海外感染症情報 (NO.108)
平成25年8月5日
関西空港検疫所
鳥インフルエンザ A(H5N1) ヒト感染例報告(5)
 2003年から2013年7月3日までに、鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)に感染し確定診断された患者は、15か国から633人、うち377人が死亡したことが世界保健機関(WHO)へ公式に報告されています。
 6月4日以降、新たに3人の確定患者が報告されました。カンボジアで2人、インドネシアで1人が報告されました。うち2人が死亡しています。

 カンボジアで報告された最近の死亡例1人はカンポット州の6歳女児で、もう1人は今年1月に発症したプノンペンの58歳男性で、過去に溯って診断されました。インドネシアで報告された患者は、西ジャワの2歳男児で、本例が同国で今年に入って初めて確認された鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染患者です。いずれも散発的に発生したもので、地域内での感染拡大の証拠はないとのことです。

 鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)は両国で家禽に広く循環しており、今後散発的あるいは小集団での患者発生の可能性はあります。

表1.6月4日から7月3日までの間に報告された鳥インフルエンザA(H5N1)感染例
発生国 地域 年齢 性別 発症日 入院日 死亡日 抗インフルエンザ薬
治療開始日
曝露(鳥類との接触)
カンボジア カンポット州 6歳 女児 6月24日 6月28日 6月28日 6月28日 病気または死んだ家禽
カンボジア プノンペン 58歳 男性 1月4日 1月6日 - - 不明
インドネシア 西ジャワ 2歳 男児 6月10日 6月17日 6月19日 なし 生きた鳥の市場
 インフルエンザウイルスが家禽の間で循環しているときにはいつでも、ヒトでの散発的あるいは小集団での感染の可能性はあり、特に感染した家禽、あるいはウイルスで汚染された環境に接触する可能性のあるヒトでは可能性があります。しかし、現在のところ鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)はヒトの間で効率よく感染する可能性はないと考えられ、地域内でのウイルスの感染拡大するリスクは依然として低いと考えられます。そのため、このウイルスに関連した公衆衛生的リスクは変更がありません。


その他の鳥インフルエンザについて
●鳥インフルエンザA(H7N9)
 中国は、2013年3月末以降、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)のヒト感染例を報告しています。6月4日の最終報告以降、溯って確認された患者1人が報告されています。患者は江蘇省出身で、4月25日に発症、26日に入院し、5月2日に退院しました。患者の咽頭拭い液の検体から季節性インフルエンザウイルスA(H3N2)と鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)の両者が検出されています。7月4日現在、133人の鳥インフルエンザA(H7N9)患者、うち43人が死亡し、3人が入院中であるとWHOに報告されています。ほとんどの患者が肺炎を生じていたとのことです。
 鳥インフルエンザA(H7N9)患者のほとんどは家禽や生きた動物を扱う市場との接触がありました。主なウイルスの宿主についての情報や動物内でのウイルスの拡がりや分布に関する情報は未だに限られています。鳥インフルエンザA(H7N9)のヒト感染率は、流行が起きている主要な省や自治体において生きた動物を扱う市場の閉鎖後に急速に低下しました。この低下には、生きた動物を扱う市場の閉鎖したことで、ヒトの曝露の機会が減ったことなどいくつか考えられる理由がありますが、住民の理解が高まったことや、その結果住民の行動に変化が生じたことなども理由として考えられます。また、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)は他の鳥インフルエンザウイルスと同様な季節性の流行パターンをとる可能性があり、冬期に温帯地域において家禽やヒトへ頻繁に感染がみられるパターンになると考えられています。6月末以降、いくつかの生きた動物を扱う市場が再開したこと、そして潜在的に家禽の間でウイルスが循環していることから、特に秋が近づくにつれ、ヒト感染例や動物での感染例の報告が追加されることが予想されます。
これまでの患者では4例の家族内発生が報告されていますが、持続的なヒト-ヒト感染を示唆する証拠はありません。
 公衆衛生的リスク評価としては、散発的なヒト感染と小集団での患者発生が、中国国内のこれまでの患者発生地域やその周辺地域、またこれらの地域から他の国へ帰る旅行者で起こる可能性があります。患者発生のあった地域やその周辺地域において、動物やヒトの感染例を発見するため、引き続き警戒すべきです。WHOは加盟国に対し調査や、適切な検査体制の確立を含めたその他の準備を行うよう助言しています。鳥インフルエンザA(H7N9)をはじめとした季節性インフルエンザでない患者は全てIHR(2005)に則り、WHOに報告すべきです。


