(No.35)

ニパウイルス感染症-インド
6月7日更新

 2018年5月19日に、インド南部のケララ州(Kerala)コジコーデ地区(Kozhikode)でニパウイルス感染症による3人の死亡が報告されました。3人の死亡は家族内で発生し、また4人目の死亡者は地元の病院でこの家族の治療に携わった医療従事者と報告されました。

 4人の疑い患者から、咽頭拭い液、尿、血液検体が採取され、プネー(Pune)にある国立ウイルス研究所で検査が行われました;NiVに対するリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)およびIgM(Elisa)検査で、死亡した4人のうち3人がニパウイルス(NiV)陽性と確定されました。

 現地調査チームは、家族が改築後に引越する予定の新居がある敷地内で、廃棄された井戸(廃坑井)に住み着いているコウモリを発見しました。1羽のコウモリが捕獲されプネーの国立ウイルス研究所に検査のため送られました。

 この流行が始まって以来、2018年5月28日現在、さらなる調査と接触者追跡の結果によりケララ州のコジコーデ地区とマラプラン(Malappuram)地区の15人が検査でNiV陽性でした。検査確定患者15人のうち、2人が入院し、13人が死亡しました。この中には死亡した人の治療に携わった医療従事者が含まれます。

 5月28日現在、13人の死亡が報告されました;マラプラン地区から3人、コジコーデ地区から10人。死亡した1人は検査ができませんでしたが、確定例と疫学的関連がありました。接触者追跡により特定された疑い例は16人であり、健康監視下にあります。彼らの検査結果は保留中です。少なくとも新たに753人が、この中には医療従事者が含まれており、健康監視下にあります。検査はマニパル(Manipal)のウイルス研究所とプネーの国立ウイルス研究所で行われています;両研究所は、RT-PCRの検査能力を強化しました。

 現在の流行では、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と脳炎がみられています。

 これはケララ州において最初のNiV流行です。またインドにおいては、3番目のNiV流行で、最近では2007年に流行が報告されました。

公衆衛生上の取り組み
インド政府の取り組み

●国立疾病管理センターの複数の専門チームがケララ州に調査と対応のために送られました。接触者の追跡が開始されています。医療施設における感染の予防と制御措置が強化されています。
●急性の発熱と、急性脳炎症候群(AES)のサーベイランスが全州で強化されています。ケララ州では病院と地域のサーベイランスも強化されています。
●マニパル病院のウイルス診断研究室と、国立ウイルス研究所は患者を確定するための検査を行っています。
●政府は全ての関連部門、すなわち人畜共通感染症、野生動物、畜産業、人間の健康、臨床医、呼吸器内科医、神経内科医、民間部門と連携しています。
●リスクコミュニケーションのための情報が地域社会や一般市民、関係者、支援組織に配信されています。保健家族福祉省(MoHFW)は国立疾病管理センターが州、関係者と共に作成したガイドラインを共有し、MoHFWのウェブサイトにそれを掲載しました。

WHO(世界保健機関)の取り組み

●WHOは各国の当局と連絡をとりあい、この流行の監視を継続しています。
●MoHFWからの要望により、WHOは、とくにバングラデシュで使用されたようなニパウイルスに関するリスクコミュニケーションの資料を共有しました。
●MoHFWは予備調査を行っており、WHOにこの対応の支援を要請する場合があります。
●MoHFWは多次元調査を調整しており、WHOに支援を要請する場合があります。

WHOによるリスクアセスメント

 ニパウイルス感染症は、WHO東南アジア地域において40-75%という高い致死率が推定される、公衆衛生上重要な新興人畜共通感染症です。しかしこの致死率は地域の疫学的サーベイランスや臨床管理の能力に依存するため、流行ごとに異なる可能性があります。NiVは1998-1999年にマレーシアとシンガポールのブタ農場で起こった流行において初めて見つかりました。1999年以降、マレーシアとシンガポールでは流行は報告されていません。インドとバングラデシュにおいて、NiVは2001年に初めてみつかりました;それ以来、バングラデシュでは殆ど毎年流行が起こっています。この疾患はインドの東部で定期的に確認されています(2001、2007年)。

 NiVのヒトからヒトへの感染は、家族内や、感染したヒトの治療にあたった医療従事者に限られています。オオコウモリ属のフルーツコウモリはNiVの自然宿主です。インドでは広範囲に種が分布しており、局所的に大量のフルーツコウモリの移動があることを考慮すると、NiVへ曝露するリスクは高くなっています。にもかかわらず、感染が発生した国におけるこれまでの流行は季節的なパターンが強く、地理的な範囲も限られていました。

 この流行において可能性の高い感染ルートは、コウモリが一部を食べたフルーツを食べること、コウモリによるウイルスへの曝露、または病院や地域社会で防護服無しの濃厚接触によるヒトからヒトへの感染です。現在起きている流行で特定された多くの患者は、他の感染者と防護服無しで直接接触することにより感染しています。

 インドは過去に、ニパウイルスの流行に直面しこれを征圧したことを考慮すると、インドは迅速な対応や検査による患者確定を行うことができます。現時点でこの流行は局所的であり、国内および地域レベルにおけるリスクは低いとWHOは評価しています。

WHOによるアドバイス

 現在ニパウイルス感染症に対して使用できる特異的な治療はなく、治療は支持療法です。重篤な呼吸器および神経学的合併症に対しては集中治療が推奨されます。

NiV感染症は流行地域において病気のブタやコウモリとの接触を避けることや、感染したコウモリが部分的に食べたフルーツを食べない、生のナツメヤシ/ヤシ酒/ジュースを飲まないことで予防が可能です。

 医療現場においては、院内感染を予防するため、患者の治療を行う際にスタッフは一貫した標準感染予防と制御措置を行う必要があります。NiVによる発熱が疑わしい患者の治療を行っている医療従事者は、地域または国の専門家の指導をあおぐため速やかに連絡をとり、検査の準備をする必要があります。

 コウモリの生態系やNiVをより理解するための調査が必要です。WHOは今回の流行において現在利用可能な情報に基づき、インドへの渡航や貿易にいかなる制限も行わないことを推奨します。

【出典】
Emergencies preparedness, response
Disease outbreak news
Nipah virus – India
31 May 2018
http://www.who.int/csr/don/31-may-2018-nipah-virus-india/en/