海外感染症情報
(NO.52) |
平成25年5月14日
関西空港検疫所 |
鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)ヒト感染に対するWHOのリスク評価 |
■要約 中国国家衛生・計画出産委員会より世界保健機構(WHO)に報告された鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)のヒト感染症例は計131名であり、1名は台北疾病予防管理センター(台北CDC)より報告されています。症例は男女と幅広い年齢で報告されていますが、ほとんどは中年から高齢期の男性に発生しています。32人が死亡しており、他の症例もほとんどが重症です。台北CDCより報告された症例(江蘇省への渡航歴あり)に加えて、安徽省、福建省、河南省、湖南省、江蘇省、江西省、山東省、浙江省、北京市と上海市より症例が報告されています。 ウイルスの保有宿主となる動物、主な感染源及び感染経路、ヒトと動物の間における拡散範囲を含めて、このウイルスについて多くが不明です。調査は進行中であり、証拠は決定的ではありません。しかしながら、ヒト感染は、生きている家禽、もしくは汚染された環境に曝露することに関連して発生しています。その理由として、以下の点があげられます。 ・ヒトが感染したウイルスは、動物や環境(生鳥市場)で発見されたウイルスと遺伝子的に類似している。 他の家畜や野鳥、哺乳動物を含めて、このウイルスの他の保有宿主が存在するかどうかは確定していません。また2家族から患者群が報告されてはいるものの、持続するヒトからヒトへの感染の証拠は、以下の事実からも認められていません。 ・濃厚接触者(2,000人以上)の経過観察と検査において、感染はほとんど認められていない。 今回、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)のヒト感染例が初めて報告されました。過去に、他のインフルエンザウイルスA( H7亜型)のヒト感染例は、家禽でのアウトブレイクに関連して散発的に報告されていました。わずかなインフルエンザウイルスA(H7亜型)感染例が発生していますが、1人の死亡例を除いて軽症や結膜炎で終わるという状況でした。 ヒトから分離された鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)の遺伝的、検査学的特徴から、以下のことが示唆されます。 ・同ウイルスは、複数の起源に由来したインフルエンザウイルスの遺伝子を含んでいる。 このウイルスは、家禽に対して重篤な症状を引き起こすことは報告されていません。鳥インフルエンザA(H5N1)とは対照的に、この合図がないため、ウイルスに感染した鳥を早期に発見することが困難になっています。 ○リスク評価 このリスク評価は2013年4月13日に報告された内容を反映しており、緊急の公衆衛生上の出来事に対する迅速なリスク評価としてWHOの公的な勧告として作成されています。詳しい情報が入手され次第更新されますが、現在のところ、過去の評価と変化はありません。 ○流行地域においてヒトの感染に影響を及ぼすリスクは何ですか? 今回の流行やウイルスの疫学について、主な感染源や動物間での地理的な拡がりも含め、わかっていることは限られたままです。しかし、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)によるヒト感染の多くは、動物及び生鳥市場との接触に関連していることが考えられます。さらに、ヒトへの感染が拡がる可能性もあります。H5N1型ウイルスのような他の鳥インフルエンザウイルスは、夏季よりも冬季に流行する季節的な傾向を示しています。鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)も同様に季節的な傾向を示すかどうか、今後追跡する必要があります。ヒト感染症例のほとんどが重篤な状態を引き起こしています。 ○ヒト-ヒト感染のリスクは何ですか? 現在のところ、持続するヒト-ヒト感染が発生しているという証拠はありません。しかし、2家族において、濃厚接触者間の限定的なヒト-ヒト感染を引き起こした可能性が示唆されます。このような濃厚接触は、家族内や医療施設で起こりえます。さらに、これらのウイルスで見られる遺伝子変異は哺乳類への適応を示唆するため重要であり、さらに適応は進むかもしれません。万一、臨床的に重篤な患者数の増加を伴う持続するヒト-ヒト感染が発生すれば、医療システムに負担がかかるでしょう。 ○旅行者による鳥インフルエンザA(H7N9)の国際的な拡大のリスクは何ですか? 現時点で、国際的な感染の拡大は確認されていません。感染者は、症状の有無に関わらず、他国へ渡航すれば感染を拡げる可能性があります。しかしウイルスが持続的なヒトーヒト感染を引き起こす様相はなく、地域社会への広範な拡がりは起こりそうにありません。もしもウイルスの感染性が高くなった場合は、感染拡大の可能性も同様に高くなります。 |
(2013年5月10日 WHO報告) |