2016年08月05日更新 WHOからのオリンピックへの旅行者に向けた健康アドバイス(その2)

 WHOは、7月26日に、オリンピックへの旅行者に向けた健康アドバイスを掲載しました。旅行前のワクチン接種と蚊が媒介する感染症への注意の2本の柱で構成されています。今回は、そのうちの後半、蚊が媒介する感染症への対処、その他について掲載します。

 第31回夏期オリンピックと夏期パラリンピックが、2016年8月5日から21日までと、9月7日から18日まで、それぞれにリオデジャネイロで開催されます。また、オリンピック・サッカー競技が5つの都市(ベロオリゾンテ、ブラジリア、マナウス、サルヴァドール、サンパウロ)でも行われます。

蚊が媒介する感染症

個人による予防対策
 
(開催が)冬の季節となるため、蚊が媒介する病気のリスクはかなり低いですが、それでも、蚊刺しからの個人による予防対策は必要です。対策には以下のことへの注意点があります。

日中、身体をできるだけ覆う衣服(明るい色が好ましい)を着ること。
DEET(ジエチル トルアミド)、IR3535、Icaridinが含まれる防虫剤を、露出した肌や衣服の上から使用しておくこと。防虫剤と日焼け止め剤を同時に使用する場合、最初に日焼け止め剤を使用し、その後に防虫剤を使用すること。
水道水、網戸などの物理的な障壁、空調設備などが備えられた部屋を選び、蚊の侵入を防ぐために出入り口と窓は確実に閉じること。
水道水がなく、下水道も整備されていない街(地域)は、蚊が繁殖することに適した場所となっているため、この地域を避けること

シマカ属の蚊によるアルボウイルスの感染伝播

 黄熱(予防接種が必要とされる病気)に加えて、シマカ属の蚊の媒介によって、チクングニア熱、デング熱、およびジカウイルス感染症が伝播されます。

デング熱およびチクングニア熱
 
デング熱とチクングンア熱のついての詳しい情報は、ブラジルの保健省、WHO、PAHO / AMRO(汎米保健機構)のウェブサイトで情報提供されています(ウェブサイトは英文またはポルトガル語です。代わりに、FORTHの医療関係者のページにはWHOから出されているファクトシートの翻訳を掲載していますので、参照にしてください)​​。チクングニアに対して接種できるワクチンはありません。デング熱に対するワクチンの接種は、旅行者には勧められていません。

ジカウイルス感染症
 
ジカウイルス感染症は、通常、軽度の症状しか起さず、ほとんどのジカウイルス感染症患者は無症状のままです。しかし、2015年にブラジルでジカウイルス感染症が流行し、その後、アメリカ大陸で流行が広がるに連れて、重度の神経障害の発生が異常な速さで増加し、母親が妊娠中に感染した子どもにも小頭症や先天性の神経奇形が見られました。また、成人には、重度の筋力低下を起こすものの、稀な病気であるギラン・バレー症候群(GBS)がみられました。集まってくる研究に基づいて、(いまでは)ジカウイルスが小頭症やギラン・バレー症候群の原因であるということが学術上の見解として出されています。性交渉による伝播も確認されています。しかし、ジカウイルスは、主に蚊によって広がっています。

