2018年03月26日更新 ラッサ熱の流行- ナイジェリア(更新2)

ラッサ熱は、西アフリカの風土病で、毎年、季節に伴う流行が12月から6月に発生します。2018年3月23日にWHOから公表された情報によりますと、ナイジェリアでの流行はかつてない規模に拡大しているようですが、減少傾向もみえてきたようです。

ラッサ熱の流行状況

2018年1月1日から3月18日までに、疑い患者1,495人と死亡者119人が報告されました。報告があったのは、Anambra、Bauchi、Benue、Delta、Ebonyi、Edo、Ekite、Federal Capital Territory、Gombe、Imo、Kaduna、Kogi、Lagos、Nasarawa、Ondo、Osun、Plateau、Rivers、Tarabaの19州です。この間に、376人が確定患者に、9人が感染の可能性の高い患者に、1,084人が陰性の結果に、分類されました。また、26人が検査結果を待っている状態でした。確定患者として分類された376人と感染の可能性の高い患者9人のうち、95人が死亡しました(確定患者と感染の可能性の高い患者での致死率は24.7%)。

2018年1月1日から3月18日までに、6州(Benue、Ebonyi、Edo、Kogi、Nasarawa、Ondo)で、医療従事者17人が感染しました。そのうち、4人が死亡しました。

2018年1月1日以降、週毎のラッサ熱患者の報告数は10人から70人に増えています。しかし、2月中旬以降、ラッサ熱患者の報告数は減少傾向となってきました。

ラッサ熱の治療センターが3州(Ebonyi、Edo、Ondo)で運用されています。これらのセンターで働く医療従事者には、基本的な感染の予防と管理、並びに、個人用防護具の使い方や患者の管理の仕方などの研修が行われています。また、現地チームによって、精力的に生活地域内で報告された疑い患者と死亡者について調査されており、接触者への健康監視が続けられています。現在、Abuja、Irrua、Lago、3か所で検査施設が稼働し、PCR法検査によってラッサ熱に対する検体の検査が行われています。2018年に発生した27検体に対して、IrruaとBernard Nocht研究所(ドイツ)で実施されたウイルスの系統発生解析では、これまでとは異なる複数系統の(ウイルスの)流入や、これまでにナイジェリアでの流行が確認されている類似の系統のウイルスなど、さまざまなウイルスが示されました。これは、人から人への感染伝播ではなく、生息するげっ歯類からの漏れ出てきていることを強く示しています。

WHOは、主に調査体制の強化、接触者の追跡、診断能力の増強、患者の管理、個人用防護具の使用、リスク情報の普及などの領域について、流行対策の支援を続けています。また、WHOは、引き続き、すべての治療センターにおける治療指針の標準化と報告(形式)の標準化に取り組んでいます。

ラッサ熱は、西アフリカのガーナ、ギニア、マリ、ベナン、リベリア、シエラレオネ、トーゴ、ナイジェリアには常在しています。

公衆衛生上の取り組み

・1月22日に、政府のラッサ熱・緊急対策センターが首都アブジャで立ち上げられ、WHOや支援組織と連携しながら、引き続き、対策活動を主導しています。
・対策活動の指針を作成し、支援組織や人的・物的資源の動員での協力関係において優先分野を周知するために、全体的な感染発生への行動計画が作成されました。
・ナイジェリア疾病対策センターの(対策)チーム・スタッフとNFELTP (Nigeria Field Epidemiology& Lab Training Program: ナイジェリアCDCの疫学訓練組織)の職員が、Ebonyi、Ondo、Edoの各州に対応するために配置されました。州レベルでの緊急委員会(EOC)も創設されました。
・ほとんどの感染の発生を占めるEbonyi、Ondo、Edo、3州では、ラッサ熱の治療専用病棟が作られ、確定患者にはリバビリンの点滴による治療が可能となっています。
・ナイジェリア疾病対策センターは、ALIMA(患者管理や地域社会での教育を補助している現地の非政府機関)の協力を得ながら、OwoとIrruaで治療センターを支援しています。Abakalikiでは、国境なき医師団(MSF)の協力を得ながら、基本的な感染の予防と管理への指導を行っています。
・感染発生の激しい州では、調査活動の強化が続けられています。各州の患者リストは、随時、ウイルス性出血熱の管理システムのある政府レベルのデータベースに送られています。
・ナイジェリア疾病対策センターと支援組織ALIMAは、Irrua専門家研修病院と連邦医療センター(Owe)に対し、増加する患者の収容能力に対応するために、テントとベッドを供給しました。ナイジェリア疾病対策センターは、WHOの協力を得て、全ての治療センターに個人用防護具を供給しました。
・Irrua専門家研修病院のスタッフは、疑い患者が受診した他の病院に臨床上の患者管理の仕方についてアドバイスを行っています。また、24時間体制で、ラッサ熱患者を管理するための電話相談窓口が開設されました。ラッサ熱を発症した患者への医療支援を向上させるために、ラッサ熱(対策)委員会がAbakalikiに設立されました。
・ナイジェリア疾病対策センターは、Edo、Ondo、Ebonyiの各州に地域密着型のチームを派遣し、感染リスクの情報の普及することで、個人と地域の衛生環境(の改善)、並びに速やかな医療施設への受診行動を促しています。

