(No.40)

エボラウイルス病―コンゴ民主共和国(8)
2018年6月18日更新

 2018年5月10日の第一報から6月12日までに、エボラウイルス病(EVD)に対するコンゴ民主共和国(DRC)の対応の焦点は赤道州(Equateur Province)の都市部から、到達することが難しい僻地に移動しています。この移動は、DRC保健省と世界保健機関(WHO)、およびその支援組織が実施した一連の共同作業や効果的な措置の後に起こりました。

 EVD対応の第一段階では、人口の多いビコロ(Bikoro)保健行政地区とムバンダカ(Mbandaka)保健行政地区で患者増加を防ぐことが焦点でした。これは川沿いの近隣地域だけでなく、国内主要都市も脅かす可能性があるためです。 次の段階は、僻地における派遣サーベイランス、接触者の追跡、地域社会の参加が焦点です。僻地にはDRCのイチポ(Itipo)保健行政地区やイボコ(Iboko)保健行政地区の村やその周辺に住む先住民族が含まれます。

 2018年5月17日以降、ビコロおよびワンガダ(Wangata)保健行政地区で新たなEVD確定患者は報告されていません。一方、2018年6月2日にイボコ保健行政地区で発症した最新の確定患者がいます(図1)。

 2018年4月1日から6月10日までに、赤道州にある3つの保健地区から報告されたEVD合計患者数は55人で、死亡者28人が含まれます1)。この内、確定例は38人、可能性の高い例は14人、疑い例は3人で、3つの保健地区から出ています。それぞれビコロ保健地区(計22人、確定例10人、可能性の高い例11人、疑い例1人)、イボコ保健地区(計29人、確定例24人、可能性の高い例3人、疑い例2人)、ワンガタ保健地区(計4人、確定例4人)です(図2)。患者の年齢中央値は41歳で(8歳から80歳まで)、31人(60%)は男性です(図3)。医療従事者から5人の患者が報告されています。2018年6月10日現在、合計634人の接触者が積極的にフォローアップされています。

図1.2018年4月4日~6月10日におけるEVD診断確定及び可能性の高い患者数(発症時におけるカウント)(N=52)

図2. コンゴ民主共和国赤道州、2018年4月4日~6月10日までの各保健行政地区における患者数

図3. 2018年4月4日~6月10日におけるEVD診断確定及び可能性の高い患者の年齢性別別分布(N=51)

公衆衛生上の取り組み

 WHOと支援組織の協力のもと、DRC保健省は感染が発生している保健地区で対策を主導しています。強化サーベイランス、接触者の追跡、検査能力の改善、感染の予防と制御(IPC)、患者管理、社会動員、安全で威厳の保たれた埋葬、対策の調整、ワクチン接種などは優先的に取り組まれています。さらに感染が発生している地域から、発生してない地域や国々へ病気が広がるのを避けるため、DRCは入国地点(近隣にある危険な地域、州、国または主要な旅行者が集まる場所)で国境を越えたサーベイランスを実施しています。WHOは9つの近隣諸国の保健省と引き続き緊密に連携して、国際的な感染拡大リスクを軽減するための対策準備を行っています。

●2018年6月11日、WHOの事務局長と保健大臣は、対策活動を支援するために、イボコ保健地帯のイチポ保健地区を訪問しました。
●5月21日のワクチン接種開始から6月10日までに、ワンガダで713人、イボコで1,054人、ビコロで498人、計2,295人がワクチン接種を受けました。輪状ワクチン接種(接触者に対するワクチン接種)の適応は、最前線にいる医療従事者、EVD確定患者に曝露した人、そして接触者と接触があった人々です。
●早期警戒対応システム(EWAR)や電子的な実地データの集積ツールが、これらの活動を支援するため戦略的な地域で展開されています。
●この1週間で保健省とユニセフおよびWHOは、EVDの予防についてムバンダカ、ビコロ、イボコで60人以上のコンゴ軍人と65人の女性リーダー、50人の地方やピグミー族(注:赤道アフリカの森林地帯に住む原住民)の指導者、100人の若年指導者たちをトレ-ニングしました
●人類学的評価や、KAP調査(知識・態度・行動に関する調査)は、イチポの11の村で実施されています。イチポ、Besefe、Loondoにある村では、社会動員と地域の対話活動が進行中です。
●国境なき医師団(MSF)は隔離施設を設けており、ムバンダカにある主要病院(20床)とビコロ病院(15床)です。2つのEVD治療センター(ETC)がイボコとイチポに設置されました。
●患者管理とIPC活動は継続しており、感染発生地域におけるETCの設立、資材や職員の配置など規模が拡大しています。WHOはETCの支援をする複数の医療チームの配備や患者相談システム、またエボラ以外の治療でも利用できるよう医療施設を支援する調整を行っています。
●2018年6月12日の時点で、WHOはインシデント・マネジメント・システム(IMS)の複数の重要な職務に271人の技術的専門家を配備し、EVD流行対策を支援しています。これにはGOARN(地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク)からの専門家37人が含まれています。WHOの人類学者およびリスクコミュニケーションの専門家は、安全な埋葬や接触者の追跡といった地域社会が参加するエボラ対策に携わる人達に対して、トレーニングを行いました。
●2018年6月12日の時点で、26の国々がDRCからの国際旅行者に対して入国時スクリーニングを実施しています。しかし現時点では国際旅行の制限はありません。WHOは今回の流行に関連して、引き続き旅行や貿易の措置を監視しています。
●WHO、国際移住機関(IOM)、アフリカ疾病対策センターとその支援組織の協力のもとに、DRC政府は入国地点(PoE)に対する包括的戦略対応計画を策定しました。この目標は、他の州と国際規模の感染拡大を防ぐことです。合計30の入国地点(空港と港)や集会場(市場、学校、教会や駐車場)が3つの防疫線に沿って特定されました。これらはムバンダカ、ビコロ、イボコ、Ntonde、Igende、赤道州、キンシャサそしてキサンガニ(Kisangani)地域です2)
●2018年6月6日以来、PoEのサーベイランスに関するDRCの小委員会は、30ある重要な優先地域においてEVDのスクリーニングと感度を調査し強化するため、毎日会合を続けています。これらの地域にはコンゴ川流域の港やキンシャサ国際空港、ムバンダカ空港が含まれます。
●EVDに対する作戦とその準備のためのWHO地域戦略計画が、WHOとその加盟国および支援組織によって策定されました。この計画の第一段階の目的は、EVD患者の輸入がある際に、対応する国の能力強化を今後3ヶ月間で行うことです。第二段階の目的は準備行動の拡大であり、作戦準備能力を確実に持続させるものです。これは現在進行している長期的な緊急時対応や、IHR(国際保健規則)に基づくコア・キャパシティ(危機管理に必要な能力)の充足と関連しています。

