(No.185)

アメリカ大陸地域おける麻疹排除宣言
平成28年9月28日更新

 ワシントンD.C. 、2016年9月27日(汎アメリカ保健機構(PAHO)/世界保健機関(WHO))-
 アメリカ大陸地域において、麻疹(肺炎、失明、脳浮腫および時に死亡の可能性がある重大な健康上の
問題を引き起こし得るウイルス性疾患)を世界で初めて排除しました。この偉業は、アメリカ大陸全土に
おける麻疹、ムンプス、風疹に対する集団ワクチン接種を含む22年間におよぶ努力を重ねた結果です。

 排除宣言は、「アメリカ大陸における麻疹、風疹および先天性風疹症候群の排除を記録、検証するための
国際専門家委員会」によってなされました。これは、現在開催中でありアメリカ大陸の各国保健相が
参加している、第55回PAHO/WHO指導協議会において公告されました。

 麻疹は、ワクチンによって予防可能な感染症としてアメリカ大陸において5番目に排除された疾患であり、
1971年の痘瘡、1994年のポリオ、2015年の風疹と先天性風疹症候群に次ぐものとなります。

 PAHO/WHOのCarissa F. Etienne事務局長は、次のように述べています。「このことにより、
この地域そして実に世界にとって歴史的な日となりました。多くの国々が一致団結して共通のゴールを
目指して協働すれば、目覚ましい成功を収めることができることが証明されました。また、このことは、
20年以上も前になる1994年にアメリカ大陸の国々が、21世紀への移行期までに麻疹の循環を
終息させることを誓ってなされた誓約の結果です。」

 1980年に集団ワクチン接種が開始される以前は、麻疹により世界中で毎年260万人に近い死亡者が
発生していました。アメリカ大陸においては、1971年から1979年の間に麻疹が原因で101,800人の
死亡者が発生しています。ラテンアメリカとカリブ海地域における麻疹排除に関する費用対効果の
研究によりますと、2000年から2020年の間に、ワクチン接種により同地域において320万人の麻疹感染者と
16,000人の死亡者を予防することができると見積もられています。

 Etienne事務局長は続けて次のように述べています。「この歴史的なマイルストーンは、全ての子供たちに
対して命を救うためのワクチンを受ける手段を確実に与えるという、各加盟国の強い政治的な誓約なしには
実現不可能なことでした。また、脆弱で到達が難しいコミュニティの人々を含む、全ての人々に対して
ワクチンの恩恵をもたらすために懸命に働いた、医療従事者やボランティアの寛大な行為がなければ
達成不可能なことでもありました。そして、このことは、実際のところ、PAHOとアメリカ大陸WHO
地域事務局による強力なリーダーシップと調整業務がなければ実現不可能でした。」

 この地域における麻疹の感染伝播は、最後に地域内流行がみられた2002年以来、中断されていると
考えられます。しかし、世界のその他の地域で流行が続いているため、アメリカ大陸のいくつかの
国々では、輸入感染例を経験していました。同国際専門家委員会は、2015年から2016年8月の間における
この地域の麻疹排除に関する証拠について再吟味を行った結果、これが排除に関して定められた基準を
満たしていることを決議しました。それまでのプロセスには、排除の証拠を収集するために各国とともに
働いた6年の期間が含まれています。

 麻疹は、最も伝染力が強い感染症の1つで、最初に子供たちに感染します。また、この感染症は、
感染者の鼻・口・のどから排出された空中を浮遊する液滴や分泌物への直接接触を通して感染伝播します。
症状には、高熱、全身の発疹、鼻づまり、結膜炎症状があります。この感染症により、特に栄養に問題の
ある子供や免疫不全の人に対して、失明、脳炎、重篤な下痢、耳感染、肺炎などの深刻な合併症が
引き起こされます。

 国際的な麻疹排除に向けた努力の結果、2015年には世界中で244,704人の麻疹患者が報告されたに
過ぎず、これはここ数年になり著明な減少傾向にあることを示しています。しかし一方で、
これら報告された感染例の半数以上がアフリカとアジアで認めているという事実もあります。

 麻疹の排除状態を維持するため、PAHO/WHOと国際専門家委員会は、アメリカ大陸の全ての国に対して、
有効なサーベイランスを強化し、ワクチン接種をとおして住民の免疫を維持することを推奨しています。

 Etienne事務局長は次のように警告しています。「この分野における我々の仕事がまだ終わっていない
ことを強調したいと思います。我々はこの偉業に自己満足することはできず、むしろそれを戒めなければ
なりません。麻疹は世界のその他の地域でいまだに広く流行しており、我々は輸入感染例に対応する
準備をしなければなりません。引きつづき高いワクチン接種率を維持し、素早い追跡調査のために
いかなる感染疑い例もすぐに当局に報告することが極めて重要です。」

麻疹排除に向けた経過
 1990年代にすでに感染者の減少が記録されていましたが、最も大きな減少は、1994年にこの地域が
麻疹排除のイニシアチブを取り始めた後に見られています。この年、アメリカ大陸の国々は、
サーベイランスの実施やPAHO/WHOによって推奨されたワクチン戦略をとおして、2000年度までの麻疹の
現地感染廃絶に向けた目標を設定しました。

 PAHO/WHOによる排除戦略では、加盟国に対して3つの方針を推奨しています。
:1)1歳から14歳までの子供を対象に麻疹ワクチンの接種状況を更新する目的で国家キャペーンを
一度行うこと。2)毎年、子供たちの少なくとも95%を対象に通常のワクチン接種の実施を強化すること。
3)4年毎に、1歳から4歳の子供たちの少なくとも95%を対象に2回目のワクチン接種を行うことで、
集団フォローアップキャンペーンを行うこと。

 この戦略が実行されてから、麻疹の現地感染による流行が発生したのは、記録では2002年の
ベネズエラでのものが最後になります。しかし、この地域のいくつかの国々ではいまだに輸入感染例が
報告されていて、2003年から2014年の間に、5,077人の輸入感染例が記録されています。

 2015年に風疹と先天性風疹症候群の排除宣言がなされた後、国際専門家委員会は、2013年に始まり
一年以上続いていた、ブラジルにおける麻疹流行の中断が証明されることを待っていました。
1年におよぶ狙いを定めた活動とサーベイランスの強化を行った結果、2015年7月に記録された
麻疹感染例がブラジルにおいて最後となっています。

 この事実の達成とこの地域が12年以上にわたり排除状態を維持していたことを考慮した結果、
国際専門家委員会はこれらの国々によって示された証拠を受け入れ、アメリカ大陸における麻疹排除を
宣言しました。

 麻疹および風疹を排除するためのこれらの仕事に従事した主要なパートナーは次のとおりです;
PAHO/WHOの各加盟国保健省、米国疾病管理予防センター、米国保健福祉省、ヘルス・カナダ、
カナダ国際開発庁、スペイン国際開発機構、セービンワクチン研究所、インド血清研究所、
マーチ・オブ・ダイムス、末日聖徒イエス・キリスト教会、麻疹・風疹イニシアチブ、
世界的なパートナー連合(国際赤十字赤新月社連盟、国連基金、ユニセフ)、WHO。

【出典】
PAHO
28 September 2016
Region of the Americas is declared free of measles
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_content&view=article&id=12528%3Aregion-americas-declared-free-measles&Itemid=1926&lang=en