海外感染症情報 (NO.123)
平成25年9月2日
関西空港検疫所
鳥インフルエンザ A(H5N1) ヒト感染例報告(6)
 2003年から2013年8月29 日までに、鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)に感染し確定診断された患者は、15か国から637 人、うち378 人が死亡したことが世界保健機関(WHO)へ公式に報告されています。
 7 月4日以降、カンボジアから新たに4 人の確定患者が報告されました。うち1人が死亡しています。

 これらはいずれも散発的に発生したもので、地域内での感染拡大の証拠は無いとのことです。

鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)はカンボジアで家禽に広く循環しており、今後散発的あるいは小集団での患者発生の可能性はあります。

表1.7月4日から8月29日までの間に報告された鳥インフルエンザA(H5N1)感染例
発生国 地域 年齢 性別 発症日 入院日 死亡日 抗インフルエンザ薬
治療開始日
曝露(鳥類との接触)
カンボジア プレインベ州 3歳 男児 7月3日 7月8日 なし 7月9日 村の病気または死んだ家禽
カンボジア バッタンバン州 9歳 男性 7月26日 8月2日 8月18日 8月9日 村の病気または死んだ子供またはアヒル
カンボジア カンダール州 5歳 女児 8月1日 8月9日 なし 8月10日 村の死んだ家禽
カンボジア カンダール州 6歳 男児 7月21日 なし なし なし 死んだ家禽との接触
鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)の総合的・公衆衛生学的危険度評価:
 インフルエンザウイルスが家禽の間で循環しているときにはいつでも、ヒトでの散発的あるいは小集団での感染の可能性はあり、特に感染した家禽、あるいはウイルスで汚染された環境に曝露するヒトにおいてその可能性があります。しかし、現在のところ鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)がそれ自体ヒトの間で効率よく感染するとは考えにくく、地域内でのウイルスの感染拡大するリスクは依然として低いままです。


その他の鳥インフルエンザについて
●鳥インフルエンザA(H7N9)
 中国は、2013年7月4日以降、2例の鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)のヒト感染例を報告しています。1人目の患者は河北省出身の61歳の女性で、7月10日に発症しました。2人目の患者は広東省出身の51歳女性で、7月27日に発症しました。8月16日現在、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)に感染し確定診断された患者は135人、うち44 人が死亡したことが世界保健機関(WHO)に報告されています。ほとんどの患者が肺炎を生じていました。

 鳥インフルエンザA(H7N9)患者のほとんどは、家禽や生きた動物を扱う市場との接触がありました。主なウイルスの宿主についての情報や、動物内でのウイルスの拡がりや分布に関する情報は未だに限られています。この新たな2例のヒト感染例の報告と、インフルエンザウイルスの家禽の間での循環を考慮すると、新たなヒト感染例や動物内感染例の発生が、特に北半球は秋を迎えるため、予想されます。
これまでの患者では4例の小規模な家族内発生が報告されていますが、持続的なヒト-ヒト感染を示唆する証拠はありません。

 総合的な公衆衛生的リスク評価としては、散発的なヒト感染と小集団での患者発生が、中国国内のこれまでの患者発生地域やその周辺地域で、またこれらの地域から他の国へ帰る旅行者でも潜在的に発生する可能性があります。患者発生のあった地域やその周辺地域において、動物やヒトの感染例を発見するため、引き続き警戒すべきです。WHOは加盟国に対し適切な検査体制の確立を含めた、調査やその他の準備を行うよう助言しています。鳥インフルエンザA(H7N9)をはじめとした季節性インフルエンザでない患者は全てIHR(2005)に則り、WHOに報告する事になっています。


●ヒトでの変異型インフルエンザA(H3N2)
 今年、米国は、イリノイ州で1名、インディアナ州で14名、オハイオ州で1名の合計16名の変異型インフルエンザA(H3N2)のヒト感染例を報告しています。うち、1名のみ入院しており、死亡者は出ていません。全ての患者は発症前の1週間の間にブタとの接触があり、ヒト-ヒト感染例は確認されていません。

 限られた血清学的研究では、成人はこのウイルスに対する免疫を元来持っているが、子供は持っていないことが示唆されています。季節性インフルエンザワクチンは変異型インフルエンザA(H3N2)vに対しては成人・子供いずれにおいても交差免疫効果がありません。米国では変異型インフルエンザA(H3N2)vに特異的なワクチンウイルスの3つの候補株が産生されており、必要が生じればワクチンを生産できるようになりました。

変異型インフルエンザA(H3N2)vのヒトに対する総合的・公衆衛生学的危険度評価
 このウイルスは米国のブタに循環しており、農産物品評会の行われる季節となったことから、ヒト感染例や小集団での感染発生が予想されています。変異を検出するために、ウイルスの特徴を引き続き明らかにしていくことも含め、状況の密な監視が必要です。

(2013年8月29日 WHO報告)