WHOによるリスク評価

ラッサ熱は、急性ウイルス性出血熱です。ネズミの糞尿で汚れた食べ物や日用品に触れることで人に感染します。予防することなしに血液や体液に触れれば、人から人への感染や検査施設での感染も起こります。この病気の全体(無症候性および軽度の症候の患者を含む)での致死率は、約1%です。しかし、重篤な入院患者では高く20%もしくはそれ以上と報告されています。電解質の補正による早期の治療と抗ウイルス薬リバビリンの投与は生存率を向上させることができます。ハイリスクの接触者を除けば、ラッサ熱への曝露後の予防投与法としてのリバビリンの有効性を支持する科学的根拠は得られていません。ラッサ熱は、ベナン、ギニア、ガーナ、リベリア、マリ、シエラレオネ、トーゴ、ナイジェリアに常在することが知られており、西アフリカの他の国にも、存在している可能性はかなり高いです。

現在、ナイジェリアで流行しているラッサ熱は、直近の4週間に、患者数、死亡者数ともに減少傾向を示しています。これまでのデータでは、激しい感染伝播が過ぎ去ったことは示されていないため、この減少傾向は、解釈に注意が必要となります。調査体制は、最近、強化が図られています。この流行は、これまでにナイジェリアで報告された流行のうちでも最大の規模です。

医療従事者17人が感染したことは、予想される診断にかかわらず、すべての患者に対して、すべての医療施設が早急に感染の予防と管理の実施を強化すべきことを強く示しています。多くの州で感染が発生していることを考えると、ラッサ熱に感染した患者に適切に対応する準備が整っていない医療施設では(患者の)選別対応や初期症状の患者対応が生じて、医療従事者の感染リスクが増している可能性があります。

国内および往来の多い国境周辺のさまざまな地域で確定患者が報告されていることが、国内にも隣国にも(感染の)拡がるリスクがあることを示しています。(アフリカ)地域レベルでは、全体としてのリスクは中等度です。公衆衛生上の取り組みには、感染監視の活動、接触者の追跡、検査施設での検査、患者の管理などの活動強化を続けていくことに焦点を当てる必要があります。ベナンとの間でも、ラッサ熱患者および接触者についての情報を共有し、より強固な協力体制をとることが、早期の発見と流行の国境を越えた拡大への対策に貢献すると思われます。

WHOからのアドバイス

ラッサ熱の予防は、ネズミが家に侵入しないように衛生環境をよくすることに左右されます。医療施設の環境では、患者に対処する際、院内感染を予防するために、関係者が標準的な感染の予防と制御のための対策を徹底する必要があります。

稀な例ですが、ラッサ熱が常在している地域から戻った旅行者が、この病気を他の国に感染輸出することがあります。西アフリカから戻ってきた有熱者、特にラッサ熱が常在する国の農村地域や病院にいたことのある有熱者には、ラッサ熱の診断を鑑別に入れることが必要です。ラッサ熱が疑われる患者を診察する医療従事者は、速やかに地元と​​国の専門家に連絡し、アドバイスを求め、検査施設での検査を手配する必要があります。

出典

WHO.Disease outbreak news, Emergencies preparedness. 23 March 2018
Lassa Fever- Nigeria
http://www.who.int/csr/don/23-march-2018-lassa-fever-nigeria/en/