(No.11)

ブラジルにおける黄熱
2017年1月27日更新

 2017年1月24日、ブラジルの国際保健規則(IHR)担当窓口が汎アメリカ保健機構(PAHO)/世界保健
機関(WHO)に対し、黄熱の流行状況に関する更新情報を提供しました。黄熱のヒト感染例の地理的な拡散が進行しており、ミナス・ジェライス州に加え、エスピリト・サント州とサンパウロ州にも及んでいます。
さらに、バイア州において、6人の黄熱感染例が監視下におかれたことが報告されました。
 エスピリト・サント州は、以前は黄熱の感染危険性が考慮されない地域でしたが、1940年以来初めてと
なるヒトにおける黄熱の現地感染例が確認されました。この患者は、Ibatiba市在住の44歳男性です。サンパウロ州において検査による診断確定例が3人報告されましたが、いずれも死亡しております。ミナス・ジェライス州において、1月24日現在、死亡者84人(37人は診断確定例から、47人は疑い例からで、死亡率はそれぞれ56%と14%)を含む、合計404人の感染例(66人の診断確定例、337人の疑い例、1人は除外)が報告されました。報告された黄熱の疑い例と診断確定例の総数は、同国において2000年以来最も高い数字となります。
 ミナス・ジェライス州から報告された66人の診断確定例のうち、88%が男性であり、45%が黄熱ワクチンの接種を受けておりませんでした(残りの55%の接種状況は不明か利用不可能でした)。
 さらに、ヒト以外の霊長類における動物間での流行が、サンパウロ州(3例の黄熱診断確定例を含む247例の動物間流行例)およびエスピリト・サント州(367例の動物間流行例)において多数報告されました。エスピリト・サント州において、黄熱の動物間流行が確認されているのは、Irupia市とColatina市になります。

公衆衛生上の取り組み
 ブラジルの保健当局は、連邦、州および市レベルでアウトブレイク対策として次の対策をとっています。
・国家レベルの年次計画としての2017年1月における650,000本におよぶ定期的なワクチン供給に加え、
 ブラジル保健省は4,200,000本をバイア州(400,000本)、エスピリト・サント州(1,000,000本)、
 ミナス・ジェライス州(2,400,000本)へ送付しました。
・流行が確認された地方自治体において、ネッタイシマカの生育地域を制圧するベクターコントロール対策が
 開始されました。
・流行が確認された地方自治体および国家レベルにおいて、危機管理室が設置されました。
・住民に対して状況を周知しガイダンスを提供するために、保健省によってウェブのポータルサイトが立ち
 上げられました。

WHOのリスク評価
 ヒト感染例の報告がある州での動物間流行の発生と並び、ミナス・ジェライス州において黄熱感染例が増加したことや、今回新しく2つの州において感染例が確認されたことは、アウトブレイクが新しい地域へ地理的に拡散していることを浮き彫りにしています。
 現段階では、今回のアウトブレイクにおいて、ネッタイシマカの感染伝播への関与を示唆する証拠はありません。しかし、都市型黄熱(ヒトと蚊の間での感染サイクル)の危険性は除外できておりません。
 人や感染したサルの国際的な移動や、以前には黄熱感染の危険性があるとは考えられていなかった地域に
おける低いワクチン接種率を背景に、ブラジルの他の州においてさらなる感染例が発見されることが予測されます。また、感染した各個人が、ネッタイシマカが生息しヒト-ヒト感染の現地感染サイクルが始まり得る、ブラジル国内外の地域へ渡航するという危険性があります。現在のところ、今回のアウトブレイクに関連して隣国で黄熱感染例が発生したという報告はありません。
 ブラジルにおける今回のアウトブレイクと黄熱感染者の急増は、WHOが発刊している”International Travel and Heath(ITH),2016”誌上で言及されている黄熱感染の危険があると考えられる地域を超えて
拡がっており、国家当局が今回の流行を阻止するための適切な手段を講じ続ける一方で、渡航者への黄熱
ワクチン接種の推奨に関する情報が更新される必要があります。
 ブラジルにおいて黄熱感染の危険性のある地域として新しく定義される地域は、2013年のリスク評価と比べ以下のような相違点があります。(以下の図1:Areas at risk for yellow fever transmission in Brazil, 2013–2017も参照)
・バイア州:州南部および南西部において、新たに拡大した黄熱感染の危険性のある地域は次の地方自治体
 です:Alcobasa; Belmonte; Canavieiras; Caravelas; Ilheus; Itacare; Mucuri; Nova Visosa; Porto
 Seguro; Prado; Santa Cruz Cabralia; Una; Urusuca; Almadina; Anage; Arataca; Barra do Chosa;
 Barro Preto; Belo Campo; Buerarema; Caatiba; Camacan; Candido Sales; Coaraci; CondeUba;
 Cordeiros; Encruzilhada; Eunapolis; Firmino Alves; Floresta Azul; Guaratinga; Ibicarai; Ibicui;
 Ibirapua; Itabela; Itabuna; Itagimirim; Itaju do Colonia; Itajuipe; Itamaraju; Itambe; Itanhem;
 Itape; Itapebi; Itapetinga; Itapitanga; Itarantim; Itororo; Jucurusu; Jussari; Lajedao; Macarani;
 Maiquinique; Mascote; Medeiros Neto; Nova Canaa; Pau Brasil; Piripa; Planalto; Posoes;
 Potiragua; Ribeirao do Largo; Santa Cruz da Vitoria; Santa Luzia; São Jose da Vitoria; Teixeira de
 Freitas; Tremedal; Vereda; Vitoria da Conquista;
・エスピリト・サント州:Vitoriaの都市部以外は黄熱感染の危険性があります。
・リオデジャネイロ州:ミナス・ジェライス州およびエスピリト・サント州と境を接する次の北部の地方自治
 体において黄熱感染の危険性があります:Bom Jesus do Itabapoana; Cambuci; Cardoso Moreira;
 Italva; Itaperuna; Laje do Muriae; Miracema; Natividade; Porciuncula; Santo Antonio de Padua;
 São Fidelis; São Jose de Uba; Varre-Sai; Campos dos Goytacazes; São Francisco de Itabapoa;
 São João da Barra

図1:Areas at risk for yellow fever transmission in Brazil, 2013–2017

 今回行われた、黄熱感染の危険性があると思われる新しい地域の確定は、ダイナミックなリスク分析の行程における準備段階かつ予防手段としての最初のステップの代表たるものです。

WHOからのアドバイス
 ブラジルにおける黄熱感染の危険性がある地域への渡航を計画している旅行者への勧告として、次のものがあります;渡航の最低10日前に黄熱ワクチンを接種すること;蚊刺を回避する方法に従い、黄熱の症状や
徴候に注意し、黄熱感染の危険性がある地域(特に黄熱感染を成立し得る媒介生物が存在する国)への渡航中や帰還時において医療機関への受診行動を促進すること。
 IHR(2005)の附則 7に記されているとおり、黄熱ワクチンの単回投与のみで、黄熱に対する持続的な
免疫と修正防御を授与するのに十分です。黄熱ワクチンのブースター投与は必要ありません。もし医学的な
理由により黄熱ワクチン接種が不可能である場合、IHR(2005)の附則 6と7に従い、その事実を関連官庁に証明してもらう必要があります。
 WHO事務局は、今回の事象に関して現在利用できる情報を踏まえ、ブラジルへの渡航や貿易の制限を推奨しません。

【出典】
Emergencies preparedness, response
Yellow fever – Brazil
Disease outbreak news
27 January 2017
http://www.who.int/csr/don/27-january-2017-yellow-fever-brazil/en/