(No.32)

エボラウイルス病ーコンゴ民主共和国(5)
5月25日更新

 2018年5月8日コンゴ民主共和国の保健省はエボラウイルス病(EVD)のアウトブレイク宣言を行いました。同国で過去40年間において9回目のEVDアウトブレイクとなります。直近のアウトブレイクは2017年に有りました(図1)。今回のアウトブレイクに関しての詳細は下記リンクの報告から閲覧することが可能です。
 2018年5月17日のアウトブレイクニュース以後、さらに4人の死亡を含む14人の患者の発生が報告されています。2018年5月21日には8人の疑い患者が報告されています。内6人はイボコ保健行政区からの報告で、2人はワンガタの保健行政区からの報告です。5月20日にはイボコ保健行政区からの報告者7人(報告済み)が診断確定されました。最近入手された情報により分類が更新されました。1

 2018年5月21日現在、累積EVD患者数は27人の死亡(報告患者の致死率47%)を含む58人となっています。患者は赤道州の3カ所の保健行政区から報告されています。3地区からの診断確定例は28例、可能性の高い例は21例、疑い例は9例となっています。ビコロ総数29例(確定例10例、19例は可能性の高い例)、イボコ総数22例(確定例14例、可能性の高い例2例、疑い例6例)、ワンガタ総数7例(確定例4例、疑い例3例)。ワンガタにおける4確定例のうち、2例で2018年4月からのビコロにおける可能性の高い例と疫学的なつながりがあります。5月21日現在、600人の接触者が同定され、フォローアップされています。フィールド調査が初発例の同定のために実施されています。58人の患者の中には3人の医療従事者が含まれています。図2には2018年5月21日現在における保健行政区ごとの患者の分布が示されています。


(図1)1976年から2018年までのコンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病アウトブレイク

(図2)2018年5月21日時点でのコンゴ民主共和国赤道州保健行政区ごとのエボラウイルス病患者分布

 公衆衛生上の取り組み

 保健省は流行している保健行政区における対応をWHOやそのパートナーと共に主導しています。優先事項としてはサーベイランスの強化、接触者の追跡調査、検査受け入れ能力の改善、感染の予防とコントロール、患者の治療、社会的動員、安全で威厳の保たれた埋葬、対応のコーディネート、ワクチン接種などが含まれます。
*WHOは保健省、ワクチンと予防接種のための世界同盟(Gavi,Vaccine Alliance)、国境なき医師団(MSF)、ユニセフ、その他のパートナー、ギニアの保健省も含めて、DRCの保健省と流行している保健行政区で感染のリスクの高いヒトを対象にワクチン接種を勧めるための共同作業を行っています。
*2018年5月21日には輪状ワクチン接種が医療従事者へのワクチン接種とともにムバンダカ(WHO)、ビコロ(MSF)で開始されました。メルク社はWHOに8640回分のrVSVΔG-ZEBOVワクチンを提供し、そのうち7540回分(150人への輪状接種50回分)はコンゴ民主共和国で使用されます。さらには近いうちに8000回分の使用が可能になる予定です。
*WHOはサーベイランスの強化と接触者追跡調査を継続しています。早期警戒及び対応(EWAR)システムがワンガタにおいて患者と接触者に関する情報収集の改善のために展開されています。
*ワンガダとビコロの医療設備における従事者はEWARSの使用に関する訓練を継続しており、サーベイランスの強化が行われています。新たな患者の発見支援のためにホットラインが再開され、ワガンダにおいてMSFとの間に警戒システムが準備されました。緊急対策チーム(RRT)とrelais communautaires(コミュニティーにおける保健活動員) は新規患者の発見と接触者の追跡調査を行うためのトレーニングをうけ、活動を行っています。
*WHOは国連人道支援航空サービス(UNHAS)と協力してムバガンダとビコロの間での輸送を毎日おこなっています。イボコでは空港が狭い問題についてはヘリコプターの使用により、クリアしています。
*患者の治療と感染防御、コントロール活動についてはエボラ治療ユニット(ETUs)の設立、資材、職員の配置を流行地域で実施して、スケールアップしています。ベルギーのMSFはビコロにおける公認病院での患者治療のサポートを継続しています。WHOは更なるETUsが必要になった時のために現場医療チームがスタンバイ出来るように、また患者緊急搬送をサポートするチームに協力しているのと同様に、ムバンダカにおける主要医療施設において住民に対する基本的医療サービスの維持、トリアージ、IPCをサポートするための4チームが動員できるように協力しています。
*WHO、ユニセフとそのパートナーは保健省が流行のある地域で住民がエボラの早期徴候を認識して、直ちに治療に繋げ、安全で威厳の保たれた埋葬が行われるように推し進めることやエボラに対する警戒を高める活動をすることをサポートしています。
*5月21日現在、WHOは123人の人員を派遣しています。WHOは地球規模感染症に対する警戒とネットワーク(GOARN)パートナーやその他のテクニカルネットワークと共働しています。これらのネットワークにはEDCARNやEDPLNが含まれており、対応計画や技術的サポートのコーディネート、いっそうのテクニカルサポートの実施などを目的としています。5月21日現在、GORANのパートナーからは15の活動がフィールドチームの強化のために展開されています。
*対応準備サポートチーム(PST)が今回のアウトブレイクが拡大したときの準備の強化が必要と優先順位を付けられた幾つかの国に派遣されています。

