(No.21)

リステリア症―南アフリカ

4月4日更新

 南アフリカにおいて、2017年の初めより、深刻な食物媒介疾患であるリステリア症のアウトブレイクが報告されています。2017年1月から2018年3月14日までの間に、978人の検査室確定のリステリア症として、全ての州から国立伝染病研究所(National Institute for Communicable Disease)に報告されています。患者の殆どはハウテン州581人(59%)、西ケープ州118人(12%)、クワズールナタール州70人(7%)、からの報告で、残りは同国の他の州からとなっています。674人のアウトカムの判明しているケースについてはそのうち183人(27%)が死亡しています。この死亡率は世界中で報告されている同疾患のアウトブレイクによる死亡率からみて妥当な数値です。死亡した患者の殆どは新生児、妊婦、高齢者、免疫不全患者など予後不良となる高度のリスクを有している人です。今回のアウトブレイクでは42%の例が妊娠中か出産時に感染した新生児です。

 菌の全遺伝子配列は大きな患者集団からの菌株で実施されました。91%の株はリステリアモノサイトゲネシスシークエンス6型(ST6)に属していました。ポロニーと呼ばれる広く消費されている易調理食肉製品で同じ遺伝子配列の菌が同定されています。又同じ株の菌は同製品の製造過程の環境でも見つかっています。2018年3月4日に保健省は同製品が今回のアウトブレイクの原因と考えられると発表しています。

 この食品加工会社及び小売業者はアフリカの15カ国に輸出を行っています。全ての国で問題となっている製品の回収が行われています。南アフリカのその他の食品製造会社においても環境からのサンプリングが行われ、リステリア菌陽性の結果が出ていますが今回のアウトブレイクの株とは異なった菌株です。これらの会社においても製品の回収が行われています。その会社の製品の中には上記の輸出先の何カ国かに何種類か輸出されているものがあります。

 南アフリカでの今回のアウトブレイクで報告された患者の9%は大勢を占めるST6アウトブレイク株とは異なったリステリア菌株による感染です。このことはアウトブレイクが1つではなく他にも同時進行している可能性を示しています。これらの患者の感染源に対する同定のためのさらなる包括的調査が必要である事を示しています。

図 2017年1月1日~2018年3月12日における南アフリカ各州における週間検体検査によるリステリア感染確定患者数(総数978)
(南アフリカ共和国国立感染症研究所による)

  
(WC:西ケープ州、NW:北西州、NC:北ケープ州、MP:ムプマランガ州、LP:リンポポ州、KZ:クワズールナタール州、GA:ハウテン州、FS:フリーステート州、EC:東ケープ州)

公衆衛生対策

 南アフリカでは複数部所にわたる緊急対策チームが立ち上げられ、調査と対策において協同作業を実施しています。

・南アフリカの保健省は2018年3月4日にアウトブレイクの原因についての発表のため、紙上カンファレンスを実施しました。
・感染源の同定に引き続いて、国家の専門組織は感染の拡大と関連死を封じこめるための対策を実施しています。それらは以下の対策には限っていませんが、安全のための商品回収警告、遵守事項の警告、対象製品の輸出に関連した対策、感染で重症化しやすいグループへのリスクコミュニケーションなどが含まれています。
・南部アフリカ開発共同体(SADC)の保健大臣は2018年3月15日にヨハネスブルグで会合を開き、情報の共有、リステリア感染に対する準備と対応の強化を行っています。保健大臣は国際保健規則(IHR)のもとでの更なる国際間の交易や渡航に関しての保健衛生対策についての権利と義務について再確認しています。
・リステリア症については南アフリカにおいて2017年12月以後、届出義務が課せられています。
・ 国家リスクコミュニケーション活動が2017年12月より、WHOの「食品をより安全にするための 5 つの鍵」に基づいて行われています。(5つの鍵=1.清潔に保つ、2.生の食品と加熱済み食品とを分ける、3.よく加熱する、4.安全な温度に保つ、5.安全な水と原材料を使用する。)

