(No.100)

ジフテリアーイエメン
12月26日更新

 

 2017年10月29日、イエメン・サヌアの世界保健機関(WHO)チームは、イッブ県からジフテリア疑い例の報告を受けました。2017年の8月13日から12月21日にかけて、35人の死亡者(致死率10.5%)を含む全体で333人の疑い例が20の県から報告されました。検査室での確定がされないまま、現在の状況は、臨床診断に基づいたジフテリア疑いのアウトブレイクとして対処されています。
 感染例の大多数は、イッブ県から報告(187人)されています。感染例の19%が5歳未満の子どもですが、感染例の79%は20歳未満です。疑い例の男女の数は大体同じです(3人の疑い例は性別に関して情報がありません)。疑い例の61%は、ジフテリアに対するワクチンを全く受けていません。
 2017年12月21日の時点で、疑い例のうち35人が亡くなりました。14人が5歳未満でした。

図1:2017年8月13日から12月21日までの間の発症週別のジフテリア疑い患者と死亡者の数

注:31人の感染者と10人の死亡者については発症日が不明であるため、このグラフには含まれていません。

情報源:保健人口省(MoPHP)

公衆衛生上の取り組み

 対策としては、ガイダンスの提供と感染患者と接触者の臨床的な管理に対する支援、患者照介の道順と隔離施設、疑い例の確定診断を支援する検査施設、医薬品と医療器具の供給、ハイリスク地域における子どもと若年成人の予防接種、そしてジフテリア症例の治療と予防を含む、アウトブレイクの全ての局面におけるコミュニティとの連携に焦点を当てました。

調整と運営の支援

・ MoPHP、WHO、国連児童基金(UNICEF)から構成されるジフテリア対策本部がアウトブレイクに対応するために立ち上げられました。対策本部はこのアウトブレイクのコントロールのための共同作業のリーダー シップと、流行地域における技術的支援の提供の中心としての役割を引き受けています。
・ 緊急対策センター(EOC)が現在立ち上げられ、ジフテリア対策について議論がなされています。

サーベイランス、症例の調査と接触者の追跡調査

・ WHOは患者の発見と照会、接触者の同定と抗生剤の投与のためにもっとも流行している地域に対してトレーニング、器材やチームの派遣について支援を行っています。
・ WHOは地域担当局の専門家やパートナーと共に検査能力の強化や検体の収集について活動を行っています。MoPHPの承認が得られ次第、検体はイエメン国外のWHO協力センターに移送される予定です。
・ WHOは国内での検査を促進するために検査試剤も提供しています。

患者の治療

・ 患者の治療に関してはMoPHPとそのパートナーが担っています。WHOは診断と治療のガイドラインについてのアドバイスを実施しています。
・ WHO、UNICEF、国境なき医師団(MSF)は重症例のための集中治療室を含めて、最も流行している地域において既存の医療施設内にジフテリア治療ユニットの立ち上げを共同で行っています。疑い例が見つかったときには照会と治療が時を失せず行われるように照会システムが立ち上げられています。
・ WHOは20万米ドル分の抗生剤と1,000バイアルのジフテリア抗毒素(DAT)を流行している県に提供しており、治療ユニットのための器材を調達しています。
・ WHOはYareem総合病院に対して、燃料、水、酸素、器材、DAT、抗生物質を含む医薬品を提供しています。

ワクチン接種

・ 11月にWHO、UNICEFとそのパートナーは多くの患者が報告されているイッブ県におけるal-Saddah,Yarim地域において5歳以下のこども8,500人にワクチン接種を行いました。
・ MoPHP,UNICEF,WHOは6週から7歳までの乳幼児や小児には5価ワクチン、7歳から25歳までの小児や成人には破傷風/ジフテリアワクチン(Td)をそれぞれ3回接種するキャンペーンを計画しています。
・ UNICEFは60万回分の5価ワクチン及び300万回分のTdワクチンを提供します。更なる量の提供は2-3週以内に実施される予定で、トータルとして210万回分の5価ワクチンと900万回分のTdワクチンが提供される予定です。

社会的動員とコミュニティーとの連携強化

・ UNICEFによって実施された一般社会へのアセスメントにより、イエメンではワクチン接種に対する受容率は非常に高く維持されています。
・ WHOはMoPHP,UNICEF,MSFとともにワクチン接種受容の遂行戦略を推し進め、ジフテリアに対する衛生面でのアドバイスを広め、医療従事者にジフテリア疑い例の治療については照会するように推し進めています。

WHOによるリスクアセスメント 

 ジフテリアはワクチンによって予防可能な毒素産生菌コリネバクテリウムジフテリアエ(Corynebacterium diphtheria)と呼ばれる細菌によって起こります。ヒトからヒトへの感染は飛沫や接触を介して起こります。呼吸器ジフテリアは致死率5-10%で主に幼児に起こります。治療には抗生剤とジフテリア抗毒素が使用されます。ジフテリアに対するワクチン接種により、致死率や罹患率は最近数十年間は世界的にも劇的に低下しています。
 ジフテリアのアウトブレイクが発生するということは、小児におけるワクチン計画の接種率が低いことや、過去にワクチンを受けた人の免疫能の低下が起こっていることを示しています。感染伝播が継続していればワクチン接種率の低い近隣国への拡大のリスクがあります。
 イエメンにおいてはジフテリアのアウトブレイクを早期に発見するための疫学的調査が強化されなければなりません。WHOの担当局地域の全ての国は、毒素産生のジフテリア菌に対して信頼度の高い同定検査が行える検査施設へのアクセスを確保するべきです。患者の治療のために、国内あるいは地域内で利用出来る十分な抗生剤や抗毒素を確保すべきです。
 ジフテリアが伝播するリスクは国内では非常に高く、WHOの担当地域レベルにおいても高いといえます。その理由には幾つかの要素が関連しています。武力衝突が起こっていること、前例のないコレラのアウトブレイクにより医療システムが機能していないこと、医療サービスが崩壊していること、医療従事者のマンパワー不足、医療施設の運営や医療従事者に支払う賃金などの財政面での欠如、ワクチン接種率が至適以下であること等です。加えてジフテリア抗毒素は世界的にみても供給が限られており、国内レベルでは検査施設に世界レベルでの診断試薬がありません。WHOやその他のパートナーの強力な支援にもかかわらず、慢性的な医療備品の不足により、同国における救命のための医療提供は困難となっています。

WHOによるアドバイス

ジフテリアの詳細情報については以下のリンクを参照してください。
WHO fact sheet on diphtheria

【出典】Emergencies preparedness, response
    Diphtheria – Yemen
Disease outbreak news
22 December 2017
 http://www.who.int/csr/don/22-december-2017-diphtheria-yemen/en/