(No.198)

 ワクチン由来ポリオウイルスの流行―ラオス人民民主共和国(3)
2015年12月15日

 12月8日、ラオス人民民主共和国(PDR)の国際保健規則(IHR)担当窓口は、WHO(世界保健機関)に
対して、ワクチン由来のポリオウイルス1型(cVDPV1)診断確定患者を新たに2人報告しました。
これらの患者はこれまで患者が見つかっていないサイソンブン県在住です。これまでに感染が
確認された患者は計5人となりました。

症例の詳細情報
 最初の患者は7ヶ月の男児です。サイソンブン県のHom郡の住民で、10月3日に麻痺で発症しました。
9月30日に経口ポリオワクチン(OPV)の接種を受けています。11月4日に2人の濃厚接触者から
便検体が採取され、共にcVDPV1が検出されました。
 2番目の患者は、14歳の男性です。サイソンブン県のAnouvong郡の住民で、10月26日に発熱で
発症し、10月28日に麻痺が出現しました。患者は1度ですがOPV接種を受けた経歴があります。
11月6日と7日に、家族や近隣に住む3人の濃厚接触者から便検体が採取され、そのうち2人から
cVDPV1が検出されました。
 WHOの基準では、これら2人の患者は急性弛緩性麻痺(AFP)を呈しており、cVDPV1感染確定例に
分類されることになります。それに加え、集団発生が発見されて以来、ボーリカムサイ県や
サイソンブン県 の16人の健常接触者の便からもcVDPV1が分離されています。

公衆衛生上の取り組み
 ラオスにおける初のcVDPV1感染確定例が発見されて以来、感染が発生した県(ボーリカムサイ県、
サイソンブン県)およびその近隣県(シェンクワン県)において、感染流行対策が実行されてきました。
支援活動の調整をするために国家災害対策本部が立ち上げられ、ポリオ流行対策計画が起草されました。
AFP患者の発生を認めない地域も含め、国全体のサーベイランスは強化されました。病院や保健所で
過去にさかのぼった再調査を含め、これら3つの州で積極的症例探索が実施されています。
 2015年10月から2016年3月にかけて、三価OPVワクチンによる6回接種が2か国と4つの連邦州で
計画されており、最大860万回分のワクチンが15歳未満の小児に投与されることになっています。
この年齢の範囲は、患者とその接触者の年齢分布によって決定されました。OPVによる1回目と2回目の
補足的な予防接種活動(Supplementary Immunization Activities :SIAs)は10月と11月に
ボーリカムサイ県 、サイソンブン県 、シェンクワン県において完遂されました。このキャンペーンの
効果を評価するために、情報提供者の自主的な参加を呼びかけています。
 SIAsを確実に成功させるために、社会における予防接種に対する信頼を構築し障害に対処するための
協力者の訓練や説明会の開催を含め、非常時リスクコミュニケーションや社会動員が実行中です。

WHOのリスク評価
 cVDPVについて、OPV種からポリオウイルスに変異することは稀ですが度々報告されています。
これらの事実は、予防接種が不完全な人々の間で発生し得るようです。ポリオ感染を終結させる
ためには、野生株とワクチン由来の両方のポリオウイルスを根絶する必要があります。
ポリオが根絶された世界を確実に実現するために、cVDPV感染という小さいですが確かな危険性が
存在するために、OPVの使用は中止しなければならないでしょう。
 まず2型のポリオウイルス株を含むOPVの廃止を手始めに、OPVの使用は段階的に中止されるでしょう。
cVDPVの90%が2型によって引き起こされているので、2016年4月に計画されている3価OPVから
2価OPVへの切り替えによって、cVDPVの危険性は実質的に減少します。そして、最終的にOPVを
全廃し、cVDPVの危険性が全くない不活化ポリオワクチン(IPV)への完全移行へと進んでいきます。
 同地域への人の出入りは限定的であり、予防接種計画も実行されていることから、WHOはcVDPVが
ラオスから世界へ流行が拡大する可能性は低いと分析しています。

WHOからのアドバイス
 全ての国、特にポリオ浸淫国あるいは浸淫地域との間で頻繁に人の往き来や接触がある国々は、
迅速に輸入感染例を発見し素早い対策を取るために、AFP患者の発生について監視を強めることが
重要です。さらに、全ての地域において、新しいウイルス感染のいかなる侵入をも最小限とするために、
予防接種の高い接種率を一様に維持することが必要です。
 WHOが提供する海外旅行における健康情報において、旅行者がポリオ浸淫地域に旅行するときは、
ポリオに対する十分な量のワクチンを接種することを推奨しています。また、浸淫地域の住民および
同地域に4週間以上滞在する人は、4週から12か月の間にOPVまたはIPVの追加接種を受けることが
必要です。

【出典】
 WHO, Emergencies preparedness, response.
 Circulating vaccine-derived poliovirus – Lao People’s Democratic Republic,
 15 December 2015
http://www.who.int/csr/don/15-december-2015-polio-lao/en/