WHOによるリスク評価
 
 今回のアウトブレイクは世界的に見て過去に類を見ないほど大きなものです。リステリア症は長い潜伏期間(1-3週間、最大70日まで)のため、該当食品回収というインパクトの前にさらなる患者の発生が予測されます。

 今回のアウトブレイクの原因同定に引き続き、WHOは今や原因食品の輸出により、他の国でリステリアが発生しないかどうかが関心事としています。15カ国*に輸出された問題の製品群についての詳細情報がWHO及び国際食品安全当局ネットワーク(INFOSAN)に共有されなければ成りません。それにより,これらの製品に対する有効な回収促進が助長されます。

 最近、ナミビアではリステリア感染の報告がなされました。本例及び可能性例が適切に調査され、感染源に該当する食品が同定されたことは重要です。南アフリカのアウトブレイクとリンクしている可能性が決定されるために、分離されたリステリア菌株は遺伝子配列が決定されなければ成りません。これらの国々のうち、幾つかの国は確立されたサーベイランスシステムや発見されたリステリア患者を適所で検査室診断出来るシステムがない可能性もあります。その場合にはWHOがサポートを与える準備が出来ており、準備と対策を提供出来る国はアフリカの16カ国(日誌アフリカの2カ国及びSADCのメンバー14カ国)に及んでいます。

 アウトブレイクに対する社会的な関心が高まりはメディアにおける報告や種々のソーシャルメディアの発表における議論に反映されています。

WHO によるアドバイス

 それぞれの国には国内の食品安全と疾患のサーベイランスシステムを、将来同様の出来事をおこさないため、国民に確実に安全な食品を提供するための前提条件として強化しなければなりません。さらに、サルモネラ、キャンピロバクタ-、大腸菌、リステリア菌など一般的な食品媒介性の病原体に、より注意を払うように向けられなければ成りません。これまでは違っていたとしても今後はリステリア症を届出疾患とする、2017年WHOにより刊行された食品由来疾患に対する強化サーベイランスおよび対策マニュアル(新版)を最大限活用する、WHOのリステリア症に関するファクトシートを参照する、等をしなければ成りません。(上記文中の文書については文末部のリンクを参照)

 責任機関はリステリア症の予防とコントロールのための公衆衛生学的アドバイスをあらかじめ提供するようにしなければ成りません。それには強化リスクコミュニケーションが含まれます。また国民の注意を促し、アウトブレイクのコントロール対策を進めなければ成りません。

 WHOは今回のアウトブレイクに対しては現時点で、南アフリカ政府が示した食肉製品の回収を除いてはいかなる渡航や交易の制限も推奨するものではありません。

 WHOは主権を有する国家政府が自国民を守るための手段を執ろうとすることには理解を示していますが、IHRの締約国は過剰と思われる、あるいは科学的根拠に基づかない様な国際間の渡航や交易の制限を行う様な行動はしないようにしなければなりません。事実そのような手段はIHRの目的や精神に反するものであり、公衆衛生の目標の妨げとなるものです。

 現在、15カ国のうち、12カ国では該当する食肉加工品の回収を行っており、又輸入も禁止していますが、残りの3カ国ではその他の加工食品も輸入を禁止しています。WHOは今回のアウトブレイクと関連した国家による渡航や交易に対する対策の実施状況やIHRに基づいた要求が遵守されているかどうかについて継続的にモニターしています。

 渡航者については良好な食品衛生(習慣)の実施が推奨されます。これには 調理不十分な食品を避けること、数時間も室温に放置されたような食品を避けること、常に食品を摂取する前には十分に石けんと水とで手を洗うことなどが含まれます。

* 15カ国:アンゴラ、ボツワナ、コンゴ民主共和国、ガーナ、レソト、マダガスカル、マラウィ、モーリタニア、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、スワジランド、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、


【出典】WHO  Emergencies preparedness, response
http://www.who.int/csr/don/28-march-2018-listeriosis-south-africa/en/

WHO Guide on Safe Food for Travellers
WHO 5 Keys for Safer Food
WHO Manual to Strengthen Surveillance of and Response to Foodborne Diseases
WHO Factsheet
Epidemiology of this event