●鳥インフルエンザA(H6N1)
 台北疾病予防センター(台北CDC)は1人のインフルエンザウイルスA(H6N1)感染患者を報告しています。患者は20歳女性、5月5日より発熱、咳嗽、頭痛、筋肉痛などの症状が出現し、5月8日中等度の肺炎で入院しました。患者はオセルタミビルで治療され、回復し、5月11日に退院しています。
 インフルエンザウイルスA(H6N1)は5月7日に採取された気道分泌物から分離されました。5月24日と6月8日に採取された血液検体によりH6N1ウイルスに対する抗体価がそれぞれ1:20、1:40と上昇がみられました。患者は家禽やその他の鳥への曝露、台湾以外への渡航歴はありません。患者の自宅の1km範囲内にある2つの家禽農場の家禽の検体で鳥インフルエンザA(A6N1)は陰性でした。
 36人の濃厚接触者が確認され、経過観察されました。うち4人がインフルエンザ様症状を呈し、咽頭拭い液とペア血清検査が行われましたが、いずれも鳥インフルエンザA(A6N1)は陰性でした。
 鳥インフルエンザウイルスA(A6N1)は、同地区や世界中の家禽に日常から循環している低病原性の鳥インフルエンザウイルスです。これまでの血清学的研究では、ヒトにおいてインフルエンザA(H6)に対する抗体については論文がありますが、本例が鳥インフルエンザウイルスA(A6N1)の症状を伴うヒトでの初めての報告例です。台北CDCは、患者から分離されたウイルスの遺伝子配列が、家禽に循環している鳥インフルエンザウイルスA(A6N1)に高い相同性を持つと報告しています。遺伝子解析により、このウイルスは、オセルタミビルやザナミビルなどの抗インフルエンザ薬に感受性があると報告されています。
これまでの疫学的情報により、鳥インフルエンザウイルスA(A6N1)による散発的なヒト感染と考えられています。保健および農産業担当者は、特にH7N9型ウイルスに関連した症例を発見するという流れの中で、ヒト、家禽、その地域環境におけるインフルエンザ調査の強化を継続しています。このウイルスは現地の家禽に広く循環しており、他の鳥インフルエンザウイルスのヒト感染と同様、鳥インフルエンザウイルスA(A6N1)のヒト感染が散発的に発生することは予想されます。


●インフルエンザA(H3N2)
 米国は、インディアナ州において変異型インフルエンザA(H3N2)のヒト感染例4人を報告しています。1人目は6月18日に発症しました。その患者達が2013年に報告された初めての患者です。米国における変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)によるヒト感染例の合計患者数は、2011年が12人、2012年が309人でした。昨年までのほとんどの症例は、農産物品評会でブタとの接触があります。
新規4人の患者は入院しておらず、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていません、そして4人全員が発症の1週間前にブタと濃厚接触したと報告されています。CDCによって1つのウイルス検体が全解析され、2012年に米国で発生した309人の患者に確認された変異型H3N2ウイルスと99%一致します。患者や接触者に対する調査が継続されています。限られた血清学的研究では、成人はこのウイルスに対する免疫をもともと持っているが、子どもは持っていないことが示唆されています。季節性インフルエンザワクチンは変異型インフルエンザA(H3N2)に対しては成人・子どもいずれにおいても交差免疫効果がありません。米国では変異型インフルエンザA(H3N2)v9に特異的なワクチンウイルスの3つの候補株が産生されており、必要が生じればH3N2の変異株ワクチンを生産できるようになりました。
このウイルスは米国のブタに循環しており、農産物品評会の行われる季節となったことから、ヒト感染例や小集団での感染発生が予想されています。変異を検出するために、ウイルスの特徴を引き続き明らかにしていくことも含め、状況の密な監視が必要です。

(2013年7月4日 WHO報告)