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鳥インフルエンザ A(H5N1) ヒト感染例報告(8) 平成26年1月10日更新

 2014年1月9日、世界保健機関(WHO)は、カナダにおける鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)の診断確定例を報告しました。患者は健康な成人でしたが、2013年12月27日に発症して2014年1月3日に死亡しました。

 患者は2013年12月6日から27日まで中国の北京を訪問し、12月27日にカナダに帰国しました。旅行中に倦怠感や熱感の症状がありました。患者は他に1人とよく行動を共にしていました。

 検査はアラバータ州の検査室で実施され、国立微生物学研究所で確認されました。
患者は家禽や動物との接触はなく、病人との接触もありませんでした。

 家族や医療従事者などの濃厚接触者は経過観察中であり、曝露後の抗ウイルス予防を受けています。これまで、全ての接触者は無症状です。飛行機の乗客の追跡調査も進行中です。

 これは、カナダにおける鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)ヒト感染例の最初の報告であり、アメリカ地域における最初の診断確定例になります。

 この最新の症例を含めて、世界中で649人の診断確定例が報告されており、このうち385人が死亡しています。

 WHOは、今回の事例に関して、入国時の特別なスクリーニング及びいかなる渡航や貿易の制限を推奨していません。

表1.8月26日から10月7日までの間に報告された鳥インフルエンザA(H5N1)感染例
発生国地域年齢性別発症日入院日死亡日抗インフルエンザ薬
治療開始日
暴露(鳥類との接触)
カンボジアプノンペン15ヶ月男児8月16日8月26日-8月27日調査中
カンボジアタケオ州5歳女児9月7日9月12日-9月13日病気や死んだ家禽
カンボジアカンポット州2歳女児9月11日9月15日9月17日9月16日調査中
インドネシア西ジャワ州28歳男性9月16日9月20日9月27日なし鳴鳥や鳩


鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)の総合的・公衆衛生学的危険度評価:
 家禽の中でインフルエンザウイルスが循環している時は、特に家で飼育されている感染した家禽や、汚染された環境に暴露する人々の中で散発例や小規模の集団発生が起こる可能性があります。しかし、現在のところ、このインフルエンザウイルスA(H5N1)は人の間で効率よく感染せず、このウイルスが地域レベルで拡大するレベルは依然として低いです。


その他の鳥インフルエンザについて

●中国での鳥インフルエンザA(H7N9)
 8月26日以降、中国では鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)に関しては新たな感染者は報告されていません。しかし以前の発症例で1人死亡者が報告されています。10月7日の現在、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)に感染し確定診断された患者は135人、うち45人が死亡したとWHOに報告されています。ほとんどの患者が肺炎を生じていました。
 鳥インフルエンザA(H7N9)患者のほとんどは家禽や生きた動物を扱う市場との接触がありました。家禽類内では不顕性感染しか起こさないので、主なウイルスの宿主についての情報や動物内でのウイルスの拡がりや分布に関する情報は未だに限られています。ウイルスは中国やおそらく近隣諸国で、循環し続けている可能性があります。このため、特に北半球では秋の到来と共に、ヒト感染例や動物での感染例の報告が追加されることが予想されます。
 これまでの患者では4例の家族内発生が報告されていますが、持続的なヒト-ヒト感染を示唆する証拠はありません。
 総合的・公衆衛生学的リスク評価としては、散発的なヒト感染と小集団での患者発生が、中国国内のこれまでの患者発生地域やその周辺地域/国での発生が予想されます。患者発生のあった地域やその周辺地域において、動物やヒトの感染例を発見するため、引き続き警戒すべきです。WHOは加盟国に対し調査や、適切な検査体制の確立を含めたその他の準備を行うよう助言しています。鳥インフルエンザA(H7N9)をはじめとした季節性インフルエンザでない患者は全てIHR(2005)に則り、WHOに報告することになっています。

