(No.120)

黄熱の流行状況
平成28年5月26日更新

 2016年5月26日、世界保健機関(WHO)は黄熱の流行状況を更新しました。
要約
・黄熱(YF)の流行は2015年12月末にアンゴラの首都ルアンダで確認されました。2016年1月19日に
 第1例の患者が南アフリカの国立感染症研究所において診断確定し、1月20日にダカールのパスツール
 研究所で確認されました。その後YF患者数の急激な増加が認められています。
・5月25日時点で2,536人の疑い例と301人の死亡例がアンゴラから報告されており、うち747人が診断
 確定しています。ルアンダ州、ウアンボ州、ベンゲラ州においてワクチン接種キャンペーンを行ったにも
 かかわらず、いくつかの地域において未だにウイルスが蔓延しています。5月16日にはクアンザ・スル州、
 ウイラ州、ウイジェ州においてワクチン接種キャンペーンが行われました。ルンダ・ノルテ州において
 流行が始まって以来初めて、2つの地区から5人の国内発生例が診断確定され報告されています。
・アンゴラから輸出されたYF確定例が3か国から報告されており、内訳はコンゴ民主共和国(DRC)から
 41人、ケニアから2人、中国から11人です。これらの症例は免疫を持たない(ワクチン未接種)渡航者を
 介してYFが世界的に拡大する危険性の高さを強調しています。
・2016年3月22日にDRCの保健省はアンゴラにおけるYF流行に関連した患者をWHOに報告し、4月23日に
 同国の政府は正式にYFの流行を宣言しました。5月25日時点でDRCにおいて疑い例3人、診断確定例48人、
 内訳はコンゴ中央州とキンシャサとクワンゴ州(以前のバンドゥンドゥ州)においてアンゴラからの
 輸入例が41人、キンシャサのヌジリとコンゴ中央州のマタディにおいて国内発生例が2人報告されて
 います。コンゴ中央州(ムアンダ)とクワンゴ州の両地域において少なくとも3例の分類できない症例が
 あり、現地で感染した可能性について現在調査中です。
・2016年4月9日、ウガンダのマサカ県においてYF患者をWHOに報告しました。5月25日時点で3県
 (マサカ県、ルクンギリ県、カランガラ県)から60人のYF疑い例と7人の診断確定例が報告されています。
 遺伝子配列を分析した結果、これらの集団感染例はアンゴラのものと疫学的な繋がりはありませんでした。
・アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。アンゴラ、DRC、ウガンダに
 おいて、他の州への感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。また、
 特にYFの感染リスクが低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、外国人
 労働者がYFワクチンを接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
・5月19日国際保健規則(IHR2005)に基づき、WHOの事務局長によるYFに関する緊急委員会が開催され
 ました。委員会のアドバイスを受け、局長はアンゴラとDRCで発生している都市型のYFは公衆衛生上の
 重大な問題であり、国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると決定しました。
 但し現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとして
 います。(発表はWHOのウェブサイトで閲覧可能です。)

リスク評価
・以下の理由によりアンゴラにおける流行は未だに高い懸念が残っています。
 *700万人以上がワクチン接種を実施したにも関わらず、ルアンダでは限局的な流行が持続しています。
 *限局的な流行はルアンダを含む7つの人口の多い州で報告されています。
  最近最もYF感染者が報告されている州はルンダ・ノルテ州です。
 *新たな州や県へアウトブレイクが拡大し続けています。
 *近隣諸国への流行拡大の危険性が高いです。国境地域は実質的に往来が自由であり社会活動や経済活動も
  活発であり、さらなる感染伝播は排除できません。ウイルス血症にある患者の渡航により、特に媒介蚊と
  YFウイルスに感受性のあるヒトが充分に存在する国々において流行を確立する危険性が高まります。
 *感染症発生動向調査が不十分であるため、新たに症例が出現している中心なのか感染地域なのかを
  見分けかねます。
 *ガンビダ州のように到達するのが難しい地域にまで感染伝播が続いている疑いが強いです。