WHOによるリスク評価

 WHOはこの疾患が深刻なものであり、疫学的情報が不十分であること、初発例の発見に遅れがあったことから流行の規模や地理的範囲を評価することは困難であり、公衆衛生上のリスクは全国レベルで非常に高いと考えています。

 WHOは周辺地域レベルにおける公衆衛生上のリスクは高いとしました。コンゴ共和国、中央アフリカ共和国などの近隣9カ国は感染拡大のリスクが高いと評価され、準備活動が行われています。

 全世界レベルにおけるリスクは現在のところ低いままです。今後更なる情報が利用できるようになるに連れ、リスクアセスメントは引き続き修正されます。

WHOによるアドバイス

 2018年5月18日、国際保健規則緊急委員会がWHO事務総長により招集されました。そして現在のエボラ流行に関するDRCへのいかなる貿易や渡航に対しても、制限しないことを推奨しました。フライトキャンセルや他の旅行制限は、国際的な公衆衛生上の対応を遅らせ、重大な経済的ダメージを感染発生国にもたらす可能性があります。

 緊急委員会はまた、空港やコンゴ川流域の港における出国スクリーニングが非常に重要であると考えていることを通知しました。しかし入国スクリーニング、とくに離れた空港では、公衆衛生上およびコスト-ベネフィットの点からも価値があるとは考えられません。緊急委員会はPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)の条件が現在満たされていないとしていますが、総合的な公衆衛生上のアドバイスを出しています3)

 2018年5月29日にWHOの旅行アドバイスが出されました。どのように曝露のリスクを減らすか、EVD様症状のある患者と曝露の可能性があった後に、どこで妥当な医学的援助を入手できるかを旅行者に知らせる目的です。国際旅行者が感染発生地域を訪れている間にエボラウイルスに感染し、帰国後に発症するリスクは低いと考えられます。たとえ主に患者が報告されている地域へ旅行した場合でも、これは当てはまります。さらに輸送や渡航に関するWHOの支援組織(国際民間航空機関ICAO、国際航空運送協会IATA)と協力して、WHOは旅行者の意識を向上し、輸送機関と入国地点に対し警告しています。またIHRの要件に従い、多分野による取り組みでPOEにおける公衆衛生上の緊急事態対応計画を確立し維持することの重要性を強調しています。

1 合計患者数は、進行中の再分類、後ろ向き調査、そして検査結果の利用により変更されることがあります。疾病アウトブレイクニュースで報告されたデータは、保健省によって公式に報告されたものです。
2 「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」とは、これら規則で述べられているように、非常に大きな事態と定められています。ⅰ)国際的な疾病の拡大によって他国に公衆衛生上のリスクをもたらすこと ⅱ)潜在的に協調的な国際的対応を必要とすること 国際保健規則(2005年)
3 http://www.who.int/news-room/detail/18-05-2018-statement-on-the-1st-meeting-of-the-ihr-emergency-committee-regarding-the-ebola-outbreak-in-2018
4 http://www.who.int/ith/evd-travel-advice-final-29-05-2018-final.pdf?ua=1
【出典】
Emergencies preparedness, response
Disease outbreak news
Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
13 June 2018
http://www.who.int/csr/don/13-june-2018-ebola-drc/en/