(No.151)

黄熱の流行状況(12)
平成28年7月15日更新

 黄熱のアウトブレイクは、2015年12月末にアンゴラ共和国の首都ルアンダで最初に認められました。
最初の黄熱感染者は、2016年1月19日に南アフリカの国立伝染病研究所(NICD)により、1月20日に
セネガルの首都ダカールのパスツール研究所により確認されています。その後、感染者数の急激な増加を
認めています。

要約
アンゴラ:3,625人の感染疑い例
 アンゴラでは、2016年7月8日の時点で、3,625人の疑い患者(うち876人は診断確定例)が報告されて
います。また357人の死者が報告されており、うち117人が診断確定例です。全ての州において疑い例が
報告されており、診断確定例は18州中16州、125郡中80郡において報告されています。

 ルアンダにおいてアウトブレイク対策としてのワクチン集団接種キャンペーンが始まり、現在同国内の
その他のほとんどの流行地域をカバーするために同キャンペーンが拡大しており、最近では国境地域に
焦点が置かれています。大規模なワクチン接種の努力にもかかわらず、このウイルスの感染伝播は続いて
います。

 今回のアウトブレイクに対する先制治療的な意味合いのある11の集団ワクチン接種キャンペーンが、
7つの地域(ベンゲラ州、ウアンボ州、ウイラ州、クアンザ・ノルテ州、クアンザ・スル州、
ルンダ・ノルテ州、ウイジェ州)で引き続き行われています。その他の6つの集団ワクチン接種キャンペーン
が終了間近です。また、掃討キャンペーンが、クネネ州、ルンダ・ノルテ州、ウイジェ州、ザイーレ州の
各所で実行されています。

コンゴ民主共和国:1,798人の感染疑い例
 最近報告された疑い患者数の増加以外にコンゴ民主共和国(DRC)の疫学状況に関する更新情報は
ありません。直近の3週間においては、技術的な問題によりDRCの国立研究所は、疑い患者における
診断の確定や除外ができておりません。7月11日現在の最新情報によりますと、全26州中5州における22の
保健行政区から、1,798人の疑い例(うち68人が6月24日時点での診断確定例で85人が死亡)が報告されて
います。68人の診断確定例のうち59人がアンゴラからの輸入例、2人が(今回の流行とは関連がない)
森林型黄熱例、7人が国内発生例です。

 DRCでは、調査活動が強化され、ワクチン接種キャンペーンがキンシャサとコンゴ中央州の流行地域
において集中して行われています。今回のアウトブレイク対策としてのワクチン接種キャンペーンは、
7月20日からキンシャサ州のキセンソ保健行政区およびクワンゴ州のカヘンバ、カジジ、キサンジの
各保健行政区で開始される予定です。

感染拡散の危険性
 アンゴラから輸入された診断確定例が、ケニヤ(2人)と中国(11人)から報告されました。
これは予防接種を受けていない渡航者を介して国際的にリスクが拡大していることを強く示唆しています。

 現在7か国(ブラジル、チャド、コロンビア、ガーナ、ギニア、ペルー、ウガンダ)において黄熱の流行、
または散発例が報告されていますが、アンゴラにおける流行とは繋がりがありません。

ワクチン接種に関して
 WHOの予防接種に関する専門家の戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は、
標準用量の1/5の使用量でも12か月間以上にわたり感染から保護できることが示されていることの
科学的根拠について検討を始めました。分割投与として知られているこの投与方法が緊急時にワクチンの
備蓄量が不足する可能性のある状況において、短期的な使い方として検討されています。

リスク評価
 アンゴラの集団感染は以下のような理由で大きな懸念があります。:
・1,500万人近くの人々がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、同国における感染が
 持続しています。
・同国における感染はルアンダ州を含む人口が密集する12州で報告されています。
・新たな州や郡においても流行が拡大し続けています。
・近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。国境において実質的に社会生活および経済活動が国境を
 越えて自由に行き来できるため、さらなる感染伝播の危険性を排除できません。ウイルス血症となった
 渡航者は、地域感染の確立させるリスク、特に媒介する蚊が適度に生息し、感染を受けやすい住民が
 住んでいる国においてリスクをもたらします。
・同国における感染患者が報告されていない他の州においても地域の感染伝播が確立されるリスクが
 あります。
・カビンダのように感染が波及し難い地域でも感染継続への疑いの高い指標が示されています。

 DRCにおいて流行が既に3州に拡大しています。限られたワクチン供給量、キンシャサにある大きな
アンゴラ人の地域集団、アンゴラとDRCとの間のヒトの往来のある国境、媒介するシマカ属の蚊の生息と
活動性を考えると、この国では厳密に発生状況を監視する必要があります。流行は特にカサイ、
カサイ中央、ルアラバなどのその他の州に及ぶ可能性があります。

 アンゴラやDRCのウイルスは大半が主要都市に集中しています。しかし、両国においてその他の地方への
感染伝播と地域内の感染伝播に対するリスクが深刻な懸念となっています。このリスクは国境を接する国々、
特に黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、黄熱ワクチンを
接種していない住民、渡航者や外国人労働者がいるために拡大の可能性が高くなっています。

 2016年に入り、アフリカ諸国(チャド、ガーナ、ギニア、DRC、ウガンダ)と南アメリカ大陸の一部の国
(ブラジル、コロンビア、ペルー)において、黄熱感染例が報告されています。これらの発生事例は
アンゴラのアウトブレイクとは関係ありませんが、これらの国々において黄熱ワクチンの需要が発生し、
世界的に限られているワクチンの備蓄状況をさらに逼迫させる可能性があります。


図1.アンゴラ(7月8日現在)とコンゴ民主共和国(6月28日現在)における黄熱診断確定患者の分布


図2 7月8日時点でのアンゴラにおける黄熱ワクチン接種率

【出典】
WHO Yellow Fever
Yellow Fever Situation Report
15 July 2016

http://www.who.int/emergencies/yellow-fever/situation-reports/15-july-2016/en/