●イタリアでのインフルエンザウイルスA(H7N7)のヒト感染例
 8月14日高病原性鳥インフルエンザA(H7N7)の家禽類内での流行が北イタリアで報告されました。同地域では家禽類内で6つの流行が報告されており、最近の報告例は9月4日でした。国際獣疫事務局(OIE1)によりますとオペレーション2の殺処分に関与した男性3人が鳥インフルエンザウイルスA(H7N7)に感染したことが同定されています。3人の感染者全て結膜炎があり、1人は悪寒と筋肉痛がありました。3人とも治療せずに回復しました。遺伝子学的には、鳥インフルエンザA(H7N7)はヨーロッパの野鳥内で循環している低病原性ウイルスと似ており、中央ヨーロッパや北ヨーロッパの家禽類内で散発例や限られた流行の原因となっています。抗原的には、鳥インフルエンザウイルスA(H7N7)ウイルスは、現存する鳥インフルエンザA(H7)のワクチン候補株をフェレットに感染させる事により得られる抗血清によく反応しました。
 インフルエンザウイルスA(H7)は世界中の多くの国々の家禽類内で検出されてきました。時折、ヒトでの感染例も報告され、感染鳥や汚染された環境への直接的に曝露したヒトの間に主として発生しています。これらの感染により結膜炎や軽いインフルエンザ様の症状を引き起こしていました。しかしながら、特にH7N9感染の場合のように、稀に重症例や致命的な例の報告もあります。


鳥インフルエンザウイルスA(H7N7)の総合的・公衆衛生学的危険度評価:
 家禽の中でウイルスが循環し続けた場合、ヒトの感染例や小規模の集団発生が起こる可能性があります。このウイルスが地域レベルで拡大する可能性は低いと考えられます。
 動物におけるインフルエンザウイルス感染の流行を経験している国々は全て、感染もしくはその可能性がある動物の近くで働いたり生活している人々を守るために、適切なバイオセーフティー対策を実施するべきです。動物のヘルスパートナーとの共同により、適切にこの病気を制御し、公衆衛生へのリスクを減少させることが必要です。
 リスクがある人々(感染した農場で働く人々、獣医師)や濃厚接触者の綿密なモニタリングにより、潜在的なヒト-ヒト感染を検出することができます。

●アメリカ合衆国での変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)のヒト感染例
 2013年までに、アメリカ合衆国(USA)は、変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)のヒト感染例を18人(イリノイ州1人、インディアナ州14人、ミシガン州2人、オハイオ州1人)報告しました。1人だけ入院しましたが、死亡例は発生していません。全ての症例は病気が発症する前の週に豚との濃厚接触があり、継続的なヒト-ヒト感染は確認されていません。
 限局した血清学的な研究によると、大人にはこのウイルスに対するいくつかの既存の免疫を有している可能性があるが、子供にはないことが示されています。季節性のワクチンは、成人にも子供にも変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)の交差免疫を提供しません。アメリカ合衆国で変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)に対する特異的なワクチンウイルスが3種類開発されており、必要に応じてワクチンの生産に使用することができます。


変異型インフルエンザウイルスA(H3N2)の総合的・公衆衛生学的危険度評価:
 アメリカ合衆国の豚の集団内でウイルスが循環し続けており、農業博覧会のシーズンであるため、ヒトの感染例や小規模の集団発生が起こる可能性があります。このウイルスが地域レベルで拡大する可能性や公衆衛生への影響は低いと考えられます。
 あらゆる変化を検出するための継続的なウイルスの特性評価等、状況を綿密にモニタリングする必要があります。

●アメリカ合衆国での非季節性インフルエンザウイルスA(H1N1)のヒト感染例
 アメリカ合衆国は、新たに2人の非季節性インフルエンザウイルスA(H1N1)ヒト感染例を発表しました。両症例は発症する前の週に豚との接触があり、ともに完治しています。
 これらのウイルスは、地域の豚の中で循環しているウイルスと、前年にヒトから検出された非季節性インフルエンザウイルスA(H1N1)に遺伝的に類似しています。
 ヒトの大部分は、幼児を除いて、既存の免疫や季節性インフルエンザワクチンによって保護されていると考えられます。


非季節性インフルエンザウイルスA(H1N1)の総合的・公衆衛生学的危険度評価:
 アメリカ合衆国の豚の集団内でこのウイルスが循環し続けているため、ヒトの感染例や小規模の集団発生が起こる可能性があります。このウイルスが地域レベルで拡大する可能性や公衆衛生への影響は低いと考えられます。