェリアが、もはや野生型ポリオウイルス1型の感染もワクチン由来ポリオウイルスの感染も発生していないと見なされたときと連動することになっています。

その他の検討事項

 委員会は、感染の発生している国と感染に脆弱なすべての国で、国全体ではなく、地域下の一部に着目したとき、定期の予防接種が全体に全く浸透していないことを議題に上げました。また、委員会は、これらの地域の調査活動が、最適な状態にない可能性、特に紛争によって利用環境が損なわれている場合に、調査活動が最適でない可能性について議題に上げました。委員会は、これらすべての国々が定期の予防接種の向上のために今以上の取り組み、このような地域で調査活動を強化することを強く促しました。また、根絶の土台となる定期予防接種の接種率を速やかに向上させられるように、これらの国々に対する国際組織の支援を要請しました。

 また、委員会は、ナイジェリアとチャド湖周辺の国々が国境を越えた取り組みを強め、共同での(感染への)計画と対策を膨らませていくことを要請しました。地域下で、特にチャド湖周辺で、感染に脆弱な住民を特定し、そこに(医療支援を)到達させるには徹底した取り組みが求められます。委員会は、ナイジェリアで予防接種を受ける外国人旅行者の数が少ないことを重視し、達成度の報告を含め、旅行者の予防接種に対する一時勧告の実施を向上させる必要があることを再度勧告しました。その上で、ナイジェリアには、次回の緊急会議で対策の様子を事務局に報告ことを要請しました。ナイジェリアには、引き続き政治的な責任を果たし、ポリオとの戦いにおいての疲弊に対処するための対策を講じる必要があります。同様に、コンゴ民主共和国政府も、ワクチン由来ポリオウイルス2型によるポリオの発生を踏まえ、公衆衛生上の緊急事態として、今以上に、コンゴ民主共和国からワクチン由来ポリオウイルス2型が国際的に拡大することの防止に注意を払う必要があります。近隣諸国は、世界的なIPVの不足の影響を受けていることが話合われました。

 委員会は、ウクライナやソマリアなど、これまでに一時勧告を受けていた国々に引き続き問題があることを強示し、事務局に対して、これら国々やその他これまでに感染の発生していた国での監視を継続することと、国際的な拡大へのリスクをもたらすこの委員会の(挙げるべき)問題であることを強く示しました。委員会は、次の会議でソマリアの状況についての最新情報を要請しました。

 野生型ポリオウイルス1型およびワクチン由来ポリオウイルスに関する現状と、アフガニスタン、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、パキスタン、シリアによって作成された報告書に基づき、事務局長は、委員会の評価を受け入れ、2018年2月13日において、ポリオウイルスに関する状況が、引き続き、野生型ポリオウイルス1型とワクチン由来ポリオウイルスの両方に対して、国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)に該当すると決定しました。事務局長は、「野生型ポリオウイルス1型、または、ワクチン由来ポリオウイルス1型か3型の感染が発生し、国際的に(感染が)拡大する潜在的リスクのある国」、「ワクチン由来ポリオウイルス2型の感染が発生しており、国際的にリスクが拡大する可能性のある国」、そして「もはや野生型ポリオウイルス1型の感染もワクチン由来ポリオウイルスの感染も発生していないが、野生型ポリオウイルス又はワクチン由来ポリオウイルスへの感染に脆弱な国」の定義に合致する国に対する委員会の勧告に署名しました。そして、事務局長は、2018年2月13日から有効となるポリオウイルスの国際的な拡大のリスクを低下させるためのIHRの下での一時勧告を延長しました。

出典

WHO.Media center news.WHO Statements. 14February2018
Statement on the16th IHR Emergency Committee meeting regarding the international spread of poliovirus.
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2018/16th-ihr-polio/en/