2017年06月02日更新 媒介昆虫を管理する新しい対策

 2017年6月1日に、WHOから、媒介昆虫を管理する新しい対策についての記事が掲載されています。これを、紹介致します。

記事の詳細

 2016年5月に、昆虫により媒介される感染症が世界的に広がりをみせていることを受けて、WHO事務局長から、新たに(対策に)取り組むことへの、呼びかけが行われました。

 (WHO事務局長)Margaret Chan博士は、第69回WHO総会で、次のように述べています。

 「現在、私たちが目にしているのは、新興感染症および再興感染症の脅威が、再び、急速にわき上がってきていることです。」「世界は、(まだ)これに対応する準備ができていません。」

 Chan博士は、結果として、ジカウイルス感染症の拡大、デング熱の再興、およびチクングニア熱からの新たな脅威などが、1970年代からの蚊に対する対策が政策として弱かったのだと述べました。この10年間で、媒介昆虫への対策資金と取り組みは、大きく減らされてきました。

媒介昆虫への対策は優先項目とされていない

 Ana Carolina Silva Santelli博士は、この状況を目の当たりにしました。彼女は、ブラジル保健省とともに、マラリア、デング熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱の(感染対策)計画の指導者として、この13年間にわたり取り組んできました。しかし、媒介昆虫の対策への取り組みは衰えてきていることを知りました。(殺虫剤の)散布基剤、殺虫剤などの必要物品、昆虫学者などの人材に対し、必要に応じた入れ替えが行われていませんでした。即ち、「媒介昆虫への対策は優先項目とされていませんでした。」と、彼女は述べています。

 現在、世界の住民の80%以上が、単一もしくは複数の媒介昆虫からの感染症の危険に曝されていることが直ぐに分かります。蚊は、マラリア、リンパ性フィラリア症、日本脳炎、西ナイルなど、いくつもの感染症を伝播できます。ハエは、オンコセルカ症、リーシュマニア症およびヒト・アフリカ・トリパノソーマ症(睡眠病)などを伝播できますし、南京虫やダニは、シャーガス病、ライム病、脳炎を伝播できます。

 主な媒介昆虫による感染症を合わせると、最もリスクの高い熱帯および亜熱帯地域で貧困に苦しむ住民から、毎年700,000人もの生命を奪っています。別種の媒介昆虫によるダニ媒介性脳炎のような感染症も、温帯地域において、懸念が大きくなってきています。

 計画性のない急速な都市化、国際旅行や貿易の大幅な増加、変わりゆく農業の方法、さまざまな環境の変化などは、世界中の媒介昆虫の拡散に火を付け、これまで以上に多くの人々を危険に曝しています。特に、栄養失調の人々や免疫力の弱い人々は、感染には弱くなります。

新しい(感染対策の)手段

 この1年間、WHOは、媒介昆虫への対策の優先順位を変える新しい戦略的アプローチ(手段)を主導してきました。世界マラリア(撲滅)計画と顧みられない熱帯病の対策部局は、熱帯病への研究と訓練のための特別プログラムに沿って、健康保健の主導者や感染対策の技術専門家らの経験を踏まえて幅広い協議を進めてきました。この行程は、カリフォルニア大学デイビス校昆虫学および疫学学科Santelli博士およびThomas Scott教授が率いる優れた研究者と公衆衛生学者のグループによって進められました。そして、その結果は、世界の媒介昆虫への制御対策(GVCR)2017-2030として提出されました。

Global Vector Control Response (GVCR) 2017-2030

 提出された対策計画は、WHO第70回総会で満場一致で採択されました。

 GVCRは、媒介昆虫への制御対策を根本的に変えるための鍵となる活動領域を示しています。
・媒介昆虫への制御対策は、単に殺虫剤を散布するだけでなく、(感染対策の)蚊帳を配布することも含むため、複数の分野で取り組みを調整することが必要です。蚊が利用する繁殖地を全て撤去するためには、保健衛生の主導者は都市計画者と協力する必要があるかもしれません。
・自らを感染症から護り、将来に感染症が発症することを防ぐためには、地域活動員が関わり活動することが必要となります。
・感染症や媒介昆虫の密度の増加に速やかに対応を開始し、いつ、どうして、期待どおりに取り組みが機能しなかったのかを確認するために、調査活動の強化が必要になります。
・媒介昆虫への対策手段(の選択肢)を増やして、それらを組み合わせながら使っていくことで、環境への影響を最小限に抑えながら感染症への効果を最大に引き出すことが必要です。

 新しい統合的なアプローチでは、具体的に、各国の(取り組みへの)計画を再調整することが求められます。そうすることで、保健衛生の関係者は(感染に)関与する昆虫に正確に焦点を当て、そこで引き起こされるすべての病気を制御できるからです。