 ジカウイルス感染症とその合併症に対する現在の知見に基づき、各国の保健当局や医療従事者には以下のことが促されています。

ブラジルを含めて、現在もジカウイルスの感染伝播が続いている地域を旅行する者に対して、感染リスクを下げるための適切な対策、具体的には、蚊刺しの防止と安全な性生活の実践(例えば、確実かつ一貫してコンドームを使用すること)へのアドバイスを、最新の情報で提供すること。特に、妊娠中または妊娠を計画している女性には、潜在する感染の影響や感染症よる合併症へのアドバイスを提供すること。避妊対策を取らなければ、性交渉によるジカウイルスの感染からは守れないことのアドバイスを提供すること。
ブラジルを含めて、妊娠女性には、現在もジカウイルスの感染伝播が続いている地域を旅行しないように助言すること。
ブラジルやジカウイルスの感染が続いている地域に滞在中または帰国して直ぐに、望んでいない妊娠が分かったり、(周りが)妊娠している女性に気づいたりしたときには、その女性に医療関係の情報提供者に医療相談を助言すること。
ジカウイルス感染症が流行している地域に住んでいる、又は、その地を旅行してきた性的パートナーをもつ妊娠女性には、安全で確実な性生活を過ごすか、妊娠期間中は性交渉を控えた方がよいことを助言すること。
ブラジルやジカウイルスの感染が続いている地域に滞在中は、安全で確実な性生活を過ごすか、その期間中は性交渉を控え、帰国後も少なくとも8週間はこれを続けること。もし、男性がジカウイルス感染症の症状を発症した場合には、少なくとも6か月間は安全で確実な性生活を過ごすか、その期間中は性交渉を控えること。
各国の担当当局は、ジカウイルス感染症が疑われる旅行者に適切な場所で検査し、医療処置が受けられるように、分かりやすいガイダンスに現場の医療従事者に提供すること。
各国の担当当局は、調査活動、速やかな発見への対処能力を強化し、ジカウイルス感染症に対処すること。ジカウイルスの存在が強く疑われる場合には、速やかにWHOとの情報伝達を行うことが、強く勧められます。
オリンピック大会から帰国した後に、蚊に刺されることや、そのことで他の人に感染を広げる可能性のあることから、少なくとも3週間は防虫剤を使用するなど個々人で防蚊対策を取ることを全ての旅行者に助言すること。
ブラジルを離れた後、その後の潜在的な感染伝播のリスクを下げるために、少なくとも4週間は献血をしないように助言すること。
医療従事者はブラジルから帰国後2週間以内の者には、ジカウイルス感染症の症状を発現していないか注意するとともに、ジカウイルスに感染して帰国した者には各国のプロトコルにしたがって管理を行うこと。

マラリア(ハマダラカにより媒介される病気)

 アマゾン川流域を除けば、ブラジル北部の州を含めて、マラリアの感染伝播は無視できる状態、または存在しない状態です。アマゾン川流域には、オリンピックのサッカー大会の試合が組まれている都市マナウスが該当します。

 熱帯熱マラリア原虫による感染症は、ブラジルでのマラリア患者の約15%を占めています。マラリアが発生する地域では、防蚊対策(防虫剤の使用、殺虫剤によって処理した蚊帳の中で睡眠を取ること)に加えて、アトバコン-プログアニル、ドキシサイクリン、メフロキンなどの予防投与薬を、報告される副作用と禁忌肢にしたがって、選択して使用することを考える必要があります。また、マラリアへの感染リスクの低い農村地域に向けた旅行では、防蚊対策は待機的に緊急治療(SBET)と結び付けることができます。

 ブラジル保健当局によるリスク評価に基づいたブラジルのガイドラインでは、マラリアの予防投与薬に対する推奨事項が書かれていません。そのため、ブラジル滞在中には予防投与薬の入手が制限されるため、旅行前に購入しておく必要があります。ブラジルでマラリア感染の危険地域を旅行している間に発熱性の病気に罹った旅行者は、速やかに医師の診察を受けることが必要です。旅行の後、発熱性の病気に罹った人は、1年間は自分の旅行歴について受診した医療者に説明することが必要です。マラリアに対して勧められているワクチンはありません。

性行為感染症(ジカウイルス感染以外)

 HIV、梅毒、淋病、クラミジア、ヘルペス、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびその他の性行為感染症への感染リスクは、主に、性行為におけるリスク行動に関わった旅行者、特にセックスワーカーや男性間で予防せずに性交渉に関わった者、および、注射薬物の薬物使用者に限定されます。したがって、安全な性行動を取ること、具体的には一貫して適正にコンドームを使用することが促されます。ブラジルの担当当局は性行為感染症、エイズ、肝炎に関連して健康増進および予防のキャンペーンを開始しました。

