米国の食品医薬品局 (FDA)は、H5N1型インフルエンザウイルスに対するヒト用ワクチンを承認したと発表した。この種のワクチンが米国で承認されたのは今回が初めてである。
H5N1型ウイルスは高病原性ウイルスである。現在、同ウイルスは主に鳥類で感染拡大しているが、これまでに世界中でヒト感染患者291名が発生している。もしこの鳥インフルエンザ株が効率的にヒト・ヒト感染する能力を獲得したならば、汎流行の危険性が高まる。FDAは、今回の新ワクチンは、より効果的なワクチンが開発されるまで、ヒトH5N1型ウイルス株に対して初期の限定的な感染予防のために提供されると説明した。
候補H5N1型ウイルスワクチンの開発は、WHOの汎流行準備戦略の一部である。2003年以来鳥類で感染循環している大部分のH5N1型ウイルスのヘムアグルチニン遺伝子は、少なくとも2群の系統学的クレード(clade, 遺伝子群)に分類される、プレパンデミックH5N1型ウイルスワクチンの複数の候補株が作製されており(例えば、ハンガリーのワクチンメーカーは2006年3月に仮の国家認可を付与された)、臨床治験が実施されたり、現在実施中であり、一部の国ではワクチン備蓄を開始している。全ての候補ワクチンは、カンボジア、タイおよびベトナムで2004年と2005年にヒト感染の病因となったウイルスに関連した遺伝子群 (clade 1)を使用している、Clade 2ウイルスは2003年から2004年にかけて中国とインドネシアで感染循環し、2005年と2006年に中東、ヨーロッパおよびアフリカに拡大した。Clade 2ウイルスは、2005年から2006年に発生した大部分のヒト感染患者の病因であった。
米国ワクチンに関しては、ノイラミニダーゼ遺伝子と遺伝子的に修飾されたヘムアグルチニン遺伝子を含むclade 1 H5N1型リファレンスウイルスが、ベトナムで2004年に感染者の臨床検体から分離されたH5N1型ウイルス株から作製され、米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)との契約下で、テネシー州にあるSt. Jude Children’s Researchによって製造された。
ワクチンは、28日間隔で2回接種される。このワクチンは市販されないが、必要な際の公衆衛生当局による頒布のための国家備蓄として、米国政府によって購入される。
合計で健常成人103名が、28日間隔で90μgの抗原を含むワクチンを2回筋肉注射で接種された。加えて、90μg未満の抗原量のワクチン接種を受けた健常成人約300名とプラセボを接種された48名を(対照に)おいた。90μg、2回のレジュメで接種された被験者のうち、45%がインフルエンザ感染リスクを減じると予想されるレベルで抗体が誘導された。
多数の製薬メーカーがヒトH5N1型ウイルスに由来するインフルエンザワクチンを開発中であると報告しており、一部のヨーロッパ諸国政府はそれらを備蓄することを計画している。H5N1型プレパンデミックワクチンの製造と備蓄は、次の汎流行の原因となるインフルエンザウイルス株はH5N1型株である可能性が高いであろうこと、こうしたワクチンは汎流行株と完全に一致しないまでも、一定の免疫誘導効果を示すであろうこと、汎流行ウイルス新興に先立って製造されたこうしたワクチンにより、特異性の高い「真」の汎流行ワクチンをただ待っているよりも、感染者や死者の発生を予防できるであろうという仮定に基づいて行われている。
2つの理由から、臨床的予防効果の相互関係は明らかになっていない。それは、第一に、ワクチン製造に使用された潜在的に致死性のウイルスに感染曝露させてワクチン効果を検証することは非倫理的であること、第二に、プレパンデミックワクチンが実際に汎流行の原因となるウイルス株にどの程度交叉感染予防効果を示すかを予測する方法がないからである。しかし、現在のエビデンスに基づき、European Medicine’s Agency Committee on Human Medicinal Products (CHMP)は、季節性ヒトインフルエンザワクチンの年1回の更新のための基準を設置しており、これは汎流行ワクチンにも適用される。許認可プロセスを進めるため、候補汎流行ワクチン(プレパンデミックワクチン)は以下の3基準を満たすべきである:
- 赤血球凝集抑制反応(HI)での力価上昇:2.5倍以上
- セロコンバージョン率:40%以上
- セロプロテクション率 (HI力価40倍以上と定義される):70%以上
この種のワクチンを広く利用できるようにするためには、抗原倹約戦略が必要で、これまでのデータからは、アジュバントと結合したワクチンは抗原量を有意に減少させること、つまり製造されるワクチン数が増やせることが確認されていることを注記すべきであろう。
用量が高レベル(その結果ワクチン接種できる人口が少ないこと)でかつセロコンバージョン率が比較的低率であることは、今回の新米国プレパンデミックワクチンの問題点である。すでにある候補H5N1型ワクチンと新ワクチンの比較、プレパンデミックワクチンウイルスの交叉反応性およびプレパンデミックワクチンと新興感染しているH5N1ウイルスとの関連の検討が進行中であり、定期的にWHOによって報告される予定である。
ヨーロッパ疾病予防対策センター (ECDC)は、H5N1型ウイルスワクチンのヒトでの使用に関する様々な問題を検討する2つの専門家諮問団を持っているが、それらによる合同報告書は6月末に公表される予定となっている。 |