 取り組みは、現地の必要性に合わせて継続できることを採用していかなければなりません。その認識を前提に、取り組みの成功には、各国の対処能力が、財源、担当スタッフを伴いながら媒介昆虫への対策計画を強化することにかかっています。

新たな介入を求める積極的な呼びかけ

 GVCRは、新しい有望な介入手段を積極的に求めています。そのような手段には、新しい殺虫剤の開発、(部屋の)空間での虫除け剤や匂いで虫を誘き寄せる装置の発想、家の清掃方法の改善、蚊の中でのウイルスの複製を阻止することで共通する細菌の開発の探求、子孫が早く死ぬようにする蚊(雄)の遺伝子の改変、などがあります。

 経済発展も解決策をもたらします。「人々が網戸やエアコン付きのも窓のある張り床のある家に住んでいれば、蚊帳は必要ではなくなります。」「人々の生活水準を向上させれば、これらの感染症を大きく減らすことができます。」と、Scott教授は語りました。

 媒介昆虫の対策に一貫性をもって(個人ではなく)全体に対する対策手段を講じることは、個々人の媒介昆虫への対策(意識)の浸透を減らすものではありません。

 マラリアが格好の例です。過去15年間で、サハラ以南のアフリカでは、主に殺虫剤処理された蚊帳の大量使用と屋内での残留殺虫剤の散布を行ったことによって、(マラリアの)発生率が、45%減りました。

 しかし、その成功には盲点がありました。

 英国ダラム大学の公衆衛生学昆虫学者Steve Lindsay教授は、「私たちは、いくつもの方法で(感染対策を)成功に導いたことで、公衆衛生学昆虫学者の数を減らし、そこで上手く仕事をしていける人の数を減らしました。私たちは消えつつある品種です。」と述べています。

 GVCRは、各国が公衆衛生学昆虫学で訓練を受けた媒介昆虫対策の労働力(育成)に投資し、保健衛生対策を上手く進めていくことを呼びかけています。

 また、Lindsay教授は、「今は、単一の規模で適合した対策ではなく、もっと現地の状況に合わせた対策が必要です。」「これは、新しく出現してきた感染症に取り組むために必要なだけでなく、マラリアなどの他の感染症を撲滅するためにも必要となります。」とも述べています。

 Lindsay教授は、新しい戦略的なアプローチの下で、ジカウイルス感染症、デング熱、チクングニア熱など、それぞれの感染症が、もはや独立した脅威ではないことを指摘しました。「これは異なった3つ感染症ではなく、1種類の蚊(Aedes aegypti:ネッタイシマカ)による感染症です。」と、Lindsay教授は述べました。

GVCRは継続可能な進展目標を組み合わせています

 GVCRは、17項目ある継続可能な進展目標のうち、各国が、少なくとも6項目を達成することを支援しています。直接に関係する項目のうち、良好な健康状態と福利に関する目標が3項目、飲み水の安全性と衛生に関する目標が6項目、継続可能な都市化と地域社会に対する目標が11項目です。

 GVCRは、媒介昆虫による感染症の死亡率を少なくとも75%、2030年までに少なくとも60%減らし、すべての国で感染の流行を防ぐという野心的な目標を立てています。

 年間費用は、活動員の労働、その調整、調査活動を含めて、世界で3億3000万米ドル、1人当たり約5セントです。これは、年間1人あたり1米ドルを超える殺虫剤で処理された蚊帳、屋内での(殺虫剤)散布、および地域ベースの活動に関連する投資からすれば、慎ましやかな追加投資です。

 また、マラリア、デング熱、シャーガス病を伝播する媒介昆虫への対策の戦略に費やされる毎年の金額の10%にも満たない額です。結局のところ、統合して、現地に合わせた媒介昆虫への対策に焦点を当てれば、費用を節約することができます。

 「(新たな対策への)取り組みの呼びかけ」

 Santelli博士は、各国の保健省が新たに媒介昆虫への対策に焦点を当てることに対してそれぞれの政府から支援を得られることに、GVCRが支援していけるであろうことを楽観視していると述べました。

 米国疾病対策予防センターブラジリア事務所で疫学担当副局長を務めるSantelli博士は「最も重要なことは、この文書が(新たな対策への)取り組みの呼びかけであるということです。」と述べています。

 彼女は、これが容易なことでないとは予想しています。感染症の種別を越えて媒介昆虫への対策の取り組みを統合することには、より多くの設備、より多くの人員、より多くの資金、さらには精神構造の変革が必要になります。Santelli博士は、「新たに感染症の脅威が膨らんできているため、無関心であることのリスクがより大きくなります。」と述べました。GVCRに潜在する影響力は、全体での負担を減らし、場合によっては、これらの病気を一括して撲滅するための新しい戦略を立てることになります。

出典

WHO. Features: stories from countries. June 2017
New vector control response seen as game-changer
http://www.who.int/features/2017/new-vector-control/en/