(No.95)

コンゴ民主共和国における黄熱
2016年5月2日更新

 2016年3月22日、コンゴ民主共和国(DRC)の国際保健規則(IHR)担当窓口は、世界保健機関(WHO)に
対して、現在アンゴラで発生しているアウトブレイクに関連した黄熱(YF)感染例を報告しました
(DON4月13日更新情報〈関空HP:海外感染症情報2016 No.80〉をご参照下さい)。

 1月上旬から3月22日にかけて、45人の死亡者を含む合計453人のYF疑い例が、同国のサーベイランス
システムによって報告されました

 更なる調査によって、アンゴラのアウトブレイクに関連した可能性がある41人の感染者が特定され
ました。これらの感染者は、首都キンシャサにある国立生物医学研究所(INRB)による検査によって陽性が
確認されています。これら41人の感染者のうち、16人は地域関連検査機関である隣国セネガルの首都
ダカールにあるパスツール研究所(IP)によって陽性が確認されましたが、13人はコンゴ中央州(旧名
バ・コンゴ州)から、3人はキンシャサからのものでした。コンゴ中央州はアンゴラとの間で、長距離に
渡る透過性の高い国境を共有しています。

 その他の25人の感染疑い例に対する検査結果は、ダカールのIPにおいて未だ判明しておりません。これら
結果の判明していない感染者のうち、2人はキンシャサとコンゴ中央州Matadi在住である現地感染の疑い例
であることが明らかになっています。調査は継続中であり、ダカールのIPにおいて補足的に行われている
検査の結果はまだ保留中です。

 カメルーンのIPからウイルス学者の支援を受けた調査チームは、4月7日から18日にかけてアウトブレイク
の調査を行い、地域における感染伝播の存在と感染拡大の危険性に関する分析を行っています。昆虫学的な
調査によりネッタイシマカの幼虫が高密度に存在していることが明らかになり、これらの検体が感染性の
調査のためにダカールのIPへ送付されました。昆虫が高密度に存在していることは、感染拡大の危険性が
非常に高いことを示唆しています。

 2016年4月23日、政府は公式にYFのアウトブレイク発生を宣言しています。

公衆衛生上の取り組み
 DRC保健省は、この事象に対して、アウトブレイク対策のための国家委員会を立ち上げました。

 主要な対策活動としては、以下のものが含まれています:
  • 共同作業手順の確立
  • 社会動員およびコミュニティとの連携
  • 症例管理
  • 医療従事者の訓練によるサーベイランスの強化
  • 症例定義の周知
  • 入国地点におけるスクリーニングと衛生管理、および避難民のワクチン接種状況のスクリーニング
  • 感染拡大対策としてのベクターコントロールと、公営、民間および伝統医学の開業医を含む全ての医療機関の意識の鋭敏化
  • アンゴラへの全ての渡航者に対するワクチン接種

 特に、検査による感染者確認の遅延を避け、サーベイランス能力の向上を図るために、検査室における
診断学的な対応能力を改善するための技術的な支援が必要です。

 WHOとその協力者の支援により、同国はより大きいYFアウトブレイク発生に対して取り得る対応への
備えを改善するための緊急事態対策計画を策定しています。この計画では、検査により感染確定例の存在が
明らかになっている、キンシャサの少なくとも2地域とコンゴ中央州の6地域を含む8つの健康管理区域に
対し、合計約200万人を対象としたワクチン接種を行うことになっています。もし地域における感染伝播が
検査により確認されれば、適宜その他の地域もこの活動の対象になるでしょう。

WHOのリスク評価

 DRCの状況は憂慮すべきであり、最高レベルの警戒をもって監視しなければなりません。同国は地理的に
YFが風土病であることが知られた地域に位置しており、国中から現地感染が疑われる患者が定期的に報告
されています。2016年1月以来、現地感染が疑われる患者が、バ・ユル州、赤道州、中部カサイ州、
ツアパ州において記録されています。最後のアウトブレイクは、2013年にカサイ州とオリエンタル州で、
2014年にオリエンタル州とカタンガ州でそれぞれ発生しています。

 YFワクチンは、2003年の予防接種拡大プログラム(EPI)によってキンシャサに導入されました。利用
できるデータを踏まえますと、2012年から2014年の間において、ワクチン接種の網羅範囲は、首都の
ほとんどの地域において不十分な結果となっています(首都においては71%であり、目標である80%を
下回っています)。同国ではWHOとその協力者の支援を得て、国内および隣国に対する地理的な感染の
拡散を防ぐために、特に、アウトブレイク対策としてのワクチン接種キャンペーンなどの適切な感染管理
対策を実行していく必要があります。

 キンシャサには大きなアンゴラ人コミュニティがあり、媒介蚊となるヤブカ属が存在し活動性があるため,
同国、特にキンシャサ(キンシャサ州の人口は1,290万人と見積もられています)における地域内の感染
サイクル確立の潜在的な可能性は現実的な懸念事項であり、最高の注意を持って監視する必要があります。

 最後の調査によって、指標昆虫の多さ、アンゴラと同国の間の人の移動、アンゴラからの定期的な輸入
感染例の存在などを理由に、地域内感染の危険性が高いことが浮き彫りになりました。

 旅行者やアンゴラから帰国した労働者におけるYF感染の報告により、この疾患の国際的な拡散の危険性が
明らかになりました。

WHOからのアドバイス
 IHR(2005)に従って、旅行者に対するYFワクチン接種の要求を強化することは喫緊に必要になって
います。YFは、旅行の最低10日前に投与されたワクチンによって提供される免疫によって、簡単に防ぐ
ことができます。WHOは、その加盟国、特に地域の感染サイクルが完成し得る(例えば感染を媒介する
ネッタイシマカが存在している)地域の国々に対して、現在YFの流行が確認されている国々との間を往来
する旅行者に対してワクチン接種を確実に受けさせるように強く促しています。
 WHOは、このアウトブレイクに関して現在入手可能な情報を踏まえますと、同国に対するいかなる旅行
や貿易の制限をも推奨しません。早期治療の実践を行うことだけではなく、感染地域に渡航する前に各々が
ワクチン接種を受けること、蚊刺を回避するための方法に注目すること、症状の発現に注意することなどが、
この疾患を予防する上で欠かすことのできない手段となります。

【出典】
 WHO, Emergencies preparedness, response.
 Yellow fever – Democratic Republic of the Congo
 2 May 2016
http://www.who.int/csr/don/02-may-2016-yellow-fever-drc/en/