2017年10月02日更新 ペストの発生報告 - マダガスカル(更新)

2017年9月29日に公表されたWHOの情報によりますと、マダガスカルでペストの発生が報告されています。また、10 月1日には、WHOのハイライト記事でも感染対策の強化が取り上げられています。これらを今日と明日の2日に分けて掲載致します。

発生の詳細

Tamatave(タマタブ、東海岸Toamasina(トアマシナ)の旧都名)に住む31歳男性が、2017年8月23日にマラリア様の症状を発症しました。彼は、中央高地Ankazobe(アンカゾブ)の街を訪れていました。8月27日に、公共乗り合いタクシーでアンカゾブの街からAntananarivo(アンタナナリボ)経由でタマタブに向かう途中に、呼吸器症状を発症しました。彼は、容態が悪化し、死亡しました。彼の遺体に対して、Moramanga(ムラマンガ)の街の公立病院近くで火葬の準備がおこなわれていました。(このとき)安全防護対策は行われていませんでした。また、この発端となった患者と直接接触した者や、この他にも疫学的に関連性のある接触者など、接触者31人が症状を発現し、このうち4人が死亡しました。

この集団感染は9月11日に、アンタナナリボに住む47歳女性が死亡した後に、確認されました。彼女は、肺ペストによる呼吸器不全のために入院していました。公衆衛生担当当局・疾病調査・疫学調査部局(Direction de la Veille Sanitaire et de la Surveillance Epidémiologique、DVSSE)は、直ちに現地調査を開始しました。

2017年9月28日までに、この地域から、合計で51人の肺ペスト患者(疑い患者、可能性の高い患者、確定患者を含む)が報告され、12人が死亡しています。診断はマダガスカル・パスツール研究所でPCR法検査と迅速診断検査によって確認されました。

これらの肺ペスト患者(疑い患者、可能性の高い患者、確定患者を含む)51人に加えて、同じ期間に、全国で死亡者7人を含む腺ペスト患者53人が報告されています。ペスト敗血症患者も1人確認されています。しかし、これらの患者は上述の感染発生とは直接の関連はありません。

公衆衛生上の対策

保健省はアンタナナリボとトアマシナで緊急対策室を立ち上げ、すべての患者に無償で治療が行われるようになりました。感染力を保つ患者の発見と接触者の追跡が続けられており、肺炎患者はすべてが隔離の上で治療され、すべての接触者には化学的予防投与が行われています。

鍵となる公衆衛生対策には、次のようなものがあります。
・新たな患者への調査の継続
・感染の発生した地域での接触者の確認、化学的予防投与の実施、健康監視を含む疫学調査の強化
・げっ歯類および媒介するノミを含めた感染発生地域での駆除対策
・接触者の特定、健康監視、予防投与
・予防対策と(感染者との)接触後にとるべき行動などの住民への注意の喚起
・感染対策と安全な埋葬の実施などへの医療従事者に向けた注意の喚起と、情報の提供

WHOのリスク・アセスメント

ペストは、小さな哺乳動物やそのノミに日常的に見られる人獣共通感染症の細菌ペスト菌(Yersinia pestis)によって引き起こされる感染症です。ペストは哺乳動物に付くノミによって動物の間で伝達されます。人には、ノミに刺されたり、直接、細菌を含む物質を吸い込んだりすることで、感染を成立させます。

ペストには、感染経路の違いから、腺ペストペスト敗血症肺ペストの3つの形式があります。

腺ペスト(「黒死病」として中世ヨーロッパで知られています)は、ペストの最も一般的な形態で、感染しているノミに咬刺されることによって起こります。ペスト桿菌Y. pestisは、咬傷口から侵入し、リンパ管を通って移動し、最も近いリンパ節で増殖します。そのリンパ節は炎症を起こし、腫れて、疼痛を発します。これは、「横痃(オウゲン)」と呼ばれています。炎症が進行すると、炎症を起こしたリンパ節が化膿し、穿破することがあります。

