(No.87)

タンザニアにおけるコレラのアウトブレイク
2016年4月22日更新

 タンザニアの国際保健規則(IHR)担当窓口は世界保健機関(WHO)に対し、現在進行中のコレラの
アウトブレイクについての情報を報告しました。
 2016年4月20日現在タンザニア国内において378人の死者を含む24,108人のコレラ患者が報告されて
います。その多くはタンザニア本土の23州から報告されています。(20,961人、うち329人が死亡)
 患者数の全体的な傾向には変動があり2015年10月から12月にかけて、いくつかの地域において新規
患者数が激減しています。(モロゴロ、ダルエスサラーム、 タンガ、アルーシャ、シンギダ)2015年12月
中旬から2016年3月末にかけて新規の報告数が再度増加し始めました。さらに2016年3月中旬以降は本土
での患者報告数は有意に減少しています。例えば今年3月の一日の平均患者報告数は約150人であったことに対し、4月中旬の同報告数は30人以下となっています。
 また、一方で現在までにザンジバル島において5つの州から51人の死亡を含む3,057人の患者が報告
されています。報告数の多くはウングウジャ島(1,818人、うち38人が死亡)からで、ペンバ島における
これまでの累積患者数は1,239人であり、うち13人が死亡となっています。
 タンザニア本土とザンジバル島の両方で感染が拡大したおもな要因は、安全な水の入手と下水設備が
限られていることであると評価されています。上水道局には塩素消毒や定期的に水質を管理、評価する能力が
不足しています。改善されたトイレの普及率も非常に低い状態です。また社会的通念や誤解により続いて
いる不潔な慣習や、貧困世帯における衛生設備の不足もアウトブレイクと関連しています。

公衆衛生上の取り組み
 多分野における国家コレラ対策特別委員会(保健省、WHO、UNICEF、CDC、赤十字、その他加盟国
から構成される)がアウトブレイクへの対応において監督し調整しています。対応を指導するために国の
保健部門におけるコレラ対策計画(The National Health Sector Cholera Response Plan)が承認され
ました。政府とWHOによる連携した指導のもと、特別委員会は6つの技術的な小委員会に分かれています。
すなわち(1)水、下水設備、衛生(2)社会的動員(3)サーベイランス(4)検査(5)症例管理
(6)後方支援と運営です。委員会は毎日それぞれ受け持ち領域の対策と状況について、最新の情報を
共有し条件を満たす地域と密に連絡をとるようになっています。このようなコレラ対策の共同体制は地域
あるいは地方レベルにおいても同じ体制で実施されています。
 保健部門は以下のような介入に焦点を置いています。個人の衛生、安全な水と良好な下水処理を促進する
ためにコミュニティを動員し、家庭用水の塩素消毒と安全な貯水法を広めること、定期的に水を採取し汚染
物質を分析検査すること、治療センターにおける患者の治療とコレラで死亡した患者の埋葬におけるリスク
マネージメントを強化すること。拡大プライマリヘルスケア(PHC)委員会に地域や地区の委員、他の主要な
利害関係者、地元の指導者だけでなく、保健当局や労働者が参加し様々な地域で実施しています。それぞれの
地域における特有の取り組みに対する目標を制御し、最も患者の発生の多い地域や地区において緊急対策
チームが現場での支援を提供するために展開されています。
 WHOはパートナーと協力し、サーベイランスと症例管理及び水質のモニターについて技術的な指導を
行っています。また、これまでに様々な対策活動(安全な上水、下水、公衆衛生の促進、社会的動員、
患者治療、薬や医療資源の調達など)において政府を支援するために25人以上の国際的な公衆衛生専門家を
動員しています。WHOとCDCの支援により公衆衛生上の緊急支援センター(PHEOC)は対策に介入する
ための調整を支援する役割を担ってきました。また選ばれた流行している村において、換気を改善した
汲み取り式便所や手動式ポンプを用いた井戸の建造を支援しています。
 2015年11月WHOは3段階からなる緊急事態対応枠組み(ERF)において、この流行をレベル2の緊急
事態として位置づけました。2016年2月この流行を管理する者が任命され、現地と遠隔地の両方における
対策についての支援を提供しています。さらに地域事務所は持続して効果を保証するためにリスクの高い
地域においてサーベイランスを地方レベルで支援するための専門家を提供しています。

WHOのリスク評価
 報告された新規のコレラ患者数において最近明らかに大幅な減少があったものの、流行国に存在し続ける
継続的な拡大の危険性の原因として(ⅰ)症例の地理的分布が広大である(ⅱ)安全な上下水へのアクセスの
悪さなど根本的な原因となる因子が継続している(ⅲ) 特定の地域における最善には及ばないサーベイランス
と検査能力(ⅳ)症状のある人と無症状の人の地理的移動などが挙げられます。さらにエルニーニョ現象も
またアウトブレイクを継続させるための一部を担っているのかもしれません。タンザニアと近隣諸国との
間での人の移動は多く、自由であること勘案すると、このアウトブレイクがタンザニアの国境を越えて
国際的に拡大する可能性があります。近隣諸国であるコンゴ民主共和国、ケニア、マラウィ、モザンビーク、
ザンビアもコレラのアウトブレイクに対する対策を取っています。さらにタンザニアは、コレラの影響を
受けていない他の国々を繋ぐ混み合った国際港湾や国際空港を多く保有しています。WHOは疫学上の発生
状況の監視を続けており、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っています。

WHOからのアドバイス
 WHOは、現在、利用可能な情報に基づく判断として、タンザニアに対し渡航や貿易の制限を勧めては
いません。

【出典】
WHO, Emergencies preparedness, response.
Cholera – United Republic of Tanzania
Disease Outbreak News 22 April 2016
http://www.who.int/csr/don/22-april-2016-cholera-tanzania/en/