・4月に行った現地調査においてDRCは地域流行の危険性が高いという結果が出ています。利用できる
 ワクチンには限りがあること、キンシャサには大きなアンゴラ人のコミュニティがあること、アンゴラと
 DRC間の往来は抜け穴だらけであること、媒介蚊であるヤブカが存在し活動していることを考慮すると、
 状況は特に注意して監視する必要があります。
・アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。ウガンダを含むこれら3か国に
 おいて、他の州への感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。また、
 特にYFの感染リスクが低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、外国人
 労働者がYFワクチンを接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
・ウガンダや南アメリカの国々(ブラジルやペルー)はYFの流行や散発例の発生に直面しています。
 これらはアンゴラのアウトブレイクとは関連がありませんが、YFワクチンの備蓄量が限られている
 状況下において、それらの国々に対してもワクチンが必要です。

感染への対策
・5月19日国際保健規則(IHR2005)に基づきWHOの事務局長によりYFに関する緊急委員会が開催され
 ました。委員会のアドバイスを受け局長はアンゴラとDRCで発生している都市型のYFは公衆衛生上の
 重大な問題で国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると決定しました。但し、
 現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとしています。
 事務局長は加盟国に対して以下の様なアドバイスを行っています。
 *アンゴラとDRCを往来する全ての渡航者と特に出稼ぎ労働者においてYFワクチン接種を確実にすること
 *サーベイランスの強化と対策の準備を行うこと。それらにはリスク国及び流行国と接する国において、
  渡航者に対するYFワクチン接種証明やリスクコミュニケーションの実施などが含まれます。
・予防接種キャンペーンが最初はルアンダ州で2月の初めに、続いてベンゲラ州とウアンボ州で4月半ばに
 開始されました。
・5月18日時点で11.7万回分のワクチンがアンゴラに向けて出荷されました。
・DRCとウガンダはGAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の適応国であるため、
 これらの国にはGAVI Alliance によって予防接種キャンペーンが行われる予定です。
・コンゴ中央州やキンシャサ州ヌジリの保健ゾーンなど7つの衛生地区を対象として5月26日から緊急予防
 接種キャンペーンを実施するために220万本のワクチンおよびその付属機器がDRCに到着しました。
・ナミビアは渡航者や難民を対象としたYFワクチン45万回分のワクチン(1バイアル10回分)を要求して
 います。ザンビアも渡航者に対し5万回分のワクチンを要求しています。
・70万本のYFワクチンがウガンダに到着し、5月19日から予防接種キャンペーンを開始しました。
 現在までに提出された報告書からマサカ県において88%の接種率、ルクンギリ県において96.8%の
 接種率です。来週カランガラ県において予防接種キャンペーンを実施する予定です。
・黄熱に対するメディアの注目度はあがってきています。特にワクチンの供給、渡航のアドバイスや
 緊急委員会の招集などについて注目されています。
・5月19日の緊急委員会を受け、報道カンファレンスがすぐに実施される予定です。声明については
 WHOのウェブサイトに記載されています。
 (http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2016/ec-yellow-fever/en/
・現在のYFのアウトブレイクに対するQ&AがWHOのウェブサイトに記載されています。
 (http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/
・WHOは流行に関する質問に共同歩調で対処するために情報の発信や情報源に関して国連を通して
 リーダーシップをもって情報伝達を纏めてきました。
・WHO本部の情報通信チームと地域事務局の通信主担当者との間で週二回、連絡会議が開催されています。

図1 2016年5月25日時点のアンゴラとDRCにおける黄熱の患者分布


図2 2016年5月25日時点のアンゴラにおける予防接種の実施区域


【出典】
WHO, Situation Report - YELLOW FEVER - 26 MAY 2016
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/207328/1/yellowfeversitrep_26May2016_eng.pdf?ua=1