肺ペスト(または肺を基にしたペスト)は、ペストの中の最悪の病態です。潜伏期間が24時間と短いこともあります。通常、肺炎型は進行した腺ペストが肺に広がることで起こります。しかし、二次性の肺ペスト患者は、エアロゾル(微粒子)化された感染性の飛沫を形成し、飛沫を介して他の人にペストを伝播する可能性があります。未治療の肺ペストは、致死率が非常に高いです。

ペスト敗血症は、腺ペストや肺ペストに続いて、感染が血流を介して直接(全身に)広がったときに発生します。

ペストは、極めて深刻な病態を引き起こす病気で、特に、ペスト敗血症や肺ペストの病態で治療しなければ死亡率は30-100%になります。肺ペストの病態は、早期に治療しなければ、間違いなく致命的となり、特に伝染性が強く、飛沫を介して人から人への接触を通じて深刻な流行を引き起こす可能性があります。

ペストは、マダガスカルに常在する病気です。腺ペストは、流行シーズン(9月から4月)には、ほぼ毎年、報告されています。しかし、今回、肺ペストの発生が続く事態は、(ペストが)常在していない地域および人口が密集する沿岸部の都市で、初めて報告されています。

肺ペストは、人と人との間で伝播するペストの形態で、感染制御が十分に行われなければ、深刻な流行を誘発する可能性があります。流行の発端となった患者は、首都アンタナナリボ含む国内さまざまな地域を旅行しており、死亡した2週間以上後に、この感染の流行が確認されました。そのため、国レベルでの全体的なリスクは高くなっています。近隣のインド洋の島々でも、頻繁に飛行機での往来があるために、この地域全体にも中程度のリスクがあります。世界規模でのリスクは低い状態です。

WHOからのアドバイス

予防および感染制御の対策
予防対策には、環境内で動物にペストが見つかったときには知らせることや、ノミに刺されない予防対策を取り、動物の死体には触らないよう人々に助言することなどがあります。ノミの感染制御の最も効果が早く・高い方法は、粉末や少量の殺虫剤のスプレー型の適正な殺虫剤を使用することです。

人々、特に衛生保健の関係者は、「横痃」のような感染組織に直接触れることを避け、肺ペスト患者との濃厚接触も避けなければなりません。

重要な防止および管理措置には、次のようなものがあります。
・感染源を見つけて、(拡散を)阻止すること
・衛生保健の関係者の保護:感染予防と感染制御に関する情報を周知し訓練すること
・隔離:肺ペストの患者に対して、飛沫を介して他の人に感染させないように隔離を行うこと
・調査活動:肺ペストの患者との濃厚接触者を見つけ、健康監視を行うとともに、接触者には7日間の化学的予防投与を行うこと
・検査のために採取すべき検体を慎重に採取し、検査施設に送るべき検体を得ること
・安全な埋葬を確実に実施すること

治療
ペストは、治療しなければ急速に死に至る可能性があるため、(患者の)回復と合併症の軽減には早期の診断と治療が不可欠です。患者は、速やかに診断し、抗生物質の投与および対症療法が行われれば、効果があります。

旅行のアドバイス
WHOは、入手できている情報に基づいて、マダガスカルに対し旅行や貿易に関していかなる制限も掛けないよう助言しています。(空港、港湾から)マダガスカルに入国する際には、この病気(の現状)と必要十分となる感染防御対策に関する情報が提供されるべきことが勧められています。

詳しいペストの病態については、WHOのファクト・シート(ペストについて)をご覧ください。

原文:http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs267/en/

出典

WHO.Disease outbreak news, Global Alert and Response(GAR). 29September2017
Plague-Madagascar
http://www.who.int/csr/don/29-september-2017-plague-madagascar/en/

参考

厚生労働省FORTH 最新ニュース
ペストについて(ファクトシート)(2017年5月)
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/05021422.html