(No.125)

黄熱の流行状況
平成28年6月2日更新

  2016年6月2日(WHO)は黄熱の流行状況を更新しました。

要約
*黄熱(YF)の流行は2015年12月末にアンゴラの首都ルアンダで確認されました。2016年1月19日に
 第1例の患者が南アフリカの国立感染症研究所において診断確定し、1月20日にダカールの
 パスツール研究所で確認されました。その後YF患者数の急激な増加が認められています。
*6月2日時点で2,893人の疑い例と325人の死亡例がアンゴラから報告されており、うち788人が診断確定
 しています。数州においてワクチン接種キャンペーンを行ったにもかかわらず、いくつかの地域において
 未だにウイルスが蔓延しています。【図1、2】
*クネネ、マランジェの2州では、今回のアウトブレイクが起こり始めてから5人の国内発生例の診断確定が
 報告されています。
*2016年3月22日にDRCの保健省はアンゴラにおけるYF流行に関連した患者をWHOに報告し、4月23日に
 同国の政府は正式にYFの流行を宣言しました。6月1日時点でDRCにおいて疑い例3人、診断確定例52人
 内訳はコンゴ中央州とキンシャサとクワンゴ州(以前のバンドゥンドゥ州)においてアンゴラからの
 輸入例が44人、北部州で森林型のYFが2人、キンシャサのヌジリとコンゴ中央州のマタディにおいて
 国内感染例が2人報告されています。コンゴ中央州(ムアンダ)とクワンゴ州の両地域において
 少なくとも4例の分類できない症例があり、現地で感染した可能性について現在調査中です。
*2016年4月9日、ウガンダのマサカ県においてYF患者をWHOに報告しました。6月1日時点で3県
 (マサカ県、ルクンギリ県、カランガラ県)から68人のYF疑い例が報告されており、3人は可能性例、
 7人の診断確定例となっています。遺伝子配列を分析した結果、これらの集団感染例はアンゴラのものと
 疫学的な繋がりはありませんでした。
*アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。これら両国では、他の州への
 感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。また、特にYFの感染リスクが
 低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、外国人労働者がYFワクチンを
 接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
*ケニア、中国、DRCの3国でYF輸入患者が確認されており、それぞれ2人、11人、44人となっています。
 この事実はワクチン非接種の旅行者が国際的にYFをひろめる危険性を示しています。
*さらにコンゴ共和国、サントメ・プリンシペ、エチオピアで輸入疑い患者がそれぞれ、1人、2人、22人
 報告されています。ワクチン接種状況や、アンゴラYFとの関連性については調査中です。
*5月19日に開催された緊急委員会のアドバイスをうけ、WHOの事務局長はアンゴラとDRCで発生している
 都市型のYFは公衆衛生上の重大な問題であり、国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態
 であると決定しました。但し現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)
 には該当しないとしています。(発表はWHOのウェブサイトで閲覧可能です。)

リスク評価
*以下の理由によりアンゴラにおける流行は未だに高い懸念が残っています。
 *800万人以上がワクチン接種を実施したにも関わらず、ルアンダでは限局的な流行が持続しています。
 *限局的な流行はルアンダを含む人口の多い州で報告されています。
 *最近最もYF感染者が報告されている州はルンダ・ノルテ州、クネネ州、マランジェ州です。
 *新たな州や県へアウトブレイクが拡大し続けています。
 *近隣諸国への流行拡大の危険性が高いです。国境地域は実質的に往来が自由であり社会活動や経済活動
 も活発であり、さらなる感染伝播は排除できません。ウイルス血症にある患者の渡航により、特に媒介蚊と
 YFウイルスに感受性のあるヒトが充分に存在する国々において流行を確立する危険性が高まります。
 *新たな州や地域にアウトブレイクが拡大し続けています。
 *ガンビダ州のように到達するのが難しい地域にまで感染伝播が続いている疑いが強いです。
 *感染症発生動向調査が不十分であるため、新たに症例が出現している中心なのか感染地域なのかを
 見分けかねます。
*4月に行った現地調査においてDRCは地域流行の危険性が高いという結果が出ています。アウトブレイクは
 既に3州に及んでいます。利用できるワクチンには限りがあること、キンシャサには大きなアンゴラ人の
 コミュニティがあること、アンゴラとDRC間の往来は抜け穴だらけであること、媒介蚊であるヤブカが
 存在し活動していることを考慮すると、状況は特に注意して監視する必要があります。アウトブレイクは
 ルアラバ、カサイ、カサイセントラル州等の他州に拡がる可能性があります。
*アンゴラとDRCにおける同ウイルスは主に主要都市に集中しています。ウガンダを含むこれら3か国に
 おいて、他の州への感染拡大や地域内の感染伝播のリスクについて深刻な懸念が残っています。
 また、特にYFの感染リスクが低いと分類されている周辺国(ナミビアやザンビア)では国民や渡航者、
 外国人労働者がYFワクチンを接種しておらず、潜在的な感染拡大のリスクも高いです。
*ウガンダや南アメリカの国々(ブラジルやペルー)はYFの流行や散発例の発生に直面しています。
 これらはアンゴラのアウトブレイクとは関連がありませんが、YFワクチンの備蓄量が限られている状況下において、
 それらの国々に対してもワクチンが必要です。
 
