(No.144)

黄熱の流行状況(アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ他)
平成28年6月30日更新

 2016年6月30日、世界保健機関(WHO)は黄熱の流行状況を更新しました。

要約
・6月30日時点で3,464人の患者(うち868人は診断確定例)が報告されています(表1)。また353人の死者が
 報告されており、うち116人が診断確定例です。全ての州において疑い例が報告されており、診断確定例は
 18州中16州、125郡中79郡において報告されています。
・ルアンダにおいてワクチン集団接種キャンペーンが始まり、現在同国内のその他のほとんどの流行地域を
 カバーするために同キャンペーンが拡大しており、最近では国境地域に焦点が置かれています。
 大規模なワクチン接種の努力にもかかわらず、このウイルスの感染伝播は続いています。
・6月23日時点でコンゴ民主共和国(DRC)の5州における22の保健行政区から1,307人の疑い例(うち68人が
 診断確定例で75人が死亡)が報告されています。68人の診断確定例のうち59人がアンゴラからの輸入例、
 2人が(今回の流行とは関連がない)森林型黄熱例、7人が国内発生例です。
・DRCにおいて調査活動が強化され、ワクチン接種キャンペーンがキンシャサとコンゴ中央州の流行地域に
 おいて集中して行われています。
・ケニヤ(2人)と中国(11人)からアンゴラから持ち込まれた診断確定例が報告されました。
 これは予防接種を受けていない渡航者を介して国際的にリスクが拡大していることを強く示唆しています。
・現在7か国(ブラジル、チャド、コロンビア、ガーナ、ギニア、ペルー、ウガンダ)においてYFの流行、
 または散発例が報告されていますが、アンゴラにおける流行とは繋がりがありません。
・2016年5月19日に招集された緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長はアンゴラとDRCにおける
 都市型YFの流行が国の行動を結集し、強化した国際支援を確保するべきである、公衆衛生上の深刻な事態
 であると判断しました。しかしこの事態は現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態
 (PHEIC)には該当しないとも判断しています。
・WHOの予防接種に関する専門家の戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は、
 標準用量の1/5の使用量でも12か月間以上にわたり感染から保護できることが示されていることの
 科学的根拠について検討を始めました。分割投与として知られているこの投与方法が緊急時にワクチンの
 備蓄量が不足する可能性のある状況において、短期的な使い方として検討されています。

リスク評価
・アンゴラの集団感染は以下のような理由で大きな懸念があります。
 ・1,100万人近くの人々がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、同国における
  感染が持続しています。
 ・同国における感染はルアンダ州を含む人口が密集する12州で報告されています。
 ・新たな州や郡においても流行が拡大し続けています。
 ・近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。国境において実質的に社会生活およ び経済活動が
  国境を越えて自由に行き来できるため、さらなる感染伝播の危険性を排 除できません。ウイルス血症
  となった渡航者は、地域感染の確立させるリスク、特に媒介する蚊が適度に生息し、感染を受けやすい
  住民が住んでいる国においてリスクをもたらします。
 ・同国における感染患者が報告されていない他の州においても地域の感染伝播が確立されるリスクが
  あります。
 ・カビンダのように感染が波及し難い地域でも感染継続への疑いの高い指標が示され ています。
 ・サーベイランスの強化が必要であり、その取り組みが行われているところです。
 ・DRCにおいて流行が既に3州に拡大しています。限られたワクチン供給量、キンシャサにある大きな
  アンゴラ人の地域集団、アンゴラとDRCとの間のヒトの往来のある国境、媒介するシマカ属の蚊の
  生息と活動性を考えると、この国では厳密に発生状況を監視する必要があります。流行は特にカサイ、
  カサイ中央、ルアラバなどのその他の州に及ぶ可能性があります。
  ・アンゴラやDRCのウイルスは大半が主要都市に集中しています。しかし両国においてその他の地方への
  感染伝播と地域内の感染伝播に対するリスクが深刻な懸念となっています。このリスクは国境を接する
  国々、特に黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、
  黄熱ワクチンを接種していない住民、渡航者や外国人労働者がいるために拡大の可能性が高くなって
  います。
 ・チャド、ウガンダ、南アメリカ大陸の一部の国(ブラジル、コロンビア、ペルー)において、YFの
  集団発生や散発的な患者発生に直面しています。これらの発生事例はアンゴラの流行発生とは
  関係ありませんが、これらの国は黄熱ワクチンの備蓄状況が限られておりワクチンが必要です。

感染への対策
・国際保健規則(IHR2005)に基づきWHOの事務局長により5月19日にYFに関する緊急委員会(EC)が
 開催されました。ECからの助言に基づき、事務局長はアンゴラとDRCで発生している都市型YFは
 公衆衛生上の深刻な問題で国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると
 判断しました。しかし現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には
 該当しないとしています。
・現在も続いている流行状況は以下のWHOのウェブサイトにおいて公開されています。
  http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/
・一連の情報にはワクチンの備蓄、ICG(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)の支援体制、ワクチンの供給
 および配給されるワクチンの潜在的な使用に関することが用意されています。
・WHOの予防接種に関する専門家の戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は、
 標準用量の1/5の使用量でも12か月間以上にわたり感染から保護できることが示されていることの
 科学的根拠について検討を始めました。分割投与として知られているこの投与方法が緊急時にワクチンの
 備蓄量が不足する可能性のある状況において、短期的な使い方として検討されています。
・6月30日時点でアンゴラにおいて1300万人、DRCにおいて550万人、ウガンダにおいて110万人が
 ワクチン接種済みです。
・現在ICGを通じて緊急対応のための現在利用可能なワクチンの数は600万回分です。
 すでに流行に対応するために割り当てられた接種回数分は、この数には含まれていません。

表1:アンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱の症例数と死者数

※症例と死亡例は国内発生例と輸入例の両方を含みます。データは最近の入手可能なデータです。
 これらの数字は、継続的な再分類や後ろ向き調査や検査結果の状況によって変更される場合があります。


表2:アンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱の地理的分布

*は野生動物に発症した例も含まれています。データは最近の入手可能なデータです。これらの数字は、
 継続的な再分類や後ろ向き調査や検査結果の状況によって変更される場合があります。
 最近の週のデータは新たに流行のあった郡/保健行政区、州を表します。


図1 6月24日時点でのアンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱診断確定患者の分布


図2 6月29日時点でのアンゴラにおける黄熱ワクチン接種率

【出典】
WHO, Yellow fever
Yellow fever Situation Report - 30 June 2016
http://www.who.int/emergencies/yellow-fever/situation-reports/30-june-2016/en/