(No.20)

季節性遺伝子再集合体A(H1N2)インフルエンザウイルスによるヒト感染
–オランダ

3月27日更新

 2018年3月20日、オランダの国際保健規則担当窓口はヒトに感染する季節性インフルエンザウイルスの新たな遺伝子再集合体であるA(H1N2)について、世界保健機関(WHO)に通知しました。これはオランダでインフルエンザ様症状や急性の呼吸器感染症について実施されている、インフルエンザウイルス遺伝子再集合に対する定期サーベイランスで検出されました。患者は2歳未満の小児で、2018年3月初旬に発症しました。一般開業医(General Practitioner)を受診しましたが、入院の必要なく完全に回復しました。

 この患者を治療した開業医は、インフルエンザウイルスの定点サーベイランスネットワークに登録されていました。同行した親の同意の下、鼻・咽頭の拭い液が採取されウイルス検査が行われました。3月18日、オランダの国立インフルエンザセンター(NIC)はロッテルダムのエラスムス大学医療センターやビルトホーフェンの国立公衆衛生環境研究所(RIVM)と協力のもと、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査によりこの患者がインフルエンザA(H1N2)に感染していることを確定しました。ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)遺伝子に対するサンガー法シークエンス、および全ゲノムシークエンスにより、このウイルスが季節性インフルエンザウイルスの遺伝子再集合体A(H1N2)であることが示されました。これは現在流行している季節性インフルエンザウイルス亜型A(H1N1)pdm09(ヘマグルチニン[HA]と非構造タンパク[NS]の遺伝子)と、インフルエンザA(H3N2)(残りの部分の遺伝子)から遺伝子が構成されています。患者に渡航歴はなく、インフルエンザワクチンを接種していません。また抗インフルエンザ薬の使用や基礎疾患はありませんでした。
 
 追加調査により、発端となった患者の発症2週間前に、両親が(主に)胃腸感染の症状を呈していたことが明らかになりました。検査は行われていません。接触感染調査は発症前に患者が出席したデイケアセンターまで拡大されました。病気の発症後、発端となった患者はデイケアに参加していませんでした。ProMEDの記事によると、子供のデイケアセンターにおける拡大感染調査でいかなる急性の疾患もみられませんでした(1)。

 季節性インフルエンザA(H1N1)とインフルエンザA(H3N2)から成る別の遺伝子再集合体A(H1N2)ウイルスは、過去(2000-2003年)に検出されています(2)。しかし今回の遺伝子座は、現在のウイルスのもの(HAが季節性インフルエンザA(H1N1)に由来し、他の7つの遺伝子が季節性A(H3N2)に由来する)と異なっていました。

公衆衛生上の取り組み

●報告された最初の患者が居住する地域では、調査が現在進行中であり、強化された検査によるモニタリングと、それに続きインフルエンザAウイルス陽性検体に対する亜型診断が実施されています。
●定点サーベイランスで検出された全てのインフルエンザAウイルスと、非定点地区(病院や周辺の検査施設)からNICに提出されたウイルスはHAとNAの亜型診断が行われます;類似のウイルスが検出されたという報告はありません。さらに、患者の地域にある非定点地区からのインフルエンザA型陽性の検体は亜型診断のためNICに送付されています。
●遺伝子再集合体A/オランダ/10407 /2018 A(H1N2)の全ゲノムは、すでに世界インフルエンザウイルス遺伝子データベース(GISAID)上のデータベースにアップロードされています。

WHOによるリスクアセスメント

 この特定の遺伝子座を持つ季節性インフルエンザウイルスの遺伝子再集合体A(H1N2)によるヒト感染は、これが最初です。この患者は比較的軽症で、入院を必要とせず完全に回復しました。

 重要な点は、この季節性インフルエンザウイルスの再集合体A(H1N2)が、豚インフルエンザウイルスの遺伝子から成りアメリカで報告されたヒト症例にみられる変異(v)インフルエンザウイルス[A(H1N1)v, A(H1N2)v, A(H3N2)v)]とは異なる、ということです(3)。

 現在、オランダは通常より長い季節性インフルエンザの流行に直面しています;流行閾値を上回るのは第14週目です。過去20年で、インフルエンザ流行期間は平均9週でした。今季の主流は山形系統のインフルエンザBウイルスでしたが、2018年3月以来インフルエンザA(H1N1)pdm09とA(H3N2)の検出が増加しています。

 WHOは、このウイルスによるリスクを、現在流行している季節性インフルエンザウイルスによってもたらされるリスクに相当すると評価しています。この再集合体ウイルスの全ての遺伝子が、現在流行しているウイルスに由来しているためです。ヘマグルチニン(HA)と非構造タンパク(NS)遺伝子は、現在流行している季節性A(H1N1)pdm09ウイルスと酷似しており、残る6つの遺伝子は最近流行しているA(H3N2)ウイルスに酷似しています。季節性遺伝子集合体A(H1N2)インフルエンザウイルスのさらなる特性解析が現在進行中です。

WHOによるアドバイス

 この患者による、公衆衛生と季節性インフルエンザに対するサーベイランスに関する現在のWHO推奨に変更はありません。

 WHOは、オランダにおける定点サーベイランスシステムと、NICを通じた世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)との情報およびウイルス交換における積極的協力を承認しています。WHOはGIRSに検査機関サーベイランスの詳細を適切に調整するよう通知します。

【出典】
Emergencies preparedness, response
Disease outbreak news
Human infection with a seasonal reassortant A(H1N2) influenza virus – Netherlands
23 March 2018
http://www.who.int/csr/don/23-march-2018-seasonal-reassortant-ah1n2-netherlands/en/