(No.166)

中東呼吸器症候群コロナウイルスについて 平成25年12月3日更新

○アウトブレイク情報
 2013年11月27日、カタールのIHR担当窓口は世界保健機関(WHO)に対し、保健最高会議と環境省が保健省の国立公衆衛生環境研究所(RIVM)やオランダのエラスムス医学センターとの協力し、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)を2例のヒト確定診断例と関連する家畜小屋にいるラクダの一群で確認されたことを報告しました。

○カタールでの調査結果
 2例のMERS-CoVヒト感染例の発見に引き続き、カタールの公衆衛生及び動物資源の担当者は、WHOとFAOによって構成された国際チームの支援により、ヒト感染例の潜在的な曝露源の広範囲にわたる疫学調査を行いました。

 RIVMとエラスムス医学センターでの検査によって、両方のヒト感染例に接触があった14種の動物群のうち3頭のラクダでMERS-CoVの存在が確認されました。予防的対策として、その農園の14頭のラクダは隔離されています。全てのラクダは、検体採取時には無症状かあるいは軽い症状を呈しており、その後40日間も同様でした。この家畜小屋で働く他の労働者も含め、2例のヒト感染例と接触者は全員スクリーニングされ、検査でMERS-CoVは全員陰性が確認されています。

 これらの結果により、ラクダがMERS-CoVに感染しうることが示唆されますが、ヒトから、あるいはヒトへウイルスが伝搬する過程において、ラクダや他の動物が果たしている役割を明らかにするには不十分です。RIVMとエラスムス医学センターと協力し、保健最高会議は他の動物種からと動物小屋の環境からの追加検体を検査する予定です。さらに、公衆衛生局と動物資源局は、動物と濃厚接触するヒトの間での感染リスクを調査するため、国レベルのさらなる研究を行っています。

 MERS-CoVによる重篤な疾患に罹患するリスクの高い人は、潜在的にウイルスが循環していると分かっている地域の農園や動物小屋を訪れた際には、動物と濃厚接触することを避けるべきです。一般の人は、農園や動物小屋を訪れた際、動物を触った前後での手洗いの実施、病気の動物には触らない、食品衛生対策などの一般的な公衆衛生対策を順守するべきです。

 WHOはカタールの専門家とともに、これらの発見をさらに解析し、必要に応じて追加のガイダンスを作成する予定です。

 2012年9月から現在までに、WHOには世界中で160人の確定診断例が報告されており、このうち68人が死亡しています。

○WHOの各国に対するMERS-CoVガイダンス
 現在の状況と入手可能な情報をふまえ、WHOは加盟国に対し重症急性呼吸器感染の調査を継続し、通常見られないパターンの症例を慎重に検討することを勧めています。

 医療従事者は警戒を続けるように勧められます。中東諸国から最近帰国した旅行者で急性呼吸器感染を呈するヒトは現行の調査指針に基づいて、MERS-CoVを検査すべきです。

 現在までに診断され報告された患者は、初期症状で呼吸器症状が認められています。下痢は患者に共通して報告があり、腎不全やショックを伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重篤な合併症がみられます。重度の免疫不全患者は、非典型的な徴候や症状を呈する場合があります。

 医療機関は、感染予防とコントロールを系統的に取り入れることが重要です。MERS-CoV感染を疑う、あるいは確定した患者に対応する医療機関は、他の患者、医療従事者、訪問者へウイルスが伝搬するリスクを減らすための適切な対策をとるべきです。

 全ての加盟国は、全てのMERS-CoVの新規症例を、感染に至ったであろう潜在的な曝露についての情報や臨床経過とともに、迅速に評価しWHOに報告することを再度勧告されています。曝露源についての調査は、ウイルスのさらなる伝搬を食い止めるために、曝露様式の同定のため直ちに調査が開始されなければなりません。

 WHOは現在のところ、入国時の特別なスクリーニング及びいかなる渡航や貿易の制限を推奨していません。

 WHOは国際保健規則(IHR)に基づき、現在の状況について事務総長に示唆を与えるため緊急会議を召集しました。緊急会議は、WHOの全ての事務局から召集された国際専門家から構成されますが、これまでに得られた情報に基づき、リスク評価法を用いて考えると、現時点では国際的に脅威となる公衆衛生緊急事態(PHEIC)の要件を満たしていない事を満場一致で提言しています。


(2013年11月27日WHO報告)