食物と水の安全性

 ブラジルでは胃腸への感染が頻繁に起こるため、臨床現場の医療従事者は、安全への信頼のない食べ物や飲み物を原因とする病気を避けるため、予め注意を払う必要があることを旅行者に助言しておく必要があります。これらの予防措置には、頻繁に手を洗って食べ物を取り扱い、食べることが含まれます。旅行者は、食べ物が完全に調理され、熱が通っていることを確かめることが必要です。旅行者は、既に、皮がむいてあったり、切ってある果物や野菜を避け、未調理の食べ物を如何なるときも避けることが必要です。旅行者は、食べ物が熱処理、又は冷蔵/冷凍保存されていなければ、ビュッフェ、市場、レストラン、露店などで食べることは避ける必要があります。健康を保つためには、安全に対し信頼のある水を選ぶことが重要です。旅行者はボトルに入った水を使うことが無難であり、もし、疑わしければ、徹底して沸騰水を使うことが必要です。

 オリンピックとパラリンピックを開催するイベント会場を含めて、リオデジャネイロの貯水池の水質は、下水からの汚染が理由で準適切となっています。是正措置が取られている間も、旅行者は管轄する行政組織が発信するアドバイス情報に従うことが必要です。

その他の感染症のリスク

 もし、超満員の室内に滞在しなければ、結核や髄膜炎など空気感染する病気への感染リスクは限られています。

 ベロオリゾンテ地域を旅行する者は、ブラジルのダニが媒介する細菌性リケッチア(R. rickettsii)によって引き起こされる紅斑熱を念頭に置くことが必要です。げっ歯類で感染したカピバラと接触することで感染する可能性もあります。

 サルヴァドール地域を旅行する者は、ライ菌によって引き起こされるライ病を念頭に置くことが必要です。この病気は、皮膚や粘膜から、感染した動物の尿で汚染された水や土と接触することで引き起こされます。あらゆる種類の動物が細菌を運ぶことができます。

 (皮膚と内臓の両方の)リーシュマニア症、住血吸虫症、リンパ管フィラリア症、およびその他の顧みられない熱帯病へのリスクが、主に、ブラジル北東部地域の農村部と結び付けられます。

安全と保安およびその他の健康上のリスク

 窃盗や暴力行為などの犯罪が、ブラジルで発生しています。(常に)注意を払いながら、認可を受けた空港タクシーやシャトルバスを使用し、夜間には1人で出歩くことを避け、危険な地域を避け、仲間と一緒に旅行することを旅行者に促すことが必要です。

 ほとんどの自動車衝突による交通事故や怪我が、55歳未満では、旅行者の主たる死亡原因となっています。豪雨の後、特に都市部では、洪水や土砂崩れがしばしば怪我やその他緊急事態の原因となっています。

 ブラジルを旅行する者は、日焼け止め、サングラス、帽子を使うことで太陽からの被爆を防止し、ボトル入り飲料水を飲むことで脱水を避ける予防処置を講じることが必要です。

 旅行者は、サソリやヘビなどの有毒動物がいることを認識し、そのような動物との接触を避けるための予防措置を取る必要があります。地元の保健当局は、特定のリスクのある地域について、より詳細な情報を提供することができます。

 医療関係者は、旅行に関連するいくつかの病気が長い潜伏期間をもつことから、日頃から患者からその旅行歴を体系的に聴取していくことが、よい実践となります。

 これらのアドバイスを参考に、旅をよいものにしてください。

出典

WHO. International travel and health. 26 July 2016
Brazil - Health Advice for Travellers to the 2016 Summer Olympic and Paralympic Games
http://www.who.int/ith/updates/20160621/en/