 WHO によるリスク評価

 このアウトブレイクの規模に関する情報はまだ限られており、調査が継続中です。ムバンダカ市は主要な国内・国際河川や道路、国内航空路を持つ大都市です。ムバンダカにおける確定患者の発生は、コンゴ民主共和国とその周辺国に感染が広がるリスクを増大させます。そのためWHOは公衆衛生上のリスク評価を修正し、国レベルではリスクが非常に高い、周辺地域レベルでは高い、としました。コンゴ-ブラザビル、中央アフリカ共和国を含む近隣の9カ国は感染拡大のリスクが高いと評価され、準備活動が行われています。世界レベルにおけるリスクは現在のところ低いままです。今後更なる情報の入手によりこのリスクアセスメントは継続的に修正されていきます。

 現在の状況および利用できる情報に基づいて、WHOの事務局長は5月18日に国際保健規則(2005年)に基づく緊急委員会を招集するとし、現在のアウトブレイクが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」かどうか、アドバイスを行いました2。委員会の意見として現状ではPHEICには合致しないという見解です。

WHOによるアドバイス

 緊急委員会のアドバイスに照らし合わせてWHOはコンゴ民主共和国への渡航と貿易に関するいかなる制限も推奨しないことを継続しています。WHOは今回の事象に関連して渡航と貿易の措置を引き続き監視しています。現在国際間の交通に制限はありません。

 緊急委員会は現在の所PHEICに合致する所はないとして、以下のようなアドバイスを発しています。
*コンゴ民主共和国政府とWHO、そのパートナーは精力的に対応を継続し続けること。そうでなければ状況は重大な程度に悪化すると思われる。この活動は全ての国際的なコミュニティーによってサポートされるべきものである。
*科学的集団は世界的な団結が必須であり、国際間のデータは定期的に制限なしにシェアされるべきである。
*国際間の旅行や貿易は制限なく行われるべきであるというのは特に重要な事である。
*近隣諸国は準備とサーベイランスを強化すべきである。
*対策の実施にあたってはスタッフの安全と防護が保証されなければならない。対応者、国内外のスタッフの保護は優先されるべき事項である。
*空港、コンゴ川の港を含めた出口スクリーニングは非常に重要であると判断される。しかし入口スクリーニングは特に遠隔地の空港などではいかなる公衆衛生上もコスト対効果を考えても考慮されるべき対応とはいえない。
*しっかりとしたリスクコミュニケーション(リアルタイムでのデータを用いて)、社会的動員、コミュニティーとの連携強化は良好に共同化された対応には必須であり、流行地域の人々がいかなる防護対策が推奨されるかを理解するのに必要である。
*もし今回のアウトブレイクが重大な広がりをみせたり、或いは国際的に拡大する場合には緊急委員会は再召集される。


 エボラウイルス病についてのさらなる情報は、下記のリンクを参照ください:

Ebola Virus Disease fact sheet
Ebola situation report
Statement of the 1st meeting of the IHR Emergency Committee

1 合計患者数は、進行中の再分類、後ろ向き調査、そして検査結果の利用により変更されることがあります。疾病アウトブレイクニュースで報告されたデータは、保健省によって公式に報告されたものです。
2 「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」とは、これら規則で述べられているように、非常に大きな事態と定められています。ⅰ)国際的な疾病の拡大によって他国に公衆衛生上のリスクをもたらすこと ⅱ)潜在的に協調的な国際的対応を必要とすること 国際保健規則(2005年)
【出典】
Emergencies preparedness, response
Disease outbreak news
Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
23 May 2018
http://www.who.int/csr/don/23-may-2018-ebola-drc/en/