海外感染症情報 (NO.104)
平成25年7月26日
関西空港検疫所
WHOによるサウジアラビア・メッカへの巡礼に際しての
中東呼吸器症候群ウイルスに関する渡航勧告
  1. 始めに
     中東呼吸器症候群ウイルス(MERS―Cov)のアウトブレークは、2012年に初めて報告され、現在までに9カ国に感染が見られている。WHOは、IHR(2005年)に基づき、この新興ウイルスに対する国際的対応を行っている。この文書は、これから訪れるウムラ(小巡礼)とハッジ(大巡礼)の期間に、巡礼者が訪れる国々の担当者に対し、MERS-Covの輸入症例の防止・検知・管理するための指針を与えるものである。現在のところ、各々の巡礼者がMERS-CoVに罹患するリスクはとても低いと考えられている。

  2. 危険情報の効果的な共有
     関係各国は、巡礼中およびその前後の期間に、以下のような鍵となる集団に対して幅広く情報をできるかぎり共有するための、実際的かつ効果的な手段をとるべきです。
    • 巡礼者、特に健康状態に問題のある集団
    • 公衆衛生担当官
    • 体調不良の巡礼者の医療介護に従事するもの
    • 公共交通機関、観光産業
    • 一般大衆

    2-1.小巡礼・大巡礼に際して取るべき行動

    • 各国は巡礼者に対して基礎疾患(例えば糖尿病、慢性呼吸器疾患、免疫不全など)が、MERS-CoVを含め、渡航期間中に疾患罹患の可能性を高めることを指導し、巡礼者には渡航前に医療機関を受診し、巡礼が可能かどうかリスクを評価してもらう。

    • 各国は出発する巡礼者や旅行会社に対し、一般的なトラベルヘルス予防策に関する情報を周知し、インフルエンザや旅行者下痢症を含む感染症全般のリスクを低下させる。特に以下の点を強調すべきである。
      • 石けんと水でこまめに手を洗う。明らかに手が汚れていない場合は、アルコール性ジェルを使う
      • 例えば調理が不十分な肉や、不衛生な状況で調理された食品を使用しない、フルーツや野菜は食べる前に十分に洗うなど、食品を安全に扱う
      • 個々人の衛生を保つ
      • 農場、家畜や野生動物にむやみに接触しない

    • 巡礼に出発する渡航者が利用できるような健康相談窓口を、旅行業者と協力し、適切な場所(例えば、旅行業者のオフィスや、空港の出発区域など)に設置する。

    • 異なる情報提供手段、例えば航空機や船への搭乗に際しての健康に関する警告、広告、パンフレットや、国際便・船の入国区域でのラジオ・アナウンスを渡航者に伝えることができる。

    • 健康相談には、MERS-CoVに関する現状と渡航中に病気にかからないための案内を含めるべきである。

    • MERS-CoVに関する調査や、感染防御、管理法、医学的対応に関する、現行のようなWHOのガイドライン、あるいはそれと同等の国際的な指針は、医療従事者や医療施設に提供されなければならない。

    • 各国は、MERS-CoVの検査の十分な体制を確保し、検査についての情報や臨床的に関連する仕組みを医療従事者や医療機関に周知すべきである。

    • 巡礼者と同行する医療者は、例えば初期にはどのような徴候や症状が出るのか、誰がハイリスク集団に位置づけられるか、また、疑い患者が発見された場合にどうすべきか、そして簡単な感染予防策など、MERS-CoVに関する情報や指針を常に最新のものにするべきである。

    2-2.巡礼時に取るべき行動
     渡航中に、発熱、咳嗽を伴う有意な急性呼吸器症状を呈した者は、次の事が勧告される。

    • 周りに感染させないため、他人との接触を制限する

    • 咳エチケットの履行、使用したティシュのゴミ箱への廃棄とその後の手洗い履行、ティシュが使用できない場合は、咳やくしゃみの際、手ではなく、衣類の袖の部分で口を覆う

    • 同伴している医療スタッフか地区の保健関係者に連絡をとる

    2-3.巡礼後に取るべき行動
    • 巡礼から帰国後2週間以内に上記症状を呈した場合は、医療機関に連絡を取り、直ちに地元の保健当局に通報するべきである。

    • 巡礼から帰国後に上記の症状を呈した者と接触し、その後同様の症状を呈した場合は地方保健当局に連絡しMERSに関する監視を受けなければならない。医療関係者は、巡礼から帰国した者が、上記症状(急性呼吸器症状)、特に発熱と咳嗽および肺実質病変(肺炎、ARDS)を呈している場合は、MERS-Cov感染の可能性を考慮するべきである。もし臨床的にMERSが疑われる場合は、WHOの症例定義により検査室診断実施、また同時に感染防御対策が実施される必要がある。臨床医はまた、免疫抑制者では非典型的な臨床像(MERSと同様の臨床像)を呈する場合があることに留意するべきである。

  3. 国境での措置、航空機内の措置
     WHOは渡航・貿易の制限も、入国時のスクリーニングの実施も勧告していない。

     WHOは、巡礼者およびその周囲の人々の感染リスクを減じるため、渡航の際の注意喚起励行を各国に推奨しています、注意喚起の対象は巡礼者のみならず航空関係者も含まれ、渡航者本人には発症した場合の通報を促している。

     IHRの要求に従い、各国は航空機や船舶に、あるいは入国ポイントにおいて、有症者を評価するための手段を確保しなければならない、また有症者の医療機関や、臨床的評価と治療が可能な施設への運搬手段も確保しなければならない。

     もし有症者が搭乗していれば、健康状態等質問票が有用である。この質問票は、もし必要になっ場合、有症者(患者)の接触歴の収集に有用である。

(2013年7月25日 WHO報告)