感染への対策
 5月19日国際保健規則(IHR2005)に基づきWHOの事務局長によりYFに関する緊急委員会が
開催されました。委員会のアドバイスを受け局長はアンゴラとDRCで発生している都市型のYFは
公衆衛生上の重大な問題で国家による対策及び強化された国際的な支援が必要な事態であると決定しました。
但し、現時点ではこの事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとしています。
 事務局長は加盟国に対して以下の様なアドバイスを行っています。

*サーベイランスの加速化、集団ワクチン接種、リスクコミュニケーション、コミュニティーにおける動員、
 媒介蚊のコントロール、患者の治療をアンゴラとDRCにおいて実施すること
*アンゴラとDRCを往来する全ての渡航者と特に出稼ぎ労働者においてYFワクチン接種を確実にすること
*サーベイランスの強化と対策の準備を行うこと。それらにはリスク国及び流行国と接する国において、
 渡航者に対するYFワクチン接種証明やリスクコミュニケーションの実施などが含まれます。
*予防接種キャンペーンが最初はルアンダ州で2月の初めに、続いてベンゲラ州とウアンボ州で4月半ばに
 開始されました。5月16日にはクアンザスル州、ウイラ州、ウィジェ州で、開始されました。
 またルンダノルテ州のCuango地域で開始され、Chitato地域でも予定されています。
*5月18日時点で11.7万回分のワクチンがアンゴラに向けて出荷されました。
* DRCとウガンダはGAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の適応国であるため、
 これらの国にはGAVI Alliance によって予防接種キャンペーンが行われる予定です。
*11の衛生地区を対象として5月26日から緊急予防接種キャンペーンが始まっています。220万本の
 ワクチンおよびその付属機器がDRCに到着しました。
*70万本のYFワクチンがウガンダに到着し、5月19日から予防接種キャンペーンを開始しました。
 現在までに提出された報告書からマサカ県において88%の接種率、ルクンギリ県において96.8%の接種率です。
*ナミビアは渡航者や難民を対象としたYFワクチン45万回分のワクチン(1バイアル10回分)を
 要求しています。ザンビアも渡航者に対し5万回分のワクチンを要求しています。
*黄熱に対するメディアの注目度はあがってきています。特にワクチンの供給、渡航のアドバイスや
 緊急委員会の招集などについて注目されています。
*5月19日の緊急委員会を受け、報道カンファレンスがすぐに実施される予定です。声明については
 WHOのウェブサイトに記載されています。
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2016/ec-yellow-fever/en/
*現在のYFのアウトブレイクに対するQ&AがWHOのウェブサイトに記載されています。
http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/
* WHOは流行に関する質問に共同歩調で対処するために情報の発信や情報源に関して国連を通して
 リーダーシップをもって情報伝達を纏めてきました。
*WHO本部の情報通信チームと地域事務局の通信主担当者との間で週二回、連絡会議が開催されています。


図1 6月1日時点におけるアンゴラとDRCのYF診断確定患者分布


図2 6月1日時点でのアンゴラにおける地域別YFワクチン接種率

【出典】
SITUATION REPORT
YELLOW FEVER
2 JUNE 2016
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/208818/1/yellowfeversitrep_2Jun2016_eng.pdf