(No.135)

黄熱の流行状況(アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ他)
平成28年6月16日更新

2016年6月16日、世界保健機関(WHO)は黄熱の流行状況を更新しました。

要約
・2016年初め以来、アンゴラにおいて黄熱(YF)患者が増加しており、6月15日時点で3,137人の患者
 (うち847人は診断確定例)が報告されています(表1)。また345人の死者が報告されており、うち
 112人が診断確定例です。全ての州において疑い例が報告されており、診断確定例は18州中16州、
 121郡中78郡において報告されています(表2)。
・ルアンダにおいてワクチン集団接種キャンペーンが始まり、現在同国内のその他のほとんどの流行地域を
 カバーするために同キャンペーンが拡大しており、最近では国境地域に焦点が置かれています。
 大規模なワクチン接種の努力にもかかわらず、このウイルスの感染伝播は続いています。
・6月15日時点でコンゴ民主共和国(DRC)の22の保健行政区から1,044人の疑い例(うち71人が死亡)と
 61人の診断確定例が報告されています。61人の診断確定例のうち53人がアンゴラからの輸入例、2人が
 森林型黄熱例、6人が国内発生例です。
・DRCにおいて調査活動が強化され、ワクチン接種キャンペーンがキンシャサとコンゴ中央州の流行地域
 において集中して行われています。
・コンゴ民主共和国(確定患者53人)、ケニア(確定患者2人)、中国(確定患者11人)の3か国において、
 アンゴラから持ち込まれた黄熱の確定患者が報告されています。これは予防接種を受けていない渡航者を
 介して国際的にリスクが拡大していることを強く示唆しています。
・現在7か国(ブラジル、チャド、コロンビア、エチオピア、ガーナ、ペルー、ウガンダ)においてYFの
 流行、または散発例が報告されていますが、アンゴラにおける流行とは繋がりがありません。
・2016年5月19日に招集された緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長はアンゴラとDRCにおける
 都市型YFの流行が国の行動を結集し、強化した国際支援を確保するべきである、公衆衛生上の深刻な
 事態と判断しました。しかしこの事態は現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)
 には該当しないとも判断しています。

リスク評価
・アンゴラの集団感染は以下のような理由で大きな懸念があります。
 ・800万人以上の人々がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、ルアンダにおいて
  国内感染が持続しています。
 ・国内感染はルアンダ州を含む人口が密集する12州で報告されています。最近ではザイール州と
  ウアンボ州から感染伝播が報告されました。
 ・新たな州や郡に流行が拡大し続けています。
 ・近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。国境において実質的に社会生活および経済活動が国境を
  越えて自由に行き来できるため、さらなる感染伝播の危険性を排除できません。ウイルス血症となった
  渡航者は、地域感染の確立させるリスク、特に適度に媒介する蚊が生息し、感染を受けやすい住民が
  住んでいる国においてリスクをもたらします。
 ・国内感染患者が報告されていない他の州においても地域の感染伝播が確立されるリスクがあります。
 ・カビンダのように感染が波及し難い地域でも感染継続への疑いの高い指標が示されています。
 ・新たな感染源や患者の発生地域を確認するための調査体制が不十分です。

・DRCにおいては、4月の現地調査からは黄熱の地域感染のリスクが非常に高いと結論付けられています。
 流行が既に3州に拡大しています。限られたワクチン供給量、キンシャサにある大きなアンゴラ人の
 地域集団、アンゴラとDRCとの間に存在する流動性、媒介するシマカ属の蚊の生息と活動性を考えると、
 この国では厳密に発生状況を監視する必要があります。流行は特にカサイ、カサイ中央、ルアラバなどの
 その他の州に及ぶ可能性があります。
・アンゴラやDRCのウイルスは大半が主要都市に集中しています。しかし、両国においてその他の地方への
 感染伝播と地域内の感染伝播に対するリスクが深刻な懸念となっています。このリスクは国境を接する
 国々、特に黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、黄熱ワクチン
 を接種していない住民、渡航者や外国人労働者がいるために拡大の可能性が高くなっています。
・チャド、ウガンダ、南アメリカ大陸の一部の国(ブラジル、コロンビア、ペルー)において、YFの
 集団発生や 散発的な患者発生に直面しています。これらの発生事例はアンゴラの流行発生とは
 関係ありませんが、これらの国は黄熱ワクチンの備蓄状況が限られておりワクチンが必要です。

