(No.13)

黄熱―ブラジル

3月1日更新

 2018年の最初の4週間で、ブラジルのリオデジャネイロ州、サンパウロ州、ミナスジェライス州における黄熱のヒト感染例の数は急速に増加しています。2017年7月1日から2018年2月16日にかけて、ブラジルでは464人の黄熱感染例が報告され、そのうち154人が死亡しています。診断確定例はサンパウロ州が181人(死亡76人)、ミナスジェライス州が225人(死亡76人)、リオデジャネイロ州が57人(死亡24人)、連邦直轄地は死亡1人です。現在の季節性流行期の特徴は、前回の黄熱の季節性流行期と違い、サンパウロ州やリオデジャネイロ州など大都市近くの地域で発症した症例がより多く報告されています。

 サンパウロ州では、確定診断例の57%がマリポラ(サンパウロ市の北部15kmの郊外)で報告されています。リオデジャネイロ州では確定診断例の45%がバレンサとテレゾポリス(リオデジャネイロ市から96km)から報告されています。確定診断された全ての症例が発生した地域と、ヒト以外の霊長類が動物間流行した地域はほぼ一致しています。ミナスジェライス州では、確定診断例の47%がBelo Horizonte市の南部と南東部の行政地区から報告されており、この地域は2016/2017年の流行時には患者は確認されませんでした。

 フランスとオランダでは計2人の黄熱患者が報告されています。彼らはワクチン接種をせずにブラジルに渡航しました。ウイルスの循環と黄熱の媒介蚊の分布、動物宿主のデータに基づいた国際間の渡航者の健康に関する勧告では、その地域は黄熱感染のリスクがありました。加えて、黄熱感染リスクで知られているリオデジャネイロ州のAngra do Reis地区にあるIlha Grandeやサンパウロ州のIsla Bellaで感染したと思われるアルゼンチン人2人が報告されています。またさらに、2月26日までに同じくリオデジャネイロ州Angra do Reis地区にあるIlha Grandeで感染したチリ人の黄熱確定診断例が3人報告されました。

 黄熱の動物間での流行は黄熱の季節性流行期前から流行期にかけて持続しており、このことは、以前には黄熱感染リスクは考えられていなかった地域にも、感染拡大に好ましい生態系の中でウイルス循環が持続していることを示しています。2017年7月1日から2018年2月6日まで、ヒト以外の霊長類で3,812例の動物間流行が報告されました。517例が確定診断され1,157例は調査中、1,397例は分類不能、741例は除外されました。動物間流行は、27の州と連邦地域のうち22で報告されました。ヒト以外の霊長類の間で確立された黄熱ウイルス循環による動物間流行は、6つの州(エスピリト・サント、マット・グロッソ、ミナスジェライス、リオデジャネイロ、サンパウロとトカンティンス)で報告されました。サンパウロ州は、動物間流行全体の42%を占めました

 さらに、ブラジル保健省は、保健省とエヴァンドロ(Evandro)シャーガス病研究所が実施した調査の一環として、2017年ミナスジェライス州の二つの市(Ituêta とAlvarenga)の郊外で捕獲されたヒトスジシマカ(Aedes albopictus)から黄熱ウイルスが検出されたと報告しました。

公衆衛生対策

 サンパウロ州でヒトの黄熱感染例とヒト以外の霊長類の動物間流行が報告された2017年9月以降、国の専門機関は一軒毎の予防接種と集団接種キャンペーンを通じて、予防接種活動を強化してきています。さらには、州と市レベルでの保健衛生当局は患者の治療のための医療サービスとリスクコミュニケーション活動の強化を実施してきました。
 2018年1月25日にブラジル保健当局は、分割使用量と標準量の予防接種キャンペーンをリオデジャネイロ州(15市1,000万人)とサンパウロ州(54市1,030万人)の内の69都市を対象にして開始しました。

