(No.114)

黄熱の流行状況
平成28年5月20日更新

 2016年5月20日、世界保健機関(WHO)は黄熱の流行状況を更新しました。

要約
・黄熱(YF)の流行は2015年12月末にアンゴラで報告され、2016年1月20日にダカール・パスツール
 研究所で確認されました。その後YF患者数の急激な増加が認められています。
・5月19日時点で2,420人の疑い例と298人の死亡例がアンゴラから報告されており、うち736人が診断
 確定しています。ルアンダ州、ウアンボ州、ベンゲラ州においてワクチン接種キャンペーンを行ったにも
 かかわらず、いくつかの地域において未だウイルスが蔓延しています。
・アンゴラから輸出されたYF確定例が3か国から報告されており、内訳はコンゴ民主共和国(DRC)から
 42人、ケニアから2人、中国から11人です。これらの症例は免疫を持たない(ワクチン未接種)渡航者を
 介してYFが世界的に拡大する危険性の高さを強調しています。
・2016年3月22日にDRCの保健省はアンゴラでの流行に関連したYF患者をWHOに報告し、4月23日に
 同国の政府は正式にYFの流行を宣言しました。5月19日時点でDRCにおいて疑い例5人、診断確定例42人
(内訳はコンゴ中央州とキンシャサにおいてアンゴラからの輸入例が39人、キンシャサのヌジリとコンゴ
 中央州のマタディにおいて国内発生例が2人)が報告されています。キンシャサとコンゴ中央州の両地域に
 おいて、少なくとも現地で感染した可能性のある8例の分類できない症例があり、現在調査中です。
・ウガンダにおいては、2016年4月9日に、同国保健省はマサカ県におけるYF患者をWHOに報告しました。
 5月19日時点で3県(マサカ県、ルクンギリ県、カランガラ県)から60人のYF疑い例と7人の診断確定例が
 報告されています。遺伝子配列を分析した結果、これらの集団感染例はアンゴラのものと疫学的な繋がりは
 ありませんでした。
・アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。ウガンダを含むこれら3か国に
 おいて、他の州への感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。また、
 特にYFの感染リスクが低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、外国人
 労働者がYFワクチンを接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
*5月19日に国際保健規則(IHR)に基づく、YFに関する緊急委員会がWHOの事務局長により開催され
 ました。委員会のアドバイスを受け局長はアンゴラとDRCで発生している都市型のYFは公衆衛生上の
 重大な問題で国家による対策及び強化された国際的なサポートが必要な事態であると決定しました。
 但し現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとして
 います。(発表はWHOのウェブサイトで閲覧可能です。)

リスク評価
・以下の理由でアンゴラにおける流行は未だに高い懸念が残っています。
・700万人以上がワクチン接種を実施したにも関わらず、ルアンダでは限局的な流行が持続しています。
・限局的な流行はルアンダを含む7つの人口の多い州で報告されています。
・新たな州や県へアウトブレイクが拡大し続けています
・近隣諸国への流行拡大の危険性が高く、既に中国、DRC、ケニアでアンゴラ由来の感染が確認されて
 います。国境地域は実質的に往来が自由であり社会活動や経済活動も活発であり、さらなる感染伝播は
 排除できません。ウイルス血症にある患者の渡航により、特に媒介蚊とYFウイルスに感受性のあるヒトが
 充分に存在する国々での地域流行を確立する危険性が高まります。
・感染症サーベイランスが不十分であるため、新たに症例が出現している中心なのか感染地域なのかを
 見分けかねます。
・カビンダ州のように到達するのが難しい地域にまで感染伝播が続いている疑いが強いです。
・DRCについては、4月に行った現地調査において同国は地域流行の危険性が高いという結果が出ています。
 利用できるワクチンには限りがあること、キンシャサには大きなアンゴラ人のコミュニティがあること、
 アンゴラとDRC間の往来は脱国境化していること、媒介蚊であるヤブカが存在し活動していることを
 考慮すると、状況は特に注意して監視する必要があります。
・アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。ウガンダを含むこれら3か国に
 おいて、他の州への感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。また、
 特にYFの感染リスクが低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、外国人
 労働者がYFワクチンを接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
*ウガンダや南アメリカの国(ブラジル、ペルー)はYFの流行や孤発例の発生に直面しています。これらは
 アンゴラのアウトブレイクとは関連がありませんがYFワクチンの備蓄量が限られているためにワクチンの
 準備が必要です。

感染への対策
*5月19日に国際保健規則(IHR)に基づくYFに関する緊急委員会がWHOの事務局長により開催されました。
 委員会のアドバイスを受け局長はアンゴラとDRCで発生している都市型のYFは公衆衛生上の重大な問題で
 国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると決定しました。但し、現時点ではこの
 事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとしています。事務局長は
 加盟国に対して以下の様なアドバイスを行っています。
*アンゴラとDRCにおける、サーベイランスの加速化、広範囲なワクチン接種、
 リスクコミュニケーション、社会的動員、媒介蚊のコントロール、患者の治療対策
*アンゴラとDRCを往来する全ての旅行者と特に移動労働者におけるYFワクチン接種を確実にすること、
*サーベイランスの強化と準備的な対策。それらにはリスクのある国及び流行国と接する国において、
 旅行者に対するYFワクチン接種証明、リスクコミュニケーションの実施などが含まれます。

・予防接種キャンペーンが最初はルアンダ州で2月の初めに、続いてベンゲラ州とウアンボ州で4月半ばに
 開始されました。(図2)
・5月18日時点で11.7万回分のワクチンがアンゴラに向けて出荷されました。
・DRCとウガンダはGAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の適応国であるため、
 これらの国にはGAVI Alliance によって予防接種キャンペーンが行われる予定です。
・コンゴ中央州やキンシャサ州ヌジリの保健ゾーンなど7つの保健ゾーンを対象として緊急予防接種
 キャンペーンを実施するために5月中旬までに220万本のワクチンおよびその付属品がDRCに到着する
 予定です。
・70万本のYFワクチンがウガンダに到着し、5月19日から予防接種キャンペーンを開始する予定です。
・ナミビアは渡航者や難民を対象としたYFワクチン45万回分のワクチン(1バイアル10回分)を要求して
 います。ザンビアは渡航者を対象倒したYFワクチン5万回分を要求しています。
・黄熱に対するメディアの注目度はあがってきています。特にワクチンの供給、旅行へのアドバイスや
 緊急委員会の招集などについて注目されています。
*5月19日の緊急委員会を受けて誌上カンファレンスがすぐに実施される予定です。
・現在のYFのアウトブレイクに対するQ&AがWHOのウェブサイトに記載されています
 (http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/)
・WHOは流行に関する質問に共同歩調で対処するために情報の発信や情報源に関して国連を通して
 リーダーシップをもって情報伝達の指示を与えました。
*WHO本部の共同チームと地域の共同リーダーとの間で週2回の共同歩調についての連絡が実施されて
 います。

図1 2016年5月19日時点のアンゴラとDRCにおける黄熱の患者分布


図2 2016年5月19日時点のアンゴラにおける予防接種の実施区域


【出典】
WHO, Situation Report
-ZIKA VIRUS DISEASE, YELLOW FEVER, EBOLA VIRUS DISEASE- 20MAY 2016
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/206548/1/yellowfeversitrep_20May2016_eng.pdf?ua=1