(No.26)

リステリア症―南アフリカ共和国

5月9日更新

 南アフリカでは深刻な食品由来の感染症であるリステリア症のアウトブレイクが2017年のはじめより発生していますが、2018年3月のはじめに感染源となった食品が同定されて以来、収まる傾向にあります。しかし今後も患者の発生が予測されます。2017年1月1日から2018年4月24日までに1,024例の診断確定例が国立感染症研究所(NICD)に全ての州から報告されています。殆どの患者は3州からの報告です。ハウテン州601人(59%)、西ケープ州128人(13%)、クワズールナタール州73人(7%)、残りは他の州からの報告となっています。患者の転帰については700人で確認されており、うち200人(28.6%)が死亡しています。この致死率は世界中で報告されている他のリステリア症における致死率と一致しています。殆どの死亡例は新生児、妊婦、高齢者、免疫抑制患者など重症化のリスクの高い例です。今回のアウトブレイクでの死亡例は42%が妊娠中あるいは出生時に感染した新生児です。

 全体の遺伝子配列は521人の独立した患者で決定されています。85%の株がリステリアモノサイトゲネシスの6型(ST6)であり、残りの15%は19の他のタイプの株となっています(ST1,ST54,ST876,ST2,ST5,ST204,ST219,ST244,ST71,ST101,ST121,ST155,ST3,
ST403,ST515,ST7,ST8,ST88)。同じST6株は広く消費されているポロニーと呼ばれる易調理食肉加工食品から同定されています。同じ株は該当食品の製造環境においても見つかっています。2018年3月4日保健省はこの製品が今回のアウトブレイクの源であると考えられるとして、国内における該当食品の回収を実施しました。この回収以後、患者発生は際だって減少しています。

 食品加工会社と3カ所の小売り業者は15カ国*に輸出を行っています。これらの国全てには該当する食品の製造番号情報が国際食品安全当局ネットワーク(INFOSAN)を通じてつたえられており、該当食品の回収が発せられています。

公衆衛生対策

 南アフリカ共和国では調査と対応策の調整のため多部門による国家対策チームが立ち上げられています。

 種々の関連機関によって実施されている緊急対策は継続、強化されています。これらにはサーベイランス(患者の発見と調査)、リスクコミュニケーション、食品安全法規制の再検討や改訂等が含まれます。これらの活動に対する情報の提供やサポートのために以下の様なフェーズ毎の活動が実施される予定です。
 フェーズ1 リスクのある食品加工設備と製造過程の同定、設備の監視をサポートするスタッフの訓練(実施済み)
 フェーズ2 リスクのある食品加工設備の視察と地域環境衛生実施者の強化
 フェーズ3 衛生システムの強化対策について報告および整理統合を実施し、実施後検証を行う

 多方面におけるインシデントマネージメントチーム(IMT)がWHOのサポートを受けた保健省の指導の下で強化されています。アップデートされたリステリア症緊急対策計画(ERP,2018年4月)により、現在のリステリア症アウトブレイクコントロールと終息、および将来のアウトブレイク予防のための衛生、食品安全システム強化を目指した強化対策活動が実施され続けています。

 2018年4月19日から21日にかけてヨハネスブルグにおいてWHOリステリアに対する地域技術会議が南部アフリカ開発共同体(SADC)の16カ国と他の国も参加して実施されました。この会議の目的は南アフリカ共和国におけるリステリア症アウトブレイクのマネージメントの経験と同共同体地域におけるリステリアの拡大への警告についてシェアーすることにあります。また会議では参加国が食品安全システムの強化を全体で出来るようにその一部を担うものとして不測の事態に対処出来るように準備をそれぞれの国に示しています。

WHOによるリスク評価
 世界的に見て今回のアウトブレイクは知られているうちで最も大規模なものです。原因となった食品は同定されて、市場から取り除かれました。患者の発生数は減少していますがリステリア症の長い潜伏期間(1-3週間、あるいは70日まで)を考慮すると食品回収の重大性が十分に観察出来るまでにはまだ新たな患者の発生が予測されます。最近、ナミビアでリステリア症確定患者の報告がなされました。南アフリカでのアウトブレイクとのつながりの可能性を調べるために、分離されたリステリア株の遺伝子配列が決定されました。それによりますと南アフリカのアウトブレイクのものとは異なるタイプの遺伝子配列を有している事が判明しています。


WHO によるアドバイス

 それぞれの国には国内の食品安全と疾患のサーベイランスシステムを、将来同様の出来事をおこさないため、国民に確実に安全な食品を提供するための前提条件として強化しなければなりません。さらに、サルモネラ、キャンピロバクタ-、大腸菌、リステリア菌など一般的な食品媒介性の病原体に、より注意を払うように向けられなければ成りません。これまでは違っていたとしても今後はリステリア症を届出疾患とする、2017年WHOにより刊行された食品由来疾患に対する強化サーベイランスおよび対策マニュアル(新版)を最大限活用する、WHOのリステリア症に関するファクトシートを参照する、等をしなければ成りません。(上記文中の文書については文末部のリンクを参照)

 責任機関はリステリア症の予防とコントロールのための公衆衛生学的アドバイスをあらかじめ提供するようにしなければ成りません。それには強化リスクコミュニケーションが含まれます。また国民の注意を促し、アウトブレイクのコントロール対策を進めなければ成りません。

 WHOは今回のアウトブレイクに対しては現時点で、南アフリカ政府が示した食肉製品の回収を除いてはいかなる渡航や交易の制限も推奨するものではありません。

 WHOは主権を有する国家政府が自国民を守るための手段を執ろうとすることには理解を示していますが、IHRの締約国は過剰と思われる、あるいは科学的根拠に基づかない様な国際間の渡航や交易の制限を行う様な行動はしないようにしなければなりません。事実そのような手段はIHRの目的や精神に反するものであり、公衆衛生の目標の妨げとなるものです。

 現在、南アフリカ加工食品を輸出している15カ国のうち、13カ国で食肉加工品の回収を行っており、又輸入も禁止していますが、残りの2カ国では今回のリステリア症と直接リンクしていないその他の加工食品も輸入を禁止しています。WHOは今回のアウトブレイクと関連した国家による渡航や交易に対する対策の実施状況やIHRに基づいた要求が遵守されているかどうかについて継続的にモニターしています。

 渡航者については良好な食品衛生(習慣)の実施が推奨されます。これには 調理不十分な食品を避けること、数時間も室温に放置されたような食品を避けること、常に食品を摂取する前には十分に石けんと水とで手を洗うことなどが含まれます。

* 15カ国:アンゴラ、ボツワナ、コンゴ民主共和国、ガーナ、レソト、マダガスカル、マラウィ、モーリタニア、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、スワジランド、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、

【出典】 WHO Emergencies preparedness, response

http://www.who.int/csr/don/02-may-2018-listeriosis-south-africa/en/
http://www.who.int/foodsafety/publications/travellers/en/
http://www.who.int/foodsafety/publications/5keysmanual/en/
http://www.who.int/foodsafety/publications/foodborne_disease/surveillancemanual/en/
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/listeriosis/en/
http://www.nicd.ac.za/
http:/www.who.int/risk-communication/listeriosis-resources/en/