感染への対策
・国際保健規則(IHR2005)に基づきWHOの事務局長により5月19日にYFに関する緊急委員会(EC)が
 開催されました。ECからの助言に基づき、事務局長はアンゴラとDRCで発生している都市型YFは
 公衆衛生上の深刻な問題で国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると
 決定しました。しかし現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には
 該当しないとしています。

事務局長は、加盟各国に以下の助言を行いました。
 ・アンゴラとDRCにおいて、調査活動、集団予防接種、リスク情報の伝達、住民への注意喚起と
  地域活動、媒介昆虫の駆除・制御、患者の管理など対策を促進すること
 ・アンゴラとDRCに出入国するすべての渡航者、特に移民労働者に黄熱ワクチンを確実に接種すること
 ・黄熱リスク国や現在の流行国と国境を接している国々においては、調査活動および、渡航者の
  黄熱予防接種証明書(イエローカード)の確認、リスク情報の伝達などの対策への準備を強化すること
 ・5月19日の緊急委員会の直後に続いて記者会見が開かれました。声明は以下のWHOのウェブサイト
  において公開されています。
   http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2016/ec-yellow-fever/en/
・現在も続いている流行状況は以下のWHOのウェブサイトにおいて公開されています。
  http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/
・一連の情報にはワクチンの備蓄、ICG(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)の支援体制、ワクチンの供給
 および配給されるワクチンの潜在的な使用に関することが用意されています。
・WHOは、アンゴラとDRCのWHO国事務所を支援するために連絡担当官を派遣しました。
・アンゴラにおいて予防接種キャンペーンがルアンダ州で2月の初めに始まり、ベンゲラ州とウアンボ州でも
 4月半ばに開始され、さらに5月16日にはクアンザ・スル、ウイラ、ウイジェの各州で始まりました。
 予防接種キャンペーンはクアンゴの地域でも始まり、ヌンダ・ノルテのChitato地区でも
 計画されています。
・6月11日時点でICGが9つの州の12の郡(ビエー州、クネネ州、ベンゲラ州、ウイラ州、
 クアンザ・ノルテ州、ウイジェ州、ナミベ州、クアンザ・スル州、クアンド・クバンゴ州、)において
 230万回分のYFワクチンを承認しました。
・ザイーレ州のソヨ地区の国境地域に243,690回分のワクチンが集団接種のために送られました。
 集団接種キャンペーンは今週から開始する計画です。1,036,500回分のYFワクチンが追加で受け取られ、
 コアンゴ郡、ヒタト郡、ソヨ郡において計画されています。集団接種キャンペーンがヒタト郡と
 コアンゴ(ルンダノルテ州)郡の境界地区において進行中です。
・DRCにおいて6月4日に11の保健ゾーンにおいて予防接種キャンペーンが終了し、210万人近くが
 接種されました。キンシャサやクワンゴ州の新たな流行地域において予防接種キャンペーンを
 行うために、新たなワクチンをICGに要求しています。
・ウガンダではカランガラ県において集団接種キャンペーンが完了し93.5%の接種率でした。
 マサカ県においては88%の接種率、ルクンギリ県においては97%の接種率でした。
・表3はICGを通じて緊急対応のための現在利用可能なワクチンの数(680万回分)が示されています。
 すでに流行に対応するために割り当てられている接種数はこの数には含まれていません。
 現在備蓄している数と生産される予定の数を足して計画中のワクチン接種数に対応するつもりです。

表1:アンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱の症例数と死者数


表2:アンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱の地理的分布


表3:緊急備蓄されている利用可能なワクチンと計画されているワクチンの累積接種回数(百万単位)




図1 6月15日時点でのアンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱診断確定患者の分布


図2 6月15日時点でのアンゴラにおける黄熱ワクチン接種率

【出典】
WHO situation report Yellow Fever 16/June /2016
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/242438/1/yellowfeversitrep-16Jun2016-eng.pdf?ua=1