腸チフス (ファクトシート)

2018年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 腸チフスは、チフス菌(Salmonella Typhi)を原因とし、生命を脅かす感染症です。通常、細菌を含んだ食べ物や水を介して拡がります。
  • 推定で1,110万から2,000万人がチフスに罹り、毎年128,000~161,000人がチフスで死亡しています。
  • 症状には、遷延する高熱、疲労感、頭痛、嘔気、腹痛、便秘、下痢などがあります。患者の一部には、発疹も現れます。重症の患者になると、重篤な合併症を起こし、死に至ることさえもあります。
  • 腸チフスは、さまざまな種類の抗生物質への耐性が増え、治療が複雑になってきていますが、抗生物質で治療できます。
  • 長年、チフスを予防するために2種類のワクチンが使われてきました。2017年12月に、長期間にわたり免疫を持続する新しい結合型・腸チフス・ワクチンが、WHOによって事前認定されました。

概要

腸チフスは、チフス菌(Salmonella Typhi)を原因とし、生命を脅かす感染症です。通常、細菌を含んだ食べ物や水を介して拡がります。一旦、チフス菌(Salmonella Typhi)が飲食によって摂取されると、細菌が増殖し、血流に乗って広がります。

都市化や気候変動は、腸チフスの世界的な脅威を増大させる可能性をもっています。また、抗生物質による治療への抵抗性が高まり、腸チフスは都市部の過密な住居地や設備が不十分で溢れる上下水道設備を通して、容易に拡がっていきます。

症状

チフス菌(Salmonella Typhi)は人にしか生息しません。腸チフスに感染した人は、血液と腸管で細菌を運びます。症状には、遷延する高熱、疲労感、頭痛、嘔気、腹痛、便秘、下痢などがあります。患者の一部には、発疹も現れます。重症の患者になると、重篤な合併症を起こし、死に至ることさえもあります。腸チフスは、血液検査で確かめることができます。

疫学、リスク要因、および疾患の脅威

向上した生活条件や抗生物質の登場により、先進工業国では、腸チフスの罹患率や死亡率の劇的な減少がもたらされました。しかし、アフリカ、アメリカ、東南アジア、西太平洋地域の発展途上地域では、この疾患が引き続き公衆衛生上の問題となっています。

WHOは、世界における腸チフスの脅威が毎年1,110万から2,000万人におよび、128,000~161,000人がチフスで死亡していると推定しています。

腸チフスのリスクは、安全な水の利用環境が不十分で、衛生設備が整っていない住民で、より高くなっています。貧困な地域の住民や子どもを含む感染に弱い人々は、最もリスクが高くなっています。

治療

腸チフスは抗生物質で治療することができます。フルオロキノロン類を含む抗生物質に対する耐性が出現するに連れて、感染領域にはセファロスポリンやアジスロマイシンなど、より新しい抗生物質が使用されています。アジスロマイシンに対する耐性は散発的に報告されていますが、まだ一般的ではありません。

症状がなくなったとしても、人々は依然として腸チフスの運び屋となっていることがあります。糞便を介して他の人に伝播させることがあるからです。

(したがって)腸チフスの治療を受けている人にとって、次のことが重要となってきます。

  • 医師が処方している間は、処方された抗生物質を(必ず)服用してください。
  • トイレを使用した後、石鹸と水で手を洗い、他の人に食べ物を用意したり提供したりしないでください。こうすることにより、感染を他の人に伝播させる可能性が低くなります。
  • 治療する医者に、体内にチフス菌(Salmonella Typhi)が残っていないことの確認検査をしてもらってください。

予防

腸チフスは、衛生環境が悪く、安全な飲み水が不足している場所では一般的です。安全な水と適切な衛生設備の利用環境、食品の取り扱い業者の間での衛生維持、腸チフス・ワクチンの接種は、腸チフスの予防に大きな効果があります。

長年、チフスから人々を予防するために2種類のワクチンが使われてきました。

  • 2歳以上の者を対象に精製された抗原を基剤とする注射剤ワクチン
  • 5歳以上の者を対象にカプセル製剤にされた経口弱毒化・生ワクチン

これらのワクチンは、長期にわたる免疫能を維持できず、2歳未満の子どもには承認されていません。

生後6か月以上の小児に使用でき、長期間にわたり免疫を持続する新しい結合型・腸チフス・ワクチンが、2017年12月に、WHOによって事前認定されました。

感染が常在する地域に向かうすべての旅行者には、腸チフスへの潜在的なリスクがあります。しかし、宿泊施設、衛生設備、食品衛生の基準が高い観光地や商業センターは、一般的にリスクは低い状況です。腸チフスのリスクが高い地域に向かう旅行者には、腸チフス・ワクチンを接種しておく必要があります。

次の推奨事項は、旅行中の安全を確保することに役立ちます。

  • 食べ物が適切に調理されていることを確認すること
  • 生乳と生乳から作られた製品を避けること。低温殺菌または煮沸(消毒)された乳飲料だけを飲むこと
  • 安全な水で作られていない限り、氷(の摂取は)避けること。
  • 飲料水の安全性が疑わしい場合は、煮沸すること。それができなければ、信頼性の高い徐放性消毒剤(通常は薬局で入手可能)で消毒すること。
  • 石鹸を使用して、手洗いをすること。特にペットや家畜に触れた後や、トイレに行った後には、よく手洗いをすること。
  • 果物や野菜は丁寧に洗うこと。特に、生で食べるときには丁寧に洗うこと。できることならば、野菜や果物の皮を剥いてください。

WHOの取り組み

WHOは、2017年12月に、初めての結合型・腸チフス・ワクチンを事前認定しました。この新しいワクチンは、これまでのワクチンよりも長期に免疫能を維持し、必要な投与量も少なく、生後6か月の小児にも投与することができます。

このワクチンは、腸チフスの脅威が最も大きい国々に優先順位が付けられます。これは、腸チフス治療における頻繁な抗生物質の使用を減らすことに役立ち、抗生物質に耐性のチフス菌(Salmonella Typhi)の増加を遅らせられるからです。

WHOに助言を行っている予防接種に関する専門家の戦略的諮問委員会(SAGE)は、2017年10月に、腸チフスが常在する地域の国々に向けて、生後6か月以上の小児に定期的に結合型・腸チフス・ワクチンを推奨しました。また、SAGEは、腸チフスの脅威が最も高い国や抗生物質への耐性チフス菌(Salmonella Typhi)に優先させて、結合型・腸チフス・ワクチンを導入させることを求めました。

SAGEの推奨後に程なく、Gavi(ワクチンと予防接種のための世界同盟)理事会は、2019年に始める結合型・腸チフス・ワクチンの調達資金として8,500万ドルを承認しました。

出典

WHO. Fact sheet, Media Centre.January 2018Typhoid
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/typhoid/en/