(No.152)

英国における腸管出血性大腸菌感染の流行
2016年7月20日

 2016年7月1日、英国の国際保健規則(IHR)担当窓口は世界保健機関(WHO)に対してシガ毒素産生性大腸菌
(STEC)O157ファージタイプ(PT)34のイングランドとウェールズにおける流行を報告しました。
 大腸菌O157患者発生数の増加は初め、英国公衆衛生庁(PHE)南西部センターから6月21日に
報告されました。
 この増加の調査のためにアウトブレイク対策チームが翌日に召喚され、24日には今回の増加報告に
関連した1回目の検体からSTECの血清型O157,PT34,eae(インチミン)陽性、ベロ毒素2遺伝子陽性、
ベロ毒素遺伝子1陰性(以後流行株と記載)が同定されました。27日には流行株による患者数の深刻な
増加が全土でみられ、国内流行として宣言され、対処されることになりました。全遺伝子配列の解析データ
から分離株は全て同一の集団からの発生であることが確定しました。流行株は現在同国のウシが保有し
循環している株ではなく、地中海地域に最近旅行した人から同定された株の遺伝子配列に近似したもの
でした。このことは流行株が輸入株であろうということを示しています。
 7月14日現在、158人の患者が同定されており、その内105人は診断確定しており、53人は疑い例と
なっています。4人は現時点で入院加療中です。溶血性尿毒症症候群(HUS)は7人で報告されています。
2人が死亡しており、共に死因の要素として大腸菌感染が挙げられています。
 患者は英国中に分布しており、その91%はイングランド在住です。今回の流行はケータリングや、
収容介護を行っている店と関連した複数の小集団で発生しているという特徴があります。40%という高率で
患者は入院治療を受けています。患者の75%は女性で、91%が18歳以上です。年齢分布は1歳~98歳と
なっています。患者の発生期間は今年の5月31日から7月5日に及んでいます。
 多変量解析からはカフェやレストランなどケータリングを受けている所での葉菜類ミックスサラダ摂取が
感染と関連している事が示されています。サラダからの検体抽出と細菌学的検査は現在実施中ですが、
現在のところSTECO157は検出されていません。

公衆衛生対策
 更なる調査が進むまで、いくつかの卸売り業者はミックスサラダに輸入した葉菜類を混ぜないようにする
処置をとっています。
 PHEはヨーロッパ疾病管理予防センター(ECDC)、食品基準庁、欧州委員会と共同で今回の流行の
発生源を同定すべく行動中です。PHEはまた国民にアドバイスを送り、進行中の調査についての情報を
継続して提供しています。 

WHOによるリスク評価
 今回のアウトブレイクはシガ毒素産生性大腸菌O157ファージタイプ34によるものと同定されましたが
感染源は未だ判明していません。STECO157の中でファージタイプ34は7番目によくみられるタイプです。
1994年から2016年までの間に734例の報告があります。平均すると1週あたり1例の報告にも満たないもの
ですが春から夏にかけては1週あたり2.35例となります。この数値から考えても今回のケースは重大です。
他の欧州諸国で今回のような患者数の増加は前例がなく、同株における英国以外での発生報告はありません。
従って現時点ではアウトブレイクは英国に限定されていると思われます。WHOは疫学的状況のモニターと
リスク評価を利用可能な最新情報に基づいて継続していきます。

背景
 大腸菌はヒトや他の温血動物の腸内に普通にみられる細菌です。殆どの大腸菌株は無害ですが
腸管出血性大腸菌のようにある種の株は激烈な食品媒介性疾患を起こします。

【出典】
Emergencies preparedness, response

Enterohaemorrhagic Escherischia coli – United Kingdom

http://www.who.int/csr/don/20-july-2016-ehec-uk/en/