 2018年2月16日時点で、集団黄熱予防接種キャンペーンの暫定結果として、430万人(390万人が分割使用量、379,900人が標準使用量)が黄熱の予防接種を受けました。この数字は、二つの州における計画上の予防接種対象者2,000万人余りの21%に該当します。リオデジャネイロ州におけるキャンペーン中の低い予防接種率(対象人口の12.1%)から、州の保健当局はキャンペーンを延長しました。同様にサンパウロ市においても、キャンペーン期間中に対象人口の29.6%が接種されただけでした。州保健当局は、数日間を追加したキャンペーンの延長が必要であると評価しています。Bahiaでは、2月19日に予防接種キャンペーンが8市における330万人を対象人口として開始されました。

WHOによるリスク評価

 リスクがある地域での持続的なウイルス循環と、新しい地域(特にサンパウロやリオデジャネイロのような大都市の市街地近郊)や以前には黄熱のリスク地域と考えられていなかった市への拡大によって、近々の数週間における急速なヒト感染例と動物間の流行の増加が懸念されています。
 今日まで、ブラジルではネッタイシマカによる黄熱の感染伝播は報告されていません。2016/2017年に実施された昆虫学的研究では、流行州のうち数州で捕獲されたHaemagogus属の蚊が陽性であったことから、主に森林の野生動物間で感染が起きていることが示唆されます。より最近ではエヴァンドロシャーガス病研究所によって実施され、ブラジル保健省によって報告された調査では、2017年にMinas GeraisのItuetaとAlvarengaの2市の郊外で捕獲されたヒトスジシマカから黄熱ウイルスが検出されました。この所見の重要性からするとさらなる調査が必要です。
 サンパウロとリオデジャネイロの集団接種キャンペーンの暫定結果は、多くの人達がリスクに曝されていることを示唆する低い予防接種率を示しており、さらに予防接種活動の強化とハイリスク集団間と到達困難な集団でのリスクコミュニケーションの必要性を指し示しています。2例の(3例の可能性もあり得る)予防接種未接種の旅行者の感染例は、加盟国に対して国際間の旅行者に対する勧告の拡散を強化する必要性を示しています。

WHO からのアドバイス

 黄熱ウイルスは、Haemagogus属とSabethes属のような森林に生息する蚊族によってサルに感染します。これらの蚊に曝露されたヒトは、もし予防接種をしていなければ感染することがあります。

 予防接種は黄熱予防について唯一で最も重要な対策です。このワクチンは何十年間に渡って使用されており、安全です。接種後10日後には予防接種を受けた人の90%以上が、もしくは接種後30日以内には接種した人の99%が効果的な免疫を獲得します。単回の接種で一生続く防御免疫を提供します。

 現在のブラジルのアウトブレイクでは、全ての黄熱のヒト感染例はHaemagogus族とSabethes族の蚊に関連しています。黄熱のリスクのある地域に暮らす人々とそこに向かう旅行者は、基本的な予防策をとるべきです。この予防策には、虫除けの使用、長袖シャツやズボンの装着と確実に蚊の侵入を防ぐための網戸を部屋に装備することが含まれます。

 ウイルス血症を起こしている旅行者の帰還により、感染伝播の条件(生態学的な要因や感染能力のある媒介昆虫の存在を含む)が存在する主な地域において、地域内での黄熱の感染伝播循環が成立するリスクがあります。WHOは2018年1月18日に国際間の旅行者に対する勧告を更新しました。

 ウイルスがネッタイシマカを介してヒトからヒトへと拡散すると、黄熱の都市型の感染伝播が起こります。ブラジルにおいて最後に発生した都市型の黄熱のアウトブレイクは1942年に記録されています。

 WHOは疫学的な状況の監視と直近の入手可能な情報に基づいたリスク評価の検討を続けます。

【出典】
WHO Emergencies preparedness, response
Yellow Fever-Brazil Disease outbreak news
27 February 2018
http://www.who.int/csr/don/27-february-2018-yellow-fever-brazil/en/