海外感染症情報 (NO.70)
平成25年6月3日
関西空港検疫所
WHOによるインフルエンザA(H7N9)ワクチン候補ウイルスについての暫定的見解
 中国保健当局は3月31日に3人の鳥インフルエンザA(H7N9)患者を報告して以来、37人の死亡を含む計132人の同症患者を報告しました。これまでの疫学調査では、2つの患者群で限定的なヒト-ヒト感染は否定できませんが、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていません。

 北京にあるWHOと共同のインフルエンザ調査研究センターによって最初に鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスとその遺伝的性質が発見された後、遺伝子と抗原性の分析は北京の同センターや基幹検査機関(ERLs)、その他世界インフルエンザ監視対応システム(GISRS)下にある研究所を含むWHOの調査研究センターによって共同で行われました。

 その結果、獣医の意見も含めて、今回の鳥インフルエンザウイルスの変異や生物学的特性に対して以下に示す重要な見識が示されました。
  1. このウイルスはヒトに感染した場合に重症化または致死的な状態を引き起こすにもかかわらず、ニワトリに対しては「低病原性」を示します。

  2. ウイルスは以下に関連して変異を起こしたと考えられます。
    ・ヒト、豚、家禽類に鳥インフルエンザウイルスが適応したこと
    ・実験的に感染させたフェレットで感染性が増大したこと
    ・ほ乳類やヒトの上気道の温度によってウイルス増殖が高まったこと

  3. ウイルスはM2蛋白阻害剤に耐性があります。治療中に耐性が出現するかもしれませんが、一般的にウイルスはノイラミニダーゼ阻害剤(NI)に感受性があります。

  4. ヒトは交差防御免疫を僅かに持つか又はほとんど持ちません。
 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスは鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスに比べて動物からヒトへ感染しやすいようです。また、ヒトはこの鳥インフルエンザウイルスに対してほとんど免疫を持っていません。そのため、WHOは加盟国やパートナーに活発に働きかけています。この活動の一環として、WHOのGISRSによってワクチン候補ウイルスが開発され使用可能となりました。

 現在までのウイルスの遺伝子と抗原性の分析、既存の鳥インフルエンザウイルスから得た知識や経験さらにWHO調査研究センターやGISRS下の基幹検査機関が実施したリスク調査の結果を元に以下のことが暫定的に推奨されます:
- A/Anhui/1/2013-like* virus
(2013年に安徽省で検出されたインフルエンザAウイルス)
がパンデミックに備えてA(H7N9)ワクチン開発のために使用されること。

 A(H7N9)ワクチン候補ウイルスの開発状況と入手可能性、A(H7N9)ワクチン候補ウイルスを取り扱うことのバイオセーフティ条件は、WHOウェブサイトで更新されます。

 WHOによると、パンデミックに備えたA(H5N1)やA(H9N2)を含めたインフルエンザワクチン候補ウイルスの選定と開発の一環として、WHOはGISRS下にあるWHO調査研究センターから得られる新しいウイルス学的や疫学的情報を元に上記の推奨をこまめに見直していく予定です。
(2013